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  • その道の向こうに(2022) directed by Lila Neugebauer by TSUYOSHI KIZU December 06, 2022 1
  • セヴェランス(2022-) created by Dan Erickson by TSUYOSHI KIZU December 06, 2022 2
  • バルド、偽りの記録と一握りの真実(2022) directed by Alejandro Gonzalez Inarritu by TSUYOSHI KIZU December 06, 2022 3
  • ペルシャン・レッスン 戦場の教室(2020) directed by Vadim Perelman by TSUYOSHI KIZU December 06, 2022 4
  • 泣いたり笑ったり(2019)
    directed by Simone Godano by TSUYOSHI KIZU December 06, 2022 5
  • 初主演作にして傑作『ウィンターズ・ボーン』(2010、デブラ・グラニック)でジェニファー・ローレンスは、ヒルビリーたちが暮らす集落で家族を守るために過酷な道を選ぶ少女を演じていた。同作の迫力はたとえば、少女にとって貧困から抜け出すには軍隊に入るしかない、という現実が率直に示されるところにもあった。それから12年が経ち、ローレンスが自ら制作・出演する本作で彼女は、軍隊帰りで深刻な後遺症を負った女性を演じている。そこには連続性があるのだ。ライラ・ノイゲバウアーの初長編作である本作では、そして、ローレンス演じるリンジーが事故で片脚を失ったジェイムス(ブライアン・タイリー・ヘンリー、『アトランタ』のペーパー・ボーイ役)と故郷でゆっくりと交流する様がただたんたんと映される。レズビアンの彼女とヘテロセクシュアルの彼の間に恋愛関係が生まれることもない。そこで静かに立ち上がる、傷を癒すのではなく、ただ痛みを分かち合うことの切実さ。厳しい貧困とマイノリティの苦難が偏在するアメリカの、片隅で生きる人びとが織りなす人間ドラマの佳作だ。〈A24〉とApple TV+の共同配信作。

  • もう1本Apple TV+で観られる推薦作を。仕事中の人格と私生活の人格が完全に「分離(セヴェランス)」される企業で働く人びとを描いたSFスリラー・ドラマで、少しずつ謎を解明しながら同時に深めていくストーリーテリングがあまりに巧みな一作だ。社員たちは働いているときのみの記憶を持つ「インニー(社内の人格)」であるので、完全に会社内に閉じこめられており、自分が何のために働いているのかもよくわからない。ほかの部署が何をやっているのかもわからないし、自社が何をしているのかも知らない。つまり、ここで示されるのはカール・マルクスが言ったところの「疎外された労働」であり、それが現代のアメリカから出てくること自体が興味深い。監督がベン・スティラーだったり主演がアダム・スコットだったりとコメディ人脈で制作されていることからもわかるように、エッジーな風刺作であるのだ――現代の資本主義に対しての。シーズン1がめちゃくちゃいいところで終わっているので、いまのうちに観ておくことをお勧めします。

  • アカデミー賞に複数回ノミネートされるなどすっかりハリウッドの大物になったアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥにとって『アモーレス・ペロス』(2000)以来の全編メキシコ撮影作品だが、22年前の鮮烈なデビュー作とはまったく違っている。ダニエル・ヒメネス・カチョ扮するアメリカで成功したドキュメンタリー監督がメキシコに帰郷する様を虚実入り乱れる映像で見せるという、明らかに監督自身を投影したエッセイのような一作であり、イニャリトゥのヴァージョンの『8 1/2』(1963、フェデリコ・フェリーニ)だ。監督はメキシコ人としてのアイデンティティを失っているのではないかと何度も自身の存在を疑い、帰る場所のない自身を持て余しながら観念的に放浪し続ける。ダリウス・コンジによるスペクタクル性の高い撮影とシュールなユーモア・センスによって異化されてはいるが、根底にあるのはイニャリトゥ自身の行き場のない苦悩と憂鬱だ。死生観を重く問うていた初期の作品群にやや戻った側面もあるが、『アモーレス・ペロス』のような熱はもう戻ってこないのだろうと、僕は少し寂しくなってしまったのだった。

  • 第二次世界大戦下でナチス親衛隊に捕まったユダヤ人青年ジルは、ペルシャ人だと嘘をついたことで一命を取り留めるが、ペルシャ語を学びたがっているナチス将校に教えるために収容所で捕らわれながら嘘のペルシャ語をでっち上げる羽目になってしまう。それこそ嘘みたいな話だが、実際にあった逸話にヒントを得たストーリーであり、監督のヴァディム・パールマンいわく戦争中に多くのユダヤ人に起きた様々な出来事を集積するような側面もあったという。それだけ必死に生き延びようとした人びとがたしかに存在したのだと。そして本作が厳しい態度を貫いているのは、ペルシャ語を学ぶ将校に対してだ。終戦後にテヘランで料理店を開く夢を持っている彼はけっして悪い人間ではないのだが、もちろんナチスの残虐な行為に加担してもいる。普通のひとが簡単に加害者にも被害者にもなる戦争という状況のなかで、安易に人情的な展開に持ちこまない本作の誠実さは、現代にこそ必要なものだろう。

  • 中年と初老の父親同士の結婚をモチーフにしたイタリアン・コメディ。イタリアで同性カップルの結婚に準ずるシビル・ユニオン法が2016年に成立したことを背景にした作品ではあるが、本作の重心はむしろ現代的な父親像を描くことにある。そう、ニュー・ダッドですね。海の男カルロは一見すると昔気質の無骨な男だが、他者と対等な関係性と対話で向き合い、弱さや痛みを分かち合い、飾らない自分を表現することができる誠実な父親だ。そんな彼の態度が、周りの人びとや旧来的な父親たちをも変えていくことになるのだ。そしてまた、進歩的/保守的という二項対立ではなく、異なる価値観を受容することの重要性がここではシンプルに信じられている。家族観やジェンダー観が保守的だと言われることの多いイタリアだが、本作のようにヒューマンな親しみやすさを貫きながら確実にダイヴァーシティに向かって進もうとする作品が増えてきている。

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