SIGN OF THE DAY

21世紀の炎上少女、グライムスのトリセツ。
全世界の年間チャートをかき乱す話題作
『アート・エンジェルズ』はこう聴け!
② by 天野龍太郎 前編
by RYUTARO AMANO December 09, 2015
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21世紀の炎上少女、グライムスのトリセツ。<br />
全世界の年間チャートをかき乱す話題作<br />
『アート・エンジェルズ』はこう聴け!<br />
② by 天野龍太郎 前編

かねてから噂され、遂に出たグライムスの新作『アート・エンジェルズ』。海外メディアの話題を一気にかっさらい、更には誰も彼もが諸手を挙げて賞賛している、という驚異の快作です(〈ステレオガム〉の年間ベストでは1位に置かれています)。CDリリース前に先行で配信されていたのでApple Musicなどで既に聞いているリスナーも多いのでは。っていうか、早く聞いてください。すごいアルバムですから。聞いたみなさんは驚いたはず。これってもしかしてカーリー・レイ・ジェプセンの『エモーション』やテイラー・スウィフトの『1989』と並べて聞くべきレコードなんじゃないの、ってね。勿論このグライムスの変化に戸惑い、あるいは落胆するリスナーもいるかもしれません。僕/私が聞きたかったのは『ヴィジョンズ2』だったのに……。いやいや、ちょっと待ってくださいって。グライムスが『アート・エンジェルズ』というポップなレコードをどうして作ったのかを立ち止まって考えてみませんか? 彼女のディスコグラフィを整理しつつ、この異形の作品をその中に位置づけてみませんか?

というわけで、グライムスのニュー・リリースに合わせて〈サイン・マガジン〉から課されたこの原稿のお題は「炎上少女グライムスの取扱説明書」。まあたしかに。「炎上」に関しては萩原さんによる別稿を読んでいただくとして、こちらはグライムスのディスコグラフィを辿りながら彼女の音楽へと迫る「取説」です。というわけで、一挙手一投足が(髪色を変えたりとか、ツイッターやタンブラーのポストひとつひとつが)話題を振り撒く「インディ・セレブ」なグライムスちゃんが傑作『アート・エンジェルズ』に至るまでの道のりを僕なりに解説したライナーノーツとして本稿を楽しんでいただければ、と思います。

さて。グライムスことクレア・バウチャーはカナダ、バンクーバーでカナダ人×ウクライナ人×ロシア人の家系に生まれています。幼少の頃は11年間もバレエを習ったそうです。なるほど、ミュージック・ヴィデオの数々で見られる、華奢な身体をひらひらとはためかせたりぴょんぴょんと飛び跳ねたりする華麗かつ躍動的な彼女独特の振る舞いはそういった経験から生まれたものなんですね。そこからクレアの興味はダンスから絵画などのヴィジュアル・アートへ、更には音楽へと移っていきます。神経科学を学ぶために大学へと進学したものの授業にはほとんど出席せず、宅録に没頭していたそう。どんな音楽かも知らないままにMySpace上で発見したジャンル名「グライム」にちなんでグライムスと自らを呼称しはじめた少女は、モントリオールのDIYなアート・スペース、ラボ・サンテーズでのライヴ活動をスタートします(ちなみにサンテーズは既に閉鎖されていますが、グライムスの盟友であるマジカル・クラウズやTOPS、ショーン・ニコラス・サヴェージといった優れたバンド/ミュージシャンを多く排出している、モントリオール・シーンの中心的な場所でもありました)。

とまあ、ウィキペディア情報はここまでにして、自ら「ポスト・インターネット」を名乗る炎上少女の音楽に迫っていきましょう。クレアのレコード・デビューは、そのサンテーズから生まれたレーベルである〈アルブツス・レコーズ〉の『スプリング・2009・サンプラー』というCD-Rのコンピレーション。クレア・バウチャーという本名名義で2曲が収められています。

Claire Boucher / The Eye

Claire Boucher / Behaviour


いずれもYouTubeからと思しき低ビットレートなサンプリングとともに素朴な鍵盤のリフやシンプルな打ち込みのベースとビートが骨格を成しています。既に見え隠れする「シンセ・ポップのプロデューサー=グライムス」の粗いブループリント。とはいえ両曲とも主役はやはりクレアの歌声です。安いマイクで録ったであろうローファイなヴォーカルのダブル・トラックが楽曲の中心にあります。しかし彼女の歌、どこかアシッド・フォーキーな響きがあると思いませんか? 上の“ジ・アイ”やこのウクレレを弾き語る(あのグライムスが、ですよ!)まるでヴァシュティ・バニヤンのような2010年のライヴ・パフォーマンスからも分かる通り、

Leacocks and TVMcGill Presents Sessions with Grimes


実のところ「儚げで幻想的な歌を歌う歌手=クレア・バウチャー」が初期のグライムスのアイデンティティであったのかもしれません。しかしこの1年後、2011年の12月(『ヴィジョンズ』リリース直前)にはこのように

Grimes / Nightmusic (YTGVB Session)

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後の『ヴィジョンズ』の音楽スタイルが完全に出来上がっていることには驚いてしかるべきでしょう。ここではグライムスというのは実に移り気で、段階的に変態・進化しているアーティストだということをひとまず強調しておきます(それは彼女が様々に使い分ける声色にも似ています)。ウクレレを弾き語る少女クレアも、ゴージャスなポップ・アルバム『アート・エンジェルズ』におけるインディ・セレブも、同じグライムスのアイデンティティとしてあるわけです。これはおそらく、グライムスというアーティストを知る上では欠かせない事実でしょう。




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