デヴィッド・ボウイの後継者、グライムスと
映画、小説、ダンス、マンガ、アニメを巡る
スーパーナード・ガールズ・トーク。前編
●今日は『ベルサイユのばら』(*8)のマンガも持ってきたんです。だいたいの日本の女性は、これでマリー・アントワネットについて学ぶんですけど(笑)。
「あ、これね! 聞いたことある。読んだことはないんだけど。タンブラーで超人気なんだ。すごいひらひらなのは知ってる(笑)」
*8 『ベルサイユのばら』は池田理代子による81年のマンガ。フランス革命時の史実をもとにしたフィクションで、男装の麗人オスカルが主人公。
●さっきのジェンダー・ベンダーのところでも見せようと思ったんだけど、これってマンガだけじゃなくて、タカラヅカっていう女性だけのミュージカルでも有名なの。男役もみんな女の人が演じてて。ほら、こんな感じ(と、宝塚歌劇団の写真を見せる)。
「クール! メイクとヘアがすごくいいね。おもしろーい」
●彼女たちが演じてるのは、ある意味、理想の男性だから、女性ファンがかえって熱狂的になれるんだと思う。本物の男性より。
「なるほどね」
●(田中)それって現実を拒否してるってこと?
「現実の男性を?」
●現実逃避ではあると思うけど。ファンタジーの中に現実の自分とか恋愛、もっと言えば、現実の夫とか彼氏とかがいないほうがむしろハマれるでしょ?
「きゃははは!」
●(田中)でも、そういう流れってあるのかな? 例えば、ケイティ・ペリーなんてさ、もはや男のオーディエンスには訴えかけるつもりは毛頭ないっていうか、女子に向けてのみ語りかけようとしてるところがあるでしょ?
「うん」
●彼女ってセクシーだけど、男性に向けてのお色気じゃないしね。
「それこそマンガっぽいんだよね。極端で」
●自分のオーディエンスに関して、そんな風に考えたことってある?
「観客が男か女か、ってことはあんまり考えないけど。ただヴィジュアルに関しては、性的なものにはしないようにしてる。すごく美しいものだとしても、おっぱいばーんと見せたりはしないし(笑)。それっていまのカルチャーの興味深い一面だと思うんだけど、ファッション的なものでも、必ずしも男性に性的にアピールするようには作られてないものが多いんじゃないかな。むしろ男性の気を削ぐようなものだったり。いまのポップ・スターもそうだと思う。うちのおじいちゃんがよく言うのよ、『ビヨンセは強すぎる!』って。自立しすぎてるんですって。でもクールでしょ? 彼女ってすごくきれいだけど、アピールするのはほとんど女性に対してで。男の人ってビヨンセにはビビっちゃうのかも」
●日本にはそういうタイプのポップ・スターってまだあんまりいないけど、例えば女子サッカー選手とか、女性アスリートには似たような反応をしてるかも。
「ムキムキすぎる、とか言うんでしょ? でも私もいまもっとムキムキになろうとしてるんだ。ジムでウェイトやってて、筋肉つけようと思ってるの(笑)」
●じゃあ、ヴィデオ“キル・V・メイム”のインスピレーションは?
●私がすぐに連想したのは、『マッド・マックス』からの『タンク・ガール』とか、『ハンガー・ゲーム』、『クロウ』、『ブレイド』(*9)、それにスリップノットも。
「あのマスクしてる男ね、うん、あれはスリップノット(笑)」
*9 『マッド・マックス』と『タンク・ガール』は文明が壊滅した世界を舞台にした90年代の映画。『タンク・ガール』はコミックを原作とする。『ハンガー・ゲーム』は2010年代世界中で大ヒットしながらも日本ではイマイチだったヤングアダルト小説/映画シリーズ。弓矢が得意な少女カットニスが主人公。『ブレイド』、『クロウ』は90年代のゴスなコミック/映画で、98年の映画『ブレイド』にはヴァンパイアたちが地下のクラブで血のシャワーを浴びる場面がある。
「ね、『ランナウェイズ』(*10)って読んだことある? ブライアン・K・ヴォーンのコミックなんだけど。すっごいグレイトなんだ。スーパーヴィランを親に持つキッズが、スーパーヴィランになるのが嫌で家出してきたから、ランナウェイズなの」
*10 『ランナウェイズ』は2003年にスタートしたグラフィック・ノヴェル。クリエイターはブライアン・K・ヴォーンとエイドリアン・アルフォナ。
「私、キッズが『俺たちヴィランになりたいぜ!』っていう映画とかヴィデオを作ったらクールだと思って。みんなスーパーバッドで武器とか持って『イェーイ!』ってね(笑)。みんな15歳くらいで、でもスーパーパワーがあって……あのヴィデオではちょっと逸脱しちゃったんだけど。で、結局、勿論『ブレイド』も入ってるし、『エイリアン』(*11)もあるでしょ? 『AKIRA』は当然あるし」
*11 79年のリドリー・スコット監督作『エイリアン』に始まるシリーズ。続編はジェームズ・キャメロン、デヴィッド・フィンチャー、ジャン・ピエール・ジュネが監督を務めた。現在前日譚『プロメテウス』(2012)の続編企画をリドリー・スコットが進行中。
●(田中)アメコミで好きなヴィランって言うと?
「当然、ハーレイ・クインとジョーカー(*12)。でも、あの二人はみんな好きだからな」
*12 『スパイダーマン』シリーズでのスーパーヴィランがジョーカーであり、精神科医ハーレイはジョーカーを愛するあまり自らヴィランとなる女性。ちなみに二人が登場する実写映画『スーサイド・スクワッド』は2016年9月日本公開予定。
「やっぱりマグニート(*13)かな。彼はほんとはヴィランじゃないと思う。マグニートはいい人だって気がするの。だって、マグニートの主張には賛成だから。ただ、こっちがみんなを説得できるとは思わないし、自分たちアウトサイダーの世界を作るしかないけど」
*13 マグニートはマーベルのコミック『X-メン』シリーズの主要キャラ。突然変異によるミュータントのテロリスト集団の長で、それに対抗するのがプロフェッサーX率いるX-メン。ポール・マッカートニーもこのキャラクターのファンで、ウィングス時代に曲を作っている。ミュータントは社会で迫害されるマイノリティの象徴と言われるが、ブライアン・シンガーが監督した映画シリーズではLBGT的な色合いが強められた。最新作『X-MEN:アポカリプス』は2016年8月日本公開予定。
●(田中)でも、マグニートの子供に生まれたりしたら、大変だよね。俺は絶対に嫌だ。
「彼、双子がいるのよね。どうして?」
●(田中)だって、彼ほど善悪という価値観を混乱させる存在はいないでしょ? 彼の子供として育ったりしたか、全体にアイデンティティが混乱しちゃう。他人の親だったら最高だけど。
「そうかも(笑)。マグニートって問題だらけのキャラクターだからこそ、興味深くて。実際、『X-メン』のキャラクターはその理由でみんな興味深いし。白黒はっきりしてなくて、善対悪じゃないのよね。『X-メン』って興味深いって点では一番のコミックだと思う。理論的にはプロフェッサーXもマグニートも両方正しいけど、現実的には両方間違ってるかもしれない(笑)」
●(田中)でも、その白黒だけじゃない価値観って、あなたの中に価値観としてあると思う?
「勿論」
●よくあなたがタンブラーにあげてる宗教画も、善悪が曖昧なものが多いよね。
「キリスト教のどの宗派でも、悪魔っていう存在自体、異教っていう考え方から来てるの。ケルト文化では山羊とか蛇が崇拝されてたんだけど、キリスト教に征服されると、『それは悪だ!』ってことにされた。悪魔的なものにね。だから実際、悪魔は家母長制的な異教文化にルーツがある。だからこそ面白くて……遡るとドルイド教とかにまで遡れるんだけど、ドルイドってかなりクールだし(笑)」
●で、そういう価値観に最初に触れたのが、マリリン・マンソンとかナイン・インチ・ネイルズみたいなゴス・バンドだったってこと?
「うん、私カトリックの学校に通ってたから。12くらいのときかな、マリリン・マンソンのヴィデオを観て『うわーっ!!!』ってなって(笑)。でも、親は『ダメダメ!』って感じだったから、かえってとりつかれちゃったの。あと私、学校のシェークスピア劇の『真夏の夜の夢』でパックを演じたあと、悪魔的なものを演じるのにもハマって。思うんだけど、キリスト教の価値観って一方では正しいとされるけど、もう一方ではものすごく性差別的だったりする。例えば私の小学校ではゲイは間違っていて、最低なんだって教えられた。だからマリリン・マンソンって私にとってはほとんど、キリスト教や両親、自分の育ってきた環境に疑問を持つことと一緒になってるのよ」
●あなた自身の音楽、もしくはファッションやステージでのあり方でも、そうした疑問を投げかけてるところはある?
「私っていつもスーパーヴィランのふりっていうか、そう振る舞うのが好きなの(笑)。ヴィデオでもつねに、コミックの悪役を演じてるつもりだし。そういうキャラはなんでそんなに悪いんだろう、子どもの頃に何があったんだろう――って考えるのが好きだから。正義のキャラクターよりずっと面白いと思うし、悪役のほうが複雑で。本でも映画でも、ほとんどの作品はヒーローじゃなく、ヴィランについてでしょ?」
●じゃあ最後に。キリスト教以前の価値観とか、ヴィランにも関わってくるかもしれないけど、『ゲーム・オブ・スローンズ』(*14)の魅力について語ってください。
*14 『ゲーム・オブ・スローンズ』 原作はジョージ・R・R・マーティンの小説『氷と炎の歌』。まだ完結していないが、ドラマは2011年から放送が始まり、現在海外でシーズン6が待機中。七王国の戦いが繰り広げられる物語であり、一般的にはダーク・ファンタジーとして分類される。日本では第四章までDVDリリース中。
●日本では全然人気ないんだよね。
「ほんと? あんなすごいのに! 『ゲーム・オブ・スローンズ』についてなら、いくらでも話せる(笑)。よく『ゲーム・オブ・スローンズ』は『ロード・オブ・ザ・リング』(*15)みたいだって言われるけど、私はむしろ『デューン』だと思うのよね」
*15 『ロード・オブ・ザ・リング』はイギリスのJ・R・R・トールキンによる長編小説『指輪物語』の映画化シリーズ。『指輪物語』は20世紀にもっとも読まれたファンタジー・エピックというだけでなく、ポップ・カルチャーの多方面に影響を与え、60年代アメリカでは老魔法使いのガンダルフを大統領に、というキャンペーンも広がった。映像化は不可能とされていたが、CGの進化とともにピーター・ジャクソン監督が三部作に着手。2001年から2003年にかけて公開された。
「主要キャラだけでも20人はいるから、みんなどこかに共感できるし、物語ではつねに視点が変わりつづける。しかも、わかりやすくて単純なキャラが一人もいなくて! クールなキャラクター(*15)がたくさん出てくるのよね。もしジェンダー・ベンダーが好きだったら、例えばブライエニー。すごく複雑なキャラクターで、ストレートの女性なんだけど超マッチョで。『こんなキャラクター見たことない!』って思った。物語でブッチな女性キャラが出てくると、大抵はレズビアンでしょ? でも彼女には女性らしい面もあって、すごく複雑。アリアもそうだし、マージェリーの兄のロラス・タイレルはゲイだし。私、ティリオンは大好きなんだけど、彼はいっつも娼館にいるでしょ? 『また?』ってなっちゃう(笑)。一人ひとり、どのキャラも一筋縄じゃなくて、さっき言ったみたいにどっちも正しくて、どっちも間違ってるような状況がずっと続くの。その意味ではファンタジーを超えてると思うな」
●現実ってこと?
「うん。現実とのパラレルが多いっていうか、普段ニュースを見てても、『どうしてこんな人が権力を持ってるんだ』って思ったりするでしょ? すごく薄っぺらで。結局、あのドラマはキャラクターの素晴らしさに尽きるんじゃないかな。だからこそ大勢の人を惹きつけて、見逃せないものになってる。勿論、ストーリーもすごいんだけど。しかも、グレイトなヴィランも大勢出てくる。ジョフリーもすごい悪役だし、シオンを拷問する男も強烈なヴィランね! ものすごく残酷で。みんな、『ゲーム・オブ・スローンズ』は見るべき! ファンタジー・エピックとしてグレイトなだけじゃなくて、すごく現代的なファンタジー・エピックだと思う。『ハリー・ポッター』とか『ロード・オブ・ザ・リング』に並ぶ、唯一の作品だと思うな」
*15 『ゲーム・オブ・スローンズ』のキャラクター ブライエニーは女戦士、スターク家の次女アリアは男に扮している。ラニスター家のティリオンは小人、ラニスター家の世継ぎジョフリーは冷酷な少年王。
デヴィッド・ボウイの後継者、グライムスと
映画、小説、ダンス、マンガ、アニメを巡る
スーパーナード・ガールズ・トーク。前編
21世紀の炎上少女、グライムスのトリセツ。
全世界の年間チャートをかき乱す話題作
『アート・エンジェルズ』はこう聴け!
① by 萩原麻理