SIGN OF THE DAY

祝再結成ブラー、まさかまさかの大傑作!
ブラー初心者のキッズも、黎明期からの
古参ファンも読めば納得。ブラーのすべてを
知るための10の質問:作家編 by 木津毅
by TSUYOSHI KIZU June 03, 2015
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祝再結成ブラー、まさかまさかの大傑作!<br />
ブラー初心者のキッズも、黎明期からの<br />
古参ファンも読めば納得。ブラーのすべてを<br />
知るための10の質問:作家編 by 木津毅

1. ブラーというバンドの存在が表象するものとは何か。出来るだけ、さまざまな視点から言語化して下さい。

過ぎ去った喧噪の生き証人。90年代半ばのイギリスの、トニー・ブレアが労働党党首になった頃の浮かれたムードの(クール・ブリタニア!)。または、日本において「洋楽誌」がいまよりも読まれていた時代の、押さえるべき共通言語としてのロック・バンド(クラスに外国のロック音楽を聴く人間がいまより多かった頃の話)。

そして現在、ある特定のポップ・ミュージック・シーンの残酷で生々しい狂騒と没落を経験しながら、存命してしまったバンドの老い先をリアルタイムで体現しているのはブラーを置いて他にいないと思います。



2. ブラーの存在と音楽性を構成する諸要素をその文化的出自、時代性、世代、音楽性、アティチュード、メンバー構成、バンド組織論といったいくつかのパラメータを使って、方程式として表して下さい。

(デーモンの音楽的興味の変遷と精神的なアップダウン+グレアムのアメリカン・インディ・ロックへの造詣と(おもに)デーモンとの愛憎+アレックスの人当たりの良さ+デイヴの「バンドのドラムってやっぱりこういうキャラなんやね」感×(時代ごとのイギリスの政治/風俗+(1/2×時代ごとのアメリカのポップ・ミュージック・シーンの動向))×π=ブラー

最終的に4人でちゃんと円になっているバンドかと思います。



3. 90年代生まれのキッズが今からブラーを聴き始めるとするなら、まず最初に手に取るべきパッケージは何からにすべきでしょう? その理由と共に教えて下さい。

オアシスだったら「最初の2枚聴いとけ!」で済みますが、ブラーはアルバムによって音楽性がまったく異なるので難しいですね。ただ、いつ生まれるかによって聴こえ方が全然違うという点でポップ・ミュージックの歴史はリスナーに平等でないので、そこは最新作『ザ・マジック・ウィップ』を聴いてほしいです。それがあなたと同じ時代を生きているブラーだから。そこには彼らの過去もかなり入りこんでいて、だからその正体が気になったら遡っていけばいいのでは、と思います。これは、自分がはじめて聴いたブラーが『ブラー』だったいうことも関係しています(後述します)。



4. ブラーというバンドがロック/ポップ史に残した最大の功績を3つ挙げて、その理由を述べて下さい。同じく、彼らがロック/ポップ史に残した最大の罪があるとすれば、それは何でしょう。その理由と共に教えて下さい。

1) 80年代から90年代へと至るイギリスの時代の変化を象徴し、当時の風俗や政治、社会状況にそれ以上ないほどに影響を受け、ときには影響を与えたこと。

ポップ・ミュージックというのはたんなる趣味ではなく、その時代ごとの空気や、場合によっては人びとが気づいていないムードを言い当てることのできるものなのだ――ということを、空前のヒットを飛ばし、膨大な話題を振りまき、ボロボロになりながら体現したのは、やっぱり日本から見るとすごいことだなと思います。当たり前と言えば当たり前のことなんですけれども、ドキュメンタリー映画『LIVE FOREVER』を観るとその騒ぎのレベルにビックリせずにはいられません。

2) そのことによって、(日本にいるわたしたちを含めて)イギリスのポップ・カルチャーの魅力をあらためて教えてくれたこと。あくまでカジュアルに。

「ブリットポップ」という言葉には真実も誤解も含まれているとは思うのですが、それでもイギリス文学や映画、ファッション、アート、勿論それ以前のイギリスのポップ・ミュージックへの入り口に大いになったと思います。『パークライフ』を聴いて『さらば青春の光』をレンタルビデオ屋で借りた10代は、日本にもけっこういたのではないでしょうか。(過去形で書いてしまいました。そんな10代はいまもいるんでしょうか?)

3) 20年前に時のバンドとなりながら、同じメンバーで年を重ねていく姿を包み隠さず見せていること。

これは残した功績と言うより現在進行形なのですが、現在のブラーが多くの再結成バンドと決定的に違っているのは、出している音や佇まいに過去辿ってきた変遷と現在の彼ら自身の――とくにデーモンの、ですが――興味の両方がはっきりと出ていることです。かつての自分たちのフリをするのではなく、中年の男4人が集まって、お互いの歩んできた道を確かめつつ、いま起きる化学反応を楽しもうとする姿勢が見えます。それはたとえばレディオヘッドなんかと比べてみても、もっと何かこう、感傷的な所作に思えるところもポイントです。

罪のほうは何でしょうね。オアシスVSブラーみたいな構造がわかりやすくて面白かったため、ある時期、中産階級のバンドというイメージを固定しすぎたような気もします。またデーモンが鼻持ちならないぼっちゃんというキャラクターを背負い過ぎたせいで、音楽以外のところで世間が盛り上がりすぎたということは、あとになって残った空虚感が証明しているでしょう。いまから思えば、ブラーがイギリスの中産階級的なものをすべて表象していたわけではないはずなのですが。



5. これまでのブラー作品の中で、あなたがもっとも優れていると感じる楽曲をその理由と共に3曲挙げて下さい。

1) Beetlebum

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「かつての自分たちとは違う」ということをイントロで印象づけ、憂うつなヴァースが続いたかと思うと、コーラスで一気にメロウさが広がるそのシンプルかつ効果的な構成。グレアムの痛々しいギターと弱みを晒すデーモンのファルセット。「お前はロクデナシ」だの「お前」が自分自身に向けて言っているとしか思えないこと。ブリットポップの落とし前をこの一曲でつけてしまったヘヴィな説得力と、何度も聴いていると、「お前はロクデナシだ」と自分に言いたくなる夜を思い出さずにいられないところ。

2) Out of Time

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当時のデーモンのインスピレーション元である北アフリカ~アラブの音楽を取り入れ、上品にダブ処理していることもさることながら、グレアムが脱退するというニュースが前後したこともあって「ああ、バンドが終わっていくんだな」ということをしみじみと思わせたその物悲しさ。けれどもそれを少しだけ上回るスウィートさがあって、ただそれだけのために、同じ時間を共有してきたことへの慈しみが余韻になって残る。「僕たちは手遅れなのか? そうなんだね」。

3) Under The Westway

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得意のミドル・テンポ・バラッド、安定のブラー節。何も真新しくなかった。けれどロンドン五輪の2012年……世界が「ブリティッシュ」に沸いた年、ファンの記憶のなかにある「わたしたちが愛したブラー」を堂々と引っ張り出してきたことに嘆息せずにはいられない。ヴァースだけを繰り返しながらスウィートなメロディで、デーモンが歌う。「きみのことを思う/楽園は失われていない、きみとともにあるんだ、ってね/これからも僕は謝ってばかりだろうけど/僕は歌うよ/ハレルヤ/大きな声で、きみのために」……それは、4人ブラーの復活劇に酔いたい聴衆に応える、デーモンらしいしたたかな振る舞いだったのかもしれない。でも、その「ハレルヤ」が呟かれる瞬間、それだけを信じたいと思わせる力……それがブラーだと、このシングルを聴いたときに痛感した。



6. ブラー4人のメンバー個々について、あなたなりの人物評をお願いします。

デーモン・アルバーン:よく教育されたミドル・クラスの白人のストレート男性。ってこういうねじれ方するひともいるんだなあ、とある時期までは思っていたけれど、とくに21世紀に入ってからの本人のあまりの向学心ゆえに、じつはとても素直な努力家なのではないかと思うようになりました。恵まれた境遇の白人男性ミュージシャンとしてアウトプットはどこにあるか? の絶え間ない問いかけが彼を逞しくしたのだと感じます。

グレアム・コクソン:楽器がギターで繊細でメガネで華奢で何かとややこしそうで、文系女子が好きなものを全部備えているひと。って、ここまで書いて改めて思いますが、強烈な個性を持ったふたりの男が傷つけ合いながら愛し合っているって、そりゃあ女子は萌えますよね。それはレディオヘッドにはないからなー。ともかく、バンドが存続するか否かのタイミングで必ずキーとなったのは何だかんだでグレアムではないかと。

アレックス・ジェームス:バンドのなかでいちばんちゃんとしたひと、というか、これまでのインタヴューの発言を見ていても、彼が外交的に動いていたことでバンドがもっていた部分もあるんだろうなあと。彼がデーモンやグレアム以上に「ポップ」にこだわったというのもバンドにとって重要だったでしょう。のちに酪農家として成功したというのも頷ける話です。

デイヴ・ロウントゥリー:すいません。上に「ドラマーってこういうキャラ」とか書いたものの、ヘンなひとだなあというイメージぐらいしかありません。労働党から出馬したというのも正直「え?」って感じです。冴えないイギリス白人って感じの見た目は、強烈なキャラばかりのバンドでうまく機能していると思います。



7. ブラーにとって何かしらのロール・モデルになったであろう作家、バンドを挙げて、その理由を添えて下さい。また、彼らの理想的なフォロワーを挙げて、その理由についても教えて下さい。

音楽的な影響元はあまりに多岐に渡るため一概には言えませんが、デヴィッド・ボウイはつねに頭の片隅にはあったはず。ポップ・スターであることと、ミュージシャンとして探究者であることの両立。何かしらのアイコンを引き受けることと、裏切ること。新作がベルリン時代のボウイを意識したというのは、音楽的なこと以上に「○○時代」という言葉に象徴されるような「変わり続けるバンド」でありたいという想いの表れではないでしょうか。

David Bowie / Low

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フォロワーは……カイザー・チーフス。だとちょっと弱いんで、フランツ・フェルディナンドを挙げておきましょうか。ロック・バンドのポップな打ち出し方というか、フォルムの整ったポップ・アートとしてお手本にしたところは少なからずあるでしょう。最近はあまりブラーを連想するバンドがいないような気がするのは、やっぱりイギリス社会のどん詰まり感のせいなのでしょうか。



8. この20数年の間、あなたが経験してきたブラーとのいくつもの接近遭遇の中で、もっとも印象的な光景を時系列順にいくつか挙げて下さい。

まず僕がブラーに出会ったのは中学生のころ、ようやく海外のカルチャーに自発的に興味を持ち始めた時期でした。で、当時人気のバンドの代表として出ていた彼らの写真を見たら上半身裸で花持ってたりして、「えっロック・バンドがこんなアイドルみたいな扱い?」と思って驚き、当時――1997年頃――の最新作『ブラー』を聴いてみたのです。「えっこれがブリットポップ?」……それが勘違いだったことはわりとすぐわかったのですが、そのギャップの正体が知りたくて、過去のディスコグラフィをレンタルCD屋さんに行って借りて聴いたことが、僕にとって海外のポップ・ミュージックの原体験でした。

出会うのが遅かったため、実際にライヴという場でブラーを観たのはたったの2度しかありません。まずはじめは18歳のとき、2003年の〈サマーソニック 大阪〉で観ました。ただ、前日のレディオヘッドがあまりにも鮮烈だったため、また、その前の月にはじめて行った〈フジロック〉でのビョークとアンダーワールドが強烈だったため、この日の3人ブラーはあまり記憶にありません。デーモンが必死に駆け回っていたことを何となく覚えているぐらいです。

そして二度目は昨年1月、武道館で観ました。これはよく覚えています。それは見事に中年になった4人の姿でした。かつて若かりし日々を過ごした友たちがまた集まって、同じ音楽を演奏することの喜びを噛みしめるような中年男たち。そこにはかつての、アイドルみたいな彼らはもういませんでした。だけど不思議と「ああはなりたくないな」とは思いませんでした。「こういう年の重ね方もあるんだな」と。中年になっていく音楽オタクの悲哀を自虐的に綴ったのはジェームズ・マーフィですが、彼は自ら表舞台から退いたという意味である意味潔かったかもしれません。僕が観たLCDサウンドシステムの〈フジロック〉での最後のライヴは、多少感傷的ではあるものの清々しくカッコいいものでした。そこを行くとブラーは、20年前の楽曲を、かつての記憶を確かめるようにして演奏するおじさんたちでした。だけど、自分も29歳になってようやく、同じ記憶を持つ友人たちというものがどういうものかわかるようになってきたこともあると思いますが、ブラーはそのとき時間の積み重ねをメロウに、しかし慈しみをもって表現しているようでした。



9. この10年間のブラーの不在はポップ・シーンに何をもたらし、彼らの復帰は何をもたらすことになるのでしょうか?

結果的にではありますがデーモン・アルバーンのキャリアの充実をもたらし、彼が関わった作品群はイギリスのポップ・ミュージックのハイブリッドの良い見本をつねに提示してきたように思います。それは何だかんだでロック・バンド幻想みたいなものの受け皿になっていたブラーでは実現しにくかったことではないでしょうか。意見の分かれるところだとは思いますが、トム・ヨークのバンドを離れての活動以上にそれらはヴァラエティに富み、コンセプトそのものが興味深いものばかりでした。

ブラーの再始動は、「その続き」で起こっているということが重要です。かつての人気バンド――ではなくて、かつての人気バンドが中年バンドになり、かつての自分たちにはできなかったことをやろうとしている。ロック・バンドのフォーマットでの可能性、ポップ・ミュージックの可能性をシーンに提示することになるのではないかと、僕はワクワクしています。



10. あなたがブラーというバンドを愛してやまない理由、そして、時折彼らに我慢出来なくなる理由、それぞれについて教えて下さい。

その理由は同じです。音楽的な探究心が強く、変わり続けることを実践する稀有なバンドであるにも関わらず、4人のメンバーの関係性の力学によってしかそれが実現できないところです。それが共同体の不思議な強さを示しているように思えて胸を打たれるときもありますし、バンドってやっぱり「そんなこと」に振り回されるしかないのか……と感じるときもあります。

いま、僕の手元には『パークライフ』を出したばかり頃の4人の写真がありますが、不遜な顔で写る4人は20年後も同じメンバーで並んでいると想像していたのだろうか? と思うとしみじみしてしまいます。




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