SIGN OF THE DAY

「京都インディ・シーンの今」by 岡村詩野
Part.2:インディペンデントなレーベルと
ヴェニュー、作家たちとの穏やかな連携
by SHINO OKAMURA September 24, 2015
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「京都インディ・シーンの今」by 岡村詩野<br />
Part.2:インディペンデントなレーベルと<br />
ヴェニュー、作家たちとの穏やかな連携

>>>他エリアとの連携を強める〈セカンド・ロイヤル〉

一般的な京都インディ・シーンのイメージといったら、Yogee New Wavesと2マン・ツアーをやったり東京でも頻繁にライヴを重ねているHomecomingsや、リーダーの井上陽介がGotchバンドのメンバーとしても活動、11月にその後藤正文のレーベル〈only in dreams〉から新作をリリースすることがアナウンスされたTurntable Films、曽我部恵一のレーベルである〈ローズ〉から作品を出し続け、今やHomecomingsと共にマスコット的に愛されている原田晃行によるHi,how are you? といったバンドたちだろう。

Homecomings / HURTS

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Turntable Films / SOFT LABOR TOUR 2014 at Shangri-la

hi,how are you? / お盆

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彼らは二条のライヴ・ハウス〈nano〉周辺、京都きっての人気レーベル=〈セカンド・ロイヤル〉周辺で力をつけてきた。この〈セカンド・ロイヤル〉が今、力を入れているのが、スプリット・シングル。シャムキャッツとTurntable Filmsとの12インチを皮切りに、北海道のNOT WONKと地元京都のFULL TEENZの7インチと、次々とジャンルやエリアを跨いだ刺激的なネットワークを生み出している。こうした流れの中からは同じく〈セカンド・ロイヤル〉から7インチを発表したばかりのサイケ・ポップなSeuss、結成から10年、まもなくTurntable Filmsの谷健人も参加した作品がリリース予定のSuperfriends、この秋に大阪の〈チマスト・ディスク〉からアルバム・リリース予定の愛すべきジャンクな男女2人組、メシアと人人などが注目株。

FULL TEENZ / Sea Breeze

Seuss / Not Well

メシアと人人 / ホームセンター


また昨今の新たな動きとしては、この〈セカンド・ロイヤル〉と、〈生き埋めレコーズ〉――FULL TEENZやand summer club、littlekids(ドラムの岸田洋弥は前編で紹介したTHE COINTREAUSのメンバーでもある)などを送り出すレーベル――、〈nano〉や〈GROWLY〉といったライヴ・ハウス周辺がさらなるネットワークを強め、東京だけではなく、各地のインディ・シーンを繋ぐ役割を担いつつある。

そこでもう一つ、ここで紹介したいのが、これから先の新たなシーンを担っていくだろう地下鉄丸太町駅近くにあるライヴ・ハウス、〈ネガポジ〉界隈だ。


>>>新旧の異端児たちの寄り合い場所、〈ネガポジ〉

前編でも紹介した本日休演のホームグラウンドもこの〈ネガポジ〉。周辺が住宅街ということもあり土日以外はアコースティック系アーティストしか出演できない不自由さがあるものの、その分、平日はノー・チャージで開放している懐の大きなハコ。今年初のアルバム『フラッシング・マジック』をneco眠るの森雄大、オシリペンペンズの石井モタコらによる大阪のレーベル=〈こんがりおんがく〉からリリースしたムーズムズのメンバーもここのステージにソロとして立つことが多い。ポップでアイロニカル、でもどこにも居場所がないような愛すべき異端児を見つけるには好適なライヴ・ハウスの一つで、常連出演バンドの中では、ギター、ヴォーカルの今成哲夫をリーダーとする風の又サニーが重要バンドだ。

風の又サニー / MANACO MANACO


チューバやヴァイオリンのメンバーも含んでいるためどこか牧歌的な楽団風情が特徴だが、言葉を丁寧に置きにいくように歌う今成のヴォーカルは人間味溢れるもので、その今成の息継ぎまでをちゃんと拾って録音されたアルバム『MANACO MANACO』を聴くと、マヘル・シャラル・ハシュ・バズ、渚にて、あるいは山本精一の羅針盤~Playgroundなどの歌もの特有の「音の気配」に気づかされる。

また、この風の又サニーのパーカッション奏者で、リーダーの今成とはアナップル(リーダーだった林拓は現在ソロとしても活動)というバンド時代から行動を共にしていたシャラポア野口は現在の京都きっての風雲児。かつての豊田道倫や故・加地等、あるいは佐伯誠之助さながらに、自ら小説も発表する豊かなボキャブラリーを生かし、無尽蔵に言葉が溢れ出てくる様子をアコギに合わせて歌にしていくユーモラスなパフォーマンスは、ひとたび耳にしたら二度と忘れないアクの強いもの。

その〈ネガポジ〉の若き店長でありながら、エンペラーめだか名義で弾き語りライヴもする有本秀右によるトリオ、GROUPエンペラーめだかも長期的に成長を見守りたいバンド。

GROUPエンペラーめだか / 途中道


同じく〈ネガポジ〉に定期的に出演するシンガー・ソングライターの尾島隆英も参加した1st『夢みるエンパイア』は、フォーク、ファンク、パンク、エレクトロニカなどの要素を一切整理させないまま、もはや後に引けなくなってしまったような危うさが魅力。

そして、こうした京都のディープな人脈すべての交差点が、この〈ネガポジ〉でブッキングとPAを担当する江添恵介だ。それまでにもいくつものバンドを経験してきた江添は、昨年、「全員がソングライター」というコンセプトのもと、おのしほう、西村中毒、麻生達也と共に渚のベートーベンズを結成。本日休演の岩出拓十郎も参加した1st『フルーツパーラーミュージック』は、ポップ・フリークスを自認する4人の引き出しが全開したような1枚。アレンジも曲調もバラバラだが、その華やかなヴァリエーションが奇跡的な個性となっている。

渚のベートーベンズ / フルーツパーラーミュージック

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江添は風の又サニーやGROUPエンペラーめだかの作品で録音やミックスを担当するなどこの界隈ではスタジオ・エンジニアとしても尽力。〈ネガポジ〉自体は残念ながら現在の場所での営業が今年いっぱいと発表されたが、この場所を慕い、出演を希望する若手は増える一方で、わけても、自己愛の強さを捻くれたメロディやストレンジな歌詞に込めたギリシャラブのような新たな異才も輩出。来年以降、別天地での再出発のアナウンスを心待ちにしたい。

勿論、彼ら以外にも、ここ京都のシーンを語る際に外すことの出来ない動きとして、山本精一、長谷川健一、もぐらが一周するまで、キツネの嫁入り、数えきれない、魚雷魚などが定期的に出演、土着的だが革新的でソフィスティケイトされた……いう意味で最も京都の伝統的な匂いを受け継ぐ木屋町のライヴ・ハウス〈Urbanguild〉周辺も新シーズンに入って活性化してきているので、また機会があれば紹介したい。

京大西部講堂の数々の武勇伝を見るまでもなく歴史的に改革のスピリットを携え、一方で伝統に対する保守もまた孕む京都という町は、世界規模で見ても観光産業面の大きな役割を担っているにも関わらず、今なお資本が大きく介在する音楽ビジネス、メディアに侵蝕されていない希有な土地だ。勿論、そこが外に伝わりにくく、ともすれば外部に閉鎖的とも思わせてしまうウィークポイントでもあるだろう。だが、純潔なまま濃度の高い音楽家が次々と誕生するこの奇跡に魅せられた筆者は、今夜も自転車にまたがり音の鳴る現場を求めて密やかに徘徊するのだ。何かがそこで蠢いているはずだ、と。




「京都インディ・シーンの今」by 岡村詩野
Part.1:2000年代初頭のブルックリンを
思わせる学生音楽家たちが蠢く街、京都


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