SIGN OF THE DAY

夏目知幸単独インタヴューの露払いとして
シャムキャッツ新曲“マイガール”に猛烈に
触発された田中宗一郎が四千文字で語ります
by SOICHIRO TANAKA August 18, 2016
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夏目知幸単独インタヴューの露払いとして<br />
シャムキャッツ新曲“マイガール”に猛烈に<br />
触発された田中宗一郎が四千文字で語ります

男はつらいよ。なんてことをつい口にしようものなら、この過剰なまでにポリティカル・コレクトネスが行き届いた世界では袋叩きに合うことになるかもしれない。

過剰なポリティカル・コレクトネス的な態度が今の西欧社会ではすっかり抑圧的になっていることを受けて、クリント・イーストウッドが糞ドナルド・トランプの「発言」の「一部」を擁護して、「ヒラリーとトランプのどちらに投票するのか?」と訊かれ、しぶしぶトランプと答えたことで、自称リベラルから袋叩きにあう世界では。ですよね?

ただ勿論、キリスト教の誕生によって女性蔑視が決定的なものになる遥か以前から、この世の中ではオンナという性は徹底的に虐げられてきた。LTGBともなれば、さらに酷い虐げられ方をしてきた。それは歴史が証明している通り。そもそもオトコというのは、何千年にも渡って、ずっと社会的に甘やかされ続けてきた動物。それがゆえに、軽々しく「男はつらいよ」なんて言葉を口にするわけにはいかない。PC的にも。ですよね?

それゆえ、「男はつらいよ」なんてPC的にはアウトな泣き言は吐かずにそこそこ懸命に生きてきたのに、自分のことをフェミニストだと言ってはばからない野田努から「タナソーはマッチョだからなー」と鼻で笑われる始末。少しばかり厄介な二人の母親との関係もあって、何十年もの間、「自分の中にはミソジニーが住んでいるんじゃないか?」と戦々恐々としながら生きてきたというのに。何だよ、それ? ホント男はつらいよ。いやいや、そんなこと言っちゃいけない。それはPC的に間違ってる。ですよね?

しかし、一度は遂にリリースされる気配があったものの、果たして今度はいつになったらリリースされるのかさっぱりわかんなくなってしまったフランク・オーシャン2ndアルバムのタイトル、知ってますよね。『ボーイズ・ドント・クライ』です。キュアーの初期代表曲と同じタイトル。少しばかり超訳すると、男はつらいよ。果たしてそんなタイトルが冠されたアルバムで、LTGBたるフランク・オーシャンは何を語ろうとするのか。これは2016年における一大事件になること必至なのです。ですよね?

では、何故ゆえ、こんな謎の枕から、この拙稿は始まったか? と言えば、それはすなわち、本稿の主人公シャムキャッツが二枚の傑作『AFTER HOURS』『TAKE CARE』の後、満を持してリリースしたシングル『マイガール』収録の3曲が発しているフィーリングが「懸命な男の子」に他ならないからです。猛烈なまでに「懸命な男の子」が描かれている。

乱暴に言えば、特に“マイガール”は尾崎豊の“I LOVE YOU”の2016年ヴァージョン。どちらの曲の主人公の男の子もそのガールフレンドも決して強くはない。不条理な世界に囲まれながら、だからこそ、互いに支え合うしかないはずが、時には傷つけ合ってしまう恋人たちの歌。

尾崎豐 / I LOVE YOU

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ただ、尾崎豊の“I LOVE YOU”がバブルの残り香の中、世間の豊かさからも浮ついた空気からも阻害された、ごく限られたはみ出し者の二人の歌だったとすれば、“マイガール”の場合は、もはや一億総中産階級という言葉が遠い記憶の彼方に消えてしまった、この2016年にどこにでもいるだろう恋人たちの歌。つまり、19の頃、ほんの些細な理由から、西武新宿線野方駅から15分、風呂なし四畳半のガールフレンドの下宿で、泣きながら殴りあいの喧嘩をしたような、冷戦時代世代のサウンドトラックではない。

取り立てて貧しいわけではない。しかし、すべてが順調満帆とは言いがたく、決して遠くまで見通せはしない未来が時としてごく穏やかな日常を抑圧してしまうことで、そこに小さな亀裂を生んでしまう、そんな今を彼らシャムキャッツは見事に切り取った。英国のEU離脱を手始めにさらに全世界的な混迷が、この島国の暮らしに静かに、だが確実に影響を及ぼし始めた2016年のサウンドトラック。まずは改めて聴いておきましょう。

シャムキャッツ / マイガール

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他の誰よりも自分のことをわかってくれていて、他の誰よりも大切なはずのガールフレンドが、時として自分自身の一番の厄介ごとになってしまうという小さな悩み。だからこそ、感じることの出来る確かな幸福。知ってる。女は本当につらいよ。でも、口には出さないけど、男もつらいよ。きっとLTGBはもっとつらいよ。いや、どうなんだろ、わかんないしな、そんな知ったようなこと言えないよな――そんなあらゆるエモーションがこの曲には重層的に紡ぎ込まれている。

甘く切ないヴァースとコーラス。そこまでの逡巡をすべて燃焼し尽くすべく、ただひたすら「でも、本当に好きなんだよ!」というフィーリングだけをドライヴさせていく、後半のアグレッシヴでグルーヴィなコーダ部分。これはまさに「懸命な男の子」の物語にほかならないのです。

きっと岡村靖幸なら、こんな風に歌ってくれるに違いない。「♬なんで僕らが生まれたのか/ぜったいきっと女の子なら知ってる/なんで僕らが泣き出すのか/ぜったいきっと女の子だけ知ってる」。勢いに任せて、リリースから25年経っても、いまだ号泣せずにはいられない不朽の名曲を貼っておきましょう。

岡村靖幸 / Peach Time

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そうか、なるほど。以下の夏目知幸との対話では、曽我部恵一と小沢健二という軸の狭間に、この曲を位置付けようとしていたりするんですが、この“マイガール”は尾崎豊と岡村靖幸との狭間に位置する曲でもあるのかもしれません。今、思いついた。

閑話休題。

勿論、この3曲の主人公たちは、「男はつらいよ」なんて泣き言は一言も言ってはいない。だって、山田洋次映画『男はつらいよ』にしたって、劇中の渥美清はそんな弱音は吐きませんから。間抜けな奴らがいたら、そいつらの頭をはたきこそすれ、責めたりはしない。また再び住み慣れた葛飾の街から去っていくだけ。粋ですよね。だからこそ、そんな寅さんの代わりに、作家である山田洋次がこんなタイトルをつけてあげたというわけです。「男はつらいよ」。なので、余計なおせっかいなのは承知の上ながら、俺が言うんです。ボーイズ・ドント・クライ。男はつらいよ。世の中からの袋叩きも省みず。

それにしても、この2016年の日本でまともなロック・バンドをやるのは本当につらいよ。方やジャニーズ、方やLDH系のふたつが決して揺らぐことのない二大政党制を敷く中、ロッキンだっけ? そのオルタナティヴがそれよりさらに退廃的なファンダムを形成している。2010年代半ばには、さすがにそうしたすべてをひっくり返すことはなくとも、来たるべきオルタナティヴとして、全国的に確固たるうねりを生み出すかと思われた「東京インディ」はすっかり離散してしまった。実によるべない時代です。しかし、日本のポップ・シーンの話になると、いきなりすべてがしょぼくて、辛気臭くなっちまうな。ですよね?


東京インディが離散した2015年。そして、
世代交代が進む2016年、シャムキャッツが
夏のラヴ・ソング“マイガール”を世に問う


しかし、ここ数年、「いや、わざわざそんな下らない政治を音楽に持ち込まなくてもさ、メインストリームもインディもロックもポップも混ざってきゃいいじゃん」というスタンスで活動してきたシャムキャッツは、このシングル『マイガール』においてさらに次に進んだ。言うなれば、「君と俺たちが今この瞬間、今この場所を最高なものにすればいいじゃん、てか、それ以上に大切なことなんてないじゃん」的な。ですよね?

だからこそ、今回の“マイガール”はごく必然的に、甘い甘いラヴ・ソングになった。サウンド的にはアグレッシヴなロックになった。三人称のキャラクターを動かして風景を描き出すのではなく、一人称を使って、感情を、気持ちを、思いを、どこまでも燃焼し尽くすような曲を書くことになった。

実は、2016年前半のシャムキャッツは、以下の対話でもごくさらりと触れられている通り、「そりゃ、さすがにないだろう?」という酷い経験に直面したらしい。と知らないふり。本人たちももう忘れたはずだから詮索はなし。そんなの粋じゃないしね。

この真っ正面からのラヴ・ソングという方向性、そして、リーディング・トラック“マイガール”って、いつになく夏目知幸という人のキャラクターが反映された曲だなーとの判断から、今回のインタヴュイーは敢えて夏目知幸ひとりです。なので、そこは鑑みて、読んで下さい。近い将来、改めてメンバー全員との対話をお届けしたいと思います。

念を押しておきますが、このリード文で書かれたこと、ここでの解釈のすべては飽くまで文責である田中宗一郎に属するものであり、シャムキャッツや夏目知幸とはまったく関係ありません。悪しからず。叩くなら、俺を叩け。叩かれたら、埃しか出ないから。舛添要一第19代東京都知事以上に。まあ、でも、何かしらの誇りも出るかもね。と最後にちょっと粋がってみました。

では、インディ界の若き渥美清こと、夏目知幸との対話をお届けすることにしましょう。いや、若き渥美清って、それ、なしでしょ。



この2016年夏に何故、新曲“マイガール”は
ラヴ・ソングなのか? 何故ロックなのか?
シャムキャッツ夏目知幸がその謎に答えます


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