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宇宙?クラシック?ザ・ナショナルと合体?
驚愕のスフィアン・スティーブンス新作を
味わい尽くすための7つのガイドライン:後編
by KOHEI YAGI June 23, 2017
宇宙?クラシック?ザ・ナショナルと合体?<br />
驚愕のスフィアン・スティーブンス新作を<br />
味わい尽くすための7つのガイドライン:後編

宇宙?クラシック?ザ・ナショナルと合体?
驚愕のスフィアン・スティーブンス新作を
味わい尽くすための7つのガイドライン:前編



④偉大なる先達、冨田勲からのイメージの引用?

アルバム・ジャケットを見たとき何か既視感を覚えたものの、それが何かはすぐにわからなかったのですが、作品内で使用されているシンセサイザーのサウンドを聴いていたら、気づきました。『プラネタリウム』のジャケットは冨田勲『バミューダ・トライアングル』と色遣いやタッチのニュアンスが似てませんか?

“ヴィーナス”のMVが横尾忠則っぽいことを考えるともしかしたらオマージュの意識があるのかもしれません。横尾忠則は冨田勲『バミューダ・トライアングル』のジャケットを手掛けていますからね(解説は小松左京)。このようなレトロ・フューチャリスティックなイメージも本作の持ち味です。

Sufjan Stevens, Bryce Dessner, Nico Muhly, James McAlister / Venus




⑤USインディを代表するポップ・マエストロ=スフィアン・スティーブンスの役割

ここまで文章を読み進めて、『プラネタリウム』って何やら小難しい音楽なのかな、と思ってしまった方ももしかしたらいるかもしれない。大丈夫、全然そんなことないですよ。なんていったってヴォーカルはあのUSインディきっての天才メロディー・メイカー、スフィアン・スティーブンスですからね。

ニコ・ミューリーが刺激的なオーケストレーションを施そうが、ブライス・デスナーがアブストラクトなギターを弾こうが、ジェームス・マカリスターが突拍子もないリズムを繰り出そうがもうまったく関係なし。本作の一番の凄さは、サウンドが異常にエクスペリメンタルであると同時に、歌モノとしての完成度が桁違いに高いという点にあるといってもいいくらいです。

スフィアンはインタヴューで「ぼくはアート・ミュージックをやりたかったわけじゃなく、気楽に楽しめるものにしたかった」という旨のことを言っていますが、まさにその通り、真っすぐなポップ・ミュージックとしても聴ける作品になっています。

そのことは冒頭曲“ネプチューン”を聴けば一発でわかります。スフィアンのピアノ弾き語りが大々的にフィーチャーされていて、それにニコ・ミューリーがオーケストラ・アレンジを施したこのナンバーは、アメリカーナをアップデートして最新のポップ・ミュージックとして提示した『イリノイ』と本作が地続きであることを示しているようなナンバーです。

Sufjan Stevens / Chicago (Austin City Limits 2006)


電子音響~エレクトロニカのサウンドが大胆に取り入れられた“マーズ”は、エレクトロニクスを大々的に取り入れることで彼のキャリア最大の問題作となった『ジ・エイジ・オブ・アッズ』が頭をよぎります。

Sufjan Stevens / I Walked (from The Age of Adz)


特に“ジュピター”でのエフェクトが施されたロボ声は本作のサウンドの中核を担っているともいえ、ダーティ・プロジェクターズ『ダーティ・プロジェクターズ』や、ボン・イヴェール『22、ア・ミリオン』で試みられた、声の操作をすることでテクスチャーの新規性を追求したものといえるでしょう。過剰にエフェクトがかけられたヴォーカルは、サウンドをヴォーカル+演奏・トラックといった解離的(カラオケ的)なフォルムから逸脱し、演奏・トラックにヴォーカルが埋もれていくような効果もあり、それが本作では極めて有効に機能しています。

Bon Iver / 10 d E A T h b R E a s T ⚄ ⚄ (Extended Version)


また、星にまつわる神話を言葉遊びやジョークを用いながら描写した歌詞は、これまでアメリカの州をテーマにコンセプト・アルバムを作ってきた彼ならではの、斬新なストーリーテリングが光っていますので、そちらもぜひチェックしてみてください。

たとえばこの“マーキュリー”は、水星がその活発に動き回る様から神々の伝令使であり、商売・盗賊・雄弁・旅などの守護神であるメルクリウス=マーキュリーの名を冠せられていることから、「ran off with it(持ち逃げ)」がテーマになっているなど、楽曲ごとにユニークなテーマが設定されており、それを考えるだけでも十分に楽しめます。

Sufjan Stevens, Bryce Dessner, Nico Muhly, James McAlister / Mercury




⑥2010年代の新潮流「インディ・クラッシック」を支える二人の要人、ニコ・ミューリーとザ・ナショナルのギタリスト、ブライス・デスナーの役割

ちょっと待って、スフィアン・スティーブンスは知ってるし、ジェームス・マカリスターはスフィアンの作品でドラム/パーカッションを務めてきた人だからわかるとして、主にオーケストレーションを担当してるニコ・ミューリーって誰? ギターを弾いてるブライス・デスナーってザ・ナショナルの人らしいけど、なんでここにいるの? 等の疑問をお持ちの方もいるかと思います。実はこの二人には決定的な共通点があるので、それについて説明すれば、色々納得してもらえるんじゃないかなと。

その共通点とは、クラシック~現代音楽です。うわー、そんなシリアス・ミュージックの話やめてくれよ、なんていわないでください。その感覚は、2017年も半分が過ぎてしまったいま、決定的に古いです。

じつはクラシック~現代音楽は、音楽シーンの最前線の一角を担っているといっても過言ではありません。インディ・クラシックと呼ばれるムーヴメントがそれです。ニコ・ミューリーはこのムーヴメントの旗手と呼ばれています。

このムーヴメントは、クラシック~現代音楽の訓練を受けた音楽家たちがポピュラー・ミュージックをはじめとした他ジャンルの音楽を積極的に吸収し、インディーズを中心にアウトプットをしているもの。〈ニュー・アムステルダム〉というレーベルがその中心的な役割を担っています。

このレーベルはダーティ・プロジェクターズやボン・イヴェールの新作にも参加し、ベン・フォールズともコラボ・アルバムを作製し、本作でもメンバーが参加しているyMusicが所属していましたし(現在は離脱)、ネクスト・スフィアン・スティーヴンスと言えそうなフィネガン・シャナハンやジャズとクラシック~現代音楽を接続して新たなフィールドを開拓しているダーシー・ジェームズ・アーグ・シークレット・ソサエティなどバリエーション豊かな才能が結集しています。

Ben Folds / Capable of Anything (acoustic with yMusic)

Darcy James Argue's Secret Society / The Enemy Within


そのムーヴメントを牽引しているニコ・ミューリーは、ポップ・ミュージックのフィールドでは、主にストリングス・アレンジメントの面で活躍中。インディ・ミュージック界隈でのストリングス・アレンジメントといえばアーケイド・ファイアやラスト・シャドウ・パペッツを手掛けてきたオーウェン・パレットがいますが、ニコ・ミューリーもそれに匹敵する実績を持っており、ビョークやグリズリー・ベア、アンソニー・アンド・ザ・ジョンソンズ等と仕事をしてきました。最近ですとファザー・ジョン・ミスティー『ピュア・コメディ』収録の“イン・トゥエンティ・イヤーズ・オア・ソー”もニコ・ミューリーが手掛けています。

Father John Misty / In Twenty Years or So


ブライス・デスナーもじつは、クラシック~現代音楽と関わりのある音楽家です。ジョニー・グリーンウッドとのスプリット・アルバムがクラシックの大御所レーベル〈ドイツ・グラモフォン〉からリリースされたかと思えば、現代最高峰のストリングス・カルテットであるクロノス・カルテットとの共作などがあり、挙句の果てには坂本龍一、アルヴァ・ノトと『レヴェナント』のサウンドトラックを作るなど、ザ・ナショナルの他でも規格外の活動をしています。

ニコ・ミューリーがザ・ナショナルの過去作でストリングス・アレンジメントを担当したこともありますし、ブライス・デスナーとニコ・ミューリーはじつはリンクしているところが多いんですよ。

Bryce Dessner / Imagining Buffalo (from The Revenant OST)




⑦『プラネタリウム』最大の聴きどころ:15分のコズミック・シンフォニー“アース”

『プラネタリウム』には歌モノの他にもインストゥルメンタル・ナンバーがいくつかあります。クラシック~現代音楽と電子音響を往復しながらドローン/アンビエントを突き詰めた“ブラック・エナジー”や“サン”、“ブラック・ホール”といった曲がそれです。

ドローン/アンビエントと聞くと、これまた難解そうなイメージを持つ方もいるかもしれませんが、おそらくニコ・ミューリーがサウンド・デザインをしているこれらの楽曲は音の微妙な肌理やタッチの隅々までこだわって作られているので、鼓膜を震わせるその繊細な振動を楽しんでいただきたいですね。

また、“タイズ”のようなシンセサイザーの色彩感で空間を染め上げていく楽曲を聴くと、すでに何度も文章中に登場してきた冨田勲が、フランス印象派の色彩感覚をインストールするためにドビュッシーのカヴァーをしたと言っていたことが想起されます。“タイズ”に限らず『プラネタリウム』におけるサウンド・デザインの様々な点から冨田勲の影を感じ取れるのは、彼らが影響を受けているからというよりも、むしろ冨田勲の作った文法がいまでも有効に機能しうるということの所作でしょう。しかも本作のテーマが「宇宙」なのですから、なおさらです。

冨田勲 / Arabesque No. 1


そして、これまで説明してきた様々な音楽的特徴の全てが反映されている15分に及ぶ大曲“アース”は『プラネタリウム』の肝です。リゲティとムームもしくはクセナキスとマウス・オン・マーズがコラボレーションしているかのようなこの楽曲は、劇的なオーケストレーションと鮮烈なビート・ミュージックがシームレスにつなぎ合わされ、エフェクトを施されることでどんどん変化してゆくスフィアンのヴォーカルとともに未曽有の感動を与えてくれます。ジェットコースターのような、あっという間の15分です。



⑧最後に:『プラネタリウム』という75分間の体験の中でもっとも耳をそばだてるべきポイントは?

以上のように、エレクトロニック・ミュージックやクラシック~現代音楽のボキャブラリーをたっぷり活用しながらも、ポップ・ミュージックならではの魅力をしっかり携えた作品が『プラネタリウム』といえるでしょう。

彼らが本作で試みたことは、昨今ポップ・ミュージックのフィールドにおいて、ポスト・クラシカルやインディ・クラシックがチャレンジしてきた「ハーモニーの拡張」と、エレクトロニック・ミュージックが成し遂げてきた「新たな音色/テクスチャーの獲得」という二つの成果を融合させること。ジャンルを越えた活躍をしてきた彼らが一堂に会し、それぞれが獲得してきた音楽的な成果を「宇宙」という壮大なコンセプトの基に結集させた、キャッチーでありながらとてつもなく奇妙な音楽がここにあります。


ゼロ年代USインディにおける最重要人物、
スフィアン・スティーヴンスの作家としての
横顔を炙り出す13の質問。part.1




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