SIGN OF THE DAY

2018年 年間ベスト・アルバム
1位~5位
by all the staff and contributing writers December 31, 2018
2018年 年間ベスト・アルバム<br />
1位~5位

5. Joey Purp / Quarterthing

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シカゴ・ジューク/フットワークを取り込んだ、本作のハイライトのひとつ“アウ・シット”にしても、(今から聴いても遅くはない!)2年前のミックステープ『iiiDrops』収録曲“ガールズ@”で共演していた同じ〈セイヴ・マニー〉の仲間チャンス・ザ・ラッパーとそれを演った時には「人いきれ」が感じられたし、例えば、それがヴィンス・ステイプルズだったら括弧つきの新しさをまとってしまうのかもしれない。それが、25歳のこのシカゴのラッパー、ジョーイ・パープの場合、人が言うほど実験的ではなく、禁欲的なヒップホップとして完成しているのは、この曲をテックライフのDJテイと作ったからだけではないだろう。そもそも1曲目がゴスペル的高揚をもたらし、シカゴでの生活と密着していても、『カラリング・ブック』を全く想起させないどころか、チャンスと比較するならフロウは古いタイプだし、ジャストブレイズに学習したように聴こえるビートもある。けれども懐古的と呼んでしまったら違うだろう。“カール・マローン”はチーフ・キーフのトラップ同様、オリジナルなトラップだ。本作のイントロとアウトロに当たる部分は、ジョーイが私淑するウータン・クランのRZAとGZAがそれぞれ登場するが、ウータンらしさを求めていなかったことがよくわかる。これはラップ/ヒップホップが確実(着実)に成長し、生き続けていることを実感できるデビュー・アルバムだ。(小林雅明)

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4. Kacey Musgraves / Golden Hour

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コンテンポラリー・カントリーにも耳を通すようになってから20年近くは経つが、こんな実験的なものにはお目にかかったことがない。テイラー・スウィフトは「転向」という形をとって自身の音楽キャリアの殻を破っていったが、2014年のグラミー賞の新人賞ノミニーとしても知られるケイシー・マスグレイヴスはあくまでカントリーに軸足を据えながら、音楽的な冒険を試みることで自らの成長とした。サイケデリックなグルーヴに、末期ビートルズ風のディレイのかかったスネア。それに加えて、ボコーダーにエレクトロにディスコのビート……。まるで現代の『ロデオの恋人』とでもいうべき完成度。もしグラム・パーソンズが全盛期の感性で今を生きていて、2018年のエミルー・ハリスを見つけ出していたら、こういうものを作ったのだろうか。このアルバムのプロデュースは2000年代に日本でも一瞬注目されたナッシュヴィルのインディ・バンド、ビーズのダニエル・タシアンだが、パーソンズが彼に乗り移ったのかとさえ思える。業界のド真ん中勢力と組んだテイラーに一抹の寂しさや欲求不満を感じていたような人は、このアルバムで一斉に彼女の支持に回ったのでは。12月以降に続々と発表されるメディアの年間ベストの上位に軒並み本作が名を連ねているのを見ると、改めてそう思わざるをえない。(沢田太陽)

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3. Cardi B / Invasion of Privacy

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トラップとはヒップホップにおけるパンク・ムーヴメントだったのかもしれない。「洗練と高度化/複雑化の果てのプリミティブ回帰」というサイクルは、音楽に限らずさまざまなジャンルの表現で見られる現象だが、エモ・ラップ等の派生ジャンルも踏まえ、トラップはヒップホップ内の流行スタイルのひとつというよりもある種の「爆発」だったように思える。オーセンティックなラッパーによるトラップ以降のフロウへの批判などは、まさにパラダイム・シフトを象徴した出来事ではないだろうか。そうした文脈に則るならば、カーディ・Bのこのデビュー・アルバムは、歴史上重大な転換点に旗を打ち立てると同時に多方面に橋をかける、ザ・クラッシュ『ロンドン・コーリング』のような作品だ。チャンス・ザ・ラッパー、SZA、ミーゴス、YG、ケラーニ、J・バルヴィンらを客演に迎え、トラップを軸にサウンド・ボキャブラリーを拡大し、ラティーノへのアプローチも含め2018年らしいポップの地図を描いてみせる。そしてビヨンセやローリン・ヒルといった先人たちへの言及からは、過去との連続性の上にカーディ・B(と現在のトラップ)があるという大きなファミリー・ツリーが浮かび上がる。スーパーマーケットで迷子になるどころか、バレンシアガやカルティエやフェラーリの津波に押し流されてしまいそうな危うさもあるのだが、それも含め、ここには神経症と分断の時代をサーフしようと立ち向かう、2018年のリアルなポップ像があるように思える。(照沼健太)

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2. Janelle Monáe / Dirty Computer

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フェミニズムとは先人たちが積み重ねてきた闘争の歴史である。だがそれは、闘いだけでは終わらない。フェミニズムはパーティである。歌であり、ダンスであり、セレブレーションである……。ブラック・ミュージックの縦の歴史をたっぷりと引用し、ポンパドールとタキシードに身を包み、そして新世紀のアフロ・フューチャリズムを物語っていた彼女はここで、「ただのポップ・アイコン」としてウィミンズ・パワーとクィア・アートを全力で祝福する。あるいはまた、#MeTooは性の否定であるという偏狭な意見に逆らうように、女が主体となるセックスとエロスを讃え、実践し、仲間たちと共有する。どこか目まぐるしく整頓されていなかったサウンドは本作でキャッチーなフックに溢れ、これが現代のポップの解なのだという清々しさに満ちている。プリンスの後継者であるというプライドはクィア・カルチャーのアイコンとして彼を捉え直すことで強固なものとなり、ブラック・ミュージックをあっさりとはみ出す彼女のエクレクティックな音楽絵巻はオーガズムとともにトロトロに溶け出し、または勢いよく弾け出す。これがジェンダー・フルイドとパンセクシュアルの時代のポップ・ミュージック。色とりどりのネイルを塗った中指を、反動主義者たちに笑って突き立てよう。ヴァギナを持っていても持っていなくても、愉快な「マザーファッキン・プッシー・ライオット」をぶちかまそう。未来はピンク色から始まる。(木津毅)

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1. Earl Sweatshirt / Some Rap Songs

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ループへの没入。アール・スウェットシャートも本当は、このアルバム用に自分で集めたビートのループにいつまでも耳を傾けていたかったのではないか。そう思わせるほどのループ尽くしで、これは安易に懐古趣味などとは結びつけられないほどだ。15曲も収録されているのにアルバム全体をわずか25分ほどで終わらせたのも何かヘンだが、彼が本当に終わらせたかったのは彼の精神面でのループへの没入だったのかもしれない。「これまで俺はずっと鬱状態で生きてきた。思いつくのは死ぬことだけだった。自分の番が次なのかわからないけど」と4曲目の“ノーホエア2ゴー”でボソボソとライムで告白している。ただでさえ、リル・ピープから、アールとは旧知のマック・ミラーの死に至るまで、メンタルヘルスの問題は2017年末から今に至るまで形を変え何度も取り上げられてきた。そこに接続させるだけでなく、自殺念慮等が巡ってくるループを終わらせる道をアールは選んだのだろう。そして、本作でアールは、自分(を含む家族)とヒップホップだけでなく、次世代の仲間ともしっかり向き合っている。収録曲のリリック中の生活描写の場面で、マイクというブロンクスの19歳のラッパー/プロデューサーの名前が出てくる。彼の『バイ・ザ・ウォーター』や『ルネッサンス・マン』等の近作にアールが共鳴し、互いに刺激を与えあっていることも、本作のサウンドの方向性やテーマから伝わってくる。(小林雅明)

ドレイクのみならず、毎年のように輩出され、大成功を収めるマンブル・ラップ以降の新世代ラッパーたちがポップ・シーンの覇権を完全に掌握した2010年代。そうした変化はヒップホップというカルチャーがコミュニティの外側にも大きな拡がりを見せたいう事実と同時に、コミュニティ全体の多様化と分断をももたらしたとも言える。ポスト・マローン、あるいは、6ix9ineをどういった文脈で評価するのか。その評価軸における各々の当事者性とは何なのか。2018年はラップがポップになった年、という言葉はどういった文脈で解釈すべきなのか。そうした問いは、誰もが「時代の当事者」として向き合わねばならない命題でもあるだろう。当然のことながら、この全15曲24分のアルバムの曲には、ヴァースはあってもフックは存在しない。勿論のこと、歌は存在しない。1ループのドープでサイケデリックなビートには、ソーシャルメディアにおいて爆発的なミームと化し、瞬間的に忘れ去られていくことが今だと勘違いされがちな時代において、ポップ音楽においては不可欠な「過去の歴史への連なり」という眼差しがある。“ライオット!”と名付けられたアルバム最終曲には以前と同様、サウス・アフリカのジャズの巨人、ヒュー・マセケラがサンプルされている。この曲はインストゥルメンタル。ラップさえ存在しない。良くも悪くもヒップホップが再定義され、ラップへと姿を変えた2018年において、ここでは過去の積み重ねとしての今、そして、未来が鳴っている。(田中宗一郎)

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2018年 年間ベスト・アルバム
6位~10位


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