SIGN OF THE DAY

変幻自在のブリティッシュ万華鏡サウンドを
鳴らす米国の10代、レモン・ツイッグスを
もっと楽しむための歴史的名盤7選。前編
by YOSHIHARU KOBAYASHI November 25, 2016
変幻自在のブリティッシュ万華鏡サウンドを<br />
鳴らす米国の10代、レモン・ツイッグスを<br />
もっと楽しむための歴史的名盤7選。前編

ポップ音楽が盛り上がりを見せる時、そこには幾つかのパターンがあります。もっとも多いケースは、言うまでもなく、なにかしらのきっかけで新たなシーンが発見された時。そして、その磁場から突出した才能が登場すると、相互作用的にシーンの盛り上がりは一層大きなものに膨れ上がります。ビートルズとブリティシュ・インヴェイジョン、ストーン・ローゼズとマッドチェスター、ニルヴァーナとグランジ、ストロークスとロックンロール・リヴァイヴァル、アーケイド・ファイアと00年代USインディは、まさにそういった相互作用で時代を席巻しました。

勿論、現存するシーンとはまったく関係ない場所から、まったく関係ないスタイルとサウンドを持った巨大な才能が発見されるというケースもなくはないです。強いてあげるなら、マッドチェスター全盛期におけるラーズかスウェードくらい。意外とこのパターンは稀なのです。

となれば、目立ったシーンが見当たらない近年のインディ・シーンから、新たなスターが生まれる気配が感じられないのは当然の話。こちらの記事で紹介しているように、2016年はインディの世界からも優れた作品が幾つも生まれていたものの、その背景にシーンやムーヴメントが見えてこないため、決して爆発的な支持を集めるには至っていない。というのが現状です。

シーン不在の時代がゆえに隠れがち。もしや
見過ごしてませんか? 早耳リスナーだけが
聴いている「2016年ロック名盤10選」


ただ、そんな中でも、例外的に大きな注目を浴び始めているのが、NYはロング・アイランドから突如現れた10代の兄弟デュオ、レモン・ツイッグスです。

確かに彼らの出現は大きなインパクトがありました。とても19歳と17歳の二人が作ったとは思えない、ポップ・ミュージック史の偉大な遺産を横断的に取り込んだ変幻自在のサウンド。そこにポップスとしての起爆力を充填するアンセミックなメロディ。そして、その音楽性同様、様々な時代からの参照がある故に、特定の時代と関連付けることが出来ないミステリアスなヴィジュアル。この懐かしくも現代的という両義性が、極めて鮮烈だったのは間違いありません。

The Lemon Twigs / These Words

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The Lemon Twigs / As Long As We're Together

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アメリカの人気TV番組『ザ・トゥナイト・ショー』で地上波デビューした時の反響も大きなものでした。放送を見たゾンビーズが絶賛したのはご愛嬌。番組のハウス・バンドであるザ・ルーツのクエストラヴからも、「本っ当に早くレモン・ツイッグスを世界に見てもらいたいって思ってたんだよ」とお墨付きをもらっていたほど。

The Lemon Twigs / These Words (live on The Tonight Show Starring Jimmy Fallon)

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では、レモン・ツイッグスは、停滞した現在のインディ・シーンにおける救世主なのでしょうか? 実際のところ、彼らはそういった矮小な文脈に押し込めてしまうには、あまりに勿体ないバンドだと言えます。ここでは、その理由を2つの観点から説明してみましょう。

まずひとつ目。特にヒップホップ/R&Bに顕著で、スフィアン・スティーヴンスなどのインディ・ロックにも言えることですが、自信の出自やルーツを掘り下げること、あるいはそれをレペゼンすることは、ポップ音楽の世界において重要な要素であり続けてきました。ただネット・カルチャーが浸透した近年は、それに加え、人種的な出自や地域性に縛られない、表現の歴史全体を横断的に自分のルーツだと捉える潮流があります。例えば、2016年屈指のマスターピースであるフランク・オーシャンの『ブロンド』は、まさにそういった傾向が前景化した現代的作品。

Frank Ocean / Nikes

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取り入れているサウンドの傾向に違いはあれ、レモン・ツイッグスの1st『ドゥ・ハリウッド』も同じ意味でそのような現代性を帯びていると考えられるでしょう。敢えて乱暴に言えば、レモン・ツイッグスは「ポスト・フランク・オーシャン時代」の音楽なのです。

続いてふたつ目。2016年のポップ・ミュージックにおける最先端であるアメリカのヒップホップ/R&Bには、積極的にイギリスなどヨーロッパの(白人)音楽を参照するというモードが見られます。勿論これまでも、イギリスがアメリカを参照し、そこで生まれたイギリスの新しい音楽をアメリカが参照する――という循環は繰り返されてきました。ただ、ここ10年、20年という単位で考えた時、これはあまり見られなかった新しい傾向だと言って間違いありません。

幾つか具体例を挙げてみましょう。最新作でビートルズやエリオット・スミスを取り入れたフランク・オーシャンもそうですが、ジョイ・ディヴィジョンなど80年代ポストパンクを参照したダニー・ブラウンに注目が集まったこと、そしてトラップ・シーンから登場した若きスター、レイ・シュリマーの全米No.1ヒットのタイトルが“ブラック・ビートルズ”だというのも象徴的。

Rae Sremmurd / Black Beatles ft. Gucci Mane

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勿論、ウィークエンドが新作『スターボーイ』でダフト・パンクを召還していることや、ジェイムス・ブレイクがビヨンセの最新作でフックアップされたことにも、その傾向は表れています。

The Weeknd / Starboy ft. Daft Punk

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そして、レモン・ツイッグスの『ドゥ・ハリウッド』もまた、スパークスやニルソンといったイギリス志向の強いアメリカ人アーティストの姿がダブるような、NYのティーネイジャーによるブリティッシュネス全開のサウンド。しかし、2016年において、それは決して「突然変異的」なことではないのです。

これらふたつの観点から見てもわかる通り、レモン・ツイッグスの面白さはインディという文脈だけでは捉えきれません。まさに彼らは、フランク・オーシャンやレイ・シュリマーが活躍する2016年のポップ・シーンに生まれるべくして生まれたモダンなバンドだと言えるでしょう。

ただ、先ほどから書いているように、そのサウンドはポップの歴史を横断的に参照して生まれたもの。そのルーツは多岐に渡っています。そこで、次のページでは、レモン・ツイッグスをより深く理解するために、『ドゥ・ハリウッド』を形作ったであろう歴史的名盤7枚を紹介していきたいと思います。これを読めば、『ドゥ・ハリウッド』の摩訶不思議な魅力をもっと楽しめるはず。それでは早速、次へと進んでみて下さい。



変幻自在のブリティッシュ万華鏡サウンドを
鳴らす米国の10代、レモン・ツイッグスを
もっと楽しむための歴史的名盤7選。後編


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