SIGN OF THE DAY

欧州独自の2010年代ポップを目指して。
エレガントに、デカダンに、ユーモラスに
ラスト・シャドウ・パペッツかく語りぬ
by SOICHIRO TANAKA July 21, 2016
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欧州独自の2010年代ポップを目指して。<br />
エレガントに、デカダンに、ユーモラスに<br />
ラスト・シャドウ・パペッツかく語りぬ

それではマイルズ・ケインとの対話にまいりましょう。本インタヴューの文脈を見通してもらうためにも、未見の方はこちらの前段記事を参考にして下さい。



インディは一見さんお断り、ロックは全滅。
効率的な分業制ポップが栄華を極める中、
ラスト・シャドウ・パペッツだけが偉い理由





●8年前、あなたたちが1stアルバムを作った時、誰もが音楽的な参照点としてスコット・ウォーカーの名前を挙げましたよね。僕なんかも嬉々としてまずそれについてばかり語ってしまった。ただ、それがあなたたちをイラつかせる部分って少しでもありましたか?

「まあ、俺たちも二人してスコット・ウォーカーの話ばっかりしてたからね(笑)。だから、他の人もみんなその話になったっていう。しかも、実際にそうだったから、そこは仕方ないんじゃないかな。そもそもまだ若い頃に、“ジ・オールド・マンズ・バック・アゲイン”とか、“ザ・プレイグ”みたいな曲を初めて聴いて、『21歳の頃にあんな曲をやるなんてありえないな!』って思ったんだよ。それで自分たちでもやってみたんだ。だから、アレックスと二人でやるってことを別にすれば、スコット・ウォーカー自体がまさに焦点だったんだ。間違いなく俺たちを動かした大きなものの一つだった」

●なるほど。

「あの時に影響を受けたものと言えば、スコット・ウォーカーであれ、デヴィッド・アクセルロッドであれ、(セルジユ・)ゲンズブールであれ……。そう、ロネッツみたいなガール・グループだってあったし、60年代のサイケっぽいのもあった。だから、あの時はそういうのが全部一気に入ってきた感じだったんだ。俺たちも若かったから、とにかく夢中で聴いて、そこから学んでいったんだよ」

●例えば、1stに入っていた“マイ・ミステイクス・ワー・メイド・フォー・ユー”みたいな曲はプロダクション面からしても、かなりの部分でスコット・ウォーカーの“ジ・オールド・マンズ・バック・アゲイン”に依っている。ソングライティングだけじゃなく、プロダクションにおいても、彼の作品からは多大な刺激を受けたんでしょうか?

「勿論そう。だって、あの曲のベースを聴くだけでもわかるだろ? 実際、僕とアレックスとジェームズ・フォードはスタジオで、『よし、ああいうサウンドにしよう!』って感じだったから。だから、当然そう」

Scott Walker / The Old Man's Back Again(1969)

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The Last Shadow Puppets / My Mistakes Were Made For You(2008)

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「だって、“マイ・ミステイクス・ワー・メイド・フォー・ユー”みたいな曲はまったくそのものだし。特にあの曲は刺激になったね」

●当時のあなたたちのモチベーションとして、①そういった音楽的なリファレンスに感化されたこと、②自分たちの枠を飛び越えていくこと、③当時誰もやっていなかったことをやる――その三つのうち、どのポイントがもっとも大きかったと思いますか?

「多分、当時の俺はまだ『俺ってなんだ?』っていうのを見つけようとしてたんだよ。『自分は何がやりたいんだ?』てね。それはアレックスも同じだったかもしれない。それぞれレコードは何枚か出してたけど。実際、その感覚って絶対なくならないしね。いつだって成長して、よくなっていきたいから。だからこそ、俺たちの中に明確にあったのは、『今あるところから逃避して、この世界に入り込もう』ってことだった。『それがどこに向かおうとも、向かう先を見てみよう』ってね。そこが焦点だったんだ」

●「他に誰もやってないことをやる」っていう部分に関しては?

「いや、俺たちそういう風に考えたことはないな。勿論、今いるこの世界ではクソみたいなことが起きてて、大勢がヒットを飛ばそうとしてたり、若い連中、若いバンドがそれにものすごく影響されてたりする。実際、それには同情するんだ。特に最近は、何もかも即座に起きなきゃいけないだろ? もしかすると、俺たちって、じっくりと成長する余地のあった最後の世代になるかもしれない。でも、基本的には二人で集まって、『よし、グレイトな曲を書こうぜ!』っていうだけだった。ホントそれだけだったんだよ」

●実際、1stよりも2ndの方が音楽的なレファレンスが広がってるし、曲のバリエーションもある。ただ、1stと2ndを繋ぐ、パペッツとしてのアイデンティティって、なんだと思いますか?

「俺たちずっとソングライティングにちょっとした品格(class)を持っていたいと思ってるんだ。だから、それがアイデンティティなんじゃないかな。“バッド・ハビッツ”みたいな毒々しい曲でさえ、品格があると思ってるんだ。実際、あれってほとんどザ・フォールのマーク・E・スミスみたいなパンク・チューンなんだけど」

The Last Shadow Puppets / Bad Habits(2016)

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「でも、その隣に“スウィート・ドリームズ、TN”みたいな曲が並んでるわけだろ? アレックスがロマンティックに愛を歌ってたりする。気品のあるエレガントな曲なんだよね」

The Last Shadow Puppets / Sweet Dreams, TN(2016)

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●じゃあ、“バッド・ハビッツ”を2ndアルバムの最初の曲としてリリースした理由は? 明らかにこれまでと一番違う曲調ですよね。「自分たちは小さな枠組みにとらわれてるユニットじゃないんだ」ってことを示そうという意図もあったんでしょうか?

「レコードを完成させた時に、いろんな曲がある中で、『あの曲が他のどんな曲と比べても対照的なんじゃないか?』ってことになったんだ。ちょっとクレイジーな曲だし、好き嫌いがはっきり分かれるだろうけど、俺たち、単にものすごく興奮してたんだよ。『これを出そう、変なビデオ作ろう!』って。そのくらい無邪気な話だったんだけど」

●じゃあ、ヴィジュアルについても訊かせて下さい。まずはこのアーティスト写真のスタイリング――トラックスーツ(ジャージ)は何をやりたかったのか、教えて下さい。

「あ、このトラックスーツね(笑)」

●これ、元ネタは何?

「俺たちがよく見てた『ザ・ソプラノズ』とか、『グッドフェローズ』が頭の中にあったんだと思う」

●ギャングスタ・スタイルなんだ?

Goodfellas(Directed by Martin Scorsese)[1990]

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「そういう影響を思い浮かべながら、『かっこよくて、品のあるトラックスーツ・スタイルをやってみよう』って。イギリスに俺が一緒に服のデザインをやってる人がいてさ。レイ・ブラウンっていうんだけど。この4年間くらいステージでの服は彼と作ってて。アレックスの服もそう。それで、『トラックスーツを作ってみよう』ってことになったんだ。だって、そんなことやってる人いる? いないだろ?」

●じゃあ、アルバムの二曲め、三曲め――“エヴィエーション”と“エヴリシング・ユーヴ・カム・トゥ・エクスペクト”のヴィデオが、犯罪映画風のストーリーとか、ヴィジュアルになってるのも、誰もやってないから?

「というか、その二本のヴィデオを監督したサーム(・ファラマンド)が例のトラックスーツから思いついたんじゃないかな。で、ギャング映画っぽいストーリーになったんだ。俺たち二人が何かやらかして、その罰を受けてるっていうね」

The Last Shadow Puppets / Aviation(2016)

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「だから、確実に影響はあったと思う。俺たちのルックが翻訳されたっていうか。そこからサームがアイデアを拾って、俺たちは彼のリードに任せたんだ。実際、音楽ヴィデオって作るのがすごく難しいんだよ。ものすごくチャラい感じになったり、くだらなく見えたり。でも俺たちはサームを信頼して、ありがたいことに出来がよかった、ってこと」

●あなたたちの場合、ソングライティングやプロダクションにしろ、スタイリングにしろ、ヴィデオにしろ、「伝統に連なると同時に、それをモダナイズしよう」っていうところがあるよね?

「うん、俺たちの場合、影響源が過去にあることが多いんだけど、それでも自分たちなりのスピンをかけようとしてるんだ。ある意味、プロダクションにしたってモダンなんだよ。だって、『61年にガレージで弾いててマイクは一本』みたいには聞こえない。だろ? そこはちゃんと考えて、今らしさを持ち込もうとしてるんだ」

●今みたいなポストモダンの時代って、文脈がなくなってるわけじゃない? 何をやってもオッケーだし、何を参照してもいい。ただ、その中であなたたちが何かしらの文脈を作ろうとしてるとしたら、それはどういうコンテクストだと思いますか?

「そこはすごく考えるんだ。俺たちは歴史っていうものを信じてると思うしね。ただ、世の中に溢れてるもののほとんどは一時的で、パッと出てきたと同時に消えていく。でも、やっぱりやりたいのは、ディープで、意味のあるものを作ることだから。曲だってすぐに出来るものもあれば、書くのに2年も3年もかかって、自分たちでも忘れてたのが、『あ、いいじゃん』って思い出す曲だってある。つまり、そこにいろんな考えが重なっていくってこと。そこが俺たちにとってはすごく大事なものなんだよ。自分の内側の場所から出てきてる。だからこそ、長く残るものであってほしいんだ」

●そもそも音楽にしろ、他の表現にしろ、レッテル付けするのはすごく馬鹿馬鹿しいことでもある。でも、例えば、サウンドクラウドを見たりすると、自分たちでタグを付けていくカルチャーになってる。それが消費の速度を加速させてたりもするよね?

「ファッキン・ハッシュタグってやつね(笑)」

●でも、こういう状況の中、もしあなたたちが無理やりパペッツにタグを付けなければならないとしたら、どんな名前をつけますか?

「ハッシュタグを付けるとしたら? わかんないよ。俺はラスト・シャドウ・パペッツにハッシュタグを付けたことなんて、まだ一度もないしさ。そもそも俺たち、そういうのに抵抗してるんだ(笑)」

●「ポップ」っていうのは? 俺がそう考えるのは、パペッツにはハッシュタグ・カルチャーに対する反抗心があるからこそ、大きな意味での「ポップ」を再定義しようとしてると思うからなんだけど。

「なるほどね。うん、確かにポップ=カルヴィン・ハリスでなくてもいいわけだし。俺たちの音楽だって独自な意味で同じくらいポップかもしれない。まあ、もうちょっとオールドスクールかもしれないけど(笑)。うん、確かにそうだね」

●そう、19世紀後半の大衆音楽という歴史の中でのポップ。

「うん、それ、わかるよ。コーラスがあり、ミドルエイトがあり、ヴァースとソロがありっていう意味では、かなりトラディショナルでもあるっていうね。それって、ビートルズなんかと同じで、まさに俺にとってのポップだからね。だったら、俺たちはポップだ(笑)。大賛成だな」

●じゃあ、今のアメリカのメインストリーム・ポップというのは、あなたから見てどう映るんですか? ビヨンセにせよ、カニエ・ウェストにせよ、ソングライティングとしては和声的にも構成的にもループ、円環することが基調になっていて、伝統的なソングライティングからは外れたところにあるよね。

「傲慢に聞こえないといいんだけど、ああいうのはもうちょっとマシーン、機械的だと思う。ただ、カニエに関しては、一時期、“ブラック・スキンヘッド”が入ってるアルバム(『イーザス』)を聴き込んでた時期があるんだけど」

Kanye West / BLKKK SKKKN HEAD(2013)

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「実際、俺たち、あのサウンド、あの手のモダンなヒップホップはかなり好きなんだよ。俺はヒップホップの大ファンってわけじゃないんだけど、ヴォーカルのディレイとか、カニエの歌詞とか。だから、ああいうのはちょっと好きなんだけど、他のポップなやつ……テイラー・スウィフトとか、ああいうのは聴けなくて」

●リアーナの新作なんかは、所謂ヒップホップやR&Bっていうよりは、もう少しオーセンティックなソウルに回帰してる。あるいは、リオン・ブリッジズみたいな、サム・クックの新しいヴァージョンみたいな人も出てきてる。自分たちがそういう人たちと何かしらシェアしてる部分はあると思いますか?

「リアーナの新しいのはまだ聴いてないんだ。どんな感じ? 彼女、今回はソウル・レコードやったの?」

●広義の意味でそう言っていいと思う。

Rihanna / Love On The Brain (Live From the 2016 Billboard Music Awards)

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「まだ聴いてないからな。でも、リオン・ブリッジズはいいんじゃないかな。うん、まあまあって感じ(笑)。いや、すごくいいんだけど、60年代後半っぽいっていうか。当然、彼と一緒にレコードを聴いたら、好きなレコードは同じだと思うんだけど。でも、もうちょっとエッジが欲しい気がするんだよな」

Leon Bridges / Smooth Sailin'(2015)

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「いや、彼のことは好きだから、悪く言うつもりはないんだけど。すごく才能のある人だし。ただ今の時点では、俺たちのサウンドの方がもうちょっとエッジがあると思う。君はどう思う?」

●その通りだと思う。特にプロダクション面では。

「俺たち、ちょっとした危険が好きなんだよ。音楽にちょっと危険な匂いがあると、聴く方もちょっと緊張して聴ける。だろ? その方が惹かれるっていうか。影響が何かとかは別にしても、たとえポップでも、音楽の中にちょっとした危険を持たせることこそ、前に進む方法だと思うんだよね」

●そういう意味で言うと、自分たちがやってることとサウンドは違っても、アティテュードとしてよく似たことをやってるアーティストっていうと、誰?

「うーん……どうだろう。あ、でも、プロデューサーならいるかも。エイドリアン・ヤングっていう人が気に入ってるんだ。知ってる? 俺もアレックスも大好きなんだ」

●なるほど。それはすごく腑に落ちるかも。

Adrian Younge / Sittin' By The Radio feat. Loren Oden(2016)

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「かなりダークなんだけど、すごくクールでさ。俺たちと同じで、彼もかなり古いものをレファレンスにしてるんだけど、すごく才能がある。実際、彼の音楽はかなり聴き込んでるんだ。あとは、ポール・ウェラーみたいな人かな。ここ最近の二作くらいを聴いてもわかるんだけど、あれだけ長くやってきて、さらにプッシュしてる部分がある。『俺はギターでこういうことが出来る』だとか、『俺はもう20年やってきてるんだ』っていうのに落ち着いちゃうんじゃなくてね。いまだに進化して、変化しつづけようとしてるんだ」

●なるほど。じゃあ、もう時間がなくなってしまったので、あなた自身の新しい音楽はいつ、どんなものが聴けることになりそうか、教えて下さい。

「まあ、この後、また曲を書きたいとは思ってるんだけど(笑)」

●ソロとして?

「また他のちょっとしたプロジェクトになるかもしれないけど。スタイルとしては……どうかな。もうちょっとソウルっぽくなるのか、それともパンクっぽくなるのか、全然わかんないな。『うぎゃー!』って感じになるのか、『ヘ~イ』って感じになるのか(笑)。そういうの全部になるかもしれないし」

●パペッツとアークティック・モンキーズだったら、どっちがライバルになるようなアルバムになると思います?

「多分、パペッツの世界に近いだろうね。でも、どこに向かうかなんて誰にわかる? こっから急にボサノバになるかもしれないし、9月にはジャズ・レコードになるかもしれないし(笑)」

●(笑)じゃあ、最後に一つだけ。次、アークティック・モンキーズにはどんなレコードを作ってほしいですか?

「あいつが次に何をやるかなんて、神様にだってわかんないよ(笑)」

●そうなんだよね(笑)。

「まったくの謎だね! あいつならビートボックスのレコードを作るかもしれないし(笑)。でも、俺はそれだって見てみたいしね。うん、俺もアレックスも、こっから船がどこに向かうかはまったくわからないんだ。ただ確実に言えるのは、このまま転がり続けたいし、列車を走らせ続けたい。ただ、今はこの瞬間を二人で楽しんでるんだ」



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通訳:萩原麻理

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