SIGN OF THE DAY

2021年 年間ベスト・アルバム
41位~50位
by all the staff and contributing writers December 30, 2021
2021年 年間ベスト・アルバム<br />
41位~50位

50. Willow / lately i feel EVERYTHING

2021年 年間ベスト・アルバム<br />
41位~50位

ポップ・パンク・リヴァイヴァルの象徴として鳴り物入りでリリースされたこのアルバムは「思ったのと違う」反応も引き起こした。黒人女性ロック・ファンへの差別的攻撃をいやというほど見てきたウィローが、R&Bアーティストとして活動するなか明かせずにいたパンク愛をめいっぱい叫ぶ「転身」アルバムであると予告されていたのだが、案外、流行りの王道ジャンル・サウンドが少なかったのだ。ポップ・パンクに宿る「苦悩まみれのティーン・パーティ」精神が軸ではあるのだが、総体的には、これまでも得意としてきたオルタナティヴな折衷モノに近い。実は、こうなった理由は、ウィローがパンク音楽をやってこなかった一因ともつながっている。いわく「自分の声はオルタナティヴで、特段ロックでもR&Bでもない」から、うまいバランスを模索する必要があったというのだ。崇拝するアヴリル・ラヴィーンとのコラボ“G R O W”にしても「彼女のようにハードコアができない自分がやっていいものなのか」苦悶したという。中心に据えるのがR&Bでもパンクでもジャンル折衷サウンドに行き着いてきたのは、自身の声の置き方、活かし方を重視する音楽家として自然な帰結なのではないか。ゆえに、鮮烈な「転身」と喧伝されたこのアルバムは、さまざまなサウンドを混ぜ合わせてきたディスコグラフィと地続きと言えるし、外野のブームなど関係なく、これこそがウィローのポップ・パンクだと言える。(辰巳JUNK)

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49. Slowthai / Tyron

2021年 年間ベスト・アルバム<br />
41位~50位

ああ、イライラする。どいつもこいつもスロウタイがこの2ndアルバム『タイロン』で見せる二面性の発露と内省には優しいというのに、カニエ・ウェストを小馬鹿にしているじゃないか。歩道橋で飲み干したガラス片が浮かぶ薄いビールも、誰かの残業が生んだ光を浮かべた白ワインも、俺の人生にとって矛盾はない。見知らぬ誰かの不幸に涙することも、たまにRTされて来る面識ないアカウントにヘイトを重ねることも、あなたにとってどちらも自然な感情ではないのか? スロウタイがまだワン・アウトなのに対し、カニエがとっくにスリー・アウト・チェンジ、いやドロップしているせいか? ……いや、そういう俺自身が、スロウタイについての原稿をこうして書いているのにも関わらず、カニエ・ウェスト『ドンダ』については満足に書けずにいる。やはり両者には決定的な違いがあるのだろう。リリックにおいて深く深く潜っているように見えるのはスロウタイだ。しかしカニエの表現にはまともに向き合うと帰ってこれなくなるような、どこまでも光を飲み込んでしまう真っ黒な空虚がある。あるいはそれは鏡なのかもしれない。そう、お前は夢の中で人を殺したことはあるか? 家族を殺したことはあるか? もしそれが自分の本性だったらと考えたことはあるか? もしそんな経験がなくても、目の前で優しく微笑む愛しい恋人、友人、先輩、恩人、誰でもいい、彼らに手元にあるグラスを投げつけてみたいと衝動に駆られたことはあるはずだ。思ってもいないひどい言葉で傷付けてみたいと思ったことはあるはずだ。彼らの笑顔が曇る瞬間を想像し、お前は未遂の罪に心を震わせる。自分を存在しない罰で傷つける。だが正気を保たなくてはならない。失ってはならないものがある。……けれども、破壊衝動と知性は相反するものなのか? ……いや、正気を、正気を保たなくてはならない。誰にもイライラなんてしたくない。誰も彼も優しさで包まれてほしい。お前はきっとそんなことを必死で考える。俺と同じように。(照沼健太)

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48. ROTH BART BARON / 無限のHAKU

2021年 年間ベスト・アルバム<br />
41位~50位

初期2枚のアルバムの時点で既に一度完成していた新世紀のフォーク・サウンドを改めて解体し、インディ・ロックという言語の世界的な衰退と再生に歩調を合わせるようにサウンド・プロダクションに磨きをかけ続けた結果として生まれた最高傑作――前作『極彩色の色彩』を経て、バンドが向かった先は純白のミニマリズムだった。勇壮な管楽器のリフやシンガロング・コーラスといった初期からのシグネチャー・サウンドは鳴りを潜め、怒りを押し殺し、殺気立った薄笑いを浮かべた静謐さが全体を支配している。「僕らは産声を/決してあげることはなかった」「どこまで/行けば/許してもらえるだろう」――。もはや日常的な光景となったサイバーブーリング。焚き付けられ、否応なく加担させられる世代間闘争や階級闘争。国家や行政のみならず市井の人々もまたコミュニティを守ることを理由に主体性を許容することなく、何かしらの従属を強いる――そもそも社会のどこにも自らが属する場所を見いだせなかった者たちの居場所のなさをパンデミックがさらに加速させた2021年。そんな荒んだ光景が広がる、光が消えた都市のしじまを彷徨う子供たちの物語。いくつかの場所でハーメルンの笛吹きのような身振りを見せもする三船雅也は、だが、「もう少しだけ/ここに/いたいんだ」と歌う。罪深き愚かな人類の一部であり続けることを自分自身に許してみせる。揺らいだビートと感情を抑えたミュート・トランペットの音色が耳を捉えて離さないアルバム冒頭の“Ubugoe”と、タイトルそのままのオリエンタルな意匠をまとった先行シングル“鳳と凰”は間違いなくクラシック。これから先も社会が君を許さなくとも、君はまだ当分の間、嗚咽を誘うこの場所を愛し続ける。性懲りもなく。(田中宗一郎)

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47. Summer Walker / Still Over It

2021年 年間ベスト・アルバム<br />
41位~50位

破竹の勢いで記録破り級の人気を築いたサマー・ウォーカーだが、どうも本人はR&Bの女王を夢見たこともなかったらしい。元々、ストリップと企業経営をしてきた働き者にとって、音楽活動は効率的な金稼ぎに過ぎなかったのだ。かといって実利主義者というわけでもなく、スピリチュアルにも熱心で、最近は占星術に凝ってるという。カーディBによる「金稼ぎ」格言で始まりシアラの祈祷で終わる本作の構成は、そんな彼女のバランスを表顕している。何より、煌めくアトモスフィア・サウンドに乗るのが、共作パートナーでもある男にまつわる愚痴の弾丸である。当人は「読み手を想定してない日記」と語ったが、言葉の濁流加減としては、積もり積もった怒りが衝動的に放たれては霧散するインスタグラム・ストーリーに近い。特に強烈なのが、実質クロージング・トラック“フォース・ベビー・ママ”のライン。「私のことクイーンだって言って回ってるけど、R&Bの女王ってだけなんでしょ」。妊娠中の彼女を放置した元彼に向けられているため尤もな言い分なのだが、敬愛する音楽ジャンル名を持ってきて、その王位まとめて切り捨てるような切れ味は流石。サマーも掲げている「痛みなくしてR&Bなし」精神を考えると、感情に基づいて「R&Bの女王ってだけなんでしょ」と歌うことこそリズム&ブルースに感じられるし、おそらく、そう歌えるからこそ彼女は女王になったのだろう。(辰巳JUNK)

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46. No Rome / It's All Smiles

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41位~50位

本作からは、ノー・ロームの紹介者でもあるThe 1975のエモとR&Bの折衷を感じるし、ノー・ロームと同世代にあたるムラ・マサのエモ・パンク化したクラブ・ミュージックも聞こえる。ノー・ロームと同郷であるマニラのインデ・スター、アイドレスの、ハンドメイドなインディ・ロマンスとも決して遠くはない。しかしながら、本作に最も近い作品は、ジョージ・クラントン2018年の傑出作『スライド』だ。ヴェイパーウェイヴの薄笑いを捨てて作り上げた『スライド』の奇妙な明るさは、太いビートとスクリューされた声と過剰なノイズ・アレンジを経て、ノー・ロームに通底する。馬鹿馬鹿しいほど陽気なのに、「今夜は一人で寝たくない」と悲痛な情けなさを表す。「君が恋しい、でも君がいない」と幼稚な嘆きを吐き出す。ダメ人間の泣き言にしか聞こえないリリック。それが何故か、絶対的な孤立のように響く。分厚い音の壁が、宇宙を漂流しつづける孤独のサウンドトラックとなる。『イッツ・オール・スマイルス』と『スライド』は、コズミック・ダンサーの冷たい侘しさを陽気に描き続けた、T・レックスの子供達なのだ。アルバムに『イッツ・オール・スマイルス』という名が与えられたのも、「ここは寒い、行かないでくれ」と繰り返す曲が“スペース・カウボーイ”と題されているのも、宇宙的な孤立を感じてしまう子供達の、救いなき連帯を表明するために他ならない。(伏見瞬)

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45. Rauw Alejandro / Vice Versa

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41位~50位

ラウ・アレハンドロの歌声に、彼の曲を偶然耳にしたザ・ウィークエンド好きの音楽ファンを惹き付けてしまうような成分があるのは、2020年の前作『アフロディシアコ』でも感じとれたが、この年はオールド・スクール・レゲトンのリヴァイヴァルがトレンド、アルバムはそれを如実に表すような客演陣で固めたものだった。その名残が本作では、ニッキー・ジャムfeat. ダディ・ヤンキーによる2001年“En La Cama”が20年の時を経てアップデートされた“La Old Skul”にある。だが、アルバムの1曲目に、サウンド面でレゲトン/ラテン・トラップ色を(敢えて?)除き、(ザ・ウィークエンドの一連のヒット曲のように?)80年代のダンス・ポップ・ヒットのチージーな要素を魅力に転じさせた“Todo De Ti”を置き(アルバムの中盤過ぎに出てくる“Desenfocao'”も同趣向だ)、生ドラムンベース風のパートがヴァースをつなぐ“Quando Fue”、客演のアニッサごと、ブラジルからバイレ・ファンキを持ってきた“Brazilera”で締め括られる。レゲトン/ラテン・トラップに軸足を置いたアーティストが、ラテン・ポップという、より大きな枠で、未来に向け、様々なポテンシャルを探ってみたようなところがある。ザ・ウィークエンド的な成分の増量も、その方策のうちのひとつなのだろうか。(小林雅明)

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44. Enny / Under Twenty Five

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41位~50位

エニタン・アデピタン。ナイジェリア系であることを示すバース・ネームを持ち、サウス・イースト・ロンドンで生まれ育ったエニーは、現在のUKラップ・シーンで注目を集めている。ネオ・ソウル調のビートにのせて報われない恋心を流れるようなフロウでラップしたデビュー・シングル“ヒーズ・ノット・イントゥ・ユー”(2020年)で早くも成功を収めた彼女は、その才能に惚れこんだジョルジャ・スミスにフックアップされ、シーンの最前線に躍り出た。決定的だったのはこの1st EP『アンダー・トゥウェンティ・ファイヴ』にも収録されている“ペン・ブラック・ガールズ”で、この曲では「ブラック・ガールズ」の多彩さが歌われる。「私の市外局番にはペン(セクシー)・ブラック・ガールズがいる/暗い肌、明るい肌、中間色/パーマにブレイズ、ミニ・アフロ/厚い唇にヒップ、そうじゃない子だっている/大きな鼻、そうじゃない子もいる/私たちをメディアに押し込めないでほしい/カーダシアンみたいな大きなお尻が欲しい?(ノー)/私のおばさんみたいな大きなお尻なら欲しいけど」。「黒人の女の子」のステレオタイプを優しく解体し、多様な美しさを肯定するその語り口は見事だ。女性がさらされる性暴力を主題にした“ケイシャズ&ブレンダズ”のようなヘヴィな曲があり、“セイム・オールド”ではブレグジットやジェントリフィケーションについてラップする(「ファック・ユー、あとあんたのジェントリフィケーションも」)一方で、エニーの流麗なフロウとストーリーテリングはどこまでも軽やかだ。「私はいなくなった人々の声を聞き、あなたはロンドンの声を聞いている」(“アンダー・25”)。「ブラック・ブリティッシュ・ガール」というアイデンティティ、そして「ロンドンの声」を表しているMCは今、彼女をおいて他にいない。エニーが仲間たちと築きあげているコミュニティ、〈ルート・73〉も重要である。(天野龍太郎)

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43. Benny the Butcher / The Plugs I Met 2

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41位~50位

表題にある「プラグ」とは、主に大口取引をおこなうドラッグの卸し売り業者のこと。アルバム・カヴァーは、映画『スカーフェイス』で、トニー・モンタナが彼にとってのプラグ、ソーサと面会し、手を結ぶ場面が、一部加工されたもの。これは、2019年の第一弾『プラグス・アイ・メット』のカヴァーのアイデアに準じたもので、今回の1曲目の表題は“ホウェン・トニー・メット・ソーサ”。ベニーに言わせれば、プラグと会うような過去を生きてくぐりぬけ、今の自分がある。それゆえに、自ずとコーク・ラップ(ドラッグ・ディールのあれこれを機知に富むリリックで表現)になっているだけで、決してドラッグ・ディール賛美ではないと表明(客演の2チェインズが「プラグがものを言う、まるでテスラ(Plug talks like Tesra)」とラップする”プラグ・トーク”でも)。よってコーク・ラップのマンネリ化を指摘する声は彼には全く無意味なのだ。とはいえ、今回は、グリゼルダのレギュラー陣に替わり、全曲ハリー・フロードのプロデュース。“ロンジェヴィティ”客演のフレンチ・モンタナに発見されてから10年以上のキャリアを持つフロードは、特に2020年から様々なラッパーと全曲制作のコラボ作品を出し続けている。彼の作る曲は、サンプルの比重が大きい(佐井好子の楽曲まで)が、ささくれだっていたり、エッジーな感触はないので、ベニーのラップを新鮮なものとして聴かせてくれる。(小林雅明)

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42. Dry Cleaning / New Long Leg

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41位~50位

フローレンス・ショウの無感情にも思える醒めたヴォーカルにやられたのは、オリジナル・ポストパンク世代だけではない。というか、オープニング・ナンバー“スクラッチカード・ランヤード”の「何でもやるけど、何も感じない」という感覚は、現代の都市に生きる若者たちに通底するフィーリングなのではないだろうか。ほかのサウス・ロンドンの若手バンドに比べてやや年齢が高いドライ・クリーニングは、サウンド的にはアメリカのノーウェイヴやイギリスのオリジナル・ポストパンクに似ているとこも多くあるが、ショウが呟きながら描く日常の俯瞰的な観察や何よりもそのイントネーションによって新しいナラティヴとムードを生み出している。ミニマルで乾いたドラムと対照的に存外に躍動するベース、叙情的によく歌うギターによるアンサンブルのアンバランスさは、日々に巻き起こる事象との距離を強調する。エモや大げさなメッセージから遠く離れているばかりか、「いま、ここ」のリアリティも希薄であることを醸すこの音楽は、パンデミック以降にゆっくりと薄くなっていく人間同士の繋がりともシンクロすることとなった。ただ個性的なアートを志して惑ってきた若者たちが、いくらかの偶然によって熱くもなく冷たくもない情感を表現することで、2020年代初頭の気分を見事に体現することに成功した一枚だ。(木津毅)

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41. Baby Keem / The Melodic Blue

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41位~50位

まずは“ファミリー・タイズ”だろう。『ザ・メロディック・ブルー』からの最後のシングルとしてリリースされたこの曲で、才能にあふれた若きラッパーと、彼の従兄弟で「グレイテスト・オブ・オール・タイム」と呼ばれるのにふさわしいリリシストが強烈なラップをかます。勇壮なホーンに導かれ、ビートは二度スウィッチし、コーラスもなく、2人はひたすらスピットする。ここ数年、〈pgLang〉を設立した以外に表立った活動をほとんどしていなかったケンドリック・ラマーは、「俺はパンデミックを避け、ソーシャルなからくりから逃れていた/にわかアクティビストとは付き合わない/俺はトレンドの話題じゃない」と吐き出す。評価経済社会における競争とラップ・ゲームにうつつを抜かす者たちへの攻撃はあのビッグ・ショーンの“コントロール”(2013年)に客演した際のヴァースを思わせ、「ケンドリックが帰ってきた」と思わせるのに足る曲である。そもそも、キームは、ケンドリックがラップするように「無から這い上がってきた」者だ。彼は、幼い頃に家族とグッドウィル(寄付によるリサイクル・ストア)で服を探し漁ったことを覚えている。“オレンジ・ソーダ”(2019年)とスクールボーイ・Qやジェイ・ロックの作品でのプロダクションで注目を集めたキームは、ついに、ここに見事なデビュー・アルバムを生んだ。従兄弟以上に多彩なフロウと発声を歌い分けるスキルとプロデューサーとしての手腕を発揮したこのカラフルなアルバムには、最低限のゲストしか招かれていない。「俺は松明を手にし、いいやつであることをやめた/闘うしかないんだ」(“トレードマーク・USA”)。カニエ・ウェストの『ドンダ』に参加し、ドレイクの“ワッツ・ネクスト”にフィーチャーされたということだけを取っても(後者はリリースされなかったが)、2021年における最重要プレイヤーである。(天野龍太郎)

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31位~40位


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