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  • ジョーカー(2019) directed by Todd Phillips by TSUYOSHI KIZU September 30, 2019 1
  • ボーダー 二つの世界(2018) directed by Ali Abbasi by TSUYOSHI KIZU September 30, 2019 2
  • アド・アストラ(2019) directed by James Gray by TSUYOSHI KIZU September 30, 2019 3
  • アンダン ~時を超える者~(2019) directed by Kate Purdy and Raphael Matthew Bob-Waksberg by TSUYOSHI KIZU September 30, 2019 4
  • WEEKEND ウィークエンド(2011) directed by Andrew Haigh by TSUYOSHI KIZU September 30, 2019 5
  • 社会が数多くの衝突と混乱を生んだ2010年代というディケイドを締めくくるのにふさわしい……いや、そこで起きたもっともシリアスな問題をかき集めて、観る者すべてに突きつける映画だ。そう、誰もここから逃れられない。ジョーカーというアメリカン・コミック・カルチャーが生んだ最悪にして最高のヴィランをモチーフにしているものの、もはやユニバース的な文脈から離れ、ただただ現実の悪夢に向けてぽっかりと口を開ける。社会から滑落していく男アーサーを救う者はひとりもおらず、やがて追い詰められた彼の行動はこの世の歪みを刺激することになっていく。広がる経済格差と、それゆえに社会の下層で蓄積され続ける憎悪。カットされる貧困層への医療。蔓延するうつとドラッグ、DV。インセルの台頭。そして、暴動への欲望……。そしてそれらすべてを、ジョーカーは喜劇だと言う。もう笑うしかないのだと。だから僕たちはアウトサイダーであることをその身にギリギリと刻みつけながら舞うホアキン・フェニックスを前にどうすることもできず、ただ笑いながら涙を流し続ける。あまりにも苦しく、あまりにもダークな、永遠にオチが見つからないコメディ……その真実味の重さに圧倒されるばかりだ。

  • スウェーデンから届いた本作においても、『ジョーカー』と同様に究極のアウトサイダーへのまなざしがある。生まれつきの容姿で悩むティーナは「人間を嗅ぎわける」能力を生かして税関職員として働いており、あるときヴォーレという男に出会う。本能的に何かを感じ取り彼と近づいていくティーナだったが、そこには彼女の出生の秘密が隠されていて……。ここから物語は予想もつかないダーク・ファンタジー的展開を迎えるのだが、そもそも原作は『ぼくのエリ 200歳の少女』で知られる異才ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィストによるもの。奇想天外な寓話を通じて、この世界から見捨てられた人びとの悲しみと、それでも立ち上がる尊厳を慎ましく描く。やるせないが、疎外された者たちへのこぼれ落ちるようないたわりがある。……それにしてもいま、多くの映画がこの世界は大暴動が起こる寸前だと予言している。そしてそのためには、人間の「悪」を少し刺激するだけでいい。

  • タランティーノ『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』で再び存在感を見せているブラッド・ピットを主演に迎え、ジェームズ・グレイ監督らしい静謐な映像で見せるSF作品。前半、監督の『アンダーカヴァー』を思い起こすような優美なカー・アクションなどのダイナミズムで見せつつ、やがて悲痛な内面への探求へと移っていく。内面の痛みを晒すことができずに近しい人間を自ら遠ざけてしまう男性が描かれているので、海外の評を見るとトキシック・マスキュリニティ(有害な男性性)を巡るドラマだと見られているようだが、僕はそれ以上にメンタルヘルスについての映画だと感じた。映画では何度も心理テストの描写が繰り返されるが、つまり、この世界では「正常」だとされる領域からははみ出すことが許されない。だがそれでも、「正常」を逸脱するときにしか行けない場所があることも仄めかす。そして、心を病んだ人間を見捨てないことが目指されるのである。ブラピもさすがだが、哀れな老人を抑制した演技で体現したトミー・リー・ジョーンズが素晴らしい。

  • 『ボージャック・ホースマン』制作チームによる、実写とアニメーションをミックスしたロトスコープの手法を採用したテレビ・シリーズ。あるとき事故にあった女性アルマが、その後時間を移動する能力を得て、過去に事故死した父親の事件の真相を追う……のだが、本作もまたメンタルヘルスについての物語であり、むしろその心理状態を示すためにこそロトスコープが用いられているように見える。トリッピーな描写やストーリーテリングは迷宮的で快楽的だが、と同時に、生きづらさを抱えるある女性の姿がリアルに映されてもいる。母親や妹との関係性の難しさ、恋人とのすれ違いや絆もじつに細やかに描かれ、デリケートな人間関係の機微を立ち上げることに成功している。『ボージャック』同様、うまく生きられない人間(たち)についてのペーソス溢れるコメディであり、もの悲しく、しかし優しいドラマだ。

  • 『荒野にて』や『The OA』の監督など現在多彩な活躍を見せる気鋭アンドリュー・ヘイの初期代表作にして、ゲイ映画における金字塔がついに日本でも公開される。イギリスのとある街を舞台に、ふたりの青年が出会い、会話をしてセックスをして、同じ時間を過ごす2日間を映した「だけ」のこの映画の何が特別だったのか。それは、ひとが恋をしているその瞬間の空気をどこまでも親密に閉じこめたからに他ならない。何気ない会話がしかし、人生における最高の記憶になりうること。リアルにぎこちなく、だけど官能的なセックス・シーン。そのどれもが柔らかく、切なく、温かくて、すべての瞬間がそっと祝福されるようだ。だからセクシュアリティもジェンダーも超えて、観るひとそれぞれのパーソナルな部分にも触れることとなった。この小さな映画からたくさんのことが始まり、変わっていった。ラストで流れるジョン・グラントのバリトンの余韻も含め、愛おしい宝物のような輝きを持った作品だ。

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