SIGN OF THE DAY

2016年 年間ベスト・アルバム
61位~70位
by all the staff and contributing writers December 24, 2016
2016年 年間ベスト・アルバム<br />
61位~70位

70. Klan Aileen / Klan Aileen

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ニューウェイヴ~ポストパンクというジャンルが、この世界に産まれ落ちてから現在に至るまで描き続けてきたモノクロームの風景は、いまクラン・アイリーンによって刷新される。このバンドの特徴として、ギター・ノイズを操る際の抜群のセンスが挙げられるが、それはあくまでも一要素でしかない。彼らが本当に卓越しているのは、ノイズの扱いも含めたアンビエンスのコントロールであり、風景の描写力だ。それは“Adrift”、“女の脳裏に”、“Fascism”といった長尺曲によく現れている。淡々と叩かれる反復的なスネアや、靄がかかったようなヴォーカル、ギターのアルペジオといった、一つ一つの要素が静かに変化する度に、楽曲が醸し出すアンビエンスがガラリと変わってゆくのだ。スロウコア~サッドコアや、USジャンクの要素が綺麗に溶け合うのではなく、原色のまま混ざってゆくような感覚には、ある種の懐かしさと現代性が同時に存在している。この、直観と論理の狭間をいくような稀有のバランス感覚が構築する世界では、あらかじめ感情や意味が排されているようにも聴こえる。熱狂も諦念も持たないこのサウンドを耳にした時、ふと思い出した作品が『キッドA』だ。(八木晧平)







69. Drake / Views

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デビュー当時からダウナーなビートに歌うようなフロウ、信用するのはごく近しい友人やファミリーだけ、過度にギャングスタを気取らずにとことん「個人」を掘り下げながら、ビターで甘酸っぱい恋愛話も得意……という「ドレイクイズム」を貫いてきた彼にとって真骨頂とも言えるのが本作だろう。MV(とドレイク本人のヘンテコ・ダンス)が社会現象といえるほどに盛り上がった2015年のシングル“ホットライン・ブリング”をもってしても届かなかった「全米No.1シングル」に到達したのが『ヴューズ』からのリード曲“ワン・ダンス”であり、その結果、アップル・ミュージックでのストリーミング回数や、セールス面においても桁外れの数値を叩き出した。“ハウズ・イット・ゴーイン・ダウン”や“ウェストン・ロード・フロウズ”などに見られる90年代チューンのサンプリングも素晴らしいほか、SNSでネタにされることをすでに見越したようなジャケット、レゲエ・シーンへの目配せなど含め、すべてが奇跡的なバランスかつ高クオリティに整った白眉作。最近は「流行を喰い物にしている(culture vulture)」との批判も少なくないドレイクだが、来年以降もどれだけデカい動きを見せるのか、期待が高まるばかりだ。(渡辺志保)







68. Ty Dolla $ign / Campaign

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タイ・ダラー・サインは、アメリカ大統領選挙の最中に放送されたMTVの音楽番組『ワンダーランド』で、「MAKE AMERICA WAVY AGAIN」というプラカードを従えて登場した。彼は、その際に歌っていた“ザディ”が表すように、ラップと歌とが酩酊の中で溶け合う近年のラップ・ミュージックのマーケットにおいて、後者を軸足としながら、前者にも踏み込むことが出来るヒットメイカーとして知られる。他方、今回の選挙にあたっては人気を活用して投票を呼びかけてきたし、“ザディ”を収録した9枚目のミックステープとなる本作でも、収監中の弟ビッグ・TCが歌う“ノー・ジャスティス”のアウトロで、「(ドナルド・トランプが言う)『MAKE AMERICA GREAT AGAIN』は『MAKE AMERICA WHITE AGAIN』だ」とスピーチしている。ただ、『キャンペーン』はフューチャーが参加した表題曲を始め、政治的というよりは享楽的な楽曲が中心であり、もしくは、Ty$が率いるアメリカ再建のためのキャンペーン(運動)とは、何よりも本作のような「WAVY(イケてる)」な音楽をつくることを意味するのだろう。(磯部涼)







67. M83 / Junk

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例えば、80年代の日本の歌謡曲でも、同時期の英米のチャートのヒット曲でも、いいのだけど、そういう、かつて消費財のように広く大衆に行き渡ったポップ・ソングが、ふと耳に入ってきた時に湧き上がる「それにしても、この曲、サックスのブレイクや、ギターのソロ・パートが用意されていたり、いちいちストリングスやブラスが入っていたり、なんなのこの手のかけ方……」みたいな、ある種の感慨を、M83のアンソニー・ゴンザレスなりに楽曲化してまとめ上げたアルバムといったところだろうか。面白いことに、上に書いたような十把一絡げにされがちな音楽(それを「ジャンク」と呼ぶ人もいるだろう……)の多くは、むしろレコード音楽であることを想定して作られていたのに、それとは逆に、このアルバムの収録曲は、ライヴで演奏されることを一つの完成形として作られたのでは、と大編成の(ネット中継だったかの)ライヴを何度か観ながら思った。例えば、ダフト・パンクやマーク・ロンソンのようには、引用元を露骨に示す態度はとっていないこともあり、ここでは、ノスタルジー(80年代回帰の誘惑)よりも、方法論のほうが、よほど優位にあると思えるのだが。(小林雅明)







66. Car Seat Headrest / Teens of Denial

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本作を、ペイヴメントやモデスト・マウスといった固有名詞を引き合いに出して愛でることは容易い。実際、今の成熟しきったポップ音楽の時代にこの音楽を聴いていると、うっかり「インディ・ロックの良心」なんて言葉が口を衝きたくなる誘惑に駆られてしまう。けれども、本作がとりわけ「インディ・ロック」のファンの間で熱い支持を集めたことを、単にノスタルジックでセンチメンタルな行為のようなニュアンスで片づけてしまうことはしたくない。現在はシアトルで活動する元ベッドルーマーの24歳の青年が、バンドキャンプを通じた12枚の習作(と去年の正規デビュー作)を経て、初のバンド録音を試みた本作。はたして、かつてそうだったように、「インディ・ロック」を今一度若者の成長譚のようにして聴くことはできるのか。あるいは、本作のタイトルが伝えるティーンの否定や反抗心といった態度を、(ラップやヒップホップではなく)ロック・ミュージックを通じて示そうとすることは今でも有効なのか。この青年が踏み出した一歩は、その大いなる実験であり、こう言ってよければ、ロマンである。(天井潤之介)







65. Red Hot Chili Peppers / The Getaway

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出だしの3曲を聴けば、少なくとも5年前の前作『アイム・ウィズ・ユー』よりか本作がグッドな作品であることがわかる。いや、ジョン・フルシアンテが復帰した2枚と並べても、2000年代以降のアルバムの中ではベストと言っていい出来かもしれない。その要因とは勿論、20年以上彼らをプロデュースしてきたリック・ルービンに代わって新たにその職を務めた、デンジャー・マウスことブライアン・バートンの存在。ナールズ・バークレイやゴリラズでの仕事は言わずもがな。黒子としてブラック・キーズをUSモダン・ロックの中央へと導き、何より『モダン・ギルト』でベックを再生させた辣腕が、とうに「アがった」はずのビリオネア・バンドの手癖を叩き直すことに成功している。余白を活かし、楽器の一音一音の造形を際立たせるようなミニマルで微に入り細を穿ったプロダクション(とナイジェル・ゴドリッチのミキシング)。ぐっと引き締まり、重心を落として低く構えたリズム隊が牽引する演奏は、無骨ながらとてもグルーヴィだ。円熟の先にブレイクスルーを手繰り寄せたという意味で、イギー・ポップの『ポスト・ポップ・ディプレッション』の次点につけたい意欲作。(天井潤之介)







64. BAD HOP / ALL DAY

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「正直言ってオレたちが流行らせたよ、この街にヒップホップを」。12月13日、クラブチッタで行われたBAD HOPのワンマン・ライヴの終盤、リーダーのT-PABLOWは言い退けた。その姿を、フロアを埋め尽くした若者たちが輝いた目で見つめる。彼はフッド・スターであり、ポップ・スターなのだ。実際、今、川崎区の中学校では校内放送でBAD HOPの楽曲がかかるし、公園のサイファーではみなT-PABLOWの言い回しを真似る。2016年、日本は空前のラップ・ブームに包まれた。ここまでラップが根付いているのはまだ川崎区ぐらいだとしても、ブームのきっかけとなった〈高校生ラップ選手権〉の初代優勝者が同区出身のT-PABLOWだということから考えると、この小さな街が日本の近未来の姿を示していると言って過言ではない。一方、フリースタイルに興味が偏った日本のラップ・ブームはローカルだと指摘されるが、BAD HOPの楽曲のスタイルはグローバルだ。5枚目のミックステープとなる本作も、初期に彼らを印象付けたけたたましいドリルから、旬の陶酔的なトラップまで、まるでモードのショーケースのよう。それでいてオーセンティックに感じられるのは、バックグラウンドの過酷さも関わっているだろうし、もしくは、彼らのプロデュース能力についても語られるべきだろう。これは川崎の生々しいストリート・ミュージックであり、日本の近未来のポップ・ミュージックなのである。(磯部涼)



63. Bruno Mars / 24K Magic

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先行カット“24Kマジック”は、マーク・ロンソンと一緒に演った“アップタウン・ファンク”の延長線上にある曲だが、“パーム”と併せて聴くや、歌詞の語彙の感覚からいっても、もう完全に自分の中のジェイムス・ブラウンを引き出したかったという感じだ。ただ、この曲が不可思議な印象を残すのは、ベース・ラインがボビー・ブラウンの“マイ・プリロガティヴ”のそれを思わせ、さらに、“フィネス”が驚きの正調ニュージャック・スウィングで、バラードも、当時ボビーをバックアップしたベイビーフェイス&LAリードの作風に倣ったもので、ジェイムスではないほうのブラウンも、マーズの中に息づいていることもわかるし、確かに、今の彼には人気絶頂期のボビーに匹敵するセックス・アピールもある。やや飛躍すれば、彼のオリジンは、ホワイトでもブラックでもなく「ブラウン」であるから、ブラウンのポップ・スターとしての誇りも伝わってきそうだ。また、本作の起点が“トレジャー”で、それが『アンオーソドックス・ジュークボックス』の一曲に過ぎなかったことを思い出すと、本作に塗り込まれたのは、ブルーノ・マーズが有する中の、ほんの数色にすぎないことになる。(小林雅明)







62. Savages / Adore Life

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こりゃボビー・ギレスピーがメロメロになるわけだ。ジョイ・ディヴィジョンやスージー&バンシーズを引き合いに出された「ザ・ポストパンク」なデビュー作を経て、サヴェージズが辿り着いたのは、PJハーヴェイ×ニック・ケイヴ×ブラック・サバスの世界。そして中低域にピークを感じるモコっとしたプロダクションとヴードゥーな雰囲気はファット・ホワイト・ファミリーとの共振も感じさせるのだが、つまりはそれってドアーズだ。ハードコアとポストパンクの残り香を漂わせながらオーセンティックなロックに接近し、愛をテーマとした作品を作り上げたという意味では、以前から比較されていたアイスエイジと同じ道を歩んでいるようでもある。あちらは「男性」で非英米、こちらは女性で英国人という違いはあるが、どちらも帰る場所を持たない者たちである。「ポスト真実」なんて言葉が現実味を持つ、この明日さえ見えない世界で、正気を保って生きていくためには「強い愛」と「向こう側」を寄る辺とするしかないのか? しかし愛とは理性と知恵と行動のことでもある。逃げるは恥なのかもしれないが役に立つ。つまりは、これがポップ・ミュージックなのだ。(照沼健太)







61. BJ The Chicago Kid ‎/ In My Mind

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あくまでもケンドリック・ラマーの『セクション.80』(2011年)用の曲として作られながら、このBJ・ザ・シカゴ・キッドのデビュー・アルバムにあたる前作に収録された共演曲“ヒズ・ペインII”では、篤い信仰心と、現実逃避のための酒やドラッグの利用との狭間で悩んでいたけれど、さすがに5年を経た本作では、悩んでなくはないけれど、ケンドリックとの“キューピッド”では、愛について深く考えてみたり、さらに、セックスの昇天と天国とをかけている曲(チャンス・ザ・ラッパーとの共演曲“チャーチ”)もあり、精神的な成長を見せている。BJは、既に15年ものキャリアを持ち、ラッパーとの共演は多いものの、俗にいうストリートっぽさではなく、「聖と俗との間で揺れる」自分に素直な、という意味での「リアル」な歌を、しかも、それを、ときおり、サム・クックやスモーキー・ロビンソンの面影がスッと立ち上がってくるような歌唱で堪能させてくれる。ジェイムス・ブラウンが“イッツ・ア・マンズ・マンズ・マンズ・ワールド”で歌った真意(女性への最大限の感謝)を、明快に歌い上げた“ウーマンズ・ワールド”で見せる誠実さも、この人ならではのもの。(小林雅明)







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