世界がもっとも新作を待ち焦がれているバンドの一組――と言っても大袈裟ではないでしょう、今のテーム・インパラは。えっ、そんなにすごいバンドだったっけ? と思ったあなたは、早いところ認識を改めるべき。これまで日本のメディアがほぼスルー状態だった間に、海の向こうではかなり大変なことになってきているんですから。
やはり大きかったのは、前作『ローナイズム』が2012年の年間ベストを席巻したこと。〈NME〉では1位、〈ピッチフォーク〉では4位、〈ガーディアン〉では6位と、影響力のある英米メディアが揃って超高評価を与えたのは、相当なインパクトがありました。この三媒体での順位で比べたら、アークティックやアーケイド・ファイアの最新作より評価が高いですからね。
今年の〈コーチェラ〉のラインナップが発表された時も度肝を抜かれましたよ。なにしろ、テーム・インパラはヘッドライナー直前という好スロット。いやー、それは流石にまだ早過ぎるだろ、という声が上がったのもわからなくはない。新作が全米1位を取ったアラバマ・シェイクスでさえ、もっと下のスロットだったのに。確かにその通り。でも、裏を返せば、それだけテーム・インパラにはセールスの数字を超えた期待が寄せられているってことです。勢いがあるって、こういうことだと思うんですよ。
にしても、なんで彼らの評価はこんなにうなぎ上りなのか。それはやっぱり、60年代サイケデリアの最良の部分をしっかりと受け継ぎつつ、「10年代の音」として鳴らすことが出来るバンドである。ということを『ローナイズム』で証明したからでしょう。
実質的にテーム・インパラはケヴィン・パーカーのワンマン・バンドですが、同作は彼の優れたサウンド・プロデューサーとしての実力が初めて全面的に開花した作品。エレクトロニック・ミュージックの手法を取り入れ、プロダクションへの徹底的なこだわりを明確に押し出したことによって、1st『インナースピーカー』から目を見張る飛躍を遂げました。その結果、“レトロ志向の趣味人”という一部からの誤解は完全に解け、むしろアニマル・コレクティヴなどとはまた違った形で“サイケデリック・ミュージックを現代的に再定義するバンド”だという本来の姿が理解され始めたわけです。
となれば、日本でも7月22日にリリースされることが遂にアナウンスされた新作『カレンツ』は、ここ数年の間に膨れ上がった彼らの名声を、さらに大きなものにする作品になりそうです。
まずは聴いてみましょう。まだ新作リリースを公表する前に、突如フリー・ダウンロードで発表した8分近い大曲“レット・イット・ハップン”からして、いかにもアルバムがすごいことになっていそうな雰囲気ですから。
これはもう紛れもない名曲。最高。ディスコやハウスに近い125BPMの心地よいビートをキープしつつ、巧みな構成力で何度も聴き手を異なる景色へと連れて行き、最後にはカタルシスたっぷりの恍惚へと達するサイケデリック絵巻。前作よりもさらにエレクトロニック・ミュージック的な質感/作り込みが推し進められていて、“クラシックなソングライティングとモダンなプロダクションの融合”というテーム・インパラの個性が一層はっきりと浮かび上がっています。シンセのループ感もダンス・ミュージック的ですね。これを聴いてもまだ、彼らを“60年代サイケの焼き直し”と呼べる人は流石にいないでしょう。
で、この曲をTV番組で初披露した時の映像がこちら。
TVだから仕方ないですけど、4分強のショート・ヴァージョンになってしまっているのが本当に惜しい。やっぱりこの曲は、最高のハウス・トラックみたいに、じわじわとビルドアップしていくところにカタルシスがありますからね。あー、早くライヴで観たい!
続いて発表された新曲、“コーズ・アイム・ア・マン”にも驚かされました。甘くソフトでドリーミーな箱庭系モダン・サイケデリアという大枠は守られているものの、「これはプリンス?!」と思わず耳を疑うような、セクシーな光沢を放つR&Bポップだったんですから。これまた名曲ですね。
この“イヴェンチュアリー”も、テーム・インパラならではのヘヴィでブルージーなギター・リフが飛び込んでくるものの、基本的にはとろけるほどメロウでロマンティックなエレクトロ・ポップ。そしてやはり、少しばかりソウル/R&Bフレイヴァーが注ぎ込まれている。この路線は、新作においてひとつの肝になっていそうな予感さえします。
かと思えば、こちらの曲は、比較的に初期に近いラフな手触りのギター・ロック。「これまでで一番エクレクティックなアルバムになっている」とはケヴィンの弁ですが、なるほど、確かにそんな感じも。
もうこれだけでも、彼らがさらなる高みに上り詰めていることは容易に想像できるでしょう。ケヴィンが今一番インスピレーションを受けているのはカニエ・ウェストと公言するのも伊達ではない。おそらく『カレンツ』は、これまで以上に様々なジャンルの影響を表出させながら、ケヴィンのサウンド・プロデューサーとしてのこだわりをさらに突き詰めた、2015年的なサイケデリック・ポップの最新形になっているはず――だと思いますが、さあ、果たして?
テーム・インパラ interview
「よりミニマルに、よりグルーヴィに、
さらにユニークに、どこまでもポップに。
果たして、彼らは世界言語になった」
モダンサイケの尖鋭から大文字のポップへの
飛翔を果たした最高傑作『カレンツ』に備え
テーム・インパラの歴史を徹底再検証:前編