SIGN OF THE DAY

イギー・ポップを再生、アークティックを
世界に押し出した21世紀ロックの立役者
ジョシュ・ホーミの全貌を知る8枚 後編
by JUNNOSUKE AMAI May 12, 2016
イギー・ポップを再生、アークティックを<br />
世界に押し出した21世紀ロックの立役者<br />
ジョシュ・ホーミの全貌を知る8枚 後編

イギー・ポップを再生、アークティックを
世界に押し出した21世紀ロックの立役者
ジョシュ・ホーミの全貌を知る8枚 前編



4) Arctic Monkeys / Humbug (2009)

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ジョシュ・ホーミの全貌を知る8枚 後編
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ジョシュ・ホーミという存在が2000年代以降のロック・シーンにもたらした最も意義のある功績。ひとえにそれは、グランジ/オルタナティヴの衰退と入れ替わる形で台頭したラウド・ロックやラップ・メタルによって濫造され、骨抜きにされた「ヘヴィネス」の再定義、に尽きるのではないだろうか。それも、アイシスやニュー・ロシスらポスト・メタル、あるいは同世代のアースやサンに代表されるスラッジ/ドゥームなど「ヘヴィネス」を極めたアンダーグラウンドの動きと並走する一方で、その本質や精髄みたいなものをメインストリームのレヴェルへと押し上げてみせたこと。その意味で、ホーミはデイヴ・グロールと並ぶ、いやそれ以上の存在だと断言したい。

そして、このアークティック・モンキーズを始め、ジャック・ホワイトやジュアリアン・カサブランカス、キルズのアリソン・モシャートら、ホーミがその薫陶を授けんと積極的に交流を持つ後続たちの顔触れを見れば、それこそロックンロール・リヴァイヴァル以降の世代がはたして本当に「再興」させようとしたものとは何だったのか、その答えが浮かび上がってくる――というものではないだろうか。

ホーミがプロデュースしたのは10曲の内の7曲。残りの3曲はシミアン・モバイル・ディスコのジェームス・フォードによるものだが、しかしそれらも含めてアルバム・トータルの感触は、そのフォードがメインで共同プロデュースを手がけた前作『フェイヴァリット・ワースト・ナイトメア』とはもはやまったくの別物、と言っていい。

Arctic Monkeys / Crying Lightning

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『フェイヴァリット~』においても強化されたリズム・ストラクチャーのアレンジ/ビルドアップに加えて(それは主にフォードによってもたらされたクラブ・ミュージックとのクロスオーヴァーによる成果、という面が大きかったわけだが)、タメの効いたロック・アンサンブルと重心が低くうねるようなグルーヴ、さらにはメタリックで厚みのあるギター・サウンドがそこに上積みされた。本作の制作にあたりターナーは当時、クリームやジミ・ヘンドリックス、ロキー・エリクソン(13thフロア・エレヴェーターズ)に影響を受けたことを明かしていたが、そうした青写真――乱暴に言えば、リズム&ブルースとガレージ・サイケの混交による重量化――に然るべき道筋をつけたのが、他ならぬホーミの役割。そして、以降も現在に至りこのホーミの手引きが彼らの大きな音楽的指針となっていることは、今やすっかりその「ヘヴィネス」をわが物とした様子の近作が物語る通りだ。




3) Kyuss / Blues for the Red Sun (1992)

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ホーミにとって最初のバンド、アズ・カッツェンジャマー・アンド・サンズ・オブ・カイアス改めカイアスが結成されたのは1987年。アメリカン・ロックの近過去史における時代区分で言えば、ポスト・ハードコアの最後尾とプレ・グランジの谷間、といったところだろうか。もっとも、前者に属する同世代が見せたジャンル横断的な志向とはおよそ無縁で、かたや後者で括るにはオールドスクール過ぎるというか、ぶっちゃけて古色蒼然とした感は否めず。つまり、当時のポスト・ハードコアやグランジが反面教師ないし近親憎悪の対象としたハード・ロック/ヘヴィ・メタルの様式美にいささか無防備なきらいアリ、というのがカイアスに対する相対的な評価であることに今でも変わりはない。

しかし、言葉を変えればその音楽は、それだけ混じりけがなく純度が高い、とも。ざっくりと初期ブラック・サバスやブルー・チアー、ホークウィンド辺りを起源として、「ブルース」「サイケデリック」「ハード」等々と冠を挿げ替えながら深化を遂げたロック・ミュージックのサブ・ジャンルにおけるひとつのフェーズであるところのストーナー・ロック。その代表格の一組に挙げられるカイアスだが、なるほどサウンドを見ればオルタナティヴというよりむしろ本流を汲んだ志向と言えた彼らは、とりわけ前時代の否定や反動を原動力としていた当時のハードコア以降のアメリカのインディ/アンダーグラウンド・シーンにあってはどうにも位置づけがたい存在、として映ったのではないだろうか。

2ndアルバムの本作は、以後もホーミのキャリアに深く関わるふたりの盟友――バンドの結成メンバーにしてクイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジでも活動を共にすることになるニック・オリヴェリが復帰し、また近年はカルトやフー・ファイターズの作品を手がけるクリス・ゴスをプロデューサーに迎えた代表作の一枚。当時のグランジ勢が忌避したヘビメタ・マナーのギター・ソロもところどころで飛び出すなど、アルバム全体を通した印象は、かたやストーナーを超えてスラッジ/ドローンの名盤として今でも誉れ高いメルヴィンズの同年リリース作『メルヴィンズ(リソル)』と比べると、ヴォーカルのマッチョな歌い回し(ホーミのパートはギターのみ)も相まってメタリカやディープ・パープルの屈託のなさにも近い、か。

が、7分を超える“フリーダム・ラン”の胆力溢れるジャム、そして何より“ライス”や“ソング・ソング”といったホーミ作曲のナンバーが披露するスロウで重く引き摺るような演奏には、ロック・ミュージックにおける(オルタナティヴというより)リニアな発展の過程の中からストーナー・ロックというものが生まれえたところの最初のしずく、のような濃密さが感じられて、十分聴かせる。

Kyuss / Freedom Run

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Kyuss / Thong Song

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2) Iggy Pop / Post Pop Depression (2016)

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すべてはここに至るための道すがらだったのではないか。とさえ思えてしまうほどの、完璧なタイミングとシチュエーションで相成った両者の邂逅。ホーミが追求してきた音楽の系譜を辿ればその深いところで、サバスと並んでストゥージズに行き当たるであろうことは当然の理。しかし、本作のプロデュースを任されたホーミの念頭にあったのは、あのダーティでロウなサイケデリック・ストゥージズではなく、ご承知の通り『イディオット』と『ラスト・フォー・ライフ』という、イギーがソロ・アーティストとしての足掛かりを築いた2枚のアルバムだった。そして、それとはすなわち、ボウイの意志/遺志を継ぐということを意味していたことが、今ならわかる(制作にあたっては、当時のボウイとの作業について記したメモがイギーからホーミに渡された)。

その40年前の両作品では、ボウイのベルリン三部作も支えたNYハーレム出身のリズム・セクションが重要な役割を担っていたが、本作においても同様のポイントにホーミの意識が注がれていたであろうことは、クイーンズ/デッド・ウェザーのディーン・フェルティータ、アークティック・モンキーズのマット・ヘルダースといったわが意を得た同志が起用されたリズム隊の人選からも窺える。ずっしりと重く無骨なロック・サウンドを聴かせながら、演奏はあくまでタイトでグルーヴィ。跳ねるように掻くギター、ベースとドラムが裏拍も刻んで絡み合う力強いバンド・アンサンブルは、ダンサブルで抑揚が効いていて、ファンキーでさえある。

Iggy Pop / Sunday

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イギー・ポップをヴォーカリストに立てたホーミの新バンドによるアルバム。そうした見方もあながち的外れとは思えぬほど、本作に占めるホーミの貢献度と存在感は絶大。これまでの錚々たるディスコグラフィと並べても本作を「ホーミの代表作」として挙げることにいささかの躊躇いはないし、さらには、この先のミッド・キャリアを見通した洗練や成熟のようなものもそれは予見させるようで、じつに頼もしい。




1) Queens of the Stone Age / Rated R (2000)

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勢いを失ったグランジ/オルタナティヴ勢と入れ替わり、ポップ・パンクやニュー・メタルが席巻し始めた90年代も半ば過ぎ。カイアスを解散し、クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジを新たに結成した直後のホーミにとって、前途に広がるアメリカのロック・シーンの光景とはどのようなものだったのだろう。以来、現在まで続くホーミのパーマネント・バンドであり、今でこそデザート・ロック/ストーナー・ロックの立役者としてその評価を振り返ることは容易いが、当時の状況からすればそれは、どこか前時代的な音楽に聴こえてしまっていたとしても無理はない。カイアスの解散直後にはスクリーミング・ツリーズのツアー・ギタリストも一時的に務めたホーミだったが、クイーンズの最初期/前身にあたるバンドのガンマ・レイにはそのスクリーミング・ツリーズやサウンドガーデン、さらにはダイナソーJr.やモンスター・マグネットのメンバーが参加するなど、それは人材的にもポスト・ハードコア~グランジの遺産に多くを負うものだった、ことがわかる。

しかし、そんなクイーンズこそが、グランジ/オルタナティヴの衰退とそのバックラッシュによって寸断されたコミュニティ――ハードコア以降のアメリカのロック・シーン/アンダーグラウンドで脈々と継がれてきた流れを繋ぎとめた「砦」であったということ。もっと言えば、その流れをさらに送り継ぐ役割も結果的に果たしたことは、2000年代をへて現在に至るまでバンドやその作品に出入りしたミュージシャンの顔触れが物語る通り、でもある。

そして、メジャーの〈インタースコープ〉からリリースされたこの2ndアルバムの『R指定』は、あの90年代の後半から2000年代にかけてアメリカのロック・シーンが呈していた隘路を開く契機となったであろう一枚。

コア・メンバーを置きながらも、様々なサポート・ミュージシャンを楽曲ごとに迎えたクイーンズは、実のところ形態的にはバンドというよりもマルチ・コラボレーションに近いイメージかもしれない。ホーミとオリヴェリを軸にカイアス~西海岸パーム・デザート人脈を従えた演奏は一言、徹頭徹尾ヘヴィでソリッド。が、デザート・ロック/ストーナー・ロックの様式美を粛々と煮詰める愚直さの傍ら、カイアスとは異なり管楽器やヴィブラフォン、ピアノなども使用した奥行きのあるバンド・サウンドと、ジャム的な要素が後退し起伏や展開が増した楽曲の構成、こそがクイーンズの肝。

なかでもラネガンと共同で書き下ろした“イン・ザ・フェード”は、クラシック・ロックとアメリカーナをブリッジするようなグラデーションのある懐深い演奏が白眉。

Queens of The Stone Age / In The Fade

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かたや“アイ・シンク・アイ・ロスト・マイ・ヘディク”や“ベター・リヴィング・スルー・ケミストリー”が披露するサイケデリックで重厚なインストゥルメンテーションは、本作とタイミングを前後して復活を遂げたアースやサンら2000年代におけるスラッジ/ドゥーム・メタル再興の呼び水にも聴こえ て、圧巻だ。

Queens of the Stone Age / Better Living Through Chemistry

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最後に改めて明言しておこう。ここ15年間のジョシュ・ホーミの歩みについて知ることは、すなわち21世紀のロックにおけるひとつの歴史について理解することに他ならない。


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