SIGN OF THE DAY

90年代半ば、最初のUSインディ全盛期の
落とし子、スリーター・キニー復活か?
今だからこそ聴きたい傑作アルバム3選。
その①:キュレーション by 天井潤之介
by JUNNOSUKE AMAI October 17, 2014
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90年代半ば、最初のUSインディ全盛期の<br />
落とし子、スリーター・キニー復活か?<br />
今だからこそ聴きたい傑作アルバム3選。<br />
その①:キュレーション by 天井潤之介

メジャー・レーベルの参入によってグランジが崩壊した後、その焼け野原から〈キル・ロック・スターズ〉や〈K〉、〈マタドール〉、〈マージ〉といったインディ・レーベルの草の根ネットワークが全米各地に広がった90年代半ば。それは本当の意味でのUSインディ隆盛期であり、もっとも幸福な時代だった。ただそれからほどなくしてラップ・メタルが台頭。アメリカにはまた暗雲が立ち込める。だが、ライオット・ガールの最終兵器=スリーター・キニーは、そんな時代の分岐点を語る上でエリオット・スミスやビート・ハプニングと共に絶対に外せない存在だ。

4年前にはキャリー・ブラウンスタインの口から「5年後に再結成」宣言も飛び出して耳目を集めた。そのタイム・リミットを目前にして〈サブ・ポップ〉から全カタログがリマスター再発される(7th『ザ・ウッズ』のみヴァイナル限定発売)。なんとも期待を煽る展開だが、これを機に『サイン・マガジン』のライター陣に、まず手に取るべき彼女達の傑作アルバムをそれぞれ3枚ずつ選んでもらった。現在のUSインディの強固な基盤を築き上げるのに多大な貢献を果たしたスリーター・キニーの、今だからこそ聴きたいアルバムはこれだ!(小林祥晴)




3. One Beat (2002)

90年代半ば、最初のUSインディ全盛期の<br />
落とし子、スリーター・キニー復活か?<br />
今だからこそ聴きたい傑作アルバム3選。<br />
その①:キュレーション by 天井潤之介
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「何だろう……心をガシッと鷲掴みにされるような感動というか、ここ最近ではちょっとないポジティヴな経験だったな。そういうことがあると世の中まだまだ捨てたもんじゃないって思えるよね」。本作『ワン・ビート』がリリースされた2002年の〈オール・トゥモローズ・パーティーズ〉でのスリーター・キニーのライヴについて、ホスト役として彼女達を迎えたサーストン・ムーアがそう感慨深げに話していたことが強く印象に残っている。

前作の『オール・ハンズ・オン・ザ・バッド・ワン』以降、コリンは出産を経験し、キャリーは高校の臨時教員を務め、ジャネットはクアージの活動に入り離れ離れの時間を過ごした彼女達だったが、レコーディングを前に3人みながポートランドの住人となり、物理的にも密な距離感の下で制作された6作目。バンドの結束をあらためて確かめ合う機会ともなった本作の背景には、互いの私生活の変化に加えて、前年に起きたテロ事件の余波が影を落としていたことは言うまでもない。本作のタイトルには、そうしたバンド自身の姿と不安定な社会情勢を重ねる形で、揺れ動いたりバラバラになってしまったものを一つに束ねたいという彼女たちのメッセージが込められていた。レゲエのリズムにアメリカ政府への批判的な歌詞が乗せられたクラッシュのオマージュ“コンバット・ロック”は本作の白眉。

Sleater-Kinney / Combat Rock (live)


スティーヴン・トラスク(※映画『ヘドウィグ・アンド・ザ・アングリー・インチ』の音楽を担当)が初の男性ヴォーカルとして参加した――次作『ザ・ウッズ』における音楽的変化を予告した重厚なグルーヴを披露する“プリスティーナ”も素晴らしい。

Sleater-Kinney / Prisstina




2. Dig Me Out (1997)

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その『ワン・ビート』がリリースされた2002年のロック・シーンは、折からのロックンロール・リヴァイヴァルの最中。当時のインタヴューでコリンは、「キャリーが言ってたけど『ロックンロールを救うバンドっていつもギターを弾く白人の男の子』って。音楽業界が売れると思うものの概念って何年経っても変わらないってことなのよね」と皮肉をこぼしていた。ストロークスしかり、ジャック・ホワイトしかり、カート・コバーンにしたってそう、と。

2000年代の初頭と言えば、ピーチズやチックス・オン・スピードを始めとしたエレクトロクラッシュ勢、ロックンロール・リヴァイヴァルの発信地となったニューヨークでもギャング・ギャング・ダンスのリジー・ボウガツォスやココロジーといった女性アーティストが活気を見せたタイミングという印象も個人的に強い。とくに前者はライオット・ガールの流れを組むシーンだったわけだが、こと「ガールズ・ロック・バンド」に関して、孤軍奮闘と言わないまでも連帯したり議論を戦わせたりできる存在が身近に乏しかったことは、彼女達にとって大きな不幸だったと言えるかもしれない。ちなみにその頃、レ・ティグラのデビュー・アルバムをリリースしたキャスリーン・ハンナがビキニ・キル時代を振り返り、「当時は、わたしと男性の怒りのぶつけ合いを目撃することが観客にとってポジティヴなことだと思っていた。でも徐々に、あの行為そのものが女性蔑視だったと感じるようになってきたのね。というのも、わたしは男性のみと対話していて、肝心の女性を疎外していたわけだから」と話していた言葉を思い返す。「ガールズ・ロック・バンド」という先入観も、ライオット・ガールについての知識も特段なかった頃に聴いたマイ・ファースト・SK=『ディグ・ミー・アウト』だったが、そんな時分にひとまず出会えたことに幸運を感じ、そして何より、今聴いても最高のロックンロール・アルバムだと心の底から思えることが嬉しい。

Sleater-Kinney / Dig Me Out (live)


Sleater-Kinney / Words and Guitar




1. The Woods (2005)

90年代半ば、最初のUSインディ全盛期の<br />
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今だからこそ聴きたい傑作アルバム3選。<br />
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現時点でスリーター・キニーのラスト・アルバムであり、余談だが、本作でプロデューサーを務めたデイヴ・フリッドマンの現時点でのベスト・ワークだと断言したい。リリース時、〈サブ・ポップ〉からのプレス・リリースに「作品を聴いたリスナーのなかには失望を感じる人もいるかもしれない」と彼女達の言葉が書かれていたことを思い出す。

キャプテン・ビーフハートやクリームといった60年代のサイケデリック・ロックを参照し、ライヴで披露されるインプロヴィゼーションやジャム的な要素を大胆に導入したプログレッシヴなロック・サウンドは、なるほど従来のバンドのイメージを裏切り、これまでのディスコグラフィとは異なる境地に彼女たちが足を踏み入れたことを伝えるものだった。そうした変化は、前述の通り前作『ワン・ビート』にその萌芽を感じられたが、完成後のインタヴューでコリンが「今まで足を踏み入れてなかった遠くの果てまで行っちゃったような感じかな……」と、手応えを感じながらもその“実体”について説明する言葉を探すように話していたことが印象深い。ブートで彼女達のライヴ音源を集めていた自分はその変化を好意的に受け止めたものの、ただ、例のプレス・リリースの言葉に妙な胸騒ぎを覚えたのも事実。そして実際、本作のレコーディングに先立ちバンドの解散を考えていたことをインタヴューで明かしたコリンを含め3人の中では、その翌年に発表される活動休止の決断はすでに下されていたのかもしれない、と今にしてあらためて思う。結局、本作のライヴを観ることは叶わなかったが、スリーター・キニー史上最長のトラックとなる“レッツ・コール・イット・ラヴ”の11分間には、そんな彼女達がそれでも手にしたかったサウンドの本領が刻まれていると言っていい。

Sleater-Kinney / Let's Call It Love


そして、忘れてならないのは、活動休止から4年後の2010年の『ピッチフォーク』のインタヴューでキャリーが、5年以内にスリーター・キニーを再結成して、新作も発表するかも、と話していたこと。約束の時間はもう目の前に迫っている。

Sleater-Kinney / Entertain


Sleater-Kinney / The Fox






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