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シャムキャッツ interview
『AFTER HOURS』の作り方:
昨日のことは忘れたふりをしようか
by SOICHIRO TANAKA March 14, 2014
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シャムキャッツ interview<br />
『AFTER HOURS』の作り方:<br />
昨日のことは忘れたふりをしようか

以下の記事は、シャムキャッツ新作『AFTER HOURS』にまつわるインタヴュー記事のダイジェスト版です。実はこれ以外にもディレクターズ・エディション――総文字数2万字を越える長尺インタヴュー完全版が存在します。質疑応答もリード文も大幅に改変、短縮してあります。こんな風にヴァージョン違いの二つの記事を作った意図については、近々フェイスブックに書きます。もしお暇であれば、そちらも読んで下さい。そして、お時間の許す方は、総文字数2万字を越える長尺インタヴュー完全版をどうぞ。思いのほか、さくさくと読めるはずです。かなりグルーヴィなので。

シャムキャッツ・インタヴュー完全版 part.1
シャムキャッツ・インタヴュー完全版 part.2
シャムキャッツ・インタヴュー番外編 part.1
シャムキャッツ・インタヴュー番外編 part.2

では、改めて始めましょう。

シャムキャッツ新作『AFTER HOURS』は、苛立ちと穏やかさの間で揺れ動く2012年後半日本のムードを見事に切り取った傑作『たからじま』を軽く凌駕する傑作だ。しかも、まったく違うサウンドとまったく違うスタイルの歌詞を併せ持つ100%新機軸。2013年の始まりを告げる作品。と大げさに口を滑らせてもいいほどの。

至極、乱暴に言うなら、『AFTER HOURS』のトーンは、以前と比べれば、遥かにメロウで、ダウンテンポ。だが、本作『AFTER HOURS』のサウンドの肝は、テンポの速さとはまったく無縁の場所に存在している。それは、bpmが90台だろうが、120台だろうが、どのトラックもとにかく最高にグルーヴィだということ。かつては、アンサンブルと呼べるかどうかギリギリのラインだった、荒唐無稽とも言える彼らシャムキャッツのバンド・アンサンブルは、ここにきて、その荒々しさを失わないまま、著しく進化を遂げた。

また、何よりも完全に別次元に突入したのが、夏目知幸のリリック。以前までのシュールな言葉遊びはすっかり後退した。それに取って代わったのは、時には三人称を使い、時にはキャラクターを設定することで、さまざまな境遇の架空の若者たちを主人公にしたストーリーテリングだ。

リリックの主たるモチーフは、2014年の日本なら、どこにでもいるだろう男女の生活。住めなくなった故郷の街を去っていく青年。互いに仕事に追われ、なかなか同じ時間を共有出来ない恋人たち。不貞から抜け出せずに秘密の逢瀬を重ねる男女。望まない理由で仕事を辞めるはめになり、思わず勢いで新たな部屋に引っ越してしまった元OL。初めての、淡くはかなげな、幼いセックスに永遠を感じずにはいられない少年――そんな主人公たちの物語だ。と、同時に、震災による地盤の液状化、格差社会、ブラック企業といった2014年の社会的なトピックをさりげなく盛り込みながら、リリック全体のトーンは、総じて優しげで、彼らキャラクターひとりひとりを見守るような慈しみの視線で貫かれている。

シャムキャッツ / AFTER HOURS


つまり、『AFTER HOURS』というアルバムは、アートワークが示す通り、個々の10のトラックがそれぞれ異なる個性を持ちながら、全体として見事な統一感を持ったトータル・アルバム。慈愛に満ちた眼差しによって綴られた、2014年の日本を生きる若者たちの群像を描いた10の短編集。メロウなコード・プログレッションで彼らキャラクターたちを包み込むように見守りながら、同時にその煮え切らないケツをグルーヴィなビートで蹴り上げ、明日にロールさせていく日々のサウンドトラック。そして、半径数キロほどの小さな世界で右往左往し続ける、すべての若者たちに向けた“ホワット・ア・ワンダフル・ワールド”という、44分38秒のささやかな祝福。つまるところ、傑作『たからじま』とはまったく別種の魅力に満ちた、新たなるマスターピースだ。



●では、まずアルバムの露払いシングル『MODELS』――この曲のリズムというのは、ビートはbpm120台、で、何よりも16のグルーヴが軸になっている。これは、明らかにこれまでシャムキャッツがやってこなかったスタイルだよね。このアイディアというのは、どういう風に出てきたんでしょう?

夏目知幸(以下、夏目)「『たからじま』の時は、普通の8ビートが一番好きで。でも、なんか、自分達がやりたいフィーリングというのは、それでは表現しきれないものもあるなって気づいた時に、16の感じっていうのがあったんだと思います。ドラムも16でどんどん行く感じで、ギターはコードで支えて、ベースはわりとファンキーっていうか、自由に動くっていうのが、シャムキャッツにも合うな――そんなイメージがあったんですよね」

藤村頼正(以下、藤村)「それと、単純にアズテック(・カメラ)を聴いてて、『あ、こういうの、今やったらかっこいいかな』っていう。それで『この感じ、いいんじゃない?』って言って。『やろうやろう、俺、16叩くから』って言って(笑)。『叩けんの?』って言われて。『いや、叩く』って」

●じゃあ、アズテック・カメラの再発見はかなり大きかった?

夏目「そうですね。『たからじま』を出してから半年ちょいくらいは、どんな音楽聴いてもドキドキしなくなっちゃってたんですよ。だから、新譜も全然聴かないし。昔の聴いても知ってるし、みたいな。どういうバンドが売れても、まあ、売れるんだろうな、って曲調とか、システムとかも把握しちゃってるし。もうとにかく『ハア〜ッ』って感じだったんですよね。で、何故か、そん時に引っかかったのが、アズテック・カメラとオレンジ・ジュース、ファンタスティック・サムシングとか。あと、スミス。何故か、その辺のものに対して、『美しい!』と思っちゃったんですよね。『ああ、綺麗だなあ。これ、やりたいな』っていうのがガッと来てしまったっていう」

菅原慎一(以下、菅原)「なんか、“ネオアコとヒップホップの融合”みたいな。それ、ずっと言ってて。だから、この曲のビートの強さっていうのはヒップホップへの憧れ(笑)。だから、憧れ止まりなんですけど(笑)」

シャムキャッツ / MODELS


●じゃあ、この“MODELS”をアルバムの露払いシングルのリード・トラックにした理由は、主に、今、話してもらったサウンド面から? それ以外の理由もある?

夏目「実は、シングルで出そうと思ってた曲は2曲あって。最後まで迷ってたんですよね。でも、歌詞のハマり具合が“MODELS”のほうが圧倒的によくて。歌詞が出来た段階で、これで行こうって決定になりましたね」

●この曲の歌詞というのは、これまで夏目くんがあまりやってこなかったスタイルだよね。まずキャラクターの視点が彼と彼女――三人称になっている。で、1曲の中でちょっとした時間の推移があって、少しだけ物語が進んでいく。三人称で書こう、キャラクターを立てようっていうアイディアが出てきたのは?

夏目「アルバムを作ろうって思った時から、『今回は基本は三人称で行こう、僕って言葉を使っても、それは三人称の気持ちで歌詞を書こう』っていうのがあったので、それを徹底した感じですね。なんか、『美しさを捉えたい』みたいな気持ちがあったんですよ、最初に。特に『自分達が住んでた街について歌いたい』って気持ちが大きくて。その原因って、俺、浦安が実家なんだけど、地震の時、液状化がすごかったから、もうここには一生住めないっていう判断で、うちの両親が違うとこに引っ越したからなんですけど。しかも、もしもう一回地震があったら、本当にだめになって、誰も住まない土地になっちゃうかもしれない。だから、そこで暮らしてたこととか、そこで良かったこと、美しかったことを曲にしときたいっていうか、アルバムとして残しておきたいっていうのが、まず最初の発端ではあるんですよ。そうなると、あんまり自分とか、僕はこう思ってる、ってところが、それを捉える方法としてはちょっと違うかなっていう。誰の発言か忘れましたけど、『最近のラヴ・ソングには社会的な要素が入ってない』っていう物言いに対して、『いや、男女の関係をしっかり歌っていれば、自然と社会性は入り込んでくるから、わざわざそんなもの入れようとしなくていいんだ』っていうのを読んだことがあって。まさしくそれをやろうとしたっていうか。わざわざ“どッちでもE”みたいな曲ではなくても、“MODELS”みたいに団地に住んでる少年少女の恋の歌を歌うだけでも勝手に社会性が出るから、わざわざ入れようとしない。それくらいの濃さでいいかなっていう。『たからじま』のやり方だと、とにかく疲れたんですよ。自分の身を削ってるかのようだったし、ライヴもグイグイ行かないといけないし、なんか疲れるなと思って。で、疲れるのはよくないなと思って。だから、せめて役者を変えようと思って。そうすると楽ですね(笑)。その方が、書き手としては楽しいですし。その距離感が今はちょうどいいですね」

●じゃあ、この“どッちでもE”をアルバムから外したっていうのは、歌詞のスタイルという点において、アルバムの方向性とは違っているから?

夏目「そうです。今、言ったこととは、やっぱ離れちゃう。とにかく、そういう話はたくさんしましたね、メンバーに。これこれこういう意味で、こういう楽曲が必要で、とか」

●じゃあ、音楽的にアズテック・カメラを経由して、今までになかった音楽的なアイディアを持ち込むことから出発したものの、最終的には、この『AFTER HOURS』という作品は、アルバムとしてトータルで何を表現していくか? が、すごく重要なアルバムになった?

夏目「そうです。順番的にはホントそんな感じです。サウンド・アプローチのアイディアの後に、自分達なりのテーマが入ってきて、そこで初めて納得行ったっていうか。あと、土地柄的にも、何もないところにゴミを埋めて、街が出来て、そこで暮らしてて。で、それがダメになりそう、っていうのが、パンクが出てきて、グチャグチャになって、もう一回やり直そうと思って、ネオアコみたいなのが過去のものを盛り込んで違う形でロックとして成り立ったっていう背景とが被るなって、僕としては思って。だったら、その共通点、その交わるところを音楽として自分達で探せばいいものが出来そうだな、っていう」

●歌詞のスタイルにおいて、何かヒントになったものはありますか?

夏目「あ、金曜ロードショーで、『おもひでぽろぽろ』やってたんですけど。あれって、テーマとしては結構似てるんですよ、『AFTER HOURS』と。自分が過ごした街とは違うところに行って、何か違う体験をしようとするんだけど、その最中でいろんなことを思い出しちゃったりとか。ノスタルジーもありつつ、日本の原風景を残しとこうっていう力強さも感じるし。その対比っていうか、コントラストが素晴らしいなって思って。『これが音楽でやるならどうしようかな、歌詞で書くならどうしようかな』っていうのがアイディアとしてあったかもしれないです。あと、例えば、オザケンの『10年前の僕らは/胸を痛めて/“いとしのエリー”なんて聴いてた』(“愛し愛されて生きるのさ”)っていう、あの限定性? 変わるものをガッと出すことによって、変わらないところの強さがすごい湧いてくるっていうか。むしろ変わらない美しさがムクムク起き上がってくる感じが欲しかったんですね」



では、最後に『AFTER HOURS』の最初のヒントになったアズテック・カメラの傑作1stアルバムから1曲貼っておきます。当時のインディ・キッズは、ロディ・フレイムみたいにギターが弾けなくとも、「ディミニッシュ・コードって何?」な状態でも、取りあえずがっつり形からコピーしたもんです。ポーラー・タイとか、髪型とか、フリンジのジャケットとか、ロール・アップしたジーンズとか、裸足にモカシンとか。とにかく先に進みたかった。だって、「ジョー・ストラマーのポスターは/壁から剥がれて落ちてしまった」んですから。良くも悪くもパンクがすべてを刷新した、あの素晴らしかった昨日のことはすっかり忘れたふりをして、頬を刺す冷たい風が心地よい冬の海岸に向かって歩き出したんです。意気揚々と。まるでシャムキャッツのアルバム『AFTER HOURS』みたく。

Aztec Camera / Walk To The Winter

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