SIGN OF THE DAY

2018年 年間ベスト・アルバム
31位~40位
by all the staff and contributing writers December 31, 2018
2018年 年間ベスト・アルバム<br />
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40. Ella Mai / Ella Mai

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デュア・リパの躍進が突破口となり、2018年は英国出身のフィメール・シンガーが次々とアメリカ進出を果たすことになった。なかでも「2018年最大のシンデレラ・ストーリー」と称されたのが、エラ・メイの大ブレイクだ。インスタグラムに投稿したポップ・ソングのカヴァーがたまたまDJマスタードの耳にとまり、そのマスタードのプロデュースで彼女はEP3作をリリース。すると、3枚目のEPに収録されていた90’sライクなR&Bソング「ブード・アップ」の評判がじわじわと拡がり、気がつけばこの曲は北米チャート5位に到達。その後もブルーノ・マーズがツアーのオープニング・アクトに彼女を抜擢し、つづくシングル「トリップ」が全米11位、デビュー・アルバム『エラ・メイ』も全米初登場5位にチャートインと、その快進撃はとどまることを知らない。エラが無名の新人だったのもさることながら、「アメリカでは売れない」とも言われてきた英国産R&Bがここまで爆発的にヒットしたこと自体、あまり前例のない出来事だし、このセンセーションが来年以降のシーンにも影響をもたらすのは、まず間違いないだろう。ラップ・ミュージックが全米チャートを席巻した2018年。ここにきてオーセンティックなR&Bに脚光が集まりつつあることを、このシンデレラ・ストーリーはたしかに示しているのだ。(渡辺裕也)

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39. Jorja Smith / Lost & Found

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エンタテインメントの中心地であるLAを擁するアメリカに対し、イギリスの音楽はどこか「辺境」めいたところがあった。少なくともヨーロッパが主戦場であるダンス・ミュージック、ビートルズやレッド・ツェッペリンといった征服者がいたロックはともかく、R&Bやヒップホップにおいては間違いなく「辺境」だった。しかしUKシーンから積極的に新しいサウンドをディグし続けているドレイクを先頭に、北米シーンとイギリスはクロスオーヴァーを見せはじめている。ドレイク『モア・ライフ』収録曲2曲、そしてケンドリック・ラマーがキュレーターを務めた『ブラックパンサー:ザ・アルバム』に参加した弱冠21歳のイギリス人シンガーであるジョルジャ・スミスは、そんな流れを象徴するアイコンの一人となるだろう。ソウル・シンガーである父の元に生まれ、レゲエ、R&B、ヒップホップなどを聴いて育ち、エイミー・ワインハウスに影響を受け、11歳から作曲を始めたジョルジャ。彼女が16~21歳までの楽曲から、レーベルが収録曲を選んで作られたというこのデビュー作は、声、歌唱力、ソングライティング力といった彼女のパラメーターの高さを示す見本市かのようである。どの曲にも耳を引くフックがあり、心を震わせるフィーリングがある。そしてブルージーなトーン、上品なコーラスワーク、ブーンバップなビートなどからは、ローリン・ヒル『ザ・ミスエデュケーション・オブ・ローリン・ヒル』やディアンジェロ『ブラウン・シュガー』を連想させられ、本作にタイムレスな感覚を与えているかのようだ。ただ、それが一方で、2018年の作品としては80点といったニュアンスを生んでしまっている印象も否めない。無論、高品質な作品なのは間違い無いのだが、彼女のポテンシャルは80点に収まるものではないように思える。世界のトップ・アーティストたちとの邂逅の影響や、あまりにも素晴らしかった〈サマーソニック〉でのパフォーマンスを作品にパッケージできれば、一気に何かをひっくり返すような音楽が出来上がるのではないだろうかと期待したい。(照沼健太)

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38. Iceage / Beyondless

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「コペンハーゲン発」というだけで耳目を集めた時期は過ぎ、一方でクロアチアン・アモルやピュース・マリーといった〈ポッシュ・アイソレーション〉縁の作家がイヴ・トゥモアの新作に参加するという話題もあった2018年。そうしたなかアイスエイジという存在は、本国のみならず、それこそシェイムら近年のサウス・ロンドン勢においてもロールモデルたる影響力を認めることができる。初期のポスト・パンク然としたスタイルをへて、ルーツ音楽やアメリカーナ的な振れ幅も披露した前作から4年。4作目となる本作は基本的にその延長にあるものの、ソングライティングや演奏、プロダクションに至るすべての熟度は底上げされた印象だ。とりわけ弦楽器の重厚なアレンジメントは、ヴォーカルのエリアス率いるマーチング・チャーチ(あるいは〈PI〉界隈で顕著なポスト・クラシカルの台頭)の反響も窺わせる本作のシグニチャー。加えて、サン O))やボリスの諸作を手がけたランドール・ダンによるミキシングがスラッジ/ドゥーム・メタル的なロウネスを引き出している。このロックンロール・バンドとしての「大文字感」さえ漂わせた貫録の前では、スカイ・フェレイラとのデュエットなど些末なフロクに過ぎない。(天井潤之介)

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37. Sons of Kemet / Your Queen is a Reptile

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「我々は移民の子どもたちだ」――本作でフィーチャーされている詩人のジョシュア・アイデヒンはトレーラー映像で高らかに宣言している。これは移民の子どもたちの音楽である、と告げる。だがそれを示すのは言葉以上に何よりも、変幻するリズム、リズム、リズムだ。カリブ海のソカやカリプソのリズムが乱打されるのは、サンズ・オブ・ケメットの中心人物であるサックス/クラリネット奏者シャバカ・ハッチングスがバルバドス出身であることに由来している。それがアフリカのビートとぶつけられ、混ぜられ、狂おしく咆哮するサックスと躍動するテューバとともに狂熱のダンスを生み出していく。曲タイトルの「我々の女王は」のあとにすべて黒人女性の名前が入っているのは彼女たちによって自分たちのコミュニティが支えられていると「History(歴史)」から「Herstory(歴史)」への大胆な書き換えを画策しているからで、そして、英国のサウンドシステム文化のもとで混血とディアスポラのジャズ音楽を祝福する。今年、南ロンドンのジャズにアクチュアリティがあることをコンピレーション『ウィ・アウト・ヒア』とともに見事に証明した一枚。それはたんなる流行りなどではなく、ここに移民の子どもたちの生命力が迸っているからだ。(木津毅)

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36. Jean Grae & Quelle Chris / Everything’s Fine

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90年代半ばから活動を続け、タリブ・クウェリのレーベルと契約していたこともあるブロンクス育ちのラッパー、ジーン・グレイ(なんと父親はジャズ・ミュージシャンのアブドゥーラ・イブラヒム!)と、ダニー・ブラウン『XXX』にはプロデューサーとして参加していたデトロイトのラッパー、クエレ・クリスの二人が、5年にわたり様々なコラボを重ね、結婚後に出した初のアルバム。ジャケのイメージ通り全体に普段着感覚が生きている。日頃の挨拶で近況を訊かれたら(表題となった)“エヴリシングズ・ファイン”と紋切り型で答えたり、現状に満足しているように振る舞うしかないほど、呆れてものが言えないトランプ政権下の日常に燻る問題を、ユーモア(人気のハニバル・バレス以下コメディアン数名が参加)と軽妙なフロウを武器にした楽曲に持ち込んでいる。曲によっては、米建国史まで射程にいれ、警察による暴力行為や人種差別を含むポリティカルな問題に踏み込むこともある。そして、それらが、それこそ90年代後半のNYアンダーグラウンドっぽいビートから、ローファイなGファンクやら、終盤のサンプル&ループ主体のメロウなもの、あるいはそれらにサックスの即興を被せたもの、さらにはドリームポップにヒントを得たようなトラックに至る雑多なサウンドと、パッチワークのように組み合わさっている。ケンドリック・ラマーとの共演で知られるアナ・ワイズも2曲で参加。(小林雅明)

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35. Robyn / Honey

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彼女をユーロ・ポップ・クイーンの地位へと押し上げた前作『ボディ・トーク』から早8年。その間にドラマ『ガールズ』で“ダンシング・オン・マイ・オウン”が使われ、アメリカでも大ヒット。ある意味ロビンは女子カルチャーで特別な位置を占めてきました。ロードはライブ時、ピアノにロビンの写真を置き、チャーリー・XCXも彼女が開いたドアについて言及。強烈な傷心をダンスビートに乗せた“ダンシング~”を筆頭に、それは激しいエモーションをポップ・ソングの中に吐露するフォーミュラとなったのです。そうしたフェーズを経ての本作『ハニー』は、パートナーとの別れや友人の死を経験した後のレコードでありながら、柔らかく、温かく、センシュアルな空気がある。それはロビンがひとり自分と向き合い、またクラブ通いを始めて、ダンスフロアの恍惚を見つけたからこそ。「疑うのはやめて、イエスと言って/体をそれに浸して/必要なものはけっして手に入らない/ベイビー、でもあなたの欲しいものを私は持ってる/あなたのハニーを取りにきて」(“ハニー”)。音数はより少なく、音色はより艶やかに、蜜のように心と体を癒す音楽。新たに加わったコラボレーターはメトロノミーのジョセフ・マウント、カインドネスら。この内省的なダンス・ポップは前作のような大成功は収めないでしょう。でもこれはつねにパーソナルなヴィジョンに従い、他の女性アーティストに道を開いてきたアーティストにふさわしい一作です。(萩原麻理)

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34. Chvrches / Love Is Dead

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この世界には「今ではメンバーが失敗作と認めている作品」と解説されるレコードがいくつも存在している。思いつく限りそうした作品群を並べてみて欲しい。きっと、それらの作品の多くに「ポップ化」という共通項が見つかるのではないだろうか。「ポップ化」にはいくつかの理由が考えられる。まずは「商業的要請=セルアウト」。新作が売れなければレーベル契約を切られてしまうというネガティブな状況や、人気が上昇してきたので次でブレイクしたいなどといった思惑から来るものである。続いて「時代の要請」。チャートを賑わせるメインストリーム・ポップが音楽的冒険をリードしている時代においては、非商業的アティテュードを持つ(とされる)アーティストがそうした音楽性を取り入れることは少なくない。決してどちらもそれだけで非難されるべき理由ではないが、アーティストのキャリアを俯瞰した場合、これらの試みは「一時的な迷い」と扱われてしまいがちである。そして「ポップ化」最後の理由は「実ははじめからポップな音楽をやりたかったけど、テクニックや機材の不足などにより勝手にヘタウマやアングラになっていただけ」というもの。アーティストが本来持っていた音楽的志向がついに結実しポップなレコードが出来上がった場合、そうした作品の多くは代表作の一つとして数えられるようになる。チャーチズ3枚目のアルバム「ラブ・イズ・デッド」は、これまでのセルフ・プロデュースから一転し、アデルやベックを手がけてきたグレッグ・カースティン、エド・シーランとの仕事で知られるスティーヴ・マックをプロデューサーに起用。チャーチズらしいシンセ・ポップ、エレクトロ・ポップ的な方向性はそのままに、よりソングライティングとプロダクションにフォーカスすることで、自らの持ち味を殺すことなくテイラー・スウィフトやザ・チェインスモーカーズといった名前が浮かぶほどメジャー感のある作品に仕上げてきた。1stアルバムにあって本作にない魅力も否定はできないが、本作は彼女たちの代表作となるであろうレコードだ。そもそもチャーチズというバンドの素性が2018年のポップ・ミュージックを取り巻く状況と好相性だったし、ローレンの力強いアティテュードが芯にあるからこそ挑戦できた試みかもしれないが、この「ポップ化」はきっと多くの悩める音楽家にとって一つのヒントとなることだろう。(照沼健太)

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33. The 1975 / A Brief Inquiry Into Online Relationships

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今、このThe 1975というバンドほど、音楽エリート的な聴き方をするリスナーの神経を痛快に逆なでするバンドもいないだろう。これまでも彼らは、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドやジョイ・ディヴィジョンなどではなく、あえてプリファブ・スプラウトやインエクセスのような80年代の忘れられた好バンドにスポットを当てたポップ・センスやスター・アピールで、現状の凝り固まったインディ・ロックのクリシェを大胆に壊してきた。そして、今作はなんと「名作を作る」と予言までして、またも誰も作らないようなものを作ってきたのである。ここで展開されているのは、前作までのマニアックな80年代路線に加え、『キッドA』時のレディオヘッド的なグリッチ・テクノに、チャンス・ザ・ラッパー顔負けのネオ・ソウル仕様のR&Bトラック、フォーク、ジャズ、そしてメロウなギター・ロックまでを横断したもの。トラップやトロピカル・ハウスといったミレニアム・キッズへの「撒き餌」も上手く配置している。加えてリリックは、ネットの世界におけるコミュニケーションの問題を若者目線で深く抉るという手の込んだもの。ポップと実験性の均衡を保ちながら今の時代を象徴し、ジャンルと時代を横断する――これらは「名盤」というものに普遍的に必要な要素であるが、このアルバムはそれを網羅してみせた。しかもスノッブな連中が「俗」として切り捨てる部分もあえて含んだままで。これにはヘイターが思わず掌返しをしたのも無理はない。(沢田太陽)

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32. Thom Yorke / Suspiria (Music for the Luca Guadagnino Film)

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2010年代はホラーのディケイドだ。“ホーンテッド”の冠がつくアンダーグラウンドのエレクトロニック・ミュージック、いくつかのゴシック・インダストリアル、デヴィッド・リンチの再浮上、『ストレンジャー・シングス』などポップとしてのホラー・リヴァイヴァル、そして現在取り沙汰されるインディペンデント発の「ポスト・ホラー」などなど……挙げればキリがない。しかしトム・ヨークは伝説的カルト・ホラー『サスペリア』のモダナイズのために単純にトレンドに与したわけではなく、これまでも『ボディスナッチャーズ』や『ウィッカーマン』などカルトなホラー映画からインスパイアされてきたのと同じようにして、彼がずっと取り憑かれている恐怖を優雅に物悲しく奏でる。映画音楽家としてすっかり堂に入ったジョニー・グリーンウッドの近作に比べて現代音楽やポスト・クラシカル、ドローン/アンビエントへのアプローチが覚束ない部分はある、が、グリーンウッドにはないムーディな歌がトム・ヨークにはある。スコアが醸す現れては消える不穏な「気配」のなか、頼りなく震えるヴォーカル・トラックのフラジャイルな美は、現在もっとも才気走った映画監督であるルカ・グァダニーノによる異形のアート作をはかない情感で満たすことになった。そのホーンテッド・バラッドは、これまでやこれからと変わらず、孤独な響きを放っている。(木津毅)

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31. Superorganism / Superorganism

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31位~40位
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ウィキペディアによると、スーパーオーガニズムは「2017年初頭に結成された英ロンドン在住のインディ・ポップ・バンド」だそうだ。さて、この情報は本作を探るうえでどれくらい役に立つのだろう。というか、これってインディ・ポップなの? ニュージーランド、イギリス、オーストラリア、韓国、そして日本。出身地も年齢も性別も育ってきた環境も異なるメンバー8人が何かしらのきっかけで意気投合し、それぞれのアイデアをクラウド上に持ち寄ることから生まれた、この摩訶不思議な音楽を我々は何と呼べばいいのか。自分は未だにさっぱりわからないが、少なくともメンバーの集合知を重んじる彼らの組織論は、分業制を主流とする現在のメインストリーム・ポップに対する最良の回答だと思うし、何よりもこの作品を聴いていると、他者を表面的なバイオグラフィで判断することの愚かさにいつも気づかされる。「アイム・ノット・ア・ジャパニーズ!」。ヴォーカルのオロノ・ノグチがフジロックのステージ上でそう叫んだのは、もちろん自分が日本人であることを否定したかったからではない。国籍に関わらず、ひとりとして同じ人間はいないということ。お互いのバックグラウンドを尊重しながらコミュニケーションを取ることで、ポップ・ミュージックはさらに前進していけるということを、このアルバムは物語っている。(渡辺裕也)

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2018年 年間ベスト・アルバム
21位~30位


2018年 年間ベスト・アルバム
41位~50位


2018年 年間ベスト・アルバム
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