SIGN OF THE DAY

「京都インディ・シーンの今」by 岡村詩野
Part.1:2000年代初頭のブルックリンを
思わせる学生音楽家たちが蠢く街、京都
by SHINO OKAMURA September 24, 2015
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「京都インディ・シーンの今」by 岡村詩野<br />
Part.1:2000年代初頭のブルックリンを<br />
思わせる学生音楽家たちが蠢く街、京都

>>>徒歩と自転車で徘徊する生活の中に潜む音の気配

京都に拠点を移して2年が過ぎた。今も仕事柄、月に2度のペースで東京に滞在しているし、誕生から小学校の途中まで東京だったこともあり、町としての愛着はその後高校出るまでを過ごした京都への思いとほとんど変わることなく、次に再びあの大都会に暮らすなら神田か浅草あたりがいいなあ、などと夢想したりもするわけで、まあ、要するには、実際に東男と京女を両親に持ち、成人するまでのほぼ10年弱ずつくらいの時間をそれぞれの地で生活してきた筆者は、東京と京都のハーフを地で行くが如く、東西の文化の間をさまよい、実際に行ったり来たりするような毎日を、今、京都に軸足を置きながらもやっぱり継続させてしまっている、というわけである。

しかしながら、京都に越してからというもの、一つ、日常で大きく変化した点がある。東京に暮らしていた頃は電車でわずか20分程度の渋谷に行くのも億劫になっていたというのに、今は仕事でもなんでもないのにやたらと気軽にライヴや美術展を見に行ったり古本屋に出向くようになった。京都は大学生が多いこともあり、町のサイズのわりに飲食店は勿論のこと、ライヴ・ハウスやCDショップ、古本屋やギャラリーなどが多い。自転車にヒョイとまたがれば10、15分程度、場合によっては徒歩数分でそれらの場所に簡単に行けてしまうことから、朝起きたままの格好でタワレコに駆け込むこともあるし、近くに来ているんだけれど、と知人から連絡があれば、じゃあそこらでお茶でも飲みますか……と仕事を中断させるいい口実に出かけてしまう。帰りの足を心配する必要もないことから深夜12時や1時に呼び出されることもしばしばで、東京にいる時より夜間の外出も遥かに増えてしまった。

だが、読書の時間が主に移動中の新幹線の中や就寝前に限られてしまうのが悩みどころではあるものの、かつての出不精だった頃などまるでなかったかのように、こうした暮らしが今や全く苦にならないのだから自分でも始末に負えない。なぜなら、そうやって行く先々で出会った人の多くが、東京で出会うタイプとはまた全く異なる、奇妙かつ豪放、理知的かつ野趣、混沌かつ人なつこい魅力を抱えた音楽家たちだから。昼の顔は大学生だったりアルバイターだったり、そもそも何やっているのかよくわからない人だったりしていても、ステージに立つといくつもの音楽のボキャブラリーが整頓されないまま時に野方図に、時にポップに顔を出す。音楽性は極めて高いのに、そこを意識し過ぎていないばかりか、佇まいそのものは武骨で粗野というのが魅力的だし、例えば登場した頃のcero、シャムキャッツ、スカートらが互いに力を貸し合って高め合っていたように、それら音楽家たちのほとんどが人脈的に繋がっているのも面白い。

音楽を音楽として、まして仕事の現場としてほとんど意識しない日々の自然な暮らしの中に、地続きで刺激的な音楽との出会いが潜んでいることの醍醐味とスリル。筆者が京都にやってきて心から良かったと思えるのは、フェス文化、メディア・プロモーション、CD量販店でのイニシャル枚数、チャート・アクションといった商業的な動向に全く惑わされない、ただただ音楽的芳醇さを讃えた世界基準の音楽家が、さりげなくこうして市中に蠢いている事実を目の当たりにするようになった時だ。それはどこかアニマル・コレクティヴやダーティ・プロジェクターズなどブルックリン界隈のバンドの持つ洗練や研究熱心さにも似ている。しかも、彼ら京都の音楽家たちのアクティヴィティには、それらブルックリン勢の初期段階同様、驚くほど邪念がない。そこが面白い。

それを真っ先に実感させてくれたのが、昨年の1stアルバム『本日休演』に続く2nd『けむをまけ』が秋には届けられる予定の5人組、本日休演である。そこで、彼らを含めて、今、京都インディ・シーンが注目に値することの証明たるバンドを本稿では2回に渡っていくつか紹介したいと思う。


>>>京都の町の匂いを変えた大学生バンド、本日休演

メンバー全員、京都大学の現役学生である本日休演。その見た目は確かに学生っぽい初々しさを残しているが、彼らの楽曲制作への集中力、音楽的なリファレンスへの理解力と咀嚼力、演奏面でのアイデアの抽出力はずば抜けて高く、加えて練習熱心であることから、ライヴのたびにバンドとしての表現力が確実に増している。メンバー5人中3人(岩出拓十郎、佐藤拓朗、埜口トシヒロ)がソングライターでリード・ヴォーカルも取る、しかもそれぞれのメンバーが異なる趣向を持っていることもこのバンドの武器。そのことが音楽性に奥行きとヴァリエーションを与えている。フォーク、サイケ、ソウル、ちんどん、レゲエ、ノイズ、クラウト・ロック、ヒップホップなど様々な要素を混在させつつも、最終的にポップ・ミュージックの枠組みの中に落とし込んでいく感覚は、同じく京都出身であるローザ・ルクセンブルグ~ボ・ガンボス(どんととDr.KyOnは京大出身)やくるりの登場時を思い出させるもの。わけても中心人物である岩出拓十郎(Vo、G)の志向性には、土着性とモダニズムを混淆させようとする意識が垣間見られる。灰野敬二、エヴァン・パーカー、遠藤賢司、友部正人といった蓄積に加え、昨今の新曲ではアフリカ、中近東、東南アジアの音楽の要素も貪欲に取り込みつつある。

本日休演 / アラブのクエスチョン


その岩出が書いた“アラブのクエスチョン”(今春7インチ・シングルでリリース)について、筆者は、7月にこのサイトのプレイリストのコーナーで、「ジョン・ケイルのいた頃のヴェルヴェット・アンダーグラウンドがモロッコのグナワをやってみたらこんな感じになったのではないか」と評したが、最近のライヴでは実際にモロッコの伝統楽器であるカルカベを用いるなど、ステージごとに急速な進化を遂げている。しかしながら、ルー・リードが最後までそうだったように、いかに冒険をしてもロックンロールであり続けることのいたいけな愚かしさ、甘いロマンティシズムに寄り添えるのがこの5人組の魅力であり、京都のバンドらしさを感じさせるところ。京都にいながらにして、坂本慎太郎、くるりの牙城を崩せるのは彼らしかいない、と確信する。

さて、この本日休演は京大軽音という名門サークルから誕生したバンドだが、この界隈には他にも個性豊かな連中が多く活動しており、中では、本日休演の名付け親で、そもそもが初期メンバー(リーダー?)でもあった河村勇之介(Vo、Key)を中心とするTHE COINTREAUS(ザ・コワントローズ)がユニークな存在だ。

THE COINTREAUS / 波の音


本日休演の岩出もベーシストとしてサポートする彼らは、突飛なコード進行を生かした奇妙な構成、Jポップもかくや……のキャッチーなメロディ、そこに印象的なリフやフレーズを重ねた個性的なソングライティングが特徴。気品と野性味とを備えた河村の鍵盤を軸に、気怠くも愛らしい女性ヴォーカル、徹底して甘さを排除したアシッド・サイケ・スタイルなギター、イビツなグルーヴを重視したドラム……と各パートは個性派揃いだが、人なつこさのあるカジュアルな作風を意識しているところが何よりいい。例えるなら、ロバート・ワイアットとケヴィン・エアーズが、〈ZEレコード〉のリジー・メルシエ・デクルーとクリスティーナに曲を書きおろしたような趣。来年以降にリリースされる来たるべき1stアルバムに期待を寄せたい。

Robert Wyatt / Sea Song

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また、本日休演やそのTHE COINTREAUSとも近いところにいるSupersize meは、フリー・フォームでドローン・スタイルの演奏が静かな話題を集めている。音の輪郭を意識的にぼやかし、メランコリックな旋律と優美な風合いを前面に出しながら、聴き手を空想体験へと導くような楽曲は時にグレゴリオ聖歌を連想させるほどに気高く清潔感がある。

Superseize me / Mother


カセット・リリースされた『Immanence』からは、サン・ラ、テリー・ライリー、ノエル・アクショテ、ジュリアナ・バーウィック、ウィリアム・バシンスキなどからの刺激を時間をかけて丹念に昇華したプロセスを聴き取ることができる。

San Ra / Space is the Place

William Basins / Watermusic II


〈ボロフェスタ〉や〈いつまでも世界は…〉といったフェス、イヴェントが軸になって活性化している京都のインディ周辺ではいまだに隠れた伏兵状態だが、むしろその理由とも言えるロック・バンド然としたところがないのが魅力。トイポップ的なswimm、即興系のN.O.Nなどで活動するチェロ奏者の中川裕貴、そのN.O.Nなどで活動するフリー・セッション系ギタリストの長野雅貴(彼自身は京都在住ではないが……)、あるいは既に知名度は全国区となっている若手電子音楽家のMadeggといったあたりとシンクロしていくと活動の場は一気に広がるだろう。

Madegg / Live at LIVING ROOM 1

中川裕貴×sonsen gocha bacco×genseiichi / live at urbanguild

長野雅貴 & kazuto yokokura / live at nuthings Vol,1


学業に勤しみながら、その刺激と余暇をそれ以外のフィールドに活かすことが出来る学生が、街に活気を与えているのがそもそも京都という町の特徴。2010年代以降、特にインディ音楽においては、新たな聖地たる確固とした地盤が熟成されてきた。京都で活動しているからこそ輝いているアーティストは多い。現行のシーンの熟成度、その視野の広さを見るにつけ、京都という土地の個性が音楽制作にもたらす特殊性は計り知れないと筆者は痛感している。




「京都インディ・シーンの今」by 岡村詩野
Part.2:インディペンデントなレーベルと
ヴェニュー、作家たちとの穏やかな連携


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