SIGN OF THE DAY

アルバム4作品すべてがまったく違う!
なのに、どれもやっぱりトロ・イ・モア。
その軌跡と変化が手に取るように見える
「読んで聴くトロ・イ・モアの36曲」part.1
by SOICHIRO TANAKA
YOSHIHARU KOBAYASHI
April 16, 2015
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アルバム4作品すべてがまったく違う!<br />
なのに、どれもやっぱりトロ・イ・モア。<br />
その軌跡と変化が手に取るように見える<br />
「読んで聴くトロ・イ・モアの36曲」part.1

トロ・イ・モアの嗅覚の鋭さには信頼を置いている。という人は、結構多いんじゃないでしょうか? デビューから6年。ほぼ年一枚という驚くほどのハイペースでアルバムを送り出してきたトロ・イ・モアことチャズ・バンディックですが、どの作品も見事に違う。毎回、確実に新しいチャレンジが個々のアルバムには込められている。でも、それだけじゃなくて、どのアルバムもその時々の最先端の潮流と合致していたり、時には半歩先駆けていたりするところがなんともたまらないわけです。いや~、トロ・イ・モア、さすがだな! と。

しかも、彼の場合は、必死に時代の先読みゲームをしている様子は皆無。ここもポイントです。自分の直観のおもむくまま、ナチュラルに辿り着いた先が、たまたま時代のムードを的確に捉えているサウンドだった。と感じさせるような肩の力の抜け具合がまた小粋なわけで。音楽的に見ても、アルバムごとにガラリと変わっているとは言え、スタイリッシュでありつつチャーミングっていう印象を崩さないのが、これまたお見事。ほんと、トロ・イ・モア、さすがだな! と感心させられますよ。

おそらく、最新作の『ホワット・フォー?』は、これまででもっとも変化があり、驚きのあるアルバムだと言えるでしょう。つまり、これまでのトロ・イ・モアとはもっとも違っている作品であると同時に、むしろだからこそ、「トロ・イ・モアらしさ」全開の作品とも言えるわけです。

何を言ってるのか、イマイチわからない? であれば、是非、この記事を読んで、それぞれのトラックを聴いてみて欲しい。これまでのディスコグラフィを改めて振り返ってみることで、その「トロ・イ・モアらしさ」がきっと感じられるはずです。

そこで今回は、アルバムごとに順を追って、トロ・イ・モアの変遷を辿ってみることにしました。公式にアップされている音源はほぼ網羅してある。時代を追って貼り付けていますから、かなり便利。最新作については勿論ですが、トロ・イ・モアというアーティストを知りたければ、まずはここをチェックしておけばバッチリ! な内容。と自ら太鼓判を押しておきます。

それでは早速、彼の目まぐるしいキャリアを振り返ってみましょう。




Causers of This [2010]

アルバム4作品すべてがまったく違う!<br />
なのに、どれもやっぱりトロ・イ・モア。<br />
その軌跡と変化が手に取るように見える<br />
「読んで聴くトロ・イ・モアの36曲」part.1
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ウォッシュト・アウトと並ぶ、チルウェイヴの二大巨頭。というのが、この頃の世間の評価。チルウェイヴと括られた他のアクトと較べても、トロ・イ・モアの音楽的な実力は飛び抜けているので、かなり的確な位置付けだと思います。

アニマル・コレクティヴとJ・ディラの間とか、ケヴィン・シールズがプロデュースした『ペット・サウンズ』とか、海外の音楽メディアはかなり好意的に迎えていましたが、それもさもありなん。

ソングライティングの上手さは当時から抜群に光っていましたし、ヒップホップを匂わせるビート感も独創的。そして勿論、チルウェイヴのトレードマークだった深いリヴァーブやエコーが生み出す、永遠に覚めない白昼夢の中を漂っているような恍惚感がなによりの特徴。2010年というタイミングから考えても、チルウェイヴの絶頂期を刻んだアルバム、といったところでしょうか。


Washed Out / Feel It All Around [2009]

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では、まずもう片方の雄、ウォッシュト・アウトの代表曲から聴いておきましょう。デビューEP『ライフ・オブ・レジャー』収録曲です(メディアによっては、ほぼ同時にリリースされたカセットテープ『ハイ・タイムス』をデビュー作とする見方あり)。少しだけ物憂げで黄昏たリゾート感覚のアートワーク含め、チルウェイヴを定義づけた曲、もしくは、チルウェイヴという言葉を世に知らしめた曲と言っても過言ではないでしょう。

bpmは86。テンポもトロトロなら、揺らいだアトモスフィアもトロトロ。それまでディスコと言えば、bmp100以上だったのが常。しかし、ここまでテンポを落として、スタッカート気味に跳ねるシンセ・ベースでかろうじてダンス・ビートとして機能させたのはちょっとした発明でした。

コーラスをリヴァーブと細かいディレイで分厚く仕上げた、どこか彼岸の世界の浜辺に波がゆっくりと押し寄せてくるような夢心地のアトモスフィアは、誰もが10ccの代表曲を連想しましたよね。キッズのために貼ってきましょう。

10cc / I'm Not In Love

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この“フィール・イット・アラウンド”が2009年に〈メキシカン・サマー〉からリリースされたことで、レーベルの名前も全世界に知らしめられることになったのは歴史が語るところ。イギリスでは〈トランスペアレント〉から7インチとしてリリースされました。因みにカップリングは同曲のトロ・イ・モア・リミクスです。

Washed Out / Feel It All Around (Toro Y Moi Remix) [2009]

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では、件のトロ・イ・モア・リミクスをオリジナルと聴き比べて下さい。bpmは同じ86。しかし、まずはオリジナルにはなかったイントロの鍵盤。オリジナルが基本的に単音フレーズの積み重ねだったことを思うと、明らかにソングライティング能力とプレイヤビリティの差を見せつけていると言えなくもない。その後のトロ・イ・モアが辿っていく驚きの変化への萌芽を垣間見ることが出来ます。

しかし、何よりも特筆すべきは、このトロ・イ・モア・リミクスはとにかくグルーヴィだということ。オリジナルのビートは基本的に一拍目のキックと三拍目のゲート処理されたスネアのみ、シンセ・ベースと甲高いパーカッションのフィルによって、かろうじてビートをスウィングさせようとしています。それに対し、こちらは16を意識した細かいプログラミングが――ハイハットとグリッチ混じりのパーカッションが醸し出すグルーヴが実に見事。ファンキーなベース・ラインの素晴らしさは言うまでもありません。

酩酊したような催眠性の高い夢見心地のアトモスフィア、ぐっとテンポを落としたシンセ・ディスコ・ポップ――そうしたチルウェイヴというスタイルを定義した、という意味ではウォッシュト・アウトに軍配が上がるのは間違いありません。まさにアイデアの勝利。しかし、トロ・イ・モアというアクトの核はそこではなかったということが徐々に明らかになっていきます。

まだ始まったばかりなので、ここはじっくりと行きましょう。次のトラックがトロ・イ・モアとしての初リリース曲です。

Toro Y Moi / Blessa [2009]

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bpm100。2分52秒。レコードの針を落とした時のようなプチプチと鳴るグリッチ・ノイズ。そして、アニマル・コレクティヴの向こうを張ったかのようなベンディングさせたギターの和音。つかみはバッチリです。

ビートは実に簡素。グルーヴを担うというよりは、むしろ酩酊感を際立てるために機能しているベース。前述のリミクスよりは遥かにチルウェイヴという形式に乗っ取っている。ここで注目すべきは、やはりプロダクションです。この夢見心地のアトモスフィア。揺れるように定位を移動しながら空中を浮遊するコーラス。そして、スティールパンを模したサウンドが醸し出すトロピカル・フィーリングも、この曲の最大のキャラクターになっています。

ソングライティングというよりは、プロダクションで聴かせようとするがゆえの曲の短さ。J・ディラが引き合いに出されるのも納得です。今、聴き直しても、まぎれもない名曲。ウォッシュト・アウトの“フィール・イット・アール・アラウンド”と並ぶ、チルウェイヴを代表する一曲と言えるでしょう。

では、お次は1stアルバム『コウザース・オブ・ディス』収録曲を聴いてみましょう。

Toro Y Moi / Talamak [2010]


bpm99。2分40秒。やはり短い。2つのトニックの繰り返しが基本。しかし、0分54秒からのブレイク部分の展開が最高に洒落ています。リズムの抜き差しにかなり意識的になり、キックとスネアの組み合わせもかなり複雑に。チルウェイヴ的な酩酊感をアトモスフィアだけでなく、ビートでも演出しようとしているのが伺えます。今となっては能ある鷹は爪を隠していたことが垣間見れる一曲とも言えます。では、もう一曲、アルバム収録曲を。

Toro Y Moi / Low Shoulder [2010]

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bpm100。3分37秒。まずガラージ・ハウスを思わせる鍵盤リフが耳を引きます。ソフト・ロック感というか、渋谷系感ありますよね。

ビート・メイキングも見事。三拍目ジャストではないスネアの配置もハットの細かいニュアンスと相まって、これは所謂チルウェイヴとはもはや違ってしまっている。いい意味で。和声的に言うと、このトラック、一度もトニックが出てこない。ずっと解決しないまま、宙を彷徨っている。フィッシュマンズもこのスタイルでどこにも辿り着かないようなフィーリングの曲をたくさん書いていました。勿論、R&B/ソウル/ファンク、ループもののヒップホップやダンス・トラックでは当たり前のスタイルですが。

この曲は構成がとてもユニークです。途中にインストゥルメンタルの展開を挟みつつも、2分14秒までのヴォーカル部分は終始3つのルートの円環で構成されています。その上物として、様々なシンセのリフを手を変え、品を替え、登場させることで変化をつけている。ところが、2分14秒からのブレイクからはまったく違うパートが登場。そこからエンディングまで、前半のパートは二度と登場しないんですね。粋だなあ。

これなどは形式という点において、トロ・イ・モアが所謂ポップ・ソングというものを再定義しようとしていたことが伺える好サンプルだと言えるかもしれません。では、次にこの曲のスタジオでのライヴ・テイクを聴いてみて下さい。ちょっと驚かされますよ。

Toro Y Moi / Low Shoulder (studio live) [2010]

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なるほど、実際にやりたかったのはこういうことか! と誰もが感じるに違いないテイクに仕上がっています。チルウェイヴ的なヒプノティックな酩酊感には欠けるものの、こちらの方が遥かに素晴らしい。ライヴ・バンドとしてのトロ・イ・モアはここですでに完成していると言ってもいい。彼らのロール・モデルのひとつでもあっただろうエールが、かの98年の傑作『ムーン・サファリ』リリース後もしばらくの間、作品の素晴らしさをなかなかライヴに置き換えられずにいたのとは好対照と言えるかもしれません。

では、1stアルバム『コウザース・オブ・ディス』からもう一曲、そのスタジオ・テイクとライヴ・テイクを聴き比べてみましょう。既にアルバムを腐るほど聴いた人もまずはライヴ・テイクから聴いてみて下さい。

Toro y Moi / You Hid (studio live) [2010]

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どうです? びっくりでしょ。bpm94。3分5秒。いきなりのギター・アルペジオから始まるイントロ。シングル・コイルのリヴァービーな音色がどこかチルウェイヴ特有の恍惚とした酩酊感を漂わせているとは言え、これはやはり別ジャンルの音楽です。1stアルバム時代の森は生きているを稚拙にした感じというか。

ソングライティング的にも、これまでの限られたルートの円環によるループを軸においたクラブ・トラック的な構成から、ヴァース/コーラス/ブリッジというポップス的な構成へと変わっています。ヴァース後半の一部をイントロに持ってくるなんて、これ、まんまポップ・ソングの手法ですからね。

このライヴ・テイクがアルバムのリリース年に収録されていたことを考えれば、既にこの時点でトロ・イ・モアはチルウェイヴというフォーマットから食み出そうとしようとしていたのが非常によくわかります。

では、この曲のオリジナルであるスタジオ・テイクを改めて聴いてみて下さい。

Toro y Moi / You Hid [2010]

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なるほど。と唸って下さい。同じ曲でもこんなに印象が違うんです。所謂チルウェイヴ的なプロダクション。ギターの使い方もミュートしたファンク・マナーの刻みからして、ダンス/クラブ・トラック仕様。どちらのテイクにむしろ実際のトロ・イ・モアらしさがあるのか? それについてはこの後、徐々に明らかになっていくというわけです。

では、第二部へと進みましょう。




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