SIGN OF THE DAY

孤高のモダン・ロックンロール・バンド、
スプーン、オールタイム・ベスト5曲。
その④:キュレーション by 田中宗一郎
by SOICHIRO TANAKA September 15, 2014
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孤高のモダン・ロックンロール・バンド、<br />
スプーン、オールタイム・ベスト5曲。<br />
その④:キュレーション by 田中宗一郎

もはやロック音楽が新たに更新されることなど特に誰も期待していない。というか、特にロック音楽に固執する理由などない。むしろ非ロック的なサウンドを取り込むことの方が、かつてのロック音楽の定義には相応しい。だが、スプーンの最新作『ゼイ・ウォント・マイ・ソウル』はこの2014年におけるロックの再定義――そんな無駄にしか思えないトライアルに真正面から取り組み、奇跡的にそれを成功させた作品だ。

『ゼイ・ウォント・マイ・ソウル』を巡るブリット・ダニエルと筆者との会話の中で、彼はこんな風に語っている。「僕はずっと『イギー・ポップとジェームズ・ブラウンとの出会い、もしくは、イギー・ポップとマーヴィン・ゲイの出会いと呼べるようなアルバムを作りたい』って言い続けてるんだ。誰かがストゥージズっぽいことをやるのを聴いてもあんまり何も感じないんだけど、その組合せにはすごくエキサイティングなものを感じるんだよね」。

これはゼロ年代以降のスプーンの音楽性を考える上で、非常に示唆的な発言のように思える。また同時に彼は、『ゼイ・ウォント・マイ・ソウル』について、こんな言葉も残している。「このアルバムの両側に2枚のアルバムを並べるとするなら? フレーミング・リップスの『エンブリオニック』と、ザ・ラーズの1stにしよう。その2枚がいい」。

20年に及ぶこれまでのスプーンの道程とは、グランジ隆盛期において、ワイヤーやギャング・オブ・フォーといったポストパンク・バンドの後継者として出発しながら――つまり、もっともロック音楽とは距離を取った場所から出発しながら、次第にロック/リズム&ブルーズ/ファンク/ソウルといったルーツ音楽に回帰することで音楽的な進化を果たそうとする、非常にアクロバティックなものでもあった。と同時に、彼らの音楽的参照点が、例えば、同時期のレディオヘッドのように半ばあからさまな引用ではなく、非常にこなれすぎたものであるがゆえに、その独自性と革新性を非常に見えにくくしてきた。

なので本稿では、スプーン音楽における非ロック的なプロダクションと非ロック的なソングライティングの探求、それと同時に起こったソングライティングにおけるルーツ回帰という2つの側面を炙り出すことを試みたい。もしこの内容に少しでも興味を持ってもらえるようなら、この原稿の冒頭に引用したブリットの発言含め、スプーン音楽をいろんなアングルから楽しむ上ではかなり示唆的な内容の、彼らのインタヴュー記事を手に入れて、是非とも目を通して欲しい。同じ場所には、彼らの近作3枚についても詳しく書いたので、良ければそれも参考にして欲しい。

では、始めよう。今の気分からすると、最新作のタイトル・トラック“ゼイ・ウォント・マイ・ソウル”こそがこのリストの筆頭に挙がるべきだが、しかるべき映像がなかったので、そこは割愛。まずは彼らの、非ロック的なプロダクションと非ロック的なソングライティングの探求について見ていこう。


5. The Mystery Zone (2010)

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2010年の前作『トランスファレンス』から1曲。まずはアコギとピアノのみの演奏を聴いて欲しい。一聴しただけではポップ・ソングとしては限りなく地味。コード自体もこなれたテンションを使い、きちんと変化こそすれ、1曲を通してルートはほぼトニックのまま。構成も極力シンプル。12小節の繰り返しという点からすれば、ブルーズの伝統に繋がるものでもある。すべてがミニマルだが、だからこそ醸し出されるこの緊張感。

『トランスファレンス』という作品はこの曲に代表されるようにソングライティングは極力ミニマル。そこにレゲエ/ダブのプロダクションをロック的なソングライティングに応用し、印象的なベース・ラインの反復によってヒプノティックな効果をもたらしたトラックがその大半を占めている。

リリース当時、筆者がつけたコピーがコーネリアスがプロデュースしたキンクス。あるいは、プリンスの『パレード』とビートルズの『リヴォルヴァー』との出会い。彼らのディスコグラフィの中でももっともトータライズされた作品であり、彼らのプロダクションに対する意識とモダニティが証明されたアルバムでもある。

では、このミニマリスティックな曲にどのようなプロダクションが施されることで、曲がどんな風に変化していくのかについて見てみたい。先ほどの、ほぼ骨だけのテイクにリズム隊が加わると、こうなる。

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何の変哲もない8ビート。クラウト・ロック風のベース・ライン。裏拍から入るベース・ラインはレゲエ的とも言える。そして、やはりレゲエに影響を受けた80年代初頭のポストパンクを思わせる3拍を刻むカッティングと4拍目に鳴るディレイ音。緊張感はそのままに、一気にグルーヴィな仕上がりになっている。

そして、スタジオ内でのプロダクションが施された実際のレコードではこんな風になる。

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どうだろう? 先ほどのスタジオ・ライヴに比べ、ギター・カッティングのディレイがきちんと制御されることで、さらにつんのめるようなグルーヴに姿を変えている。2分1秒からの展開部のいくつかの鍵盤の音色が強調されることで、曲全体としても一気にカラフルになった。曲後半になって、さらに細かく刻み出すベース・ラインも実に効果的だ。

4. Inside Out (2014)

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続いて最新作『ゼイ・ウォント・マイ・ソウル』から。前述の、非常にオーセンティックなロックンロール・トラックだった“ゼイ・ウォント・マイ・ソウル”とは実に対照的な1曲。bpm88で淡々としたグルーヴを刻む、どこまでもドリーミーで、ヒプノティックな“インサイド・アウト”だ。アシッド・トリップそのもののヴィデオ同様、かなりドープな仕上がりになっている。

コード進行こそ、ドミナント・モーションを軸にしたオーソドックスなものだが、前作『トランスファレンス』におけるヒプノティック音楽の完成型とも言えるだろう。スプーンからのチルウェイヴへの回答というよりはむしろ、〈コンパクト〉への回答と呼ぶ方が相応しいグルーヴィさにも注目したい。先日、この曲のWAV音源をクラブで鳴らしてみたが、音の分離といい、低音のふくよかな厚みといい、3拍目に入る「ブンッ」というトビ音といい、まさに圧倒的だった。

この近作2作からの2曲だけでも、いかに彼らスプーンがソングライティング以上にプロダクションを重視したバンドかということが端的に見えてくるはず。出来るだけいいシステムか、ヘッドフォンで聴きたい。是非試して欲しい。

ところで、「すべてのスプーン作品の中でまず何を手に入れるべきか?」という疑問をもしあなたが抱いているなら、間髪入れずに2007年の6thアルバム『ガ・ガ・ガ・ガ・ガ』と答えたい。全10曲37分足らず。まったくの捨て曲なし。その鉄壁のソングライティングに、さらに簡潔かつ見事なプロダクションが施されている作品だからだ。

だが、その次は? と言われると迷う。最新作『ゼイ・ウォント・マイ・ソウル』と前作『トランスファレンス』のいずれか。総合点では前者だが、後者は非ロック的なヒプノティックな反復音楽という彼らのプロダクションに対する徹底的なこだわりによって見事にトータライズされたアルバム。完璧な絵画のような1枚だ。それゆえ非常に難しい。だが、この3枚は併せてようやく現在のスプーンの全体像が見えてくる三部作でもあるので、迷わず3枚とも手に入れたいところ。

では、その次。これも難しい。強いて言うなら、2005年の5thアルバム『ギミ・フィクション』。2001年の3rdアルバム『ガールズ・キャン・テル』と、続く2002年の4thアルバム『キル・ザ・ムーンライト』も捨てがたいが、『ギミ・フィクション』は現在への彼らの音楽性の最初の萌芽とも言える作品。それゆえ、筆者からのレコメンドは、近作4枚ということになる。

特に『ギミ・フィクション』は活動黎明期はワイヤーやギャング・オブ・フォーといったポストパンク・バンドの後継者であり、それまでずっと同時代のペイヴメントの後塵を拝し続けた存在でもあったスプーンが、少しずつ本来のルーツへとさらに遡っていくことでオリジナリティを獲得していく時期の作品でもある。

3. The Beast and Dragon, Adored (2005)

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というわけで、件の『ギミ・フィクション』から1曲。この曲のヴァース~ブリッジ部がソロ最初期のジョン・レノン作品に多くを負っているのは明らか。だが、勿論ありきたりなパスティーシュには陥っていない。こうしたブリット・ダニエルのレノン作品に対する愛情と理解と再解釈の前では、正直ノエル・ギャラガー作品の存在は霞んでしまうほど。歌詞のもっとも重要な部分にロックンロールという言葉が出てくるのにも、かなり心が踊らされるものがある。

ただこの時点では近作3作ほどのプロダクションの妙は見られない。しかし、曲としては圧倒的に素晴らしい。それゆえ、ここではスタジオ内でのラフな演奏&プロダクションによる映像を貼っておきたい。レノンの『プラスティック・オノ・バンド』を思わせるこちらの生々しいサウンドの方がむしろ、曲の良さを際立たせているからだ。

2. The Ghost of You Lingers (2007)

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では、彼らの最高傑作『ガ・ガ・ガ・ガ・ガ』から1曲。『ガ・ガ・ガ・ガ・ガ』という作品は、全体としては古典的とさえ言えるロックンロール/R&Bマナーに乗っ取ったソングライティング重視のアルバム。それがゆえにこの時点では、彼らのプロダクションに対する意識はどこか見過ごされがちだった。なので、ここでは敢えてそうしたアルバム全体の方向性からは明らかに逸れた曲――“ザ・ゴースト・オブ・ユー・リンガーズ”を選んでおきたい。

初期ウォーター・ボーイズを思わせる鍵盤の連打。最後までドラムレス。トニックが鳴っているのは最初の6秒だけ。その後は和音はずっと宙ぶらりんなまま、ほぼトニックには回帰しない。ベースも入っていないので、調性はかなり曖昧なまま、最後までずっと緊張感を保ち続ける。取り立てて目新しいアイデアではない。

だが、ヴォーカル/コーラスを左右前後に振り分け、後半から一気に存在感を示すノイズといったプロダクションを施し、さらに緊張感を際立たせることで最後まで聴き入らせてしまう。しかも、決してエクストリームになりすぎることなく、ポップ・ソングとして成り立たせているのが実に見事。こちらも是非、いいシステムか、ヘッドフォンで聴いて欲しい。

それにしても、こんな曲が入っているアルバムを「オーセンティックなR&Bマナーに乗っ取ったソングライティング重視のアルバム」と取りあえず書かざるをえないのはかなりもどかしい。我々の日常の生業としてアルバム全体をレヴューする場合、どうしても枝葉を切り取って、主にその幹について語らざるをえない局面にぶつかることが多々ある。全体を要約せざるをえない。だが、往々にしてアルバム全体の魅力というのは、そうした食み出した枝葉の部分なしには成しえないものだ。

特にスプーンというバンドの場合、『ガ・ガ・ガ・ガ・ガ』におけるこの“ザ・ゴースト・オブ・ユー・リンガーズ”の存在しかり、ロック音楽を再定義しようとした最新作『ゼイ・ウォント・マイ・ソウル』に“インサイド・アウト”のような曲が入っていたりと、常に一筋縄ではいかない。アニマル・コレクティヴの諸作のように、1枚のアルバムがひとつのプロダクション・アイデアで統一されていることは非常に稀なのだ。そう、わかりにくい。だが、こうした幅こそがスプーンというバンドの魅力であり、と同時に彼らの評価をどこか曖昧にしている理由でもある。

これまでのところ、ソングライティング的にはあまりに地味なトラックばかり選んでいるので、どこが曲が書けるバンドなんだよ? という誤解を避けるためにも、参考までに『ガ・ガ・ガ・ガ・ガ』収録曲の内、所謂R&Bマナーに乗っ取った代表曲を2曲貼っておきたい。

The Underdog (2007)

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You Got Yr. Cherry Bomb (2007)

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1. Black Like Me (2007)

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最後は『ガ・ガ・ガ・ガ・ガ』の最後を飾る1曲を。本稿の前半では特にプロダクションに焦点を当てたので、ここではむしろ彼らのソングライティング面に注目してもらうべく、アルバムに収録されたスタジオ・ヴァージョンではなく、敢えてラフな演奏の映像を貼っておきたい。

これも一聴すれば、かなり地味に思われるはず。だがこれは、現代のジョン・レノンとしてのソングライター/ヴォーカリスト、ブリット・ダニエルの魅力が凝縮された、間違いなくゼロ年代屈指の名曲だ。『プラスティック・オノ・バンド』時代のレノンと、67年のビートルズが混じり合ったような曲調。だが、勿論、ゼロ年代にしか生まれえなかった。ザ・ラーズのリー・メイヴァースがまだヘロインでいかれていなかったら、死ぬほど嫉妬するだろう唯一の曲と言ってもいい。

まずは曲構成に耳を傾けて欲しい。レディオヘッドの“パラノイド・アンドロイド”やビートルズの“ハピネス・イズ・ア・ウォームガン”、くるりの“リバティ&グラヴィティ”のように次々と曲調が変わっていく驚きや派手さはない。だが、ヴァースの一部のコードが少しだけ変化したり――奥田民生が使うテクニックにも似ている――、メロディはそのままでコードを展開させていったり、曲後半になって、ようやく新しい展開が出てきたり。非常にさりげなく、だが意外な展開が続くことで、何度も何度も繰り返し聴きたくなる。というか、もう何度聴いたか、もう何度落涙したか、わからない。

特に2分37秒からの展開が素晴らしい。言ってしまえば、何のことはないクリシェだが、これをヴァースやコーラスの頭に持ってくるのではなく、展開部に使っているところにこの曲のソングライティングの肝がある。

歌詞の内容はとても曖昧で、はぐらかしに満ちているが、おそらく同名の小説/映画をどこか意識したもので、60年代初頭にアメリカ中西部に暮らす黒人であることがどういうことだったか、それを白人である自分自身は肌で感じることが果たして出来るのか、という人間の尊厳を巡るものになっている。つまり、『ガ・ガ・ガ・ガ・ガ』という作品がポップ音楽最大のイノヴェーションであるリズム&ブルーズを参照したアルバムであることと見事に符号しているのだ。

この曲のスタジオ・ヴァージョンは60~70年代のポップ音楽を知りつくしたジョン・ブライオンの助けを借り、極力抑えたプロダクションがここに施されることで、コーダ部の印象的な終わり方も含め、ビートルズの“ア・デイ・イン・ザ・ライフ”に匹敵する世紀の名曲に仕上がっている。是非ユーチューブを叩いて、自分自身で確かめて欲しい。この曲がアルバム最後に入っていたからこそ、『ガ・ガ・ガ・ガ・ガ』は世紀の名盤になった。

最後にこの曲のブリット・ダニエルによる弾き語り映像を貼っておきたい。とにかくソウルフル。少し反動的な物言いになるが、こういうのを本物の名曲、本物のシンガーと呼ぶのだと思う。

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