SIGN OF THE DAY

ポストEDMの時代、カルヴィン・ハリスの
『ファンク・ウェーヴ・バウンシズ Vol.1』
だけが唯一無二な理由についてお教えします
by KOREMASA UNO July 20, 2017
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ポストEDMの時代、カルヴィン・ハリスの<br />
『ファンク・ウェーヴ・バウンシズ Vol.1』<br />
だけが唯一無二な理由についてお教えします

あれは『ギヴ・アウト・バット・ドント・ギヴ・アップ』がリリースされてしばらく経ってからの記事だったので、1994年の夏が終わった頃だ。アメリカ全土をバンで回ってツアーしていたプライマル・スクリームに〈NME〉の記者が同行した記事(ちなみにそれが翻訳記事として〈ロッキング・オン〉に掲載された時、ちょっと頭のおかしい長いリード文を書いていたのは本サイトのクリエイティヴ・ディレクター、田中宗一郎氏だった)でのボビー・ギレスピーの発言を、今も鮮明に覚えている。

まだ日本ではUKロック・ファンやダンスミュージック好きが、マッドチェスターのフォロワー的バンドやらバレアリック・ハウスやらを必死に追いかけていた時代に、当時トレンドセッターだったボビー・ギレスピーはこんなことを言っていた。「今一番のお気に入りはウォーレンG『レギュレイト...Gファンク・エラ』。移動中はバンのカーステでずっとGファンクを流してるよ」。その記事を読んで、それまで「文化が違いすぎてよくわからんハヤリもの」としてナメてたウォーレンGのCDを慌てて買いに走ったのは言うまでもない。

Warren G / Regulate... G Funk Era


1992年ドクター・ドレー『クロニック』で火が点き、その翌年、〈ビルボード〉でナンバー・ワンとなったスヌープ・ドギー・ドッグ『ドギースタイル』でアメリカ全土を覆うこととなったGファンク旋風。現在のアメリカのメインストリームにおけるトラップ・ブームと重ねてみることも可能だが、ロサンゼルスとアトランタという発信源の違い以外にもっとも大きく違ったのは、そのほぼすべての作品に、一人のプロデューサー(ドクター・ドレー)による極めて精巧に均質化されたサウンド・デザインが施されていたことだ。

Dr. Dre / Nothin' But a G Thang ft. Snoop Dogg

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Snoop Dogg / Who Am I (What's My Name)?

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カルヴィン・ハリスの『ファンク・ウェーヴ・バウンシズ Vol.1』をまるで中毒になったように毎日いろんな場所で繰り返し聴いているうちに、そんな昔のことを思い出したのにはいくつか理由がある。カルヴィンもまた、同じスコットランド出身のボビー・ギレスピーのように少年時代からアメリカのブラック・ミュージックに憧れ、それをなんとか自分の音楽に取り込むべく、様々な廻り道をしてきたミュージシャンであること。御大ジョージ・クリントンまでスタジオに招集してそれを実現しようとしたプライマル・スクリームの無邪気な夢は、アメリカの地で儚くも砕け散ったが、それを何十倍ものスケールで見事にやってのけたのがカルヴィンなのではないかということ。しかも、そこでカルヴィンは自身の音楽に「ファンク」の名を冠し、特定の音色とテンポによる新たな音楽フォーマットを作り上げてみせたこと。

『ファンク・ウェーヴ・バウンシズ Vol.1』がAOR的であるとする声もよく聞かれるが、ウォーレンGにとって最大のヒットとなったネイト・ドッグとの“レギュレイト”が、マイケル・マクドナルドの1982年のヒット曲“アイ・キープ・フォーゲッティン”のトラックを丸々サンプリングしていたことを思い出してもらえれば、そう言われる理由がわかるだろう(もし“レギュレイト”を聴いたことがない人は、この曲を『ファンク・ウェーヴ・バウンシズ Vol.1』の曲順のどこでもいいのでぶっこんで一度聴いてみてほしい。リズムの音圧以外、まったく違和感がないことに驚かされるはずだ)。

Warren G / Regulate ft. Nate Dogg

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Michael McDonald / I Keep Forgettin' (Every Time You're Near)

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“スライド”、“ヒートストローク”とリード曲を2つリリースした後、今年5月に『ファンク・ウェーヴ・バウンシズ Vol.1』というアルバムのタイトル、リリース日、アートワーク、超豪華ゲストの面々の発表と同時に世に送り出されたのが、フューチャーとカリードをフィーチャーした3曲目のリード曲“ローリン”だった。キャッチーなツカミと展開とフックにみちた先行した2曲と比べると、どちらかといえば単調な印象を持つこの曲こそ、どこからどう聴いてもGファンクへのオマージュとリスペクトに満ちたカルヴィンの「俺のファンク」宣言だった。

Calvin Harris / Rollin ft. Future, Khalid

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『ファンク・ウェーヴ・バウンシズ Vol.1』のハイライトは、飛び道具的なポップ・チューンが3曲続いた後にやってくる4曲目の“ローリン”から、その空気感を引き継ぎながらもカルヴィン印の派手なローランドTR-808の音色とA-トラックによるターンテーブル・プレイでトラヴィス・スコットのシンギング・ラップを盛り立てる“プレイヤーズ・アップ”、そして「いよっ! 真打!」といった調子で満を持してスヌープ・ドッグが登場して、決定的な第一声(「目を覚ませ。これはデジャヴか? このやり方、俺は知ってる」)が発せられる“ホリデイ”への流れだろう。アナログ・レコードでいうとA面とB面に分断されるこのアルバムの中心部で、カルヴィンが『ファンク・ウェーヴ・バウンシズ Vol.1』で本当にやりたかったことがすべて露わになっている。

Calvin Harris / Prayers Up ft. Travis Scott, A-Trak

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Calvin Harris / Holiday ft. Snoop Dogg, John Legend, Takeoff

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6月末に『ファンク・ウェーヴ・バウンシズ Vol.1』がリリースされると、ここ日本でも作品全体の空気を表す言葉として「メロウ」「レイドバック」といった言葉が飛び交うと同時に、多くの人がアルバム全体を通じて統一された、ゆったりとしたタイム感、テンポに言及していた。それは、カルヴィンが作品全体を一人でプロデュースし、すべてのビートをプログラミングしただけでなく、ほぼすべての楽器を自身の手で演奏・エディットすることでパーフェクトに実現した、サウンドとリズムの「デザイン」力によってもたらされたものだ。現在のラップ/R&Bを代表するニュースターたちを中心とする、これ以上なく贅沢なゲストたちの参加は、裏を返せば本作が本質的に持っている意図的な「抑揚のなさ」を補完するために必要だったものとも言えるだろう。

結果、本作『ファンク・ウェーヴ・バウンシズ Vol.1』は「夏のサウンドトラック」として、さらに言うなら「生活のサウンドトラック」として、恐るべき機能性を持った作品となった。自分の部屋のスピーカーやヘッドフォンで流している時はもちろん、街角から、海の家のスピーカーから、あるいは誰かの車に同乗した時のカーステから、この『ファンク・ウェーヴ・バウンシズ Vol.1』のどの曲が流れてきても、あなたの心は一切乱されることはないだろう。大きい音で流せば(この作品の大きな美点の一つはその音質の良さだ)無条件に身体は揺れるし、小さな音で流れていればずっと「いい気持ち」でいられる。クラブやフェスという限定された環境における「機能性の高さ」のみに特化されたことでしばしば批判を浴びてきたEDMだが、そのジャンルにおいて長年トップ・プロデューサー/DJであり続けてきたカルヴィンの仕事は、今回も「機能性の高さ」という点においては一貫している。ただし、本作『ファンク・ウェーヴ・バウンシズ Vol.1』で、カルヴィンはその「限定された環境」の壁をすべて取っ払ってみせることに成功したのだ。



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最高傑作『ファンク・ウェーヴ・バウンシズ
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