2022年は『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』と『ルネサンス』をループしていたため、個人ベストが立てづらいあるまじき状況。なので、アメリカ市場の商業的インパクト面からユニークなものをピックした。
ロマコメを劇場復帰させた『ザ・ロストシティ』は、女性向けジャンル蔑視に疲弊してそこから去った経緯を持つサンドラ・ブロックが「卑下によってファンを軽んじた罪」に向きあうプロットが感動的。今風なファンダム文化的とも言えるが、責任を負うベテランの愚直なメッセージだった。「隙のないポップ」戦略を強めるNetflixの象徴は、フェミニストとアンチフェミニストが恋をする『パープル・ハート』。ベタな恋愛モノで政治分断ネタをやれば『グレイマン』超えの視聴者をつかめるのだから、それだけ世界は部族主義に染まっている。その点『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』のドミノ倒し国際政治ドラマにはしびれた。あそこまで固い政局にしておきながら、ハイライトが「私情を爆発させる女王」というのも高貴。『アバターWOW』の場合、キャメロンが「大学生ノリのMCU」に喧嘩を売っただけあって今どき珍しい家族の連帯責任押し。暑苦しくはあるのだが、近ごろは義務と規範の有用性が低く見積もられがちなので、カオスが常態化した世界でたぶん大事な暑苦しさである。『NOPE』に関しては、コロナ明け気分で「スペクタクル」が求められていた時、それをテーマにメディア環境の醜さをねじ込むセンスがよろしい(ミーガン・ジー・スタリオン銃撃裁判をはじめ、2022年は米メディア・システムの有害性が浮き彫りになった)。
ハリー・スタイルズはとにかく日常に浸透する「安全」な耳心地で、今日最大の「ロック・スター」がそうした音楽をやってるというのが面白い。特筆すべき存在は、北米式ポップ・スターと組まぬプライドを掲げて覇権をとったバッド・バニーだろう。ただ、彼の場合、ルーツのラテン音楽のジャンル区分もちゃんと覚えていないようで、その「ガチ」じゃないナチュラルさが大衆を惹きつけたように思う。一方、ロザリアは「ガチ」な音楽キメラで、フランク・オーシャン風バラードを“ヘンタイ”と命題するなど元気な異文化交流クロスビート。ケンドリックには「白人的」セラピー主題に反発もあるようだが、おそらく「黒人的じゃない」から意義がある(米ブラック・コミュニティのメンタルヘルス治療忌避傾向は深刻だ)。彼が踏みこんだ黒人男性ラッパーの性的トラウマ問題は、前出のスタリオン裁判騒動、つまり暴行被害を訴えた黒人女性に対する過剰攻撃の裏側かもしれない。ビヨンセの至高は、ダンス・ミュージックの歴史と現在と未来を一挙に浴びせる叙事詩プロダクション。100人規模のキャラクターが行き交うゆえにTVシリーズでしか表現できなかった『ゲーム・オブ・スローンズ』式ブロックバスターを音楽アルバムでやってのけたような衝撃だった。まさにエイリアン・スーパースター。
〈サイン・マガジン〉のライター陣が選ぶ、
2022年のベスト・アルバム、ソング
&映画/ドラマ5選 by 照沼健太
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2022年の年間ベスト・アルバム、
ソング、ムーヴィ/TVシリーズ5選
2022年
年間ベスト・アルバム 50