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2017年夏の来日自体が奇跡? USインディの
歴史を培い、未来を司る覇者、セイント・
ヴィンセントを理解するための10曲:後編
by JUNNOSUKE AMAI August 14, 2017
2017年夏の来日自体が奇跡? USインディの<br />
歴史を培い、未来を司る覇者、セイント・<br />
ヴィンセントを理解するための10曲:後編

2017年夏の来日自体が奇跡? USインディの
歴史を培い、未来を司る覇者、セイント・
ヴィンセントを理解するための10曲:前編



>>>ストラヴィンスキーをひとつのロール・モデルに、クラシカルな室内楽、交響楽へのアプローチ

そしてこの時期、彼女が最近の気になるバンドとして方々で名前を挙げていたのが、グリズリー・ベア。当時、地元のテキサスとニューヨークを行き来していた彼女にとって、まさにピークを迎えていたブルックリン・シーンの動向は当然視界に入っていたはず。なかでもグリズリー・ベアのモダンなバロック/チャンバー・ポップは、彼女が音楽的なシンパシーを寄せるもっとも身近な対象だったのではないだろうか。

Grizzly Bear / Two Weeks (2009)

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ディズニー映画の『白雪姫』や『オズの魔法使い』にインスピレーションを得て作られたという2ndアルバム『アクター』(2009年)。曲作りやアレンジはGarageBandやMIDIを使って行われたそうだが、サックスやフレンチ・ホルン、フルートにヴァイオリンなど多数の管弦楽器を配置したバンド演奏とエレクトロニックなプロダクションが奏でるオーケストラルなマルチ・レイヤード・サウンドは、以降の彼女のサウンドにおいて音作りの基礎となるスタンダードを示している。

ミニマルなシンセ・リフとアップテンポなドラム・ビート、木管楽器の優美な音色がユニゾンする“ザ・ストレンジャーズ”を始めとした『アクター』の楽曲は、そのクラシック音楽の意匠をシミュレートしたポリフォニックな構成において、同年にリリースされたタイヨンダイ・ブラクストンのソロ・アルバム『セントラル・マーケット』(2009年)と相通じる場面も。

7. The Strangers (2009)

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ちなみに、その『セントラル・マーケット』においてブラクストンが参照したロシアの作曲家イーゴリ・ストラヴィンスキーは、クラークにとってのオールタイム・フェイヴァリットの音楽家のひとりでもある。

Tyondai Braxton / Central Market (2009)




>>>LCDサウンドシステムとは別な形での、最良のデヴィッド・ボウイの後継者としてのセイント・ヴィンセント

そのストラヴィンスキーと並んで、彼女が自身のロール・モデルとして挙げる音楽家のなかで有名なひとりが、デヴィッド・ボウイ。今年日本でも開催された大回顧展『DAVID BOWIE is』に彼女は「デヴィッド・ボウイの変容し続ける美意識とペルソナは、彼の歌声やギターと同じくらい彼の音楽の一部をなしている」といったメッセージを寄せていたが、そこからは、単なるミュージシャンを超えた総合芸術家としてのボウイに彼女が惹かれていた様子が窺える。

そして、そんな彼女がボウイのオールタイム・フェイヴァリットの一曲に挙げているのが、ロバート・フリップがゲストでギターを弾いている“イッツ・ノー・ゲーム(パート1)”。ちなみに、曲の冒頭部分や途中で聴こえてくる日本語の声の主は、スパークスのアルバム『キモノ・マイ・ハウス』でセンスを持っている日本人女性のミチ・ヒロタ。

David Bowie / It's No Game (No. 1)[1980]




>>>ジャズが再定義され、R&Bが時代を代表するサウンドになった2010年代におけるインディからの回答

その曲が収録されたボウイのアルバム『スケアリー・モンスターズ』(1980年)といえば、いわゆる「ベルリン三部作」後のリリースながら、「ベルリン三部作」を牽引したリズム隊のコア・メンバーが引き続き脇を固めた作品。で、その『スケアリー・モンスターズ』収録の(そして日本盤の7インチで“イッツ・ノー・ゲーム(パート1)”のB面だった)「“ファッション”・ミーツ・ディアンジェロ『ヴゥードゥー』」とも評されるのが、彼女の3rdアルバム『ストレンジ・マーシー』(2011年)収録の“ディレッタント”。

8. Dilettante (2011)

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もたったドラミングが印象的なR&B~ネオソウル・テイストのナンバーで、ベックのバンド・メンバーやミッドレイク/BNTQのマッケンジー・スミスと共に、「ロバート・グラスパー以降」の現行ジャズを代表するスナーキー・パピーのメンバーがバッキングを務めている点にも注目。とても今っぽいし、彼女の隠れた名曲に挙げたい。



>>>インディ界におけるエキセントリックなディーヴァの伝統に連なる歌唱

「現行の女性ポップ・シンガーやインディ風情の女性シンガー・ソングライターとは彼女は別物」。と前編の最初のほうに書いたが、もちろん、それはあくまで彼女が「シンガー」としてもある種のオーセンティックな魅力を持ち合わせている、というのが大前提な上での話。これまで紹介してきた楽曲しかり。ピアノを弾き語る美しいジャズ・ワルツ風もあれば、ニール・ヤングのような枯れたアメリカーナを聴かせるロッカ・バラードもある。併せる歌声は表情豊かで、じつに多彩。

例えば『ストレンジ・マーシー』収録の“クルーエル”は、鼻歌のように軽やかなギター、リズミカルなドラムとエレクトロニック・ビートが絡み合うシンプルな構成に、ヴォーカル・クワイアやハーモニー・コーラスを織り交ぜた彼女の伸びやかな歌声がとてもよく映える。

9. Cruel (Late Show With David Letterman 2011)[2011]

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シンガーとしてはケイト・ブッシュからの影響を公言している彼女。しかし、たとえば同じくケイト・ブッシュをロール・モデルに挙げるビョークが、いわゆる「ロック」的なマナーとは徹底して距離を置くことでソロ・キャリアを築いてきたのとは対照的に、彼女はむしろ、時にそのギター一本でクラシックなロック・シンガーのようにもふるまって見せるところが、面白い。



>>>ソングライターやプロデューサーが十数人は当たり前、「分業制ポップ」の時代に対する回答を予感させる最新のポップ・モード

そして、最後に紹介するのは、彼女にとって目下の最新曲である“ニューヨーク”。

10. New York (2017)

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ピアノとストリングスが壮麗に飾るこの「ポップ」ナンバーの最大のポイントは、共同プロデューサーとしてジャック・アントノフの名前がクレジットされていることだろう。ジャック・アントノフといえば、ギタリストを務めるロック・バンドのファンやソロ・プロジェクトのブリーチャーズとしての活動と並行して、テイラー・スウィフトやシーア、フィフス・ハーモニーを始め、直近ではロードのニュー・アルバム『メロドラマ』に参加するなどトップ・アーティストの楽曲制作を数多く手がけるポップ・シーンで売れっ子のソングライターでありプロデューサーの一人。

先日のビークの記事でも書いたように、たとえばクイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジがマーク・ロンソンを、そしてフー・ファイターズがグレッグ・カースティンをそれぞれニュー・アルバムのプロデューサーに起用した背景には、昨今のポップ音楽全盛の状況に対するかれらなりのリアクションやステイトメントも読み取ることができる2017年。はたして彼女がどういう理由でジャック・アントノフと共同で曲作りを行うことに至ったのかは定かではない。ちなみに、彼女は昨年末、「ギター・ワールド」誌のインタヴューに応えて、『セイント・ヴィンセント』に続くニュー・アルバムについて「正真正銘の大転換」、「最も奥深く、最も大胆なもの」になる、と語っている。

“ニューヨーク”は、その彼女が思い描く未来図を窺い知るための現状唯一のヒント。そして、繰り返しになるが、来たる〈HCAN〉のステージは、そんな彼女の最新モードを目撃することができるとともに、今後の展開を占う試金石ともなりうるような機会となるはず、と期待せずにはいられない。


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