SIGN OF THE DAY

ゼロ年代USインディにおける最重要人物、
スフィアン・スティーヴンスの作家としての
横顔を炙り出す13の質問。part.1
by SHINO OKAMURA
YUYA SHIMIZU
April 01, 2015
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ゼロ年代USインディにおける最重要人物、<br />
スフィアン・スティーヴンスの作家としての<br />
横顔を炙り出す13の質問。part.1

スフィアン・スティーヴンスと言えば、00年代以降のUSインディにおける最重要アーティストの一人。と、いきなり断言しておきましょう。これは誇張でもなんでもありません。

彼について誰かが説明しようとする場合、必ず枕言葉として使われる「アメリカ50州シリーズ」という壮大な企画――現代版ディスカヴァー・アメリカとも言うべきアイデアが目を引きがちですが、勿論それがすべてではない。

彼はいわゆるフリー・フォークとはまた違った文脈からフォーク・ミュージックを再定義した人物ですし、オーウェン・パレットよりさらに前に新しいチェンバー・ポップの形を提示したアーティスト。実際、「スフィアン以前/以降」という区切り方が出来てしまうほど、ここ15年の彼の存在感は絶大なわけです。

ただ、彼は多面的な作家であり、いろいろなアーティストとのつながりも深い。「アメリカ50州シリーズ」に限らず、そのアイデアも多岐にわたっています。なので最初は、やや取っつきづらい、と感じる人がいてもおかしくはありません。少なくとも、今からスフィアンを聴き始めるとしたら、どこから手を付けていいかわからない。となってしまうのは、もっともなことでしょう。

そこで我々は、〈サイン・マガジン〉が誇る「インディ三賢者」――岡村詩野、天井潤之介、清水祐也の三氏――に、スフィアンの魅力を分かりやすく解説してもらうことにしました。(天井氏の回答はこちら。

その方法は、スフィアンに関する同じ質問を三人にぶつけ、その答えを聞いてみるというもの。まさに三者三様の視点や捉え方から導き出された「スフィアン像」が並んでいることで、その魅力が多角的に炙り出される結果となっています。

なお、この企画はスフィアンという作家を大まかに理解するための「作家編」と最新作『キャリー・アンド・ローウェル』をより多面的に楽しむための「作品編」のふたつにわかれています。

こちらの記事は前編である作家編。個別の作品についての話に進む前に、まずはスフィアンのアーティストとしての姿勢を理解しておきましょう、ということです。そんなわけで、早速行ってみましょう。教えて、三賢者!(小林祥晴)




1. もし「スフィアン・スティーヴンスってどんな音楽をやってるの?」と10歳の少年/少女に尋ねられたとしたら、あなたならまずどんな風に説明しますか?

清水:クリスマスにはみんなで“もろびとこぞりて”を歌うけど、あの歌詞って古臭くてよくわからないよね? だからこのおじさんは自分で新しいクリスマスの歌を作っちゃったんだよ。

Sufjan Stevens / Joy To The World

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岡村:相手がアメリカに暮らす子供たちなら、「アメリカ人でいることに誇りと恥を感じ、アメリカという国に対する疑問とその回答を得ることができるポップ・ミュージックの音楽家です」と。それ以外の国の子供たちなら、「ガーシュウィン、フォスターとともにアメリカの近代音楽の歴史を知るための最適な現役音楽家」と。

George Gershwin / I Got Rhythm

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2. スフィアン・スティーヴンスの作家としての音楽的特徴について説明して下さい。

清水:代表作である『イリノイ』に顕著な例として、4分の5拍子や8分の7拍子といった変拍子の多用(時には一曲の中でそれが目まぐるしく移り変わる)が挙げられます。こうしたリズム面での冒険と、クラリネットやバンジョーといった、普段ロックではあまり聴かれることのなかった楽器の導入によって、ミュージカル映画のサウンドトラックや、遊園地のアトラクションのBGMのように賑やかで楽しい音楽が作り上げられていると思います。

Sufjan Stevens / Come On! Feel The Illinoise!


岡村:自身の中に潜む自己内省と他者との対話、あるいは自覚のない理性と野性を、生楽器と電子楽器、ブルーズ誕生の頃の大衆音楽と最先端のポップ・ミュージック、弾き語りと大所帯編成、といった相反する両者に自在に落としこんだ末に、最終的に人なつこくカジュアルなポップスへと昇華できる、アーサー・ラッセル以来の異才。



3. スフィアン・スティーヴンスの登場と、彼の作品と影響力が伝搬することによって、彼以前/彼以降では、どんな変化があったのか、教えて下さい。

清水:「ポップス」や「インディ・ロック」という言葉には、どこか侮蔑的なニュアンスが込められていたように思います。しかしスフィアンの登場によって、ポップスこそがもっとも制約がなく、多様性を許容する音楽だということが再認識されたのではないでしょうか。ジャズ(ブラッド・メルドー、ジェイミー・カラム)やヒップホップ(ザ・ルーツ、ケンドリック・ラマー)といった異なるジャンルのミュージシャンたちが、スフィアンの曲をこぞってカヴァー、もしくは参照していることからも、それは逆説的に証明されています。

The Roots / Redford


岡村:オーケストラを含めたアレンジの構造を雰囲気ではなく譜面上で理解しようとする音楽家がポピュラー・ミュージックの若い世代に増えた。ヨーロッパ移民の系譜から生まれてきた音楽を知ろうとするリスナーが増えた。



4. 彼が多くのカヴァー曲を残す理由、あるいは、そのセレクションとカヴァー自体の手法から見えてくる、作家としてのスフィアン・スティーヴンスの特徴について、出来るだけ具体的に教えて下さい。

清水:人選についてはどれも奇をてらったものではなく、ある意味で60年代以降の王道、スタンダードと言える人たちばかりだと思います。ただし選曲に関してはあえて定番を外している部分があり、手法としても原曲をなぞるのではなく、自分なりに消化しているような気がします。だからその多くはスフィアンのオリジナルとして聴いても違和感がないのではないでしょうか。

Sufjan Stevens / Ring them Bells

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岡村:アメリカ大衆音楽の歴史のひとつの駒、歯車であるという使命感と認識から、積極的にカヴァーに挑んでいる印象。手法は決して難しくは解釈しない傾向があり、それはやはりオリジナルの作家の仕事をストレートに伝え残すことを使命といているからではないか、と感じます。



5.スフィアン・スティーヴンスの創作活動における音楽以外の部分――ヴィジュアルにおける表現の特筆すべき点、その特徴と、その意図について教えて下さい。

清水:コンサートではバンド・メンバー全員でチアリーダー、戦隊風などお揃いのコスチュームを着るのが定番になっています。来日公演では背中に羽を付けていましたが、試しに当日のセットリストを見返してみたら、鳥にまつわるタイトルの曲を3曲連続で演奏していました。実際スフィアンの曲にも鳥がよく登場するのですが、それは「越境する存在」としての鳥に、彼が憧れを抱いているからなのかもしれません。

Sufjan Stevens / Majesty Snowbird


岡村:名もなき風刺画やコミック、タブロイド紙やペーパーブックの挿絵など芸術的評価の低い大衆アートへの限りない愛情。勿論、アラン・ロマックス親子やハリー・スミスらが発掘した19世紀の名もなきアメリカの歌へのリスペクトと同じ目線。

(recorded by) Alan Lomax / Black Woman

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6.スフィアン・スティーヴンスの音楽創作以外の活動について教えて下さい。また、その活動はどんな意図、目的、特徴、そして、どんな波及的な結果をもたらしているのか。

清水:義父と共同で設立した自主レーベル、〈アズマティック・キティ〉のオーナーとしての顔があります。基本的にはスフィアン本人を中心としたちいさなコミュニティに属するアーティストの作品をリリースしていますが、功績としてはジュリアナ・バーウィックの発掘や、1970年にアシッド・フォークの名盤『パラレログラムス』を残している女性シンガー・ソングライター、リンダ・パーハックスの44年ぶりの新作のリリースなどが挙げられます。

Linda Perhacs / Freely

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岡村:あらゆるアートへの興味は音楽活動との隔たりはないように思えます。よって、逆に言えば、彼の音楽を聴いていればすべてカヴァーできるように感じます。




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スフィアン・スティーヴンスの作家としての
横顔を炙り出す13の質問。part.2」
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