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WHAT WENT DOWN Foals (Warner) by YOSHIHARU KOBAYASHI
TSUYOSHI KIZU
September 15, 2015
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WHAT WENT DOWN

インディの墓場を踏み越え、さらに逞しさを増したサウンド。
大文字のロックの復権を唱える彼らは、新時代の覇者となるか

インディ・ロックはとっくの昔に死んでいる。少なくともイギリスにおいては。この認識に、今さら疑問を差し挟む余地はないだろう。これまでも散々、「英国ロック冬の時代」などと言われてきたのだから。実際のところ、2010年代のイギリスは、ディスクロージャーの大ブレイクが象徴しているように、クラブ・ミュージックの季節が続いている。だが、ギター・バンドが死に絶えたわけでは決してない。それどころか、ニッチ化が止まらない「インディ」を脱した、新たなギター・ロックの台頭はすでに始まっている。

結論を急げば、現在の英国ギター・バンドで勢いがあるのは、「インディ・ロック」ではなく大文字の「ロック」――そんな風に言えるのではないか。

具体的に見てみよう。2000年代前半のUKインディの総決算でもあったアークティック・モンキーズが、2013年の『AM』で凄まじいスケールと重厚感を手にした大文字のロックへと転じたのは象徴的な出来事。また、同じ中堅組のカサビアンも、相変わらずドでかいスケールのダンス・ロックを爆音で鳴らし続け、遂に〈グラストンベリー〉のヘッドライナーにまで上り詰めた。よりフレッシュなアクトに目を向けると、ホワイト・ストライプスのラウド・ロック的な展開と言えるロイヤル・ブラッドは全英1位を見事に奪取しているし、ストライプスが2ndでアークティックとカサビアンの背中を追う路線へと転じたのも、今の状況を分かりやすく示唆している。そして、デビュー当初は遅れてきたポストパンク・リヴァイヴァリストだったフォールズも、今やこの流れの先頭集団に混じり、それを力強く牽引する存在へと生まれ変わった。

フォールズの覚醒が始まったのは、3rd『ホーリー・ファイア』からだ。このアルバムに度肝を抜かれた人は多かっただろう。一気にスケールが増した2nd『トータル・ライフ・フォーエヴァー』が極限まで贅肉をそぎ落とした「骨と皮」だけの音だったとすれば、3rdはそこに分厚い筋肉が隆々と付いたようなサウンド。とにかく重厚で力強い。この作品では、ハンマーを振り下ろしているかのようにパワフルなギター・リフが暴れ回り、ずしりと重いリズム隊がそれを支えている。ちょうどこの頃、レッド・ホット・チリ・ペッパーズやレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンがヘッドライナーを務めたメタリカ主催のフェス、〈オリオン・ミュージック+モア〉にフォールズもラインナップされていたが、それも全く不思議な話ではなかった。

『ホーリー・ファイア』がバンド史上最大のヒット作となり、イギリスでは1万人規模の会場を2日間ソールド・アウトするほどの人気を獲得したことに手応えもあったのだろう。2年ぶりの新作『ホワット・ウェント・ダウン』は、よりヘヴィに、よりラウドに、よりアグレッシヴに、と突き進んでいる。

アルバムの幕開けを飾るタイトル・トラックは、嵐の中を猛スピードで駆け抜ける重戦車のような迫力。ドーピングしたブラック・サバスの如きギター・リフを2分20秒まで密かに隠し持っている“ナイト・スウィマーズ”では、大観衆が雄叫びを上げながら熱狂する姿が目に浮かぶ。勿論、“ロンドン・サンダー”を始め、フォールズらしい男臭さや哀愁が滲む美しいバラッドも用意されてはいる。細やかなエレクトロニクス処理が施されたドラム音やシンセのシークエンスが隠し味になっているところには、プロデューサーであるジェイムス・フォードの爪痕も見て取れるだろう。だが総じて、このアルバムは、『ホーリー・ファイア』で確立した新しいフォーミュラのスケールアップ・ヴァージョンだと言っていい。

もともとフォールズは、地元オックスフォードの閉鎖的なハードコア・コミュニティに嫌気が差し、よりポップなサウンドを志向して頭角を現したバンドだった。そのようなメンタリティを持つ彼らが、閉塞感を増し続けている現在の英国インディ・シーンを躊躇なく後にし、より大きなステージを目指すようになったのは必然かもしれない。2010年代のスタジアム・ロックと呼べるEDMにも対抗しうる、凄まじくダイナミックなサウンドを放つギター・バンド――現在のフォールズは、その有力な一組に数えられるまでに成長した。

文:小林祥晴

「エキセントリック」の生き残りが
ラウドにセクシーに響かせる消えない欲望

あれから7年も経ったのか……と思うのは、自分の場合来年のアメリカの大統領選の話題が聞こえてくるようになったからだが、実際、2008年はいろいろなものの転換点だったと思う。相変わらずブルックリンのシーンが興味深かった一方で、イギリスからはニュー・エキセントリックなる動きが紹介されていた。覚えているだろうか? ワーキング・クラスによる情緒的なロックとは異なる、実験的で知的でアーティなバンドが次々と台頭し始めており、フォールズもまさにそんな流れとシンクロし登場した。それぞれ独自のコンセプトやアイディアで勝負をかけるなか、当時のフォールズは言ってしまえば一生懸命なマス・ロックというか、アフリカ音楽やクラウトロックを取り入れつつダンサブルなロックで個性を発揮していたが、どうもまだまだ本人たちの理想に実際の楽曲が追いついていないようだった……が、それこそが彼らの魅力でもあった。コード弾きすることなくひたすらミニマルに繰り返されるギター・リフを聴いていると、情熱的なストイシズムとでも言おうか、そこには何か沸々とたぎる野心のようなものが感じられたのだ。

「お前が欲しい」――そして、新作『ホワット・ウェント・ダウン』のオープニング、タイトル・トラックでヤニス・フィリッパケスは狂おしく歌っている。フォールズの2008年からの歩みというのは、見るたびに腕が太くなりヒゲが濃くなっている気がするヤニスの風貌と比例するように、サウンドをタフにビルドアップしつつ楽曲のスケールを増していく作業だった。2nd『トータル・ライフ・フォーエヴァー』の時点でかなり化けていたとはいえ、本作においてフォールズは遠慮なくラウドな音を聞かせてくる。シンセやエレクトロニクスを加味しつつ楽曲によって音色の変化で聴かせてはいるが、それ以上に後を引くのはメロディとユニゾンするワイルドなギターの音だ……これはフォールズ版ハード・ロックだと言いたくなる。

このラウドネスは、バンドが内に抱え続けた熱をようやく開放する時が来たということだろう。ここでヤニスが声を嗄らしつつ叫んでいるのは、ロウなコミュニケーション、あるいは生の実感への欲求だ。“マウンテン・アット・マイ・ゲーツ”の終わり、「道をくれ/愛をくれ/選択肢をくれ」……そう言うと、ドラムが疾走を始め、アンサンブルは上昇する。細やかなエレクトロニクスが宙を舞うシンセ・バラッド“ギヴ・イット・オール”ではタイトル通り「すべてが欲しい」と言いつつ、そのじつ本当に欲望する「お前」のことをじっと見つめる熱のこもった視線が感じられる。知的でストイックだと思っていた男が、その内側でいまにも暴走しそうな熱情を抱えていたような……だからこれは、フォールズにとってもっともセクシーな一枚でもある。

ハード・ロックと書いてしまったが、終曲“ア・ナイフ・イン・ジ・オーシャン”ではノイズの海に溺れるようなシューゲイズ・サウンドが聴ける。歌詞中には一度も登場しない「ナイフ」というのは、どうにもコントロールしきれない、くすぶり続ける感情のことだろう。ヤニスが叫ぶ、「かつて信じていたものはどうなったんだ?」……敗れていく理想、見えなくなる希望、濁っていく純粋な想い。だがそれでも、その情熱、その欲望だけは消えることはない。だから求めるものを探し続けるのだと、フォールズは抑揚の効いた細やかな、しかしそれ以上に野性的な音を轟かせる――「俺はあてもなく夜行便で飛ぶ/お前はどうする気だ?」(“ロンドン・サンダー”)

文:木津毅

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