SIGN OF THE DAY

2014年 年間ベスト・アルバム
31位~40位
by all the staff and contributing writers December 23, 2014
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40. 80KIDZ / FACE

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80KIDZがデビュー12インチ『ディスドライヴ』をリリースした時、そこで唸りを上げているディストーション・シンセは、「まだ日本では誰もやっていない新しいこと」の象徴だった。だが、何かしらのムーヴメントを牽引した者の宿命として、彼らもまた、その挑戦的なアティテュードではなく、攻撃的なノイズという形式がトレードマークとなってしまっていた。いつの間にか。しかし、この四作目で、ようやく彼らはその両肩にのしかかっていたリスナーからの残酷な期待と責任を振り払い、デビュー当初のアティテュードに立ち戻ることが出来た。ここにはインディR&Bもトラップもハウスもあれば、さらにその先を見越した野心的なトラックも目白押し。彼らが元来持っていた嗅覚の鋭さと冒険心が初めて遺憾なく発揮されたという意味では、間違いなくこれがキャリア最高傑作だろう。今再び彼らは最先端にいる。(小林祥晴)

39. How To Dress Well / What Is This Heart?

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ウィッチ・ハウスの傍流として登場し、インディR&Bに先駆けたハウ・トゥ・ドレス・ウェルことトム・クレルは、ウィーケンドらと同じく、かつてはミステリアスな匿名性を身にまとった存在だった。そのような登場で注目を浴びたアーティストが作を追うごとに肉体性を強め、本来の姿を徐々に晒していくことはある意味当然の流れだが、それにしても彼がこの三作目で試みた曝け出し方は驚嘆に値するほど大胆で勇敢だったと思う。自らの顔のアップをアートワークに使用し、両親/家族との過去の不和が赤裸々に歌われる“2イヤーズ・オン(シェイム・ドリーム)”で幕を開ける本作は、トム・クレルにとって最もパーソナルなコンフェッション・アルバム。愛と失望や信仰と不信といった人生の両極を人間臭く揺れ動いた末、最後に降り注ぐ赦しのゴスペルが静かな感動を心のひだに残していく。(青山晃大)

38. Chromeo / White Women

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ブラック・ミュージックにカテゴライズするにはシロく、インディやエレクトロに入れるにはクロい。アラブ系とユダヤ系のカナダ人2人からなるクローメオは、10年以上の間ずっと単一のジャンルに当てはめることの難しいオリジナルなエレクトロ・ファンクを鳴らしてきた。そんな彼らにとって、ダフト・パンクがソウルやファンクを現代のダンス・フロアに甦らせた昨年に続く形で、インディとアーバンの両シーンの混交が深まった2014年はようやく時代が追いついた年だったと言えるはず。ぶっといベース・ラインがリードするエレクトロ・ファンクの、セクシーでゴキゲンな魅力は相変わらず。ただ、メロディの強さと各曲の粒立ちは間違いなく過去最高。ゲストに招いたトロ・イ・モアやエズラ・クーニグ、ソランジェの三人の顔触れからは、白でも黒でもない場所から生まれ出たポップス・ネットワークの在り様が生き生きと伝わってくる。(青山晃大)

37. 坂本慎太郎 / ナマで踊ろう

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見た目は赤ん坊でもなければ独裁者でもないが、赤ん坊のように泣きじゃくる県会議員の姿を目にした時、このアルバムのことを真っ先に思い起こしたのはたぶん僕だけではないだろう。本作に登場する、カルト、独裁者、ロボット化への勧誘といった、人類を滅亡へと導く人的ファクターの数々は、無碍に笑い飛ばせるナンセンスなジョークなどではなく、現代日本が置かれた状況を反映した、起こったとしても不思議ではないゾッとするような未来の空想なのだ。さらに恐ろしいことに、坂本慎太郎はそのテーマをムード歌謡譲りの能天気なサウンドと対比させることで、シリアスにではなく、あくまでユーモラスに演出する。笑っている場合じゃないけれど思わず笑ってしまうような出来事ばかりだった2014年の日本。その微妙な温度を、本作は皮肉めいた視点でもって見事に捉えてみせた。(青山晃大)

36. 王舟 / Wang

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“イッツ・ア・アルバム・タイム!”――待ちに待ったという意味では今作にこそそんな言葉がふさわしい。少なからずの人々の耳を魅了した二枚のCDRから4年。彼が敬愛するリー・メイヴァースの呪いかと勘ぐってしまうほど時間を要したこの1stアルバムが驚くほどに気負いなくのびやかなグッド・タイム・ミュージック作品なったのは、七針界隈を中心に、数年来、王舟との演奏経験を重ねてきたミュージャンたちとの信頼によるものだろう。カントリー、ブルーグラス、ラグタイム――柔らかなタッチで紡がれたアンサンブルは、気がつけばいつもビール片手にそこにいる、飄々とした彼の佇まいそのものだ。バンドというより楽団といった趣きの演奏者たちの佇まいにはメンバーが不確定であることの刹那も嗅ぎ取れ、それがゆえに、共に鳴らす一音一音のかけがえなさと親密さが瞬いている。稀代のソングライターが数年の交流の果てに編み出した今作に彼自身の名前をつけたことはとても感動的だ。(田中亮太)

35. Pharrell Williams / G I R L

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昨年の今頃には大半の人がすぐに廃れると考えていたEDMのトレンドは、その後も衰えを知らず、いまだ全世界で猛威を振るい続けている。だが、一方で、ステロイド注射を打ったかのように全てが過剰なEDMに対する反動とも言うべき潮流が、各地のポップ・ミュージック・シーンで同時に進行していたことも忘れてはならないだろう。USメインストリームにおいてそのフラッグシップを打ち立てたのは間違いなく、返り咲きの天才が8年振りに上梓したこのレコードだった。ネプチューンズ時代から得意としていたワン・アイデア・ループの手法を、往年のソウル/R&Bマナーに落とし込んだスカスカのプロダクション。幅のある様々なBPMと、メリハリの効いた展開。そして、全編に横溢するセクシーでハッピーなヴァイヴ。本作は、EDMに踊り疲れた若者も、EDMについていけない年寄りも、世界中の老若男女を気軽で洒脱なダンスの楽しみへと誘い出した。(青山晃大)

34. FKA Twigs / LP1

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FKAツイッグスのオリジナリティそのものが、前作『EP2』で確立されたとするなら、本作で驚かされるのは(ラナ・デル・レイ仕事の)エミール・ヘイニーや(アデルを手がけた)ポール・エプワースの仕事ぶりだ。大半の収録曲で(アルカとの共同作業で独自のサウンドを打ち立てた)彼女自身が制作に携わってはいるものの、例えば、音を重ねてゆくことで、よりスペースを広げてゆくようなアルカの楽曲構築スタイルに倣いながらも、この二人は、隙間を埋めてゆくような方向で、このアルバムを“耳に馴染みやすい『EP2』”としてまとめ上げている。聞き取りにくいほどハイトーンな彼女の歌声は、音として限りなく楽曲の一部と化して溶け込んでいるかのような印象を残すが、それでいて、歌詞内容は裏読みしないと真意がつかめないという“濃さ(したたかさ)”も面白い。(小林雅明)

33. Jack White / Lazaretto

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サード・マン・スタジオが回り始めてからのジャック・ホワイトは、ベックとの作業に代表されるようなプロデュース仕事が一気に増えた。無論、それらの多くは誠実に作られていて内容も悪くない。だが、ジャック自身の作品はというと、ホワイト・ストライプス時代の、あの何かに取り憑かれてしまったような狂気が薄まっている印象もある。この二枚目のソロも前作同様ルーツ音楽に対する愛着が隅々に行き渡った力作で、フィドルやペダル・スティールの配置や、ファズなどのギター・エフェクトを絡ませる手法にこの人らしさや研究の跡が伺えるだろう。何とも言えぬ人なつこさのある作品だ。発売当初はよく聴いた。だが、聴くたびにジャックと因縁のブルーズとの距離は開いていく。自分で自分をコントロールするようになったジャックを頼もしく感じつつも、誰も制御できない愛すべきブルーズ殉教者としてのジャックをレコードの溝の中に探してしまうのだ。(岡村詩野)

32. Taylor McFerrin / Early Riser

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テイラー・マクファーリンがマルチ・インストゥルメンタリストでかつビート・ボクサーである、という立ち位置は、彼の父親ボビーの作風を照らし合わせると興味深い。2015年には、さらなる注目が集まりそうなハイエイタス・カイヨーテの女性シンガー、ナイ・パームをフィーチャーした“ジ・アンチドート”が先行発表された時点では、〈ブレインフィーダー〉作品であり、一瞬『アンティル・ザ・クワイエット・カムス』のフォロワー的なアルバムかと予想された。確かに、歌寄りな面はあるものの、方向性としては、同じフライング・ロータスの『ユー・アー・デッド!』に繋がってゆくような、ただし、より直観を的確に捉えたかのような(ただし、完成に約6年を要したという)楽曲集となっている。(小林雅明)

31. Kasabian / 48:13

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どこからどこをどう切ってもカサビアンでしかない。こいつら、本当に何も変わらないな! という言葉が最大限の賛辞として機能するアルバム。勿論、デビュー当初と較べれば格段にスケールはデカくなったし、アルバムごとに微細な違いは見つけられるだろう。だが、そんなことは基本的にどうでもいい。通算五作目、いよいよ〈グラストンベリー〉のヘッドライナーを張るまでになっても、笑ってしまうくらいにカサビアンはカサビアンだ。彼らはオアシスみたくメランコリーに足を絡め取られないし、コールドプレイのように実験的なインディ音楽へのコンプレックスを曝け出すこともない。音という音の隙間から闇雲な自信を滲ませ、このご時世にドッカンドッカンと豪快に振り下ろすブレイクビーツとビービーやかましい電子音で強引に押し通す力技は、ただひたすらに痛快である。気がつけば、ハイコンテクスト化が進みつつあるインディ・ロックがどこか二の足を踏んでいる間に、カサビアンが馬鹿笑いしながらすべてを持っていってしまった。少なくともイギリスにおいては。偉大なり、カサビアン。(小林祥晴)




「2014年 年間ベスト・アルバム 21位~30位」
はこちら。


「2014年 年間ベスト・アルバム50」
はこちら。

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