SIGN OF THE DAY

2018年 年間ベスト・アルバム
6位~10位
by all the staff and contributing writers December 31, 2018
2018年 年間ベスト・アルバム<br />
6位~10位

10. Billie Eilish / don’t smile at me

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ドレイクと彼のファンダムが作り上げた2010年代という磁場を踏み台に、いち早く2020年代の幕開けを告げた16歳のリアリティ。トラップもインディ・ロックもEDMもメタルもすべて当たり前に存在したポストジャンル時代の申し子。フラジャイルな自分自身に正直であるがゆえに、不機嫌な表情と反抗的な眼差し、辛辣極まりない言葉を投げかけ、これ見よがしに全身ハイファッションに身を包む新世代のアンチ・ヒーロー。それがビリー・アイリッシュだ。時にはヘヴィで攻撃的なビートで武装し、時には陰鬱なピアノの響き以外は何も身につけないまま、10代特有のヴァルネラブルな心象を描き出す全9曲28分。悲しみや怒り、精神の退廃や乱れを少しも隠そうとしない剥き出しの言葉と生身の声。彼女はこんな風に歌っている。「私は誰のものでもない/でも誰もが私の名前を知ることになるはず」。本作のタイトルは「にやけた顔でこっち見んな」。馬鹿相手に無理やり笑顔を浮かべる必要などない。抗うつ剤やドラッグの力を借りなくてもいい。病める時も健やかな時もただ自分自身をさらけ出し、それを外界のすべてに認めさせればいいだけ。2018年後半になって、翌年以降のポジティブなヴァイブスを決定づけたアリアナ・グランデという存在のコインの裏側、それがビリー・アイリッシュだった。(田中宗一郎)

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9. Mitski / Be The Cowboy

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背景には、〈88ライジング〉の台頭や映画『クレイジー・リッチ』のヒットに象徴される東アジア評価の機運もあるのだろう。実際、そうしたポップ界の地政学的な変化が、彼女に注がれる視線をいっそう促したことは間違いない。しかし、言うまでもなく特定のカルチャーやファンダムにおいて消費されることは彼女の本意ではないことは、たとえば〈ピッチフォーク〉のインタヴューで語られた「私が歌う“You”の多くは“音楽”のことを指している」といった発言からも窺える。もちろん、それでも私たちは、その歌の中に彼女のパーソナルなところを想像し、あるいは自分自身を重ね、孤独や苛立ちや愛の描写にますます心を焦がしてしまう。けれども、この5作目となる本作は、彼女にとっては第一に音楽的な探求心やクリエイティヴな精神こそ優先されることを物語るように、何よりもその大胆な変化を遂げたサウンドによって聴き手を興奮させる。従来のシューゲイズなギター・スタイルは鳴りを潜め、シンセだったりピアノやストリングス/ブラス・アレンジメントが彩るディスコ風ダンス・ポップやポスト・クラシカルなバラード。美しいゴスペル・フィール。USオルタナティヴ直系のインディのミューズから、メインストリームのフィーメイル・シンガーも視界に捉えたポップの担い手へ。「私が欲しいのはあなただけ/私はあなたなしにはいられない」(“ガイザー”)――まるでミツキというアーティストと新たに出会い直すような驚きが、本作にはある。(天井潤之介)

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8. Travis Scott / Astroworld

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1曲目“スターゲイジング”の冒頭からはっきりと言及されているように、『アストロワールド』はドラッグ・アルバムだ。コデイン、MDMA、さらにはサイケデリック・ミュージックにおける正統派中の正統派ドラッグであるLSD。“スターゲイジング”や“シッコ・モード”や“ストップ・トライング・トゥ・ビー・ゴッド”で曲の途中でガラッと曲調が変わるのは、「ドラッグがキマった」もしくは「抜けた」瞬間を表している。だから、“シッコ・モード”ではドレイクの「Young La Flame, he in sicko mode(トラヴィスがヤバい状態に入ったぞ)」の掛け声を合図に、スタジアムの数万人が一気に狂乱状態に投入してダイブ&モッシュを繰り広げるのだ。ブッ飛んだ状態の集団疑似体験として。あるいは、本当にブッ飛んで。“R.I.P.スクリュー”、“ノー・バイスタンダーズ”、“5% ティント”などで繰り返されるDJスクリューやスリー・6・マフィアやグッディー・モブといったサウス・ヒップホップ・レジェントたちへの言及や引用も、リスペクトやトリビュートの意味があるのははもちろんのことだが、人力チョップド&スクリュードとしてのジェイムス・ブレイクの声の援用が象徴しているようにコデイン・ミュージックとしての歴史の接続と更新が強く意識されている。個人的には1991年の『スクリーマデリカ』や『ラブレス』と並んで、同時代に体験することができた至高のサイケデリック・アルバム。最も違うのは、世界中で当時の『スクリーマデリカ』や『ラブレス』の100倍くらい聴かれていることだ。(宇野維正)

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7. Tierra Whack / Whack World

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アルバムというフォーマットは音楽を収録する媒体の変遷によってその都度変化してきたのだから、メインの視聴環境がストリーミングに移行した現在にふさわしい尺や収録数、表現形態の発想が生まれてもなんらおかしいことではない。カニエ・ウェストが5週連続で7曲入りのアルバムをリリースしたことや、本作に収録されている15曲がすべてインスタグラムのストーリーと同じ1分程度であり、ストリーミング・サービス上で各楽曲のMVを観ることができるオーディオヴィジュアルの形態を採用するということも起こるだろう。だから本作に関して驚くべきは、1分縛りというコンセプトが彼女の音楽にとって有効に機能していることだ。すべての曲がワン・ヴァースかワン・ヴァース+ワン・コーラスであり、曲の骨格はワンループというミニマリスティックなデザインながら、音色やコーラスのレイヤリングが的確なので、ストーリー性のあるバラエティ豊かなサウンドを堪能できる。スタッカートの効いたユーモラスな鍵盤のリフレインに迫力ある低音ベースが続き、最後にゴスペルチックなコーラスが現れる“ペット・セメタリー”とアンビエント・テイストなシンセ・ループにダーティなトラップ・サウンドが絡む“ソア・ルーザー”が1枚の作品に同居し、そこに必然性を感じられるのは彼女の声の統一性だけではなく1分というコンセプトがあるからだろう。あらかじめ決められた時間に相応しい音楽がここにあると断言できることはあまりない。(八木皓平)

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6. Rosalía / El Mal Querer

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テーム・インパラのMVを撮ったスペインのカナダが監督した先行曲“マラメンテ”のMVのインパクトのせいもあるのだろう。26歳のスペインのシンガー、ロザリアが演っているのはフラメンコなのに、そのことをリスナーに忘れさせたり、思い出させたりするのが、この2作目の特徴だ。冒頭におかれたその曲にもフラメンコ特有のパルマス(手拍子)がばっちり入っているし、2曲目で一気に「正調フラメンコ」にモード・シフト。かと思いきや、そのトラックが実はフラメンコの既存曲のサンプルで出来ていたりする。ロサリアと共に全曲のプロデュースに当たったエル・ギンチョは、自身の代表作でもサンプラー主体かと思えば、ハイライフのギターやスティール・ドラム、あるいはオートチューンを導入したりと様々な冒険を試みてきたアーティストだ。繰り返すようだが、これはフラメンコを立脚点にしたアルバムだ。同時に、中盤からは1曲ごとにジャスティン・ティンバーレイクの歌うメロディ、デスティニーズ・チャイルド・ファンとしての目配せ、ジェイムス・ブレイク的音響(残響)、アーサー・ラッセルの楽曲の多重サンプルが次々に着想源となっている(どれもロサリアによるものだろう)とも説明できる。そして、収録曲がそれぞれ、婚礼、嫉妬心、いさかい、嘆き、典礼、受胎等の副題を持ち、一人の女性の視点から感情のうつろいが歌われ、繊細で力強い表現はエンパワーメントにつながり、2018年らしさを帯びてくる。(小林雅明)

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2018年 年間ベスト・アルバム
1位~5位


2018年 年間ベスト・アルバム
11位~20位


2018年 年間ベスト・アルバム
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