やっぱり、ヒップホップを来たるべきネクスト・ステージへと引き上げるのはこの稀代の才能、ケンドリック・ラマーに他ならないと、この新曲を聴いて改めて思う。アイズレー・ブラザーズのサンプリングが滑走するラテン・フレイヴァーな前半からサンダーキャット顔負けのベースが唸る後半部に展開するトラックも見事なら、それをスキルフルに乗りこなしていくケンドリックのラップも完璧。ストリートの腐敗や困難を綴りながら、自信を失い打ちひしがれた同胞たちを鼓舞するように「I Love Myself!」と繰り返すリリックのメッセージ性はかつてないほどストレートで、とてもアップリフティングかつ感動的だ。ダンスを通して、ささくれだった人々の気持ちがひとつになっていくまさに「ワン・ネイション・アンダー・ア・グルーヴ」なヴィデオの内容も素晴らしい。
新作の到着が待ち遠しいチャンス・ザ・ラッパーがバック・バンドのソーシャル・エクスペリメントを引き連れて公開した新曲は、ケンドリックの新曲とはあらゆる面で真逆を向いた内容。チル風味のトラックに乗せて、「I Hate~」と身の回りのあらゆるものを嫌いだと吐き捨てていく。環境の激しい変化による混乱が招いたシリアスな内容か? と思いきや、全方位に向かって嫌いだと繰り返しすぎて妙な可笑しさが生まれている辺り、むしろブラック・コメディ的な1曲と言えるだろう。いずれにせよ、同時期に公開されたケンドリックとチャンスの新曲がこれだけ正反対の内容に仕上がった事実に、単なる偶然ではない何らかの時代性を感じてしまうのは何も僕だけじゃないはず。
世間的な評価では盟友のディスクロージャーに水をあけられてしまった感もあるアルーナジョージだけど、この新曲を聴く限り、彼らの次の一手にはまだまだ大いに期待していいんじゃないでしょうか。1stのR&B路線から少しばかりダンス・フィールを強めたビートに乗っかる、往年のダフト・パンクやクリスタル・キャッスルズを髣髴させるヴォコーダー・ヴォイス使いが何とも小粋。セクシーというよりもキュートな印象が強いアルーナの歌声には、粘っこいR&Bよりもこれくらいアッサリした清涼感のあるビートの方が相性良いと思う。
男なのか女なのか、それともそんなことはどうでもいいのか。性別の境界を超越した場所で、何とも愉快でカラフルなダンス・ポップを歌い踊るアンドロギュノス・ポップ界のニュー・スターこそが、この若干19歳のシャミールである。この新曲は〈XLレコーディングス〉との契約後、本格的なデビュー・シングルとなる1曲。バウンシーでキャッチーなトラックに目まぐるしく展開する原色に溢れたヴィデオ、そしてばっちりと個性を主張するユニークな歌声、どこを取っても溌剌としていてキュートで、これはどうしたって愛さずにはいられないでしょう!
昨年、10代の心をがっちりと捉えて大ヒットを飛ばしたロードの勢いは、まだまだ衰える所を知らないようだ。こちらも10代に熱烈な支持を受けて大ヒットしているアメリカ版バトル・ロワイアルこと映画『ハンガー・ゲーム』の次回作サントラのキュレーターに、ロードが大抜擢。内容はチャーチズ、チャーリーXCX、バット・フォー・ラッシェズ等々と、彼女らしくポップとエッジのバランスが見事な人選になっていて、自身の新曲も収録されている。全体的には1stの香りを残しつつも、いくらかケレン味が強まったコーラス展開が彼女の自信を伝える内容に。タイトルにもなっている「赤、オレンジ、黄色の明滅するビート」というラインが、映画の主人公である「ガール・オン・ファイア」ことカットニス・エヴァディーンのイメージにもピッタリと合っている。