SIGN OF THE DAY

拡張するインダストリアル。また更新された
ポストパンク。ホラーズ新作『V』は世界が
英国シーンの今を発見する決定打となるか?
by YOSHIHARU KOBAYASHI August 09, 2017
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拡張するインダストリアル。また更新された<br />
ポストパンク。ホラーズ新作『V』は世界が<br />
英国シーンの今を発見する決定打となるか?

やはり今、ロンドンのシーンは10年以上ぶりの熱気に包まれようとしているのでしょうか? ムラ・マサやビッグ・ムーン、ストームジー、チャーリーXCX、ロイル・カーナーといったジャンルを超えた新世代が次々と台頭する中、2000年代末のイースト・ロンドン・シーンの支柱、ホラーズも目の覚めるような新曲を上梓。3年ぶりのカムバック・シングル“マシーン”は、来たる新作『V』への期待を大いに煽る、まさに会心の一曲です。

言うなれば、この曲はストゥージズとナイン・インチ・ネイルズの衝突。2017年の新しいインダストリアル。鈍く光るメタリックなビートの向こう側から、激しくうねるラウドなギター・リフが徐々に姿を現し、ファリス・バドワンの不穏なヴォーカルが重なった瞬間のカタルシスは、あまりにも強烈。

The Horrors / Machine (2017)

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上に貼ったMVのグロテスクかつ近未来的なヴィジュアルも必見ですが、音源にラジオ・エディットが使われているのか、イントロのビートが大幅にカットされています。なので、以下のフル尺ヴァージョンでも是非どうぞ。震えます。

The Horrors / Machine (Official Audio)[2017]

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〈NME〉を始め、〈DIY〉や〈コンシクエンス・オブ・サウンド〉などの英国メディアは、この曲が到着するなり「インダストリアル・バンガー!」と興奮気味に騒ぎ立てましたが、無理もありません。思えばインダストリアルと呼ばれる音楽は、昨今のギター・バンドの世界ではすっかり忘れ去られていたもの。それをホラーズが鮮やかに再定義してみせたとなれば、思わず驚きの声も上げたくなります。

ただ一方で、2010年代におけるインダストリアルには別の文脈もあることを忘れてはならないでしょう。現行のUSヒップホップ/R&Bのひとつの突端に、インダストリアル、そしてポストパンクが大きな刺激を与えているのは間違いありません。

幾つか具体的に見ていきたいと思います。硬質で神経症的なビートを搭載したカニエ・ウェストの怪作『イーザス』(2013年)が、当時インダストリアルと騒がれたのを記憶している人は多いはず。

Kanye West / BLKKK SKKKN HEAD (2013)

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同年に発表された、ポーティスヘッド史上もっともインダストリアル色が濃い“マシーン・ガン”をサンプリングしたウィークエンドの“ビロング・トゥ・ザ・ワールド”(2013年)も、一足早いインダストリアル再評価だったと位置づけられます。

The Weeknd / Belong To The World (2013)

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そして2017年現在、インダストリアルの可能性をもっとも押し広げているのはヴィンス・ステイプルズとダニー・ブラウン。そう言い切ってしまってもいいくらいです。

ポストパンクからデトロイト・テクノまでを丸呑みしたヴィンス・ステイプルズの新作『ビッグ・フィッシュ・セオリー』屈指の名曲“イェー・ライト”は、まさに新時代のインダストリアル。トラックのプロデュースは〈PCミュージック〉のソフィーとフルームですが、ソフィー特有のプラスティックな音の質感と予測不可能な曲展開がキレまくっています。

Vince Staples / Yeah Right Feat. Kendrick Lamar & Kučka (2017)

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ダニー・ブラウンの『アトロシティ・エキシビション』(2016年)も、この文脈において欠かすことが出来ない重要作。こちらは〈ピッチフォーク〉の言葉を借りれば、「インダストリアル、エレクトロニック、ポストパンクのぬかるみを引きずり回す」ような、どこまでもダークで性急でアグレッシヴなアルバムです。

Danny Brown / When It Rain (2016)

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このように、2010年代は尖鋭的なヒップホップ/R&Bアクトたちによって、インダストリアル/ポストパンクは更新され続けています。そして、ホラーズの新曲“マシーン”は、現行のギター・バンドでは唯一、ヴィンス・ステイプルズやダニー・ブラウンの向こうを張る野心的かつ現代的なサウンドを打ち出している、とも言えるのです。つまり、“マシーン”は単に現在のロンドン・シーンの活況を伝えるだけではなく、彼らがグローバルな視野を持って、現行のポップ・シーンに対峙している証拠でもあるということ。

ただもちろん、『プライマリー・カラーズ』(2009年)がポストパンクとシューゲイザーとクラウトロックを接合していたように、『V』もインダストリアル一色というわけではないはず。むしろ、インダストリアルは彼らの新しい姿の一側面に過ぎない――ということは、“マシーン”に続いてアルバムから公開された2つ目の新曲“サムシング・トゥ・リメンバー・ミー・バイ”を聴けば明らかです。

The Horrors / Something To Remember Me By (2017)

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ややトランシーにも感じられる軽やかなダンス・フィールを持ったこの曲は、切なくも爽やかな、ホラーズ史上1、2を争うポップ・ソング。どこまでもダークでヘヴィな“マシーン”とは見事なまでに対照的で、アルバムの振れ幅の広さを予感させます。

そして、この素晴らしい新曲2曲を聴いて痛感させられるのは、ニュー・アルバムにおけるプロデューサーの存在の大きさです。3rd『スカイング』(2011年)以降は基本的にセルフ・プロデュースを続けてきたホラーズですが、今回はポール・エプワースが全面プロデュース。元々はインディ畑出身ながら、今やアデルやU2も手掛けるまでに成長した敏腕プロデューサーのインプットが入ったことで、あらゆる面で完成度が格段に高まり、それぞれの曲のヴィジョンがしっかりとピントが合った状態で具現化されたという手応えがあります。

最高傑作と名高い『プライマリー・カラーズ』がジェフ・バーロウやクリス・カニンガムとのケミストリーの結果として生み落とされたように、『V』ではポール・エプワースとの協力体制だからこそ生まれる新たなホラーズ像が提示されるのではないか。これらの新曲を聴いて、そんな期待を寄せたくなるのもおかしくないでしょう。

ホラーズの新曲は、再燃するイギリスの音楽シーンを更に勢いづかせるような会心の出来。現行のUSヒップホップ/R&Bのひとつの突端とも緩やかに共振している、極めて現代的なサウンド。そして来たる新作『V』は、ポール・エプワースという強力なパートナーを得たことで、『プライマリー・カラーズ』以来の傑作になる可能性も秘めている。と思うのですが、その答えは果たして?


イースト・ロンドン今昔物語。部外者であり
当事者でもあるボー・ニンゲンのタイゲンが
語る「ホラーズと英国シーンの10年」:前編

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