SIGN OF THE DAY

ROTH BART BARONの謎を紐解くための
「10のキーワード」を巡っての10の質問。
三船雅也との往復書簡インタヴュー:後編
by SOICHIRO TANAKA February 18, 2016
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三船雅也との往復書簡インタヴュー:後編

ROTH BART BARONの謎を紐解くための
「10のキーワード」を巡っての10の質問。
三船雅也との往復書簡インタヴュー:前編



キーワード⑥【児童文学】
ハッピー・エンドの物語からこぼれ落ちた子供たちのための物語

●『ATOM』を聴いて感じることのひとつは、三船くんの書いたリリックが児童文学のスタイルを使っているということです。どのトラックを聴いても、ピュアでイノセントながら、だからこそ世の中全般を見え透いた茶番と感じていて、社会全体に対するシニシズムを抱え、どこまでも無鉄砲で、アナーキーな破壊衝動に駆られた少年たちが活躍する冒険譚として楽しめます。ただ、そもそもポップ・ソングのリリックには、ある限定された時間や情景を切り取るだけで「結末を提示する必要がない」という、ごく一般的な小説や映画が持ちえないアドヴァンテージがありますよね? 実際、このアルバムでは、個々のキャラクターたちが最後にはどうなったのか? についての明確な結末は用意されていないし、聴き手がそれを自由に想像する余韻が残されてます。例えば、『ライ麦畑でつかまえて』のホールデン・コールフィールドよろしく、少しばかり悲劇的な結末を想像することも可能です。それゆえ、この『ATOM』という作品にはエクスタティックな高揚感に包まれる音楽的な瞬間が何度もありながら、その読後感というか、アルバム1枚を聴き通した時に、決してハッピー・エンドではないビターなフィーリングを感じさせるのも特徴です。質問は以下の通りです。何故、このアルバムで児童文学のスタイルを使ったのか? そもそも三船雅也というソングライターが児童文学的な形式に惹かれる理由は何でしょう? あるいは、もし仮にそれまでどんな児童文学も読んだことのない子供時代の三船くんがこの『ATOM』という作品を聞いたとすれば、それ以前と以降ではどんな影響を受け、どんな子供に生まれ変わったと思いますか?

三船:作品を作る際、児童文学のスタイルを自分がとっているかというのには意識的ではないのです。児童文学の多くは子どもに向けて作られますが、大人に説明するよりも直感的で理屈が通用せず、どこか作者も「ハイ」になっているような気がするのです。そして作者のほとんどが幼少期に人や社会に裏切られ、傷つけられ、深い悲しみを、忘れられない怨念みたいなものを持ち続けているのを感じます。立場や、生きる理由、背負うもの、理屈いろいろなものが大人になって付いて回ってしまうとなかなか見えなくなってしまう「何か」を鋭い目で見つめ続ける、それはなかなか出来ないことです。そこに新しい価値観を見出し、強く惹かれてしまうのかもしれません。

人々の多くがハッピー・エンドの物語を望むわけですが、そのハッピー・エンドの価値観は人によって大きく違います。では、ハッピー・エンドの銀皿からこぼれ落ちた人たちは一体どうなってしまうのか? どうやったら幸せになるのか? そこにとても興味があったのです。僕らの生きる世界はウォルト・ディズニーでは決して表現することが出来ない、複雑に織り込まれたもの/ことに満ちています。ウォルト・ディズニー映画の画面から溢れた人物は果たしてどうなったのでしょう? どんな生き方をしているのでしょう?

様々な音楽、映画、小説、漫画を見終わるといつも待ち受けているのは自らの生きる現実世界です。見終えた作品たちに、それで君は何をするんだ? と問いかけられているような気がしてなりません。話はそこで完結しようがしまいが、作者の本音や言いたいことはともかく(たまに大事)、作品を受け取った自分がどう生きるのか。そこに突きつけられた現実とどう向き合って生きてゆくのか。それをいつも考えています。

子供の僕が『ATOM』を聴いたら多分内容はよくわからないんじゃないかと思います(笑)。なんだかガーガー言っててうるさいなとか。でも、圧倒的な力に打ちのめされる経験や自分が培ってきた世界がひっくり返るような経験を与えられたら、それは素晴らしいことだと思います。親が好きでずっと聞いてて少し成長してから面白さに気づくのかも。また一つ面倒臭い人間が出来上がりそうですね(笑)。


キーワード⑦【ディストピア】
想像以上に「ソフトな袋小路」を楽しむための勇気と知恵

●この『ATOM』という作品は、オルダス・ハクスリーの『すばらしい新世界』やジョージ・オーウェルの『1984』という伝統に連なるディストピア作品だ。そんな視点を持つことも可能なアルバムだと思います。そもそもSFにおけるディストピア作品というのは、現代社会に対するカリカチュアであり、批評でもあり、そこでの不条理や虚偽、間違った常識などを炙り出す機能も持っているわけですが、『ATOM』を作るに際し、そうした意図はありましたか? あるいは、作家として、この作品に何かしら刺激やインスピレーションを与えた作品を具体的に挙げてもらった上で、そうした作品で描かれた世界のありようと我々が暮らす2010年代の世界/日本社会との共通点について教えて下さい。また、もし三船くんが忘れようとしてもどうにも感じずにはいられない、今という時代に関する懸念があれば、その懸念についても教えて下さい。

三船:僕が『ATOM』を作る時に思い浮かべていたのは、『トータル・リコール』、『ターミネーター』、『ロボコップ』などのSF映画でした。僕が生まれた頃の映画は、80年代後半~90年代初頭特有のゴテゴテした服装、派手な髪型、強烈で下品な色、コンピューターグラフィックス、そして多くの作品がなぜか強烈に世界が滅ぶ内容でした。ロボコップは近未来のデトロイトを舞台に犯罪者に殺されたマーフィー巡査が大企業の実験に巻き込まれ、自分の意思ではなくサイボーグとなって蘇り自分を殺した犯罪者に立ち向かう話です。家族と別れ上官からの指示には絶対服従し心もなく犯罪者を捕まえる中、人間だった時の心を少しずつ取り戻してゆく葛藤が描かれています。

『ロボコップ』

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『トータル・リコール』もそうですが、ポール・バーホーベンの強烈な暴力シーン、グロテスクな描写、皮肉に満ち溢れたユーモア。幼い自分には忘れられない体験でした。普通好きな映画の世界に入ってみたいと思うことが多いのですが、これらの作品は入りたいとは思いませんでした。

『トータル・リコール』

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10代の時、ある授業で先生が言ったんです。「これからは一人に一台、コンピューターを持つ時代が来る」。その時僕は冗談だと思ったのですが、すぐにその時代はやってきました。僕らは毎日ものすごい時間をスマートフォンの数インチの画面を見つめて暮らすようになりました。目的地への到達時間、天気予報、友人のコンディション、地球の裏側で何が起きているのか、情報を自分で選び何がクールなのか? 自分の生きた痕跡が、ビッグ・データとしてどこかのサーバーに溜められて知らないどこかに吐き出される。メールやチャット、誰かに対しての好きという思いも小さなモニターから監視される。自分の発信したデータが、自分の言葉や生活がコントロール出来きているようで、自分の及ばない範囲で勝手に歩行してゆくような。このゆっくりとした通奏低音のようなものの正体はなんだろうと気になっていたんです。

いつか地球が崩壊した時に宇宙人が記憶メディアから人類はこんな暮らしをしていたと確認出来たら、その膨大なデータから人間を再び生み出すことが出来るかもしれません。そうしたらとても希望があるし面白い! 僕もこのテクノロジーに大喜びしているタイプですし、とても助かっているんですが、この相反するものの正体をどこかで感じたことがある、ふと気づいたらまるで僕が見てきたSF映画じゃないか! と気づいたんです。『ATOM』とSFがとても自然にシンクロしたんです。様々なSF作家たちが想像したディストピアすら成立することの出来なかった2010年代でジリジリとバランスをとりながら無意識の中で進んで行く、今の日本の何処にでもある街を舞台にSF映画のソングを作るとしたらどんな音になるだろうと。

ただ『もうだめだ、みんなおしまいだ』と無責任に全て投げだしてしまうもの、危険性だけを振りまいてただ人を不安に叩き落とすだけのものにはしたくなかったのです、やはりファンタジー、妄想、人の想像力が根底にあるものが僕の心を動かしてきた物語の力のひとつであると思うので、ワクワクしたフィールがアルバムに欲しかったんです。


キーワード⑧【アトム】
世界をソフトに監視する、無数の「偉大なる兄弟」としての「ATOM」

●1960年代生まれで、強烈な厭世観と決してへこたれない強固なヒューマニズムの両方が入り交じった手塚治虫作品を原体験に持つ世代からすると、この『ATOM』というタイトルからは鉄腕アトムという悲劇のキャラクターをどうしても想起してしまいます。ご存じかもしれませんが、彼はそれぞれ違う理由から三度亡くなっています。一度目は60年代のTVアニメ作品の最終回で、地球にせまりくる隕石の軌道を反らせるための犠牲となって。二度目はマーガレット・ミッチェルの小説『風とともに去りぬ』をモチーフに70年代に書かれた新聞連載マンガの中で、過去にタイムスリップし、その時代で生まれるはずだった過去の自分を誕生させるために宇宙人女性の手によって破壊されます。三度目はロボットが人類と世界を支配している未来を舞台に、80年代に書かれた短編『アトムの最期』の中で、ある一組のとても複雑な因果を持った恋人たちに100年の眠りからさまされた直後に、何ひとつの成果も果たすことなく無残に絶命します。ひとつめの質問はこの作品のタイトルを『ATOM』するに際し、彼の存在は意識していましたか? いずれにせよ、本作に『ATOM』というタイトルをつけた理由を教えて下さい。そして、もし三船くんが手塚治虫に成り代わり、彼の最期をひとつだけ選べるとしたら、前述の3つの物語のうち、どれを選びますか。その理由についても教えて下さい。

三船:昔飼っていた猫は頭の毛並みが鉄腕アトムにそっくりだったのでアトムという名前でした。ですから『ATOM』という言葉にはとても親しみを持っていました。日本人の多くがこの舶来の言葉を素直に読むことが出来ます。そこが面白いなと思いました。もしもジョージ・オーウェルの小説のようにロットバルトバロンが人の全てを監視する恐怖の『ビッグ・ブラザー』側の存在だったらどんな名前を纏うのが良いだろうか、町中にポスターが貼ってあって、シンプルで無味無臭、無国籍な言葉、レコーディング最中に浮かんできたのが『ATOM』でした。

その後僕らは、『ATOM』プロジェクトを立ち上げてリリースまでに360度カメラを使って僕らの日常風景を撮影し、お客さんたちにロットを監視してもらおうと思ったんです。見ている側はどんな風に『ATOM』が作られているのかが観れると同時に恐ろしい看守役で、僕らは『2たす2は5』とか言ってしまうような関係がつくれるかもって。

ROTH BART BARON / SESSION1 (360°VIDEO)


アトムの最後はとても悲しい話です、好き勝手やっている人類にそこまでアトムが助けてやる必要があるのか? そもそも救うことなんて出来やしないのではないか? という葛藤そのものが物語に現れている気がします。もしかしたら手塚さんはみんなの好きだったアトムを殺したかったのかもと今になっては思います。人間が嫌いでしょうがない、でもどうしても信じてしまう、可能性を捨てきれない。そんな手塚治虫がにじみ出ていてとても好きです。(読んだ当時はものすごく落ち込みましたが)、僕だったら新しいアトムの最後を作ってみたいですね。人間との関係を新しく作り直せたらと思います。近い未来に電脳化人間、サイボーグ、ロボット、機械化度合いのパーセンテージ、人間と機械の境界が曖昧になっていく中で、機械にも愛情が持てる日本でアトムがどう暮らし、終わりを迎えるのか。人々に盛大に称えられることなく、ヒーローになるでもなくひっそりと。とかとか勝手に考えますが、ものすごい時間がかかりそうですね。


キーワード⑨【フィジカル/アナログ/DIY】
古き良き過去の伝統に繋がることと、そこから開ける未来

●改めてこの『ATOM』という作品を自分で聞き直した時に、自信を持って「これは書けた、これはバンドとしてやれた」と思うパートを3つ挙げて、その理由についても教えて下さい。

三船:サウンドの質感は近年の日本のロック・フォーマットでは聞きけないものになっています。コンピューターだけで音楽をつくることに疑問を感じ、スタジオを選び、フィジカルな機材を大量に使って手作りの感覚とデジタルの感覚に向き合って音楽を作ったからです。例えば楽曲にこれまでにないほど多数のリヴァーブを使いました。デジタル、プレート、スプリング、エコールームといった様々なリヴァーブをブレンドさせてヴォーカル、ギター、ドラムに細かくまぶしてゆく。こうしてアナログとデジタルの音両方のレイヤーを重ねて行くことによって複雑でシルキーななんとも言えないサウンドが生み出せました。バンドがいつも長い時間を使って格闘していたことを現実にすることが出来たんです。

バンドの特徴としていつも曲が長くなってしまうことが多かったんですが、今回は短い時間の中にたくさんの情報を入れることができました。クラッシクな3分間ポップ・ソングのフォーマットみたいに。これは僕らにとってはとても新鮮で新しい経験でした。いつも通り自然に曲が書けたのですが新しいロットが出てきましたね。

ROTH BART BARON / bIg HOPe

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あとはスタジオのみんなと一緒に作業出来たことです。歌のテイクはこれまで以上に素晴らしいものになりましたし。何より彼らの音楽に対する姿勢や少しピリッとしたプライドはとても影響を受けました。自分が信じる音楽を自分が良いと思う機材を大量に集め、自分がいいと思う形でリリースしてゆく。決して大きな都市でもない、自分が住む街の中にスタジオとレーベルを構えてそこから世界へ発信してゆくインディペンデントな姿勢、インディバンドの一つのあり方をこのレコーディングを通して体験したことはあまりにも大きい収穫です。この受け取ったものをこれから僕らにどう生きてゆくのかがとても……他人事のようだけど見てみたいんです。


キーワード⑩【ディレッタンティズム】
好事家の趣味としてではなく、知恵や勇気の源としてのアート

●文学作品、映画、音楽それぞれのジャンルにおいて、『ATOM』の両側に並べるとしっくり来るような作品をそれぞれ2つずつ挙げて、その理由について教えて下さい。特に、聴き手に与える刺激として、どこかその真ん中に置くとしっくり来るというポイントから選んでもらえると助かります。

文学>>>
『ドン・キホーテ』
『三四郎』

映画>>>
『大人は判ってくれない』
『トータルリコール』

『大人は判ってくれない』

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音楽>>>
ニュートラル・ミルク・ホテル『イン・ジ・エアロプレーン・オーヴァー・ザ・シー』
プリンス『パープル・レイン』
(もしくは、ジョルジオ・モロダー『メトロポリス・サウンドトラック』)

Neutral Milk Hotel / In The Aeroplane Over The Sea

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Purple Rain Trailer

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映画も本もたくさんありすぎてとても2つに絞りきれません! たくさんのグラデーションが出来上がってしまいます。前回の『氷河期』の時はNYのど真ん中でアメリカ人の友人から借りた『楢山節考』を読みながら作っていましたが、今回『ATOM』では、『ドン・キホーテ』と、『三四郎』でしょうか。他人に気が狂っていると言われようと、自分にとっての向かうべき相手、向かうべき場所に挑んでゆく。ドン・キホーテにとって風車の大群がそれであったように、僕らは「奇人」ドン・キホーテなのか、それとも彼をあざ笑う「普通の」側なのか。いつだって彼の気持ちをわかるようになりたいものです。『大人は判ってくれない』のドワネルのように、自分が本物かわからないクエイドのように自分の落ち着く場所が明確でないような、行くあてのないぼんやりとした不安は『ATOM』の表す一要素です。ニュートラル・ミルク・ホテルはいつも何かにぶち当たって悩んだ時、アルバムを引っ張り出して聴いています。バンドを構成する遺伝子に組み込まれているのでしょう。プリンス『パープル・レイン』は僕にとって、ゴテゴテで空気ムンムンな80~90年代を表しているアルバムです。『ATOM』を生み出したトリガーの一つです。だからと言ってあの時代に戻ろうとは思いませんが、どうでしょうか、少しは参考になるのでしょうか?


最後にタナソーさんに一つだけ質問です。(面倒くさかったらゴメンなさい)

田中宗一郎がもし、三船雅也だとしたら、ROTH BART BARONの次回作はどのようなテーマ、どういった内容のアルバムを作ると思いますか? またその作品は日本の音楽、世界のインディーロックシーンにどのような影響を与えると思いますか?

とても楽しいひと時でした、ありがとうございます。

三船雅也


●田中宗一郎です。どうもありがとう。とても楽しく、興味深く読ませていただきました。今これを読んでくれている読者が同じように感じてくれているといいな。そんな風に思っています。

俺が三船くんだったら、ロットがどんな次作を作るか? つまり、これは俺からのロットに対する期待ではなく、あくまで「俺なら」という仮定の設定ありきのファンタジーだと思って読んでもらえるということですよね。それなら大丈夫。というのも、この20年間、いろんなバンドに自分の言葉が呪いをかけてきたという自戒があるからです。

こいつ、自意識過剰だな! と思うなら、レディオヘッドの『へイル・トゥ・ザ・シーフ』のスリーブに記載されているクレジットを見て下さい。あのアルバムの“セイル・トゥ・ザ・ムーン”という曲は、とある僕の言葉がきっかけになって生まれた曲でもあるんです。と、ひとしきり自己顕示欲を満たしたところで、お答えします。

僕なら、世界各地に点在する10人の少年がそれぞれの場所で何かしらの理想と目的に駆られて、懸命に行動し、時にはその幾人かがすれ違いながら、結局、全員がなにひとつ成果を果たせないまま、宙ぶらりんな状態に陥ってしまうという群像劇を1枚のアルバムにすると思います。何ひとつ報われなかった10人の少年たちの物語。10人のうち、何人かは明らかに敵対する立場にいる。これも設定のひとつです。ただ、確かに彼らはベストを尽くした、懸命に生きた、そして、それを誇りに思った、で、もしかすると、自分以外の誰かもそんな風に懸命に生きたに違いない。という希望を彼ら10人のキャラクターやリスナーに感じさせたい。そんなアルバムです。

音楽的には、これまでのロット作品以上に、異なる文化、異なる歴史からの繋がりを感じさせる意匠を取り込むのではないでしょうか。確実にアラブ音楽はあるな。今、イスラムの存在は世界の鍵を握っていますからね。彼らの歴史と文化を本当にきちんと理解したい。それは僕自身の今の最大の問題意識のひとつです。プロダクション的にはそれぞれの楽曲に幅を持たせると思います。ほぼ終始弾き語りとパーカッションだけのミニマルな曲から大編成の曲まで。その幅によって、アルバム1枚のフロウを豊かなものにしようとするな。で、アルバムの長さはどれだけ長くても45分。出来れば、38分。

そして、ひとつひとつの楽曲におけるもっともエクスタティックな部分にもっともエモーショナルなパンチラインを配置すべく、歌詞はまずそこから書くと思います。そこだけはきっと曲のナレーターの気持ちを表した内容でしょうね。で、ヴァースやそれ以外のリリックは出来るだけ実在の固有名詞をたくさん使い、ストーリーを語ることよりも、いくつもの情景描写、そして、喜怒哀楽のスペクトラルの中で端から端まで幅広いフィーリングをアルバムのあちらこちらに配置すると思います。下らないギャグから絶望的な殺戮劇、つかの間のおだやかな幸せのフィーリングまで。

勿論、このアイデアには元ネタがあります。いくつかの。で、それをひとつに混ぜ合わせてみました。父親のお下がりを組み合わせて、変な洋服を作っちゃった。そんなアイデアです。

で、出来上がった作品がどのように日本の音楽、世界のインディ音楽シーンに影響を与えるか? まず前者に関して。まあ、冷静に考えれば、まず大方のリスナーは「?」でしょうね。森は生きているの偉大なる2ndアルバム『グッドナイト』のように一部からは無視されてしまうかもしれません。でも、とてもセンシティヴなリスナーや同世代/次世代の作家たちを猛烈にインスパイアすると思います。で、素晴らしい2010年代後半を確実に準備することになる。

と、自分のやることに対する見積もりの甘さをおもいきり開陳したところで、後者。世界中のインディ・シーンに対しては、今にも増して、ロットと彼らの間での緩やかなネットワークが少しだけ広がるんではないでしょうか。今、北米中心のインディ・シーンはポップ音楽としては岐路に立たされています。ヒップホップに比べると、現在のインディ・ロックは、影響力、アクチュアリティを持った新しいアイデア、そして、ポップとしてのポテンシャルを少しばかり失っています。でも、それは決して悪いことではない。今は来るべき新時代への耕しの時期だと思うからです。

近い将来、90年代半ばに〈ディスコード〉や〈K〉、〈アップ〉、〈キル・ロック・スターズ〉といったいくつものインディ・レーベルが、穏やかで、でも確固たるネットワークを築きあげることで、ゼロ年代から2010年代にかけての北米インディ・ロック・シーンが大輪の花を咲かせるための礎を担ったように。ロットバルトバロンの存在もまた、その次世代の世界的なインディ・ネットワークの中で、絶対に外すことの出来ないパズルの1ピースになることと思います。

これだけはロットがどんなアイデアでアルバムを作ったとしても必ず果たせることだと思います。自分の見積もりは甘いが、他人がやることの見積もりにはそんなには誤差はない。俺は批評家なので腐れ予想屋になるつもりはありませんが、残念ながらそこにはちょっと自信があるんです。では、また。最高の音楽をありがとう。




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