SIGN OF THE DAY

東京インディが離散した2015年。そして、
世代交代が進む2016年、シャムキャッツが
夏のラヴ・ソング“マイガール”を世に問う
by YOSHIHARU KOBAYASHI
SOICHIRO TANAKA
July 28, 2016
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東京インディが離散した2015年。そして、<br />
世代交代が進む2016年、シャムキャッツが<br />
夏のラヴ・ソング“マイガール”を世に問う

まずは少しだけ振り返ってみましょう。ほんの3年前のお話です。〈サイン・マガジン〉立ち上げの2013年は、いわゆる東京インディと呼ばれるシーンに確かな実力と個性を持ったアーティストたちが揃い、いよいよ、その熱気が全国に伝播するのではないか? という予感が漂っていた時期でした。実際、その熱気が〈サイン・マガジン〉立ち上げを後押しする要因のひとつだったのも事実。我々の静かな興奮は、当時の記事からも感じ取れるはず。

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しかし、2015年初頭には、個々のアーティストが活動の規模を広げていくに従って、思いの外、東京中心のシーンが地方に飛び火していかないという現実が明らかになってきました。こうした状況を打破するには、個々のアーティストの音楽性以上に、それぞれを取り巻くマネージメント体制――つまり、アーティストをバックアップするチームのアイデアと戦略が重要になってきます。この頃、東京インディと一括りにされていたアーティストたちの間で、残酷なまで明暗が分かれ出した理由は、そのまま彼らを支えるマネージメント体制の差でもあった。と言ってもいいのではないでしょうか。まあ、商業的な成功なんてどうでもいいと言えば、どうでもいいんですけど。

東京インディと一括りにされていたアーティストたちの明暗がどのようにわかれ、どのように彼らが「散らばって」いったのか――ここで改めて、見返しておきたいと思います。

まず、2015年の主役がceroだったことに異論を挟む人はいないでしょう。2015年の年明け頃、前年にシングルとしてリリースされていた『Yellow Magus』『Orphans / 夜去』の充実度からしても、来たるべき新作『Obscure Ride』で彼らが東京インディという狭い枠組みから抜け出すに違いないという誰もが抱いた予感は、いい意味でも悪い意味でも的中しました。

cero / Summer Soul

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一方、彼らに続くと期待されていた東京インディの重要な一角、森は生きている、吉田ヨウヘイgroupは相次いで解散。

それを尻目に、HAPPY、Awesome City Club、Shiggy Jr.といったメジャー移籍組が吹っ切った活動方針を選択し、音楽性も活躍の場もそれまでとは違うところへと移行していくという流れもありました。それが功を奏したのかどうかは、すぐには判断がつきかねるところですが。

Awesome City Club / Don’t Think, Feel

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HAPPY / Mellow Fellow


Yogee New Waves、never young beach、D.A.N、Homecomingsといった新世代がメキメキと頭角を現したのも2015年のこと。

Yogee New Waves / Like Sixteen Candles

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「ポップ音楽の理想」を受け継ぐバンド、
D.A.N.がなぜ日本のインディ・シーンで
特別な存在なのか、その理由を教えます


新たなシーンの胎動と言えば、NOT WONK、LEARNERS、car10を擁し、新時代のパンク・コミュニティをリプレゼントする〈KiliKiliVilla〉が急速に求心力を高めているのも見逃せないでしょう。

そして2016年前半には、東京インディの磁場とは完全に切り離されたフレッシュな新世代と位置づけられるSuchmosが、瞬く間にブレイクしていきます。やはりこれには時代の変化を感じ取らずにはいられません。

Suchmos / MINT

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勿論、近年はDYGL、Boys Age、Klan Aileen、Burge、Taiko Super Kicksといった、世界を舞台に活動するイメージを持ったバンドたちに注目が集まり始めていることも忘れてはならない。ただ、これはまだ局所的な動きに留まっています。

DYGL / Let It Sway

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Boys Age / Worlds of More Strong Love


こうして振り返ってみると、わずか3年の間に、かつて存在したシーンらしきシーンは完全に離散し、個々のバンドが独立独歩で懸命に活動しているように映ります。例えば、スカートやROTH BART BARONといったバンドの現在の活動を見てもそう感じずにはいられません。

すべての始まりはスカート、澤部渡だった。
シティーポップの先駆け? 東京インディの
始祖?先駆者スカート最新作が意味するもの


ROTH BART BARONの謎を紐解くための
「10のキーワード」を巡っての10の質問。
三船雅也との往復書簡インタヴュー:前編


では、東京インディの代表格の一組であり、本稿の主役でもあるシャムキャッツは、この状況下でどのような活動をしてきたのでしょうか?

彼らは2014年のインディ・シーンを象徴する傑作『AFTER HOURS』を経て、2015年初頭にはそのフェイズを締めくくる『TAKE CARE』をリリース。こちらが当時のインタヴューです。

シャムキャッツ interview part.1
暮れていく夕日に幸せを感じる人にも
気持ちが沈んでいく人にも、優しさと
厳しさを届けるポップを目指して


さらには、2014年からジャンルや世代を超えたアーティストを招集した自主企画イヴェント〈EASY〉を開催。つまり、インディ/メジャーという二項対立とは異なるパースペクティヴで、独自のポジションを築き上げてきたのが2015年までのシャムキャッツ、と言えるかもしれません。

そして、2016年夏、シャムキャッツは、これまでとははっきりと違う新たなモードを打ち出してきました。それが8月10日にリリースされる3曲入りのニュー・シングル『マイガール』です。

ご存知の通り、『AFTER HOURS』以降のシャムキャッツは、美しく構築されたソングライティングとアレンジ、そして情景描写から繊細な心の機敏を描き出す三人称の物語調リリックというスタイルを選んできました。それは、彼らが「洗練」という名の成長を目指してきたことを意味しています。

シャムキャッツ / LAY DOWN

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シャムキャッツ / GIRL AT THE BUS STOP

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しかし、『マイガール』でのシャムキャッツは明らかにそのスタイルから脱却し、新たな方向へと歩み始めました。

その変化とは端的に言えば、ウェルメイドなポップからアグレッシヴなロックへ、三人称の物語から一人称の主観的なリリックへ、情景描写から内面的なエモーションの描写へ、ということです。つまり、ここ数年のシャムキャッツが意識的に封印してきた、ダイレクトで、それゆえに力強いスタイルがここにはあります。

ただし、それが『たからじま』以前のシャムキャッツへの回帰でないことは、タイトル曲の“マイガール”を聴けば明らか。いかにもラヴ・ソング然とした、とろけるような甘いコーラスとヴァース、そして、アグレッシヴでダンサブルなアウトロ。まさにこれまでにありそうでなかったシャムキャッツの新境地を凝縮した曲がこれです。

シャムキャッツ / マイガール

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構築的な曲作りの方法を探求し、基礎体力が大幅に上がった今だからこそ出来る「ロック」――それが“マイガール”であり、新しいシャムキャッツが提示する現在地だと言えます。

もうひとつ、敢えて書くとすれば、『AFTER HOURS』におけるシャムキャッツの抜本的な変化は、次々と優れた才能が頭角を現していた東京インディ・シーンの中で、どうすれば自分たちの立ち位置を見つけることが出来るのか? という試行錯誤の賜物だったと捉えることも出来ます。

例えば、当時、隆盛を極めていたcero、ROTH BART BARON、ayU tokiO、吉田ヨウヘイgroup、王舟のような大所帯の室内楽的な方向に向かわず、4ピースのロック・コンボという形態にこだわったのは、シャムキャッツの元々の資質であると同時に、他のバンドと同じことをやっても意味がない、という意識が働いていたところもあるはず。当時の状況において、その判断は間違いなく功を奏していました。

しかし、この『マイガール』におけるシャムキャッツの変化は、シーンの状況云々ということは一切考えていないように感じられます。もうそこにこだわっても意味はない。存在するかもわからないインディという小さな世界でのイス取りゲームに参加しても仕方がない――そういった意識の変化が、このシングルに更なる大胆さと力強さを与えているようにも感じられるのです。

言ってみれば、『マイガール』は、図らずもここ数年の東京インディの状況に対する間接的な批評になっている。そんな一見、乱暴に思える位置づけも可能なのかもしれません。

さて、シャムキャッツが『マイガール』で投じた一石は、東京インディがばらばらに離散した2016年の音楽シーンに、どのような波紋を広げ、どのような新しい可能性を見せることになるのでしょうか? その答えは、そう遠くない未来にわかるはずです。




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