いや、ジャック・ホワイト死んでないだろ! と、タイトルを見て突っ込みたくなるのは十分承知。でもやっぱり、ちょっと動揺させられたじゃないですか? 今年の〈コーチェラ〉でヘッドライナーとして貫録のライヴを見せつけた後、数本のアコースティック・ギグを開催したのを最後に、ジャック・ホワイトがわざわざ長期間のライヴ活動休止を宣言したことには。
だって、ジャック・ホワイトと言えば、ゼロ年代前半にロックンロール・リヴァイヴァルの一翼として発見され、ブルーズやリズム&ブルーズに根差したオーセンティックなロックをモダナイズしてきた張本人。今や名実ともに、現代のロックの覇者。70年代のレッド・ツェッペリンやフーにも勝るとも劣らない存在。とりわけ、本人が徹底的にこだわってきたライヴの凄まじさは群を抜いています。そんなジャックのライヴ・サーキットやフェスの現場における不在は、間違いなく大きい。まあ、この手の“宣言”はアーティストの気まぐれですぐに撤回され、また何事もなかったかのようにライヴを始める可能性も十分にありますけど。
ジャックの不在が5年なのか、10年なのか、永遠なのか、一週間なのかわかりません。しかし、このタイミングでアラバマ・シェイクス3年ぶりの新作『サウンド&カラー』が全米初登場1位を奪取したというニュースには、偶然以上の何かを感じなくもない。だって、どう考えても、10年代ロックの覇者のバトンをジャックから受け取り、さらに次の時代へと推し進めていくのは、アラバマ・シェイクス以外には考えられないんですから。いや、だから、ジャックは死んでないっつーの!
でも真面目な話、アラバマ・シェイクスの新作は、かなりすごいことになっているんです。とにかく、まずは一曲聴いてみてください。ぶっ飛びますよ。
アメリカの片田舎のガレージで乱暴に掻き鳴らされていたレトロ・ソウル――といった1stアルバム『ボーイズ&ガールズ』の印象はどこへやら。わずか3年の間に劇的なスケール・アップを果たし、一気に洗練されたサウンドには、思わず耳を疑うほど。アメリカの人気番組〈レイト・ショー・ウィズ・デヴィッド・レターマン〉に出演した時の演奏を見ても、その成長は手に取るようにわかるでしょう。
いやー、すごい。やっぱり、各パートが抑制の効いたフレーズに徹し、音の余白を最大限に活かすことを意識するようになったのが大きいんでしょうか。相変わらず伝統的なリズム&ブルーズやソウルに根差しているんだけど、コンテンポラリーなR&B感も出てきたというか。おかげで格段に垢抜けて、グルーヴィになりましたよね。
〈コーチェラ〉で披露されたこの曲なんかには、最早、貫録すら漂っています。
“ドント・ウォナ・ファイト”と同じく、少ない音数で構成されたアレンジですが、だからこそブリープ音を想起させるベース・サウンドや、後半のダイナミックな展開が効いています。ピンと張りつめた空気を切り裂くブリタニー・ハワードのファルセット・ヴォイスにも引き込まれる。もうカーティス・メイフィールドかと――と言ったら、流石に褒め過ぎ?
せっかくなので、映像が公開されている曲を後二つほど。これなんて、コンテンポラリーなR&Bを通過したレッド・ツェッペリン、と言えなくもない。しかし、本当にスケールが大きくなったなー。
一方、アルバムのタイトル・トラックでもあるこちらは、美しく洗練されたソウル・バラッド。新作の特徴のひとつであるストリングスが、とにかく素晴らしい。
この4曲を聴いただけでも、アルバムがとんでもないことになっているのは予感出来るはず。彼らの1stは全世界で100万枚以上を売り上げ、グラミー賞で三部門にノミネートされるという破格の成功を収めたわけですが、それを超える結果が待っていたとしても、何もおかしくはありません。アラバマ・シェイクスのファンだと公言していたジャック・ホワイトも、きっと草葉の陰で泣いて喜んでいることでしょう――って、別に死んでないから!
果たしてアラバマ・シェイクスは、この『サウンド&カラー』で10年代ロックの覇者となるのか、否か? 全米初登場1位を記念し、アルバムの全曲試聴が5月6日まで延長されたので、まずはその耳で確かめてみてください。さあ、あなたの答えはどうでしょうか?
▼
▼
▼
何がすごいの?どこが新しいの?今年、
全米No.1に輝いた唯一のインディ・バンド、
アラバマ・シェイクスのすべてを
解説させていただきます:前編
アジカン後藤正文に訊く、グラミー4部門を
制覇したアラバマ・シェイクスの凄さ、
そこから浮かび上がる2016年の風。前編