「サニーデイ・サービス NEWアルバム『Popcorn Ballads』ただ今よりシェア開始します」。2017年6月2日、午前0時1分。ポップコーンの絵文字と、Apple Music及びSpotifyのリンクを添えて、突然、発表が告知されたサニーデイ・サービス、11作目の「アルバム」は、22曲、86分の楽曲群だった。曽我部恵一は、そのアイディアを、サプライズ・リリースと言われたフランク・オーシャン『ブロンド』や、アルバムではなくプレイリストと定義付けられるドレイク『モア・ライフ』から得たと語っている。本作の発表方法は、日本のポップ・ミュージックの自閉したマーケットにおいて、グローバル・スタンダードを導入したと話題になったが、実際に世界を見渡してみると、曲数の多いミックステープよりもむしろEPを連発することが主流化している。ただ、曽我部の言葉を再び引いてみれば、新しさよりも形式が重要であり、それこそが内容に影響を与えたと語っているように、『ポップコーン・バラッズ』においては、やはり長さとある種の散漫さが要だと思える。だからこそ、半年後、さらに曲を追加し、順番を変えて発売された2枚組のCD/アナログ・レコードのヴァージョンを聴いても印象は変わらない。これまで、サニーデイの名作は『東京』から『DANCE TO YOU』まで、聴き手を向こうの世界にぐっと引き込み、ぱっと解放するようなオーセンティックなアルバムとしての完成度を持っていたが、ロックンロール、ファンク、ナイアガラ・サウンド、ジューク、フォーク・ロックと様々なサウンドが入れ替わり立ち替わりだらだらと続いていく本作には、こちらの世界に徐々に何かが染み出してくるような感じがある。そして、その何処か気怠い空気は現実と入り混じり、音楽が終わったあとも続いていく。(磯部涼)
listen: Spotify Apple Music
ヒット・シングルとなった“ロケーション”のコーラス部分、「君の居場所を送ってよ、もっとコミュニケーションを取ろう」とは、まさにデジタル世代/スマホ世代ならではの主張だと感じさせられた。スマホのGPS機能を使えば、自分が(もしくは相手が)どこにいるのか、容易く共有できる。だが、そこから一歩踏み込んで、面と向かってコミュニケーションを取るのはまた別の問題だ。しかも、あなたが不意に恋に落ちてしまいそうなシチュエーションに身を置く若者なら特にそうだろう。1998年生まれのカリードのデビュー・アルバム『アメリカン・ティーン』を聴くと、そんな場面にいくつも出くわす。もしも私がまだ10代で彼と同じ状況であれば、いったい、どうだっただろう。若くてお金の無いティーンだったら、親と一緒に住む18歳だったら、そして、あなたのためなら死んでもいいと思えるほどに恋焦がれる相手がいたなら……。アルバムを聴きながら自分の10代を追体験されられるような気分になるとともに、若きR&Bシンガーとしてのカリードの、ふくよかな表現力に舌を巻いた。(渡辺志保)
listen: Spotify Apple Music
本作の制作にあたり「インダストリアル」がキー・イメージとして念頭に置かれていたことは、ナイン・インチ・ネイルズやクラフトワークの『ヨーロッパ特急』といった彼らが明かすリファレンスからも窺える。そこには、近年のアンダーグラウンドにおけるポスト・インダストリアルの動きに対するリアクションという側面も読み取れなくないが、一方で本作が披露するラウドネスやミニマリズムとは、ガレージ・ロック/ポストパンクに傾倒したデビュー当時の音源や、あるいはファリス・バドワンのデトロイト・テクノへのシンパシーにルーツを遡れるものでもあることは言うまでもない。そして、そうした「インダストリアル」の意匠を基底通音としつつ、前作『ルミナス』の流れを汲むダンス・フィールや、フォーキーなソングライティングを接合することでサウンドのレンジを拡充する成果を得ている。ホラーズ史上もっともハードコアだが、同時にポップでもあり、性分であるエクレティシズムは健在。2000年代に英国のギター・ロックがヒップホップやDJカルチャーとの接点を通じて推し進めた先進性や多様性を体現し続ける数少ない生き残りとしての、本作は面目躍如の一枚に挙げたい。(天井潤之介)
listen: Spotify Apple Music
NBAの花形選手であるカイリー・アーヴィングや、ドレイクにフックアップされたシンガーのパーティー・ネクスト・ドアとのゴシップ、そして自殺未遂騒ぎと、本作をリリースする前のケラーニはどこか「不安定でお騒がせ」なイメージが付きまとっていたことは事実だろう。だが、この『スウィートセクシーサヴェージ』を聴くと、そんなイメージはどこへやら、いや、むしろそうした経験を経ているからこそ、タイトル通り強くしなやかに全てを曝け出す強い女性としてのシンガー、ケラーニが屹立している。「何にでも情熱を持って取り組むタイプ。ああいう経験全てが私をもっと強くしたのよね」と歌う“クレイジー”や「あいつら、本当に私を過小評価してるわ」と本音が爆発する“パーソナル”などはラッパー顔負けのアティチュードを披露する。90年代後半辺りのR&B作品を思わせるような、ソリッドなコーラスワークやパワフルなヴォーカル・プロダクションも、本作においてケラーニの魅力が際立っているポイントの一つ。トレンドの形態よりも、とにかく一人の女性としての自分の内面に拘った仕上がりである。(渡辺志保)
listen: Spotify Apple Music
ロンドンでもっとも内気なボーイ&ガールのバンド、The xxがUKのロック、クラブ、フェスティヴァルのシーンで堂々と頂点に立ったことを示した記念すべきアルバム。09年のデビュー・アルバムの思わぬ成功に戸惑ったか、3年後の2ndにおいてより強い内向性を露呈してしまった彼ら。それはダークなカリスマと崇める人たちの都合こそよかったが、稀代のサウンドメイカー、ジェイミーxxを擁した才能がこのまま一部の閉じた固定層だけが独り占めするものとなってしまうのか――その方向性の揺らぎに関しては微妙なものがあった。だが、ジェイミーがソロ作でより開放的かつ前向きにその才能を開花させ、その影響が本作に及ぶ頃には、オリーもロミーも決意を固めたようだ。オリーの表情にはかつては見られなかった笑顔があふれ、ロミーのはにかみや泣き節は相変わらずながら、より動的なパッションを感じさせるようにもなった。フロント2人の紡ぐ物語の人間関係(ロマンス)もよりセクシーでスリリングなものに進化した。神秘性の薄れを危惧する声もあるが、現代屈指のトライアングルのケミストリーを前にそんな心配など杞憂に過ぎない。(沢田太陽)
listen: Spotify Apple Music
NYはブルックリン、フラットブッシュから新風を吹かせるジョーイの最新作は、陰鬱とする世の中に対して喝を入れるべく一肌脱いだ佳作。あえてタイトルに忍ばせた「KKK」の文字、そしてそのKKKを揶揄するかのような“ランド・オブ・フリー”のMVなど、こうして聴くと攻撃的なイメージを持たれるかもしれないが、同胞を鼓舞する“フォー・マイ・ピープル”や過去を振り返りながら自分の現状を讃える“デヴァステイテッド”など、ポジティヴなメッセージに溢れる内容に。怒りや嘆きを内包したケンドリック・ラマーやエミネムのアルバムに比べると、ポリティカルというよりは、恐れることなく、社会に向けてよりオープンマインドな意見を表明したアルバムという印象。それは、1995年生まれの若い彼だからこそだろうか。また、スクールボーイ・Qとの“ロッカバイ・ベイビー”やクロニクスとの“バビロン”ではレゲエのヴァイブスを覗かせるサウンド・アプローチもあり、かつてブルックリンの先輩格であるスミフン・ウエッスンらが提示してきたアティチュードも感じた(ちなみにジョーイの地元、フラットブッシュ地区はカリブからの移民から多いエリアとしても知られる)。曇りのない青空、ギャング抗争を想起させるような赤と青のバンダナを繋いだ星条旗、ロープのような模様が描かれたジャケットを着て中指を立てるジョーイの姿など、ジャケット写真に現れるエレメント全てが、本作の絶妙なバランス感を証明している。(渡辺志保)
listen: Spotify Apple Music
本作、とりわけシンガー・ソングライターのルイス・コールと共作した“バス・イン・ジーズ・ストリーツ”と“ジャミールズ・スペース・ライド”の2曲を聴いた時には驚いた。アリエル・ピンクやライアン・パワーといったベッドルーム・ポップのアーティストが4年前に試みていた、AOR~ブルー・アイド・ソウル寄りのアプローチとそっくりだったからだ。さらに“ショウ・ユア・ウェイ”ではAOR界の二大巨頭とも言えるマイケル・マクドナルドとケニー・ロギンスを実際に招いてしまっているのだから恐れ入るが、つまりは一見脈略のないアイデアの断片を脳内でザッピングするというベッドルーム・ポップ的な手法を取りつつ、ケンドリック・ラマーやカマシ・ワシントンのサポートで鍛え上げたベーシストとしての持ち前の超絶技巧によってフィジカル面での強化を図り、妄想を具現化してしまったのが本作なのである。日本が生んだサイバースペースに鼻まで浸かり、白人譲りのソングライティングと、穏やかな心を持ちながら激しい怒りによって目覚めた戦闘力9000超えの黒いサイヤ人、それがサンダーキャットことスティーヴン・ブルーナーなのだ。(清水祐也)
listen: Spotify Apple Music
LCDサウンドシステムが活動を休止しこの新作をリリースするまでの7年間に、ジェイムス・マーフィー憧れのロック・ヒーローがたくさんこの世を去った。スーサイド“ドリーム・ベイビー・ドリーム”へのトリビュートのような“オー・ベイビー”で始まり、デヴィッド・ボウイへ捧げられた“ブラック・スクリーン”で幕を閉じるこのカムバック作は、死に遅れて途方に暮れるジェイムス・マーフィーの心情が切実に吐露される、LCD史上もっともパーソナルな一枚だ。エレクトロニクスとバンドの生音が拮抗するダンス・パンクのビート、精緻に構築されたプロダクションはまさしくLCDのシグネチャー・サウンドだが、時代遅れ感も否めない。今の時代に長尺曲ばかり10曲並べて、ゆったりとムードを構築していくようなアルバムなんて流行らないんだから。しかし、そんなロートルの音楽がこんなにも胸を打つのはなぜだろう? それはきっと、今や死にかけとなったロックの偉大なる歴史と、死に遅れた男の人生の両方が、どうしようもないほど深く刻み込まれているからだ。アメリカン・ドリームなんてもうどこにもない。ヒーローたちは次々に死んでいく。それでも私たちは火を運び続けなければならない。(青山晃大)
listen: Spotify Apple Music
スティーヴィー・ワンダーからレッド・ホット・チリ・ペッパーズ、そしてホワイテスト・ボーイ・アライヴに至るまで多岐に亘る影響をナチュラルにバンド・サウンドに落とし込むこのバンドは、音楽のツボを押さえるセンスが桁違いだ。ヒョゴのライヴを観た時、イム・ヒョンジェ(ギター)がカポタストで音響に色彩を加える瞬間に零れ落ちたオーセンテックな魅力から、彼が数多くのカントリー・ミュージックを聴いていることが伝わってきたが、このアルバムにもそういった瞬間が数多く聴きとれる。しなやかにリズムを形作る“トーキョー・イン”のギターや、“ダイ・アローン”のアンセミックなサビ、“ジーザス・リヴド・イン・ア・モーテル・ルーム”における緩急自在なリズム隊がそれだ。サウンドの現代性といった点でも抜かりはなく、本作で顕著になった大文字のロック・ミュージックへの接近が露わな“Wanli万里”のグルーヴは、アークティック・モンキーズ『AM』と通底するようなところがある。そんな高偏差値ハイスペックなバンド・サウンドに加え、近年まれに見るカリスマチックなヴォーカリスト、オ・ヒョクがいるわけだから文句なしだ。(八木皓平)
listen: Spotify Apple Music
パンク・バンドが転じてダンス・ポップを始める。それ自体は特別珍しい話ではない。ここのヴォーカル、ヘイリー・ウィリアムスがロール・モデルに挙げるブロンディの『恋の平行線』。それこそ、彼らと同時期に登場した2000年代のニューウェイヴ/ポストパンクのリヴァイヴァル勢についてはいうに及ばず。実際、このシンセとパーカッションで装い新たにラッピングされた本作に、バングルズやトム・トム・クラブの面影を重ねることはいかにも容易い。むしろ、そうした本作の背景に思い巡らせるべきは、彼らのような人気ポップ・パンク・バンドとて、いまの時代に「ポップ」とどう向き合うのかという課題は無縁ではなかった――ということ。ドレイクのカヴァーを好んで披露し、また本作の制作にあたり売れっ子プロデューサー(マックス・マーティン?)の起用をレーベルから促され断ったという彼らにとって、今回の音楽的転身とはそうした現状に対する彼らなりのリアクションだった。そんな本作の立ち位置は、対照的にこの「ポップ」を巡る状況の舞台回しを演じるUSエモ/ポップ・パンクの同窓ジャック・アントノフの近況と並べた時、尚更際立って映るのではないだろうか。(天井潤之介)
listen: listen: Spotify Apple Music
▼
▼
2017年 年間ベスト・アルバム
21位~30位
2017年 年間ベスト・アルバム
扉ページ