SIGN OF THE DAY

2018年 年間ベスト・アルバム
21位~30位
by all the staff and contributing writers December 31, 2018
2018年 年間ベスト・アルバム<br />
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30. Lily Allen / No Shame

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北米メインストリームとの接近を図った『シーザス』から一転、約4年ぶりの新作はリリーがその出自に立ち返るような一枚となった。まずそれはサウンド面に顕著で、スカやダンスホール・レゲエを基調とした一連の楽曲は、あの素晴らしきデビュー作『オーライ・スティル』を彷彿させるし、結果的にそれが現行のグライムやアフロ・バッシュメントと接続したのは、彼女が英国産ポップをリードしてきたことの証明にもなっている。一方でここにデビュー当時の溌剌としたリリーがいるのかといえば、むしろ本作における彼女は極めて内省的だ。深刻なストーカー被害、自身の政治的発言に対する世間からの猛烈なバッシング、そして離婚を経験したリリーは、その失意と挫折をどこまでも赤裸々に語っていく。自分の浮気やドラッグ依存さえも明け透けにしていく様はあまりに悲痛だが、同時にその正直さはとてもチャーミングだし、そんな負の側面も含めて自分のすべてを晒さずにいられないところがまた、他にはないリリー・アレンならではの魅力だと思う。アイデンティティ・クライシスに陥っていたリリーが自分自身を取り戻していく過程を克明に描いた、痛ましくも勇敢なドキュメンタリー。(渡辺裕也)

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29. Teyana Taylor / K.T.S.E.

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スウィート・ソウルをはじめとするソウル・ミュージックのサンプルを臆面もなく聴かせる音作りを主体にしたヴォーカル・アルバムで、ティアナがサンプルされたアーティストたちとの共演を楽しんでいるようなフシもある。全8曲入りで収録時間は23分以下と60年代のポップ・アルバムよりも短いため、カニエがワイオミングで一人で作り上げたかと思いきや、最近の彼の作品の例にもれず、彼以外に十数人のプロデューサー名が記載されている。とはいえ、彼の指示でフェイドアウトなしで間髪入れず次の曲につながる場面があれば、逆に敢えてアウトロを用意した曲もある。さらには、ゴスペルをサンプルした前向きな(恐らくはティアナの敬愛するローリン・ヒルの“トゥ・ザイオン”をイメージした)曲がティアナの幼い娘のお喋りで終わったと思いきや「work that pussy」との一声で始まり、ミッキー・ブランコがリードする(メッセージはポジティヴだとはいえ)ヴォーグ・アンセムが飛び出し、この曲が名作ドキュメンタリー『パリ、夜は眠らない』からのサンプルで終わると、あれ、今まで聴いてきたのはなんだったの的な空気に包まれてしまう。(他にもある!)こうした微妙な歪みに引っ掛かっているようでは、ティアナのリスナーとしては失格かもしれないが、「Keep That Same Energy」の略だという表題にあやかれば、カニエらしいエナジーが発信されている作品だと言えるのでは。(小林雅明)

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28. HYUKOH / 24:How to find true love and happiness

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BTSの活躍に触れるまでもなく、K-POPがその存在感をグローバルな領域において確固たるものにした2018年。だが、サウス・コリアから届いたもっとも刺激的な作品は、このインディ・ロック・アルバムだった。これまでもずっと、未来が見えない、生きる意味がみつからない、いっそのこと死にたいと、厭世観や虚無、思春期的な迷いや生の不確かさを紡いできた彼らは、本作においてこれまでの思春期的な感傷から大きく踏み出すことに舵を取った。全6曲21分。タイトルが示す通り「本物の愛と幸せを手に入れる方法」、あるいは、それがみつからない理由やシチュエーションを6つに分類し、6つの楽曲に落とし込むという明確なコンセプト。民主化宣言から30年余、南北の民族統一の兆しが浮かんでは消える2018年という時代に暮らす同胞たちの物語を、そこで沸き起こる感情という場所から描き出してみせた。それがゆえに、6つの楽曲のソングライティングは千差万別。自分たちの曲が不特定多数のリスナーに共感されるという事実さえ受け入れることの出来なかったソングライターは、キャリア初のラヴ・ソングまで書き下ろした。前作『23』がギターを主体とした4ピースのコンボ・スタイルの可能性、バンドとしてのポテンシャルを追求することで生まれた、よりオーセンティックなロック・グルーヴのレコードだったとすれば、こちらは無邪気な実験精神で溢れている。バンドがモノホンの本格派であるが故に、それが耳当たりのいいポップに聴こえるという不思議。理想的なインディ・ロック。ありあまるポテンシャルを「アルバム」に落とし込むことのできなかった彼らの最初のマスターピース。(田中宗一郎)

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27. Klan Aileen / Milk

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ディス・ヒートのチャールズ・ヘイワードの言葉を借りて言えば、「漂うようなサイケデリック」でありながら「ハード・エッジで尖って」いる。ハイ・ライズのモダン・ヴァージョンとも言うべき(ポスト・)パンクとノイズの中間のようなロウネスをとどめつつ、アタックよりも鳴りへ――ダブ/アンビエント的なスケールへと押し広げられた音響のデザイン。そのコントラストやダイナミクスこそ、この3作目のキモだろう。とりわけ、“再放送”や“元旦”が顕著に窺わせるクラウト・ロックの援用やマーティン・レヴ風のモータリック・ビートは、彼らに一貫するミニマリズムや反復の意匠を際立たせるメソッドとして目覚ましい効果をもたらしている。ただし、そうした文脈からオーガ・ユー・アスホールやゆらゆら帝国といった名前も引き合いに出されてしかるべき本作だが、しかし、その醸し出すフィーリングは先達のメロウネスやシュールネスとは縁遠い。ステレオ素材とライヴ演奏を接合させたような亀裂に彩られた音像は、どこかアンビヴァレントで、きわめて不穏。異端であることをいとわぬ「アート」たる先鋭としての矜持を、本作に見たい。(天井潤之介)

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26. Sophie / Oil of Every Pearl’s Un-Insides

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ベース・ミュージックの奇形化とアルカ以降のIDMにおけるカオスが激突。インダストリアルなビートが乱打されるなか、バブルガム・ポップが切り刻まれて、トーチソングのように華麗でホーリーな歌が響き渡る……。〈PCミュージック〉最大の花形であったソフィーがついに放ったファースト・アルバムが破壊的なほどに先鋭的になったのは、これまでやや匿名的な立場にいた彼女がここで自身を開け放ったことと関係している。すなわち、ジェンダー規範に収まりきらない、異形の「私」を……。そうした意味ではまさにアルカ的なクィアとしてのエレクトロニック・ミュージックなのだが、ソフィーはさらに過激にポップ・ミュージックとの接続を実践する。もっともキャッチーな“インマテリアル”はあからさまなマドンナ“マテリアル・ガール”への言及だが、そうした(チージーな)ポップ・ミュージックこそがクィアである自身のある種のシェルターとして機能したことを仄めかすのである。エモーショナルに歌われる彼女の内面とジェンダーの揺らぎ。本作はアヴァンとポップが限りなく不可分に混ざり合った2018年を象徴する一枚だが、それは同時に、自己表現がひとつの側面だけでは不可能になった時代をも示しているだろう。つまり、わたしたちはいまや終わらない揺らぎと大胆なメタモルフォーゼが常態化したときを生きているのだと。(木津毅)

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25. V.A. / Black Panther: The Album

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本作の正式なタイトルは「Black Panther The Album Music From & Inspired By」。つまり、「映画『ブラック・パンサー』に提供した曲とインスパイアされた曲の楽曲集」。チャイルディッシュ・ガンビーノの音楽的パートナーでもあるルドウィグ・ゴランソンが手がけたスコアの正式なサウンドトラックは別に存在している。これはマイク・ウィル・メイド・イットがプロデュースした『Creed II:The Album』でも踏襲されるなど「流行り」のやり方となったが、重要なのは本作の場合それがスポンテニアス(自発的)なものであったことだ。映画の完成前に作品のラッシュを見る機会を得たケンドリック・ラマーは、直感的にこの映画の持つ歴史的意義に気づいて、依頼されていた「いくつかの劇中曲」のプロデュースだけではなく、1作丸ごと映画に捧げた「アルバム」を急遽仕上げることにした。そうした事情をふまえるなら、各曲の熱量の高さは別として、アルバムを通して聴いた時の散漫さも仕方がないこと。それ以上に、映画『ブラック・パンサー』がカルチャーと政治を横断する一大ムーブメント(なにしろアメリカでは『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』でさえ本作の成績を超えられなかったのだ)となる際に果たした本作の役割は大きかった。「愛。そうだ、愛について話そう」(「オール・ザ・スターズ」)。映画『ブラック・パンサー』がそうであったように、そしてアメリカン・ブラック・カルチャーのすべてのルーツにある黒人霊歌がそうであったように、これは祈りの作品だ。(宇野維正)

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24. Camila Cabello / Camila

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「この曲をドリーマーたちに捧げる」。故郷ハヴァナへの想いを軽快に綴ったラテン・ソング“ハヴァナ”のMVは、そんなメッセージで締め括られる。幼くして親と共に不法入国した若者たち、通称「ドリーマー」を国外追放しようとしたトランプ政権への怒りも滲む同曲を皮切りとして、カミラ・カベロはキューバ系アメリカ人女性としての出自をモチーフとしたソロ・アルバムを作り、世界各地で反移民感情が渦巻く2018年にリリース。そして、この極めて私小説的なデビュー作『カミラ』は見事に全米チャート1位を獲得している。このチャート・アクションはかつて所属していたガール・グループ=フィフス・ハーモニーでも成し遂げられなかった快挙であり、カミラは名実ともにそのキャリアハイを更新してみせたのだ。空前のラテン・ブームをさらに決定づけたこともさることながら、ラップ・ミュージック隆盛の北米メインストリームにメロディとハーモニーの可能性をあらためて示したという点でも、本作が残した功績は大きい。(渡辺裕也)

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23. Yves Tumor / Safe in the Hands of Love

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2018年はエクスペリメンタル・ミュージックが様々な色の華を咲かせた一年だ。アルカ以降のインダストリアル・サウンドをUSメインストリームにも通ずるブライトなポップ・ソングとして機能させることで新時代を開拓するソフィー、古楽的な音色を取り入れつつエクスペリメンタルなビート・ミュージックを突き詰めたヴェッセル、ポップ・ミュージックを極限までドローン~アンビエントに近似させたワンオートリックス・ポイント・ネヴァーをはじめ、至る所でエクスペリメンタル・ミュージックの再定義が試みられた。その中でもとりわけ異質だったのが、トリップホップ~アブストラクト・ヒップホップ的なビート・ミュージックに、電子音響や90sオルタナティヴ・ロックを散りばめながら圧倒的なエクスペリメンタル・ポップを作り上げたイヴ・トゥモアだ。ある意味では90sリヴァイバルの産物と捉えることも可能な本作は、イヴ・トゥモアのワークスの中で最もヴォーカルやビートが際立っている作品なのだが、その理由の一つとして考えられるのは共同プロデューサーにジャスティン・レイセンを招いたことだろう。スカイ・フェレイラやチャーリーXCX、アリエルピンクやエンジェル・オルセンと仕事をしてきた彼が、イヴ・トゥモアのサウンドが持つキャッチーな魅力を引き出したのではないだろうか。エクスペリメンタルであろうとする音楽が大衆性と交差した時に放つ、唯一無二の輝きがここにはある。(八木皓平)

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22. Troye Sivan / Bloom

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南アフリカのヨハネスブルグで生まれ、オーストラリアで育ったゲイ。かつては「アウトサイダー」と呼ばれたであろう出自は、もはやさして奇異なものではなくなった。俳優、YouTuber、シンガーソングライターというマルチな活動も、今やごく普通のことのように感じられる。その破格さからどのコミュニティにも属せなかったマイケル・ジャクソンが、それ故に「誰もが共感できるポップ・スター」だったとしたら、トロイ・シヴァンは「世界中の誰もが彼のように生まれていたかもしれない」という「可能性」であり、「憧れ」であり、それと同時にそうではなかったという「安堵」の対象だ。前作よりもダンス・ポップにフォーカスを定めながらも、どこか所在無さげにビートを強調しない本作のプロダクションは「インディ・メインストリーム・ポップ」とでもいった印象で、トロイ・シヴァンという存在を何よりも雄弁に表現しているようだ。誰もが既視感を覚えながらも、名前を知らない音楽。それはなんとエキサイティングだろうか。そして、それは「メインストリーム・ポップ」の代表格であるジャスティン・ビーバー『パーパス』にも同じことが言える。(照沼健太)

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21. Johnny Greenwood / Ost: Phantom Thread

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『ファントム・スレッド』の監督であるポール・トーマス・アンダーソンは、本作の劇伴について「これはサウンドトラックじゃなくミュージカルなんだ」と言っていたらしく、これまで以上に劇伴に力を入れていたようだ。1950年代のロンドンに住む主人公、レイノルズ・ウッドコックのキャラクター像を意識しながら、映画の雰囲気に合うような音楽を連想し(ビル・エヴァンス、グレン・グールドのバッハ、ネルソン・リドル等)、それをメシアンやペンデレツキの影響下にあるジョニー・グリーンウッドの劇伴技術に溶け込ませることでオーケストレーションが形作られている。その劇伴が、“マイ・フーリッシュ・ハート”や“マイ・シップ”といった往年の名曲や“勇敢なるスコットランド”、“オールド・ラング・ザイン”のようなスコットランド民謡と共に響くことで、『ファントム・スレッド』の世界観は完成した。作曲家のマウリシオ・カーゲルが映像と音楽の組み合わせを様々なレベルで実験した結果、「どれも上手くいく」という旨のことを言っている。全てではないかもしれないが、たしかにたいていのものは適合するといって差し支えないだろう。だからこそ映画音楽の決定は難しい。その困難に対して、至極真っ当に考証と研究、そしてイマジネーションを積み重ねて解答を出すポール・トーマス・アンダーソンとジョニー・グリーンウッドのコンビネーションの充実が本作にはある。(八木皓平)

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