SIGN OF THE DAY

2020年 年間ベスト・アルバム
1位~5位
by all the staff and contributing writers December 31, 2020
2020年 年間ベスト・アルバム<br />
1位~5位

5. Fontaines D.C. / A Hero’s Death

2020年 年間ベスト・アルバム<br />
1位~5位

1970年代後半英国のポストパンク・ソウルはいくつかの火を各地に宿し、2010年代にコペンハーゲンのアイスエイジやロウアーに乗り移り、やがてダブリンに飛び火する。まずガール・バンドが現れ、マーダー・キャピタルが続き、そしてフォンテインズD.C.がこの二作目のアルバムで全英チャート2位に躍り出た。フォンテインズD.Cの根幹にあるのは、ポストパンクから受け継いだ曖昧さとミニマリズム。“テレヴァイズド・マインド”と“ア・ヒーローズ・デス”においては、6度のコードがマイナーとメジャーを行き来することで、明るさと暗さの境目が失われる。“アイ・ドント・ビロング”では、ベースがギターより高い音位置でフレーズを反復するため、コード感がおぼつかない。不明瞭な感情、不明瞭な世界をそのまま音に換える。劇的な表現を拒む、そのスタイルのクールネス。グリアン・チャッテンが平熱の低音で口ずさむメロディは、(ルート音に対して)3度と6度の音を強調する。メロディアスに響く音程を反復させることで、多くの人間の記憶に残るような「つかみどころ」が発生する。クールな輪郭を保ったまま、ポップの触覚に触れるバランス感覚は、フォンテインズD.C.を特別なバンドに変えた。そして、どんなに人気を得ようとも尊厳だけは誰にも譲らない頑固な精神が、水がぽちゃんと跳ねるようなギターとドラムの残響と、「Life ain't always empty」という四語の律動に息づいている。その実践が、やがてくる次の魂へと、高熱の息を吹きこむ。(伏見瞬)

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4. Childish Gambino / 3.15.20

2020年 年間ベスト・アルバム<br />
1位~5位

「ドナルド、時間切れだよ」。ルドウィグ・ゴランソンがそう言ったかどうかはわからないが、客観的事実として、2011年のデビュー・アルバム『キャンプ』以来、ドナルド・グローヴァーの音楽活動において絶対的パートーナーを務めてきたゴランソンの名前は、本作では“タイム”、“19.10”、“32.22”、“42.26”(=“フィールズ・ライク・サマー”)、“47.48”の5曲にしかクレジットされていない。“32.22”は2018年のツアーで、“タイム”は2019年の映画『グアバ・アイランド』で初披露されていたことを踏まえると、8曲あるアルバム初出曲のうちゴランソンが関わったのは2曲だけ。自分が6歳だった時の父親との会話を元に「ブラック」であることの誇りと重荷を高らかに歌い上げたプリンス風のポップ・ファンク“19.10”と、まるでBLMの再燃を予見していたかのようなリリックに続いて、今度は幼い息子との実際の会話を挿入したスライ・ストーン風のスロー・ファンク“47.48”。その2曲は、文句なしで本作のクライマックスだろう。2018年以降のルドウィグ・ゴランソンといえば、映画『ブラックパンサー』のスコアでアカデミー賞を受賞、その功績がディズニーに買われて長期シリーズ化前提の『マンダロリアン』の音楽監督に就任、ジャスティン・ティンバーレイク&SZAの“ジ・アザー・サイド”(最初に聴いた時は「なんてチャイルディッシュ・ガンビーノっぽい曲なんだ」と思ったものだ)のような他の大物ポップ・スターとの仕事もやるようになり、やがてクリストファー・ノーランの『TENET テネット』にかかりっきりになって、その流れでトラヴィス・スコットとも仕事をすることとなった。チャイルディッシュ・ガンビーノというグローバーがテキトーにつけたステージネームは、作品を重ねるにつれてグローバーとゴランソンのコラボレーションを表す名前になっていった。2017年からグローバーが盛んに「チャイルディッシュ・ガンビーノとしての活動の封印」を口にするようになったのも、相棒のキャリアの飛躍を踏まえてのことだと考えると腑に落ちる。予定外だったのは、2018年の「チャイルディッシュ・ガンビーノのラスト・ツアー」までにアルバムが完成しなかったことだ。ツアー最終日、グローバーはステージ上で数週間前に最愛の父親が亡くなったこと、そして生きているうちに父親にアルバムを聞かせられなかったことを悔やんでいると告白した。それから15ヶ月後、北米でパンデミックが始まったばかりの2020年3月15日。当初、ウェブ上ではチャイルディッシュ・ガンビーノの名前ではなくドナルド・グローバー・プレゼンツと告知されていた本作には、2年前にリリース予定にあったアルバムに入るはずだったいくつもの煌びやかなポップ・チューンが収録されてなかった。2020年11月7日、グローバーは「もっとたくさんの魔法がやってくる。2018年、みんな俺のことをホットだと思ってただろ」とツイートした。いつもは数日後にツイートを全部消してしまうグローバーだが、2020年の最後までそのツイートは残っている。本作の謎解きは以上。(宇野維正)

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3. Haim / Women In Music Pt. III

2020年 年間ベスト・アルバム<br />
1位~5位

これまではL.A.のカラッとした日差しを思わせる楽天性がトレードマークだったハイムだが、このアルバムでは明らかに様相が異なる。気怠いサックスに導かれて始まるオープナー“ロサンゼルス”では、「このところ何もかもが上手くいかない、何のヴィジョンも見えない」と落ち込んだ顔を見せ、愛する故郷L.A.を離れることに思いを馳せている。それ以降も不眠症、女性蔑視、鬱状態、上手くいかない恋愛関係、パートナー間での精神的暴力……と、様々な不平等やメンタルヘルスをテーマにした曲が目白押しだ。それでもこのアルバムが陰鬱とした印象を与えず、全体としてはむしろ爽快なカタルシスに満ちているのは、自分がそのような問題を抱えていると認めることで得られる開放感が宿っているからだろうか。例えば“アイヴ・ビーン・ダウン”のフックで「I’ve been down(私は落ち込んでたんだ)」と何度も声を張り上げて繰り返すことが、かえって胸の空くような心地よさを生み出す効果があるように。本作の音楽的なキャラクターを決定づけているヒップホップ譲りのブレイクビーツと音割れ気味なギターのドライな音色も、聴き手をウェットな感傷に浸らせる隙を与えない。どこまでも正直でダイレクト、かつ自分たちなりのペースで前に進んでいけばいいという静かな確信に満ちている本作は、間違いなく彼女たちの最高傑作だ。ちなみに、アルバムの最後2曲にはメンタルヘルスの問題に対する彼女たちなりの回答がある。“ハレルヤ”で歌われるのは何があっても支え合える姉妹がいることの大切さ、そして“サマー・ガール”で歌われるのは(自分の問題ばかりに捉われるのではなく)自分以外の誰かを支えるために懸命になることの大切さだ。(小林祥晴)

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2. Adrianne Lenker / songs / insturumentals

2020年 年間ベスト・アルバム<br />
1位~5位

個人と個人の物理的な接触が否応なく切り離された2020年、しかし静謐な時間を「取り戻した」ひとも少なくなかっただろう。その豊穣な孤独を。昨年のビッグ・シーフの成功はエイドリアン・レンカーの周囲に喧騒をもたらしたが、ツアーのキャンセルを受けて彼女は森のキャビンへとたどり着く。そこで生み出された2枚のアルバム――素っ気なく「歌たち」と「演奏たち」と題された連作は、ギターの弦をこするタッチ、発声するときのかすかな息遣い、森のざわめきを拾いながら小さな音の揺らぎにこそ意識を向けさせる。ソングライティングのさらなる洗練とアンビエント/ドローンの音響が融和することによって生まれる幽玄なムードは、外界から精神と肉体を遠ざけ、「いま、ここ」に五感を働かせることの大切さを思い出させてくれる。レンカーはそして、自分の内側にある細かな心の動きにフォーカスする。別離の痛み、否応なく死に向かっていく生の時間、混ざり合っていく安堵と不安……。様々な相反する要素や感情の移り変わりをスケッチしながら、ひとりの人間のなかに宿るグラデーションを映し出し、その複雑さこそを静かに受容するかのようだ。ひとつに集約できる感情などなく、一面的な人間などありえない。わたしたちが騒がしさのなかで忘れているそんな真実を、気に留めなければ聴き逃してしまいそうな小さな音に託した歌と演奏。いま、心に耳を澄ますということについて。(木津毅)

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1. Bob Dylan / Rough and Rowdy Ways

2020年 年間ベスト・アルバム<br />
1位~5位

最高のシステムで聴いて欲しい。アルバム冒頭、筆舌に尽くしがたい美しいギターの音色が流れてきた瞬間、戦慄が走る。その瞬間、大方の人々の耳が歓喜の声をあげるのを確かにあなたは聴くだろう。そんな奇跡的な録音が続く70分間。思わずアンビエント・バラッドとでも呼ぶしかない“アイ・コンテイン・マルティチュード”や“マーダー・モスト・フォウル”によって、ディランはジャンルの壁を拡張してみせる。ディランより50歳近く若いブレイク・ミルズがその功労者だったことは間違いない。彼やフィオナ・アップルといった世代も社会的な立場も超えた多くの人々の力を借りることでディランは音楽にとってもっとも重要なのはサウンドだという公理を示すと同時に、ポップ・ソングにおける言葉の重要性さえもごく普通に示してみせた。ヒルビリー音楽にゴスペルやブルーズ、欧州アルプス地方のヨーデルを組み合わせることでカントリー音楽の下地を作ったジミー・ロジャーズ1929年の曲タイトル“マイ・ラフ・アンド・ロウディ・ウェイズ”を引用し、愚かな人類の歴史を代表するかのように粗雑で乱暴なことを意味する言葉をアルバムに冠した。そして最後に嫌々ながらそこにボブ・ディランという名前を刻んだに違いない。21世紀に入ってからの大半を20世紀前半からの伝統的なポップ・ソングのカヴァー・アルバムを量産することで、自らの存在や名声など有名無名の人々の血の轍をなぞってきたものにすぎないことを証明してきた彼は、最初期のクアランティン期に、63年秋のケネディ暗殺から数十年の間に起こったことをひたすら羅列していくだけの17分近い叙事詩をリリースすることで、ここでもまた、自らは天才などではなく愚かな人類の一人でしかないこと、優れた歌を残すためにはそこに自らの主張や感情を込めることなど必要ないことを証明してみせた。それは、63年春に理不尽な理由で惨めな死に至ったハッティ・キャロルと同じくジョージ・フロイドという男がまったくの理不尽な理由で殺害される2ヶ月前のこと。「もっとも卑劣な殺人」。時代は少しも変わらない。ケネディの言葉に鼓舞されることで、サム・クックに64年の“ア・チェンジ・イズ・ゴナ・カム”を書かせる直接的な契機となった「時代は変わりつつある」という曲を今から60年近く前に書いた男の砂を噛むような想いを想像するのはとても難しい。アートは個の内側から湧き出すものではない。個と個、個と他者、個と社会の出会いや軋轢が鳴らすものに他ならない。それがゆえに怒りを噛み殺した悲しい歌は今も生まれ続けている。それにしても、すべてがハイ・コンテスト化する2020年代にあっても、この作品のあちこちでキャプチャーされた引用や文脈の夥しさに比類するものはないだろう。このアルバムは不条理と悲劇が渦巻く汚濁の中で、ほんの一瞬だけ光がまたたく我々の歴史そのものだ。ディランはただそれを切り取る。彼はごく当たり前であるがゆえに誰もが忘れがちな、ごく当たり前のことだけを今もやり続けている。2020年はディランの年だった。彼より遥かに若い世代の戒めとして、そのことを心にしっかり刻むことからまた改めて始めよう。だが、ディランという名詞はどんな時代もロバート・ジマーマンを指す固有名詞ではない。それでも「時代は変わりつつある」と砂を噛むような思いで唱え続けるだろう昨日や今日、未来の我々の名前なのだ。(田中宗一郎)

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2020年 年間ベスト・アルバム
6位~10位


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