SIGN OF THE DAY

曽我部恵一が2010年代作品を大胆仕分け。
現時点での2017年の最高傑作はFUTUREの
『FUTURE』だと語る理由に耳を傾けよう
by YUYA WATANABE May 02, 2017
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曽我部恵一が2010年代作品を大胆仕分け。<br />
現時点での2017年の最高傑作はFUTUREの<br />
『FUTURE』だと語る理由に耳を傾けよう

ロック・バンドの時代は完全に終わった?
そんな時代に傑作『DANCE TO YOU』が
描き出したのは「崩壊」?その真意は?


ここまでの対話をすでに読んでいただいた方にはおわかりのように、本来であればこのインタヴューは中編でいったん完結している。ところがその後日、フューチャーの新作をあらためて聴いたという曽我部から「もう少し話したい」との連絡。その間にサニーデイ・サービスのストリーミング配信がスタートするなど、その状況にもいくらか変化があったようなので、急遽2本目の取材を行うことになった。果たして曽我部はフューチャーの新作になにを感じたのか。そして、それは彼の考え方に今どんな影響を与えているのか。まずはそこを念頭におきつつ、再び曽我部に話を訊いてきた。(渡辺裕也)




●今日はこの前の続きといいますか。フューチャーについて、もう少し話してくださるとのことで。

「そうそう。あれからすっごい聴いててさ。特に僕が好きなのは、黄色いジャケットのほうなんだけど」

●1枚目の『フューチャー』ですね。

「うん。この前はその話を全然してなかったでしょ? ひょっとしたら、これが今年いちばん聴いてるものになるかもしれないから、そこは言っておきたいなと」

Future / Draco (from Furure)


●おもしろいですね。今回フューチャーが出した2作って、一般的には『ヘンドリックス』のほうがウケてるような気もするので。

「僕もあっちを先に聴いてたんですよ。それで1枚目のほうをスルーしてたんだよね。でも、あの後に黄色いジャケットのほうを聴いてみたら、そっちがものすごくよくて。で、そのうえで『ヘンドリックス』のほうに戻ると、そっちもまたよかったんだよね」

Future / Use Me (from HNDRXX)


●『フューチャー』は客演も少なくて、あくまでも本人のラップを中心に据えたアルバムという感じですよね。

「そう。けっこう淡々としてるというか、暗いんだよね。あそこまで暗いのって、ここ最近あんまり聴いたことなかったから。たとえばリル・ヨッティとかって、すごくポップじゃん。聴きやすいし、ああいうのはすごく楽しくていいと思うんだよね。でも、『フューチャー』は心がすごく沈んでいて、それが表れているような気がするというか」

●先日のインタヴューでは、いかに個人のことを歌えるかが大事なんだっていう話もありましたけど、たしかに『フューチャー』にはそういうパーソナルなものがありますよね。

「うん。でも、その内省的な感じがさ、シンガー・ソングライターのものとは違って、もっと直接的に暴力性と結びついてるというか。ただ閉じこもってしまうんじゃなくて、もっとそれがアクションとして、ビートとして存在しているんだよね。これはカート・コバーンとか、そういうロックにもどこかで通じるようなかっこよさだなって。そういう意味でも、すごくよかったです。歌詞を読まずに聴いてたから、どういうことを歌ってるんだろうと想像するのも、すごくおもしろくて」

●サウンド面はどうでしょうか。いわゆるトラップ界隈のトラックって、みんな同じに聴こえるという人も少なくないと思うんですけど、その中でも『フューチャー』のどこに特筆すべきものを感じたのでしょう。

「そういえば、たしかにトラックがいいとか、そういうものじゃないよね、これは。ビートをヤオヤ(TR-808)でやってるのも、だいたい同じだし。だから、やっぱり歌のリズム感だよね。声質とラップのリズム。そこがものすごくいい。だから、これはレゲエとか、ラガマフィンのDJモノとも近い感じがするよね。いわゆるワンウェイものってあるじゃないですか。同じトラック上でなにをやるかっていう。ああいう世界かなって」

●なるほど。

「でも、ポップスだと思うんだよ、こういうのも。ゲットーのポップさというか」

●アルバムとしてのフロウと聴き応えはいかがでしたか。

「かっこいい。けっこう長いんだけど、前半何曲かで掴まれて、そのまま最後まで聴いちゃう感じだね。アルバムを聴いてるときって、途中で『ああ、なるほど』と思っちゃうと、その時点で飛ばしちゃうこともけっこう多いんだけど、それがなかった。頭のほうにちょっとスキットみたいな感じで、ずっとバン、バン!と言ってるやつがあるでしょ? ギャングスタが銃を打ち合ってるみたいにさ。あれとか、何なんだろうなと思って(笑)。でも、そういうのが何度か入ってくるうちに、だんだん効いてくるんだよね。うん、ホントよく出来てると思う」

●そこにはなにか伝えたいものがあるんだろうなと。

「うーん、どうなんだろうね。そういうギャングスタ的なものをバカにしてんのかな、とも思うし。もしかすると銃声が入るような世界に属していることの自虐なのかな、とかも思ったりして。そういうのがおもしろいよね。あと、ジャケットもすごくいい。これ、フィジカルは出てないんですか?」

●たぶん出てないんじゃないかな( *CDはリリースされている)。

「レコードでじっくり聴きたいなと思いましたね。このタイプの音楽って、そういうことをぜんぜん思わないんですけど。淡色というか、バラエティに富んでない感じだよね。ひとつの思いというか、コアになっている感覚みたいなところで一枚ずっとやってるから、聴いているとけっこうそのアーティストに近づけるんだよね。そういう感覚をもてる音楽は、やっぱりいいよ。だから、サウンド的には確かにミーゴスとかと同じタイプなんだけど、そういうものとはちょっと違うんだよね、俺の感覚としては。フューチャーは特別なんだなっていうのは、最近いろいろ聴いてみたなかでの印象ですね。あと、他にはどういうのがある? なにがいちばん売れてるの?」

●トラップ界隈で今いちばん売れてるのは、やっぱりミーゴスの“バッド&ブージー”ですね。少し前だと、レイ・シュリマーの“ブラック・ビートルズ”。でも、それは楽曲単位の話ですね。フューチャーの場合はアルバムなので、そこはちょっと意味合いが違うのかもしれない。

Migos / Bad and Boujee ft Lil Uzi Vert


「たしかに。でも、誰が聴いてるんだろうね、ああいうトラップとかって。黒人のキッズも、白人のキッズも聴いてるのかな」

●ここまで売れてるってことは、少なくとも若い世代はどちらも聴いてるんじゃないかな。でも、ちょっと実感がわからないですね。

「そう。やっぱり住んでないから、最終的にはピンとこないんだよね。アメリカの状況っていうのが」

●作品の背景とかも、僕らかするとなかなか想像の域をでないというか。

「そうなんだよ。でも、そこがSFっぽくておもしろくもあるんですよね」

●曽我部さんのなかでは、今のところは『フューチャー』が2017年の一番?

「うん。アルバムとしてはあれが一番。楽曲単位だと、他にもいいなと思えるものはいっぱいあるけどね。実際、ああいう人たちのアルバムって、シングルが並んでるような感じだもんね」

●そういえば、サニーデイの作品もストリーミング配信が始まったじゃないですか。前回のインタヴューで「『DANCE TO YOU』は過渡期だった」という話もありましたけど、それこそフューチャーが出した2作は、このストリーミングの時代にもっとも支持されている「アルバム」なわけで。

「そうだね。去年だったら『ブロンド』がそう。今回のフューチャーも、それこそ僕みたいなロックおじさんでも聴けちゃうような、すごくいいバランスのアルバムだと思うし」

●こうしてストリーミング時代を象徴するようなアルバムをいくつか聴いてみて、どうでしょう。フォーマットへの意識が変わってきている今、曽我部さんはこれからどうやってアルバムという形式と向き合っていきますか。

「いや、ホントそうなんですよ。たとえば、今まではレディオヘッドが4年に一枚、10曲入りくらいのアルバムを出すってことに、ものすごく重みがあったんだけど、最近はそうじゃなくなってるよね。たとえば今週にシングルが出たら、翌週にはまた別のシングルが出て、さらに新しいMVが投下されて、それからアルバムが出るっていう。そういう中間報告みたいな意味合いのものが、今はいろいろあるんだよね。作品を出すカタチが、以前とは真逆になってるというか。だから、そこはもう作り方を完全に変えていかないとなって思ってます」

●具体的には、どう変わっていくと思いますか。特に曽我部さんの場合は、主にギターなどの楽器で表現される方なので、対応の仕方はまた違うのかなと思うんですが。

「もちろん。でも、聴き方は多分みんなそうなっていくでしょ? それ一択とはいわないけど。それに伴って、アメリカではああいうジャンルのものが特化したんだろうと思うし、これからはすごくエッジーなものが表面化していくと思うんですよね。それはチャンス・ザ・ラッパーがグラミーを獲るみたいなこともそう。それって、アメリカにおいても結構なことだと思うし、きっとこれからは世界中がそうなっていくと思うんだよ。日本もそうなっていくよね。今はまだCDで聴いてるひとも多いんだろうけど」

●実際に20歳前後くらいの音楽好きな子とかと話してみると、そういう子ですらCDプレイヤーを持ってないですからね、今は。

「そうだよね。それなのに、アーティスト側からは『◯月◯日にCDがでます!』みたいな宣伝がされてるんだから、それはめちゃくちゃだと思う。だから、宣伝もそうだけど、今後どういうふうにやっていくのが面白いのかっていうのは、ホント考えないと。発売日の在り方も変わるだろうし」

●うん、そこは確実に変わっていくと思います。

「発売日って、以前は“お店に並ぶ日”だったじゃないですか。でも、今はそれが“出来た日”とか“マスタリングが終わった日”だったりするからね。昔だったら雑誌の広告とか取材があるから、最低でも3~4ヶ月前には音源が出来ていて、その音源をプロモで巻かなきゃいけないとか、そういうタームが設けられていたんですけど、今はもう違いますよね。フューチャーの2週連続リリースとかも、そういうところから生まれてると思うんです。それは可能性もひろがるし、すごくおもしろいなと思う。僕らも今後それを考えていきたいし、今はそういうスピード感が必要かなって」

●最近おもしろいなと思うのは、新作が発表される際に、「リリース」という言葉があまり使われなくなってきてるってことで。どちらかというと、今は「シェア」のほうが一般的になってきてるんですよね。その「シェア」という言葉は、この時代の感覚をすごく的確に表していると思う。

「ああ、本当だね」

●作り手と作品の関係性も変わってきてますよね。カニエなんて、いったん出した作品にまた手を加えちゃってるし(笑)。

「まあ、あれは戦略ではないだろうけどね(笑)。でも、それこそシェアだよね。こっちはアクセスしてるだけっていう状態なんだから。うん、“シェア”って言葉はすごくいいよね。それってもう、“レディオヘッド4年ぶりのアルバムをみんなで拝む”みたいな感じではないってことだからね。すごくいいな、シェア」

●でも、どうなんでしょうね。日本に関してはストリーミング云々の前に、今はどちらかというと音楽に課金する感覚が失われてきているってことも、大きな問題なのかなと思うんですが。

「払わないってことだよね?」

●そうなんです。みんなYouTubeで済ませちゃうっていう。

「あっちはYouTubeのメディアもいっぱいあるし、お金がちゃんと回るシステムになってるんでしょうね。YouTubeに関しては、日本だと“MVをアップして宣伝”みたいなレヴェルのままで、アーティストやメーカー主導でなにかをやっていこうという動きがあんまりないからさ。まずはそこを変えたほうがいいのかな。なんにせよ、変わらざるをえないと思う。それこそ日本にもチャンスみたいな人がひとり現れたら、その瞬間に動いていくんじゃないかな」

●そうなってくると、やっぱりラッパーとかに可能性があるのかな。

「どうだろう。日本はラップがメインストリームじゃないからね。でも、アメリカはそれがずっとメインストリームだから、そこはちょっと違うと思うんですよ。アメリカの話を日本にスライドしてみたときに、こっちでも同じようにトラップがこれから来るのかっていうと、そうではないと思うんだよね。ただ、構造としては十分にありえると思う。メーカーから独立した存在のアーティストが出てくるっていうね」

●以前にPUNPEEさんとR-指定さんにそれぞれ取材したんですけど、そのお二人とも仰っていたのが、とにかく今はヒット曲が必要だってことで。最近は日本語ラップがブームだと言われてるし、メディアもそれを取り上げるけど、実際にはヒップホップのヒット曲がまったく出てないから、ヒップホップがカルチャーとしてちゃんと根付くのは、まだ先な気がすると。

「なるほどね。PUNPEEって、シーンを崩していくっていうか、そういうところにすごく意識的じゃないですか。たしかにラップはひとつのカルチャーのうえに立ちながらやってることだと思うから、それって歌謡曲みたいなところとはなかなか混じらないんだよね。外側から見てると、一般の人たちがヤンキー文化を面白がるようなノリに近くなっちゃう。そのレヴェルだと、まだダメなんだよね。でも、そこを崩せるひとが出てきたら、もっと可能性はでてくる。うん、たしかにそういう曲が生まれるといいよね」

●曽我部さんが“サマー・シンフォニー”を出した頃と今では、日本語ラップへの興味はどう変わりましたか。たしか当時の曽我部さんは「自分の中ではラップとフォークは同じなんだ」みたいに仰っていたんですが。

曽我部恵一 feat. PSG / サマー・シンフォニー Ver.2


「そうだっけ? 僕の中では、ポエトリーとかラップは歌い方の一種って感じなんですよ。自分はBボーイじゃないので、あくまでもそういう捉え方なんですよね。だから、自分がそれをやるときは、ボブ・ディランとか、そういうことなのかなって思ってます。メロディよりもリリックが強い状態というか。それがポエトリーとか、ちょっとラップみたいになるってだけの話であって」

●なるほど。

「でも、今のアメリカのラップはメロディが強くなってる気もするんだけど、あれはなんなんだろうね。スキルがすごいときってあったじゃないですか。どう韻を踏んだとか、あの頃はそういうのがすごい大事だったと思うんだけど、今のアメリカはそれとは逆だよね。おもしろい節回しがあったら、それをずっと繰り返す。それが3パターンくらいで構成されてて、3分くらいで曲が終わっちゃうっていう」

●そうですね。

「でも、それで聴けちゃうからね。皮膚感覚というか、そのひとの体温みたいなものが残る表現になってる。新しい音楽のジャンルだなって思いますね。すごくおもしろいと思う。でも、日本はまだそうでもないのかな。KOHHとかはいるけど」

●BAD HOPとかはそういう存在だと思いますよ。トラップ以降のああいう節回しを、彼らは今の日本に伝えてると思う。

BAD HOP / Life Style


「なるほど。でも、それって今のフリースタイルのブームとはまったく違うよね? ラップの仕方もそうだし。サイファーとかって、いま海外ではあるのかな。日本は今それがあるじゃないですか」

●むしろそっちがメインになってますよね。

「そっちの文化は波及してるよね。ウチの娘も言ってたもん。中学の休み時間は、みんなフリースタイルやってるって」

●マジですか(笑)。

「つまり、それってBボーイ文化ではないわけじゃないじゃん。でも、今はその真似が楽しいんだろうね。それはわかるよ。そこからBボーイになっていくやつもいるかもしれないしね。でも、トラップのシーンは多分それとは違うんだろうね。どうなんだろう。あっちはああいうトラップ系の節回しで、バトルとかもやるのかな。あんな感じでバトルとかやられたら、ちょっとお互いに楽しくなっちゃいそうだけど(笑)」

●たしかにちょっと笑っちゃいそうですね、それは(笑)。

「あそこには、もちろん黒人の文化も根付いてるんだろうし、もっと根源的なリズムの探求があると思うんだよね。だから、今後それが日本にも根付くのかというと、それはまたぜんぜん違う話なのかなって。まあ、わからないけどね。そういう意味でも、僕はフューチャーの黄色い方のやつが断然好きだな。たとえて言うなら、ジョイ・ディヴィジョンの2ndみたいな、ああいう感覚になりますよね」

Joy Division / Closer (full album)


●ジョイ・ディヴィジョンですか。

「ジョイ・ディヴィジョンのあれもまた、節回しだと思うんですよ。それがラップじゃないってだけでね。『フューチャー』はそういう感じがしたな。そのひと本来のラップというか、歌というか。いや、今年もこういうのが聴けてよかったなと思いましたね。そういえば、あっちの人たちってみんな、飲みながらやってるじゃないですか。ダブル・カップっていうんだっけ? あれ、日本にもあるのかな?」

●いやぁ、どうですかね(笑)。

「コデインとペプシを割るんだっけ、あれ(*正確にはコデインとスプライト)。昔、ソルジャボーイとかが出てきた頃にちょっと調べたことがあるんだよ。『これは何を持ってるんだろう?』って(笑)。でも、ついぞ日本であれを持ってる人は見たことがないから」

●まあ、ドラッグですからね(笑)。

「すごいよね、あっちには実際にああいうシーンがあるわけだから。でも、日本は日本でまた独自の育ち方をしていくんでしょうね。案外、それがオーセンティックなものになるのかなって」

●そうですね。韓国とかとも、また違うだろうし。

「韓国はどうなんですか?」

●カルチャー的にはまた別かもしれないんですけど、サウンドに関しては、ほぼアメリカと同時進行だと思います。実際に米韓を行き来しているラッパーとかシンガーもけっこういますし。DEANとか。

ZICO / BERMUDA TRIANGLE feat. Crush, DEAN


「トラックの作り方はたしかにそうだね。音質とかもアメリカに近いかもしれない。でも、日本はもうちょっと生音が好きだもんね。それはそれで、別に真似しなくていいと思うし」

◉こういう視点はどうですか? 『フューチャー』に対する海外の反応を見てると、あれはパーティ・アルバムだと言われているみたいで。内省的かもしれないけど、一方で王道のトラップだから。

「うんうん」

◉で、これは田中が言ってたことなんですけど、キックと細かく刻むハット、重低音のベースラインだけでほぼ構成されているトラップのサウンドは、ミニマル・テクノの感覚に近いんじゃないかと。だから、フューチャーのあのアルバムを聴いてると、リカルド・ヴィラロボスとかに近いものを感じるし、ものすごいドラッギーだと。それもすごく理解できるんですよね。

Ricardo Villalobos / Dexter


「ああ、なるほど。うん。あの三連のハットが必ず入るのって、僕はフットワークがいちばん近いと思うんだけど、たしかに音だけを聴くと、ヴィラロボスみたいな感じはありますよね。ただ、ひとつ違うのは、時間なんですよ。ヴィラロボスだったら、20分やるでしょ? というか、20分やってこそ意味があるんだけど、トラップは3分で終わったりするから。あの感覚が、すごく大切なんだと思う。それこそパーティ・アルバムというか、リリックがなんとなく流れていて、それがいつの間にか次の歌に変わっていくっていう。そういうザッピングみたいな感じが大事なんだろうね。とにかく時間が短いんだよ。それがすごくおもしろくて」

●あの短さって、ライヴがどうなるのか全然わからないんですよね。

「そう! そう思うよね」

●BAD HOPのワンマンで印象的だったのは、曲間がけっこう空くんですよ。あえてそうしているのかどうかわからないんですけど、つなげない場面がけっこうあるんですよね。そこでライヴ中にちょっと妙な間ができるというか。

「ああ、それはリアルだね。それって、初期のハードコアに近いんじゃない? ハードコアが衝撃だったのは、やっぱり曲間なのよ。ダダダダダッ! って演奏して、1分半くらいで終わったら、そのあとはスタッフと喋ったりしながらダラダラしてるっていう。で、なんとなくまたグルーヴが整ったところで、ダダダダダッ! と演奏して、また間が空くっていう(笑)。『お前ら、ノッてるかー』とか、絶対にやらないわけ」

●なるほど。

「それって、ショーとはまた違うんだよね。ヒップホップの場合はわかりやすくて、曲と曲をつなげていったり、その間になにかを入れたり、MCのちょっとしたスキットがインタールードになってたりするでしょ。ロックも、コール&レスポンスがあったりする。でも、ハードコアのライヴはそうじゃないんだよね。へえ、BAD HOPとかもそうなんだ。それは最高だね。今、すごくイメージが湧いたよ。だから、トラップの在り方もそうなのかもね。やっぱりそれはテクノとかの一体になる盛り上がり方とは、また違うんだろうね」

●確かに一体感みたいなものを期待していくと、あの感じはちょっとびっくりするかもしれないですね。

「でも、それってリスナーの聴き方にも合致してるよね? だって、今はみんな、仕事とかしながらプレイリストで聴くわけでしょ? 僕みたいなロックおじさんには、音楽ってステレオの前に座ってじっくり聴くような楽しみでもあるし、それが礼儀でもあるように感じてるんだけど、今はきっとそういうことではないんだろうね」

●これは余談ですけど、BAD HOPの現場で面白かったのが、演者とお客さんのやりとりで。お客さんがステージ上のメンバーに自分のスマホを渡しちゃうんですよ。で、それを受け取ったメンバーが写真とか動画をひと通り撮ったら、そのスマホをフロアのお客さんに返すっていう。あれはすごいなと思いましたね。今はこういうコミュニケーションがあるんだなって。

「最高ですね。だって、それが自分の表現ってことじゃないですか。実際、そこでお金が発生しているわけだしね。今までは真面目に作り込んだものをプロモーションしてたんだけど、今はそうやってお客さんから預かったスマホで自分を撮って、それを戻すっていうことに、それと同じ意味合いがあるんだからさ。まあ、極端にいうとね。で、僕はそっちのほうが面白いと思うんだ。基本的にミーハーだからさ(笑)。でも、最高ですね。たしかに今って、外人さんのライヴ映像とかを見ていても、みんな撮ってるじゃないですか。つまり、あれでOKってことでしょ? 日本だとまだ撮影禁止みたいな感じだけど、あれをアップしてもらえたら、アーティストもありがたいはずだよね」

●日本のスマホはシャッター音が消せないから、そこがネックですけどね。

「ああ、なるほどね。まあ、消せるアプリもあるけどね(笑)。でも、アーティスト側がそれを受け入れるかどうかで、おのずとそういうふうになっていくよね。そういえば、EDMって今どうなんですか?」

●どうなんだろう。少なくともピークは過ぎましたよね。

「〈サマソニ〉とかにも、EDMのひとがけっこう出てたじゃないですか。あれって、どういう人たちが聴きに集まってたんですかね」

●EDMのブームはけっこう全国的に伝わってたような気がします。去年にアヴィーチーが来日したときは、地方からもファンが大集結してたみたいだし。

「へえ。じゃあ、トランスが流行ったときみたいな感じ?」

●そうかもしれないですね。これは個人的な見解ですけど、EDMはマイルド・ヤンキーがみんなでバーベキューしながら聴いてる音楽っていうイメージです。実際、俺の地元にはそういうやつらがけっこういたんで。

「楽しそうだな(笑)」

●ちなみに、今年のサマソニはカルヴィン・ハリスがヘッドライナーなんですけど、元々この人もEDM界のスターDJですね。

Calvin Harris / This Is What You Came For ft. Rihanna


「それは意外ですね。〈サマソニ〉のヘッドライナーっていうと、誰もが知ってるロック・バンドがやるイメージだったけど」

●いま思うと、名前が〈サマーソニック〉でよかったですよね。あれがなんとかロック・フェスとかだと、今は行く側にも、アーティスト側にも違和感が生まれそうだし。「え、なんで俺がロックのフェスに呼ばれたの?」みたいな。

「なるほど、それはおもしろいね(笑)。ロック・フェスも、あれはあれでロック好きが一年に一回楽しむ場としてあるわけで、間違ってはいないんだけど、たしかに時代とは乖離してるのかもね。今はもうちょっと小規模のイヴェントがあってもいいのかもしれないね。インターネットで音楽を聴いてる若者に特化したイヴェント。まあ、あるにはあるんだろうけど」

●とにかく今は、それこそフューチャーみたいな人が日本ではなかなか見れなくなっちゃいましたよね。トラップ系の大物とかは来日がかなり難しそう。

「いやぁ、来たら行きましょうよ」

●来たら絶対に行きますけど、実際はなかなか難しいんだと思います。それこそフューチャーなんて、日米で人気の格差がありすぎるので、もはやこっちから行かないと見れないんじゃないかな。

「フューチャーをアメリカまで観に行く根性はないわ(笑)」

●今度、フューチャーとかミーゴスとか、あの界隈で全米ツアーをまわるんですよ。それとか、すごく行きたいんですけどね。

「一緒に行く?(笑)でも、そういうライヴの客層はどういう感じなんだろうね。若いのは若いんだろうけど、ブラックとホワイトの比率とかさ。たとえば、Pファンクのコンサートはほとんど黒人ですよ。でも、あれだけ売れてるってことはきっとそういうことではないんだろうね。半々くらいなのかな」

●もし半々だったら、ちょっと感動しちゃいそうですね。

「そんな光景がそのライヴでひろがってたら、それはもう最高の瞬間だよね」

◉アメリカでも、地域によってだいぶ違うんでしょうね。海沿いのリベラルな地域は結構混ざってるのかもしれないけど、中西部は違うんでしょうし、ちょっと想像がつかないですね。

「ケンドリック・ラマーとかの客層とも、また違うんだろうね。リベラル層だけでお客さんが集まるのかっていうと、きっとそうじゃないだろうし」

●むしろそういう政治的なところにコミットしてない人にも、今のトラップは楽しまれてるんじゃないかな。それぞれの政治的な立ち位置はあるとしても、それを大々的にメッセージとして打ち出している人ばかりではないから。

「そこがないから、あそこまで売れてるのかな。ケンドリックとか、チャンスとか、カニエとかって、政治的なスタンスがすごく明確だと思うんですけど、あのへんはそうじゃないのかな。それによって、現地の見え方も変わりそうですよね。僕らから見てると、アメリカの黒人として最前線でなにかを言葉で表現するとなったときに、そういう政治的なことを意識せずに表現活動ができちゃうっていうのは、ちょっと不思議だけどね。これは勝手な想像なんだけどさ」

●今のアメリカは本当にどこでもトランプの話をしているって言いますよね。どこに行っても、クラブに行っても、みんな政治のことを話していると。この前に取材したチック・チック・チックのニック・オファーも、「マジで今のアメリカはそんな感じだよ」と言ってました。政治の話をしていない場所はどこにもないって。

「ああ、そうなんだ」

●だから、政治と完全に乖離したところでなにかを表現するのは、きっと難しいんだろうなって。今のアメリカでは。

「でも、そのメッセージ自体はそこまで表れてなかったりするんでしょ? それがおもしろいなと思って。だって、ラップはそれをやるためのものっていうイメージもあるからさ」

◉ミーゴスなんかは、歌っている内容は本当にドラッグネタばっかりみたいですね。でも、トラップ自体がもともとはドラッグ・ディールの隠語なので、ある意味ではそのカルチャーの伝統を受け継いだ表現とも言えるじゃないでしょうか。そういう意味では筋が通ってるというか。

「おもしろいなぁ。ちょっとそのへんが僕も気になるんで、ぜひ行ってレポしてください(笑)」

●いやー、行きたいですよ。

「ステージよりも、そのまわりのことが気になるよね。場所とか、客席とか、セキュリティとかさ。こんなに情報がある時代に、ここまで想像つかないことって、あんまりないですよね。渡辺くん、ちょっと本当に取材してきてくださいよ。今はアメリカ行きのチケットも安いでしょ?」

●そうですね。まあ、俺の給料はもっと安いんですけど……。

「どっか男気のあるサイトにお金だしてもらってさ(笑)。いやぁ、気になるなぁ。でも、ロック・バンドはこれからどうなるんだろうね、本当に。

●話を掘り返すようですけど、曽我部さんはそのバンドを今また動かしているじゃないですか。

「だから、どうしようかなって。ただ、バンドといっても、僕らの場合は楽器をもって日本中をツアーして回ってるわけじゃないからね。バンドっていう形態でやってるけど、そのへんは自由なんですよ」

●そうですね。

「トーキング・ヘッズが『リメイン・イン・ライト』っていうアルバムを作った時も、彼らはミニマルなファンク・バンドになろうとして、Pファンクのメンバーを入れたりしたでしょ? ツアーのときも、うしろで黒人のベースを弾いてたりさ(笑)。彼らはそうやってバンドのアイデンティティを捨てることで、そっちに移行していったんだよね。そういうのを見てると、バンドってやっぱりいいなと思う。そういう感じですね。聴かれ方の状況としても、今はそういうタイミングだと思う」

Talking Heads / Once in a Lifetime (from Remain In Light, live 1983)



2010年代の重要作を肴に曽我部恵一との
対話から、サニーデイ・サービス謎の傑作
『DANCE TO YOU』の多面的魅力を紐解く


『東京』から20年。再結成から8年。時代が
一巡し、来たるべき新作に期待が高まる、
サニーデイ・サービス全作を振り返る 前編


はっぴいえんどを再定義した『東京』という
紋切り型に異論あり。サニーデイ・サービス
の真価をジャズ評論家、柳樂光隆が紐解く





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