ベスト・ソングは、セレクトの理由が各楽曲で異なる。日本にトラップの導入が顕著になることで日本語をトラックに乗せるヴァリエーションが多様化したが、そういった傾向とは別のところで環ROYの“はらり”は日本語が持つ文学性に到達していた。EDMの構造を応用しながらスティール・ドラムでトロピカルなフィーリングを演出し、ポスト・EDMの時代におけるファッション・ポップスはどうあるべきかに一つの回答を示したムラ・マサ&チャーリー・XCXの“1・ナイト”や、ロック・バンドというフォルムが様々な形でその存在意義を問い直されている中、自身のバンドが半壊状態になったためそれが終わってしまった後のサウンドを孤独に模索する③などからは、2017年が様々な事柄の端境期にあるような印象を受けた。シンガーに大量のプロデューサーがくっ付いて楽曲を作る現代に、ケレラの“テイク・ミー・アパート”は同様の仕方でインディR&Bの歌姫であることを堂々と示した一方、ビョークの“アライズン・マイ・センシズ”は一人のプロデューサーと密にコラボすることで確かな成果を残したことは意義深い。
年間ベスト映画は劇伴に注目した。圧倒的な音圧のオーケストラが物語内の爆撃や船の音との区別がつかなくなるという希有な体験をした『ダンケルク』と、ポストクラシカル以降のサウンドを展開する『メッセージ』はハンス・ジマーとヨハン・ヨハンソンのオーケストレーションの違いのみならず現代的なサントラのオーケストレーションの在り方を示す。『ブレードランナー2049』でハンス・ジマー&ベンジャミン・ウォルフィッシュや、ニコラス・ウィンディング・レフン監督作品でクリフ・マルティネスがレトロなエレクトロニック・サウンドを巧みに扱っているが、『グッド・タイム』のOPNもその流れに連なるように独自の電子音楽で画面を染め上げる。ジム・ジャームッシュが組んだバンドSQÜRLが奏でるアンビエント・テイストなサウンドはじつにセンスがよく、静謐なユーモアのリフレインが心地よい2017年屈指の傑作『パターソン』のムードを決定づけた。映画音楽の歴史を振り返る『すばらしき映画音楽たち』は、映画史を彩る煌びやかな映画音楽家たちの固有名詞をその音楽的特徴と関連付けながらストーリーが進んでゆくドキュメンタリー。今年は折に触れて映画音楽について改めて考えさせられた一年だったので、この映画は勉強になった。
〈サインマグ〉のライター陣が選ぶ、
2017年のベスト・アルバム、ソング
&映画/ドラマ5選 by 岡村詩野
「サイン・マガジンのライター陣が選ぶ
2017年の年間ベスト・アルバム/
ソング/ムービー/TVドラマ5選」
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「2017年 年間ベスト・アルバム 50」
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