【Lapsley interview part.1】女王アデルと
ジェイムス・ブレイクの溝を埋める19歳、
ラプスリーが「2016年シーンを滅多斬り!」
●あなたは世間から「ネクスト・アデル」と呼ばれて大きな期待がかけられていますが、同じ〈XL〉所属というだけでそう言われることは、正直なところ、心外ではありませんか?
「私が言ったんじゃないし(笑)。それに私の音楽を知ってる人は、全然違うってわかってるでしょ。あれだけいろんなことを達成した人に比べられること自体は光栄だから、別に気にならないけど……でもアデルにはカントリーのバックグラウンドがあって、彼女はシンガーとしての訓練も受けてて、私にはエレクトロニックのバックグラウンドがある。よく思うのは、もし私が女じゃなくて男だったら、同じグループにも入れられないんじゃないか、ってこと。私自身よくシンガーとして扱われるんだけど、男だったらそうじゃないんじゃないか、って気がするの。『ネクスト・アデル』とは絶対に言われないだろうし。例えば……」
●「ネクスト・ジェイムス・ブレイク」とか?
「でもそういうトーン自体受け入れにくいのよね。こういうこと言って、『私はその人とは違う』とか、『私のほうがいい』みたいに、気取ってるって取られたくはないんだけど……ただただ、音楽的な視点から言って別物だから。当然でしょ?」
●ええ。じゃあ、アーティストとしてのスタンスという意味で、自分は誰と近いと言われるのが一番しっくりときますか?
「具体的に誰と言うより、自分の音楽を作曲したり、プロデュースしたり、もしくはその両方をやってるアーティスト。メジャーのアーティストって、大抵はソングライターでもプロデューサーでもなく、シンガーだったりするでしょ? それ自体は別に構わないんだけど、私はそうじゃない。私が音楽業界に入った時って、いい大学で勉強できることが決まってたの。だからこそ、『もし音楽に進むなら絶対自分のやりたいようにやる』って言ったのよ。お金のためにはやらないし、ものすごく努力して、学業に対する自分のやり方を音楽にも当てはめて、できればそこで成功したい、って思った。きちんと生活出来るだけのお金があればそれで十分だったし」
●デビューに際してレーベルの争奪戦があったと聞いていますが、そういう考え方だからこそ、メジャーじゃなくてインディと契約したところもある?
「そう、私はインディペンデントなレーベルと契約したから、シングルをヒットさせろっていうプレッシャーが少ないし、むしろクオリティの高い音楽を作れっていうプレッシャーがある。レーベル自体が長期のキャリア、長く聴いてくれるファンを求めてるの。それは私のパーソナリティに完全に合ってる。だからそう、私は自分をサポートしてくれるチームが周りにいてほしいし、ソングライターとして、プロデューサーとして成長するのを助けてくれる人たちがいてほしい。私の代わりにやってくれる人たちじゃなくてね」
●プロデューサーであるということは、あなたの重要なアイデンティティのひとつということですよね。
「うん。私にとってはプロデュースするのがすごく楽しいから、しない理由がないって感じ。もし私がレコード契約を結んでなくて、ギャラをもらってなくても、それでも自分のために曲を作ってると思う。その時だって、他の人のためじゃなくて、何よりも自分自身のために作ってるだろうし。それと同じ意味で、誰か他のアーティストがやってることが嘘だって知ると……ツイッターを書いてるのが本人じゃなくて、レーベルが書いてる、とかね。なんか悲しくなるの。私の音楽を聴いて、ファンになってくれる人には、本当の私を見てほしいから。何かの『ヴァージョン』の私じゃなくてね」
●なるほど。
「ずっと思ってたのは……優秀なプロデューサーに手掛けてもらったらすごくいい曲になるかもしれないけど、それはもう私じゃない。他の人の仕事になるでしょ? そしたらもう、元々なんで自分がこれをやってるのか、ってところから考え直さなきゃいけなくなる。自分のためにやってるの? それともレーベルのため? 他の人のため? 私にとっては、もし自分のためにやってるなら、プロデューサーとして自分が努力してなきゃダメなのよ」
●ただ、『ロング・ウェイ・ホーム』ではThe xxのエンジニアを務めるロディ・マクドナルドを共同プロデューサーに迎えていたり、複数のコラボレーターが参加していますよね? 勿論、それがすごくいい結果に繋がっていると思いますけど。
「誰かにプロデュースしてもらうことと、共同プロデュースには違いがあると思ってる。他の人と一緒にやることで自分のスキルを向上させられるから。先生と生徒みたいなものね」
●なるほど。自分でプロデュースを始める前から、曲自体は書いてたんですか?
「ちょっとね。でも自由な時間があんまりなくて。スポーツもいろいろやってたし、勉強も真剣にやってたし……私、ほとんどの時間は勉強してたから(笑)。まあ音楽は時々やってみて、興味があることもわかってたと思うんだけど、本格的に始めたのは3年前。自分が使える時間を全部使って、音楽を作りはじめたの」
●ただ、クラブには14歳の頃から通ってたんですよね? 当時のUKクラブ・シーンのどういったところがエキサイティングだと感じていたのか、教えて下さい。
「自分としては、それまで勉強してきた音楽と真逆な音楽にすごく惹かれて。私が学んでたクラシック音楽は厳格で、ある意味すごく保守的だった。でもクラブに行くとものすごく自由だったの。それに、モダンな楽器で作られてる音楽にも惹かれた。シンセサイザーやドラムマシンで作られていて、音楽にすごくスペースがあって、ミニマリズムがあって。音楽の先生たちが教えてくれなかったことが本当にたくさんあったのよ。だから私にとっては、ああいう音楽を見つけることがほとんど反抗みたいに感じられたっていうか」
●特に好きだったDJやプロデューサーというと?
「ジョイ・オービソンは何度も見に行ったな。フォー・テットも。ボディカとかベン・クロックみたいな人たちも見たし、もっとテクノ寄りの人たちも。カリブーとかジェイムス・ブレイクのライヴも見たし」
●彼らの音楽が自分のプロデュースに影響を与えているところはありますか?
「勿論! 私は子どもの頃からずっと、無意識のうちにいろんな影響を受けてきたと思う。両親が聴いてた音楽から勉強した音楽、それに家で熱心に聴いてた音楽まで。私が聴いてたのって、ジェイムス・ブレイクからジョニ・ミッチェルまで、いろんな音楽だったんだけど」
●でも、そのようにいろんな音楽に影響を受けている中で、あなたが自分にとって一番の音楽的ホームだと思えるジャンルは何ですか?
「私はいわゆるサウンドクラウド世代の一人だと思う。私自身サウンドクラウドを通じて発見されたし、基本的にテクノロジーの進化がなければ今の私はなかった。同年代の大勢と同じく、エレクトロニック・アンビエントの世界で自分の音楽をプロデュースしはじめたし。それってUKだけじゃなく、アメリカでもビッグで。だから自分としては、アンビエントで実験的で、エレクトロニックな場所から出てきたと思ってる。でも実際にこのアルバムの曲を書いてた時には、もっとハードなエレクトロニック・ミュージックに興味があったんだけど。でもやっぱり、私にはクラシック音楽も他の音楽も、全部必要なんじゃないかな」
●ラプスリーの音楽性を形成する上で幅広いジャンルからの影響が必須だったとした上で、それぞれの音楽からどんなポイントで刺激を受けたか、もうちょっと具体的に説明してもらえますか?
「親が教えてくれた音楽からは……ジョニ・ミッチェル、それにフリートウッド・マックのスティーヴィー・ニックス! すごいソングライターよね。だからやっぱり、ソリッドで優れたソングライティングだと思う。最初はそれに感化されたんじゃないかな。だから影響としては、たぶんプロデュースよりも作曲の部分」
「で、プロデュースの部分は私が10代になってから聴いてた音楽の影響が大きい。ジ・アメリカン・ダラーとか、アンビエントにハマってた時期があったから。だからたぶん、私は昔ながらの優れたソングライティングをサウンドスケープやスペースのある、現代のダンス・ミュージックのプロダクションと組み合わせようとしたんだと思う。両極端な二つのものの真ん中にいる感じね」
●じゃあ、リリックとプロダクションのそれぞれで、あなたが理想的だと感じる曲は?
「歌詞ではジョニ・ミッチェルの“ブルー”が大好きなの。色をメタファーにしてるところとか、やっぱり彼女がすごく正直にさらけ出してるところとか。すごくシンプルな曲なんだけど、すごく美しくて」
●1stアルバムの歌詞は自伝的だと聞きましたが、それもやっぱり、自分を正直にさらけ出したかったから?
「勿論。自分が書くことに制約は設けてないけど、私が出す曲は私自身の生活の中で起きたことについてだから」
●じゃあ、プロダクション面で理想的なトラックは?
「どうかな……カニエ・ウェストの新作でものすごくクールな曲があるから、それかな。今取り憑かれてるの。『ビューティフル・モーニング~』ってやつ。タイトル、なんだっけ……(と、携帯を見る)。あ、たぶんこれ。“フリースタイル4”(*実際、その歌詞がある曲は“ファーザー・ストレッチ・マイ・ハンズPt.1”)。すっごくよく構成されてると思う。ヴォーカルのプロダクション、ゴスペルの合唱とかも素晴らしいし、アルバム全体が本当にいいプロダクションだと思う」
●あなたが他の女性ポップ・アイコンと安易に較べられたくないと理解した上での質問です。例えばあなたが好きだというリアーナやグライムスも、それぞれ特定の考え方やライフスタイルを持つ人たちのロールモデルになってるところがある。その意味で言うと、あなた自身の音楽はどんな人たちのロールモデルでありたいと思いますか?
「ああ、なるほどね! 例えば私がこの業界に入ったのは、ナードな子たち向けのポップスターになるため、とか?(笑)。どうかなあ……わかんない。だって音楽以外のことで言うと、私って他のアーティスト、他のプロデューサーならやらないようなことをやってるの。ミュージシャンって大抵音楽にとらわれてて、ずっと昔から音楽をやりたいと思ってるし、そのための学校に行ったりするでしょ? 私はその反対だったの」
●というと?
「私は地学が好きで、ウォーキングが好きで、火山が好きで、火山の勉強をしようと思ってた。ヨットと乗馬が好きで、ホッケーではかなり高いレヴェルまで行ったし。私のパーソナリティって、他のミュージシャンとはかなり違うと思うのよね。議論好きだし、ユーモアのセンスもあるし。だから私のファンになってくれる人は、きっと正直さを探してる人なんじゃないかな。パーフェクトじゃない、リアルな人間を求めてる人。ただ、自分自身であろうとしてるような人。私はファッションにも興味があるし、時事問題にも興味があるし、それってクールだと思うの。私はそういう自分を表現したいし……だから、きっと私に似たような人なんじゃないかな」
【Lapsley interview part.1】女王アデルと
ジェイムス・ブレイクの溝を埋める19歳、
ラプスリーが「2016年シーンを滅多斬り!」
通訳:萩原麻理