5位の『GET BACK』。労働者階級出身の4人のロックンロール好きの若者が10代半ばで始め20代前半で世界で最も成功したバンドになり数年が過ぎ、大人になり伴侶や子供がいる。彼らは音楽を含むリベラル・アーツについてすべて独学だ。ロックンロールは単純な繰り返し(の構造)に過ぎず、ポップについても十全に信じることが不可能な年齢に差し掛かっている。しかし彼らが心から楽しめるものはロックンロールなのだ。個人的な話になるが、ここで流れる曲は自分の10代以前の暮らしの主なサウンドトラックで自分の身体の一部であるのだが、それでも、1位に選んだその翌年、1969年にNYはハーレムで奇跡的に行われたフェスティヴァルの失われたと思われ発掘された映像『サマー・オブ・ソウル』の始まり、スティーヴィ・ワンダーが声を上げる瞬間のみで“こちらの方が芸術として高級である”と閃いてしまう。そのことは自分がどちらの側をどのように経験し、観察し、聴取し、そして、どちらの側にどのように支持し参加していくのか、そのことを決定させる。もしくはその逆。どこかで読んだこともある、政治的ラディカリズムと(もうひとつの)芸術の古典的概念の共存の希求ということ。ロック/ポップとは何かということに興味のある方にお勧めいたします。
昨年5位に選んだポストテレビの政治サタイヤ、ダースレイダーとプチ鹿島『ヒルカラナンデス』は『サマー・オブ・ソウル』がなければ1位だし、そういう意味では1位の、毎週の欠かせない愉しみ。YouTubeでは他に『Ninja We Made It』と『実録CQ』を。3位については省略。多様性という言葉は前世紀から目にするが、例えば実際に色々な国籍の人間が常に顔を突き合わせている状態はグローバル・コーポレートのZOOMミーティングでもそうはない。決まり文句が実際に顕現する舞台として、ユートピア的空想でもディストピア的未来でもなく、現実の1970年代の東南アジアという空間と時間が選ばれる4位、困窮と高みの見物(自分探し)が入り乱れる実話に基づいたドラマ。
いわゆる伝統的なテクノロジーである楽器を手にする幾人かのメンバーによる音楽に対し、サウンドをデジタルに複製するテクノロジーによって脱/再構築されたビートに発話が重ねられて成立するアートに自分がより好意を持てるのではない。ドーナツ状の幾つもの層が見えてくるような21世紀前半の目の前の光景にとっても、後者の方が少なくともノスタルジー込みの中心へ向かう構造との距離を持たせてくれる、そうした好奇心の持続ということ。
そのとき、自分が育った国の音(楽)作品にフォーカスし5つを選ぶのは、イメージへの批評の状況を忘れずに、かといってサウンド(響き)だけでなく、足下のコミュニティの裡より視覚芸術(グラフィティ/ストリート・アート)、身体表現(ダンス)へと拡張しながら各地へ繋げていくことのできる、新しいアートの形式の規範になりうる契機であるから。このことは映像のベスト 5について記したこととも繋がりますが、書き手として“奴隷制”とか“移民”などといった言葉を使いアートを叙述したつもりにならないことを、エチケットとして気をつけたいです。
日本語を理解できずとも言葉と優れたトラックの関係が見事としかいいようのない1、1人の人間の実際に生きられた時間を“bar(小節)”の数に重ねていくリリシズムが見事な2、小宇宙がまったく別の世界に繋がった関係から先の苦闘とヴィジョンを描く3(釈迦坊主が〈Red Bull RASEN〉に提供したビートは是非聞いてほしい)、この1年間最も聞いた幾つかの曲の一つである4、そしてヒップホップから視る、プレ/ポスト・ラップの言葉とビートが宣告される新しい風景(の一つ)としての5。
〈サイン・マガジン〉のライター陣が選ぶ、
2021年のベスト・アルバム、ソング
&映画/ドラマ5選 by 伏見瞬
「〈サイン・マガジン〉のライター陣が選ぶ、
2021年の年間ベスト・アルバム、
ソング、ムーヴィ/TVシリーズ5選」
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2021年
年間ベスト・アルバム 50