SIGN OF THE DAY

インディは一見さんお断り、ロックは全滅。
効率的な分業制ポップが栄華を極める中、
ラスト・シャドウ・パペッツだけが偉い理由
by SOICHIRO TANAKA July 21, 2016
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インディは一見さんお断り、ロックは全滅。<br />
効率的な分業制ポップが栄華を極める中、<br />
ラスト・シャドウ・パペッツだけが偉い理由

教えて下さい。ここ日本だと、アークティック・モンキーズに比べて、ラスト・シャドウ・パペッツの訴求力が著しく低いのは何故なんでしょうか? そんなに「ロック」が好きなの? ――そんな憎まれ口のひとつも叩いてみたくなる状況があります。

だって、こんなに独自で、こんなに最高なのに! アメリカ発のポップ/R&B/ヒップホップがすべての中心になった2016年において、この欧州的なエレガンス。2002年のベックの最高傑作『シー・チェンジ』に狂喜乱舞した人たちはどこに行ったんでしょうか。

The Last Shadow Puppets / Miracle Aligner(2016)

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アークティック・モンキーズのアレックス・ターナーとマイルズ・ケイン(とプロデューサー兼ドラマーであるシミアン・モバイル・ディスコのジェームズ・フォードの3人)からなるラスト・シャドウ・パペッツが「8年振り」に「この2016年に」アルバムを作ったことにはとても大きな意味があります。本当なら、ここは大文字にしたい。

2010年代以降の欧米ポップ・シーンの大々的な変化からすれば、このタイミングで彼らが8年振りに新作を作ったことは必然。と同時に、そうした変化に彼らが真っ向から抵抗しようとしているという証明でもある――という文脈がおそらく日本ではまったくシェアされていないんですね。まあ、パペッツに注目が向けられない一番の原因がそれ。

もうひとつは、パペッツの音楽性があまりにも理解されていない。音楽的なコンテクストが日本のリスナーには伝わっていない。勿論、適度にエレガントで、適度に退廃的――そんな風にフィーリングで味わってもらえれば十分なんですけど。でも、食べ慣れていない異国の料理の味わい方がわからないっていうんですか。それがもうひとつの原因です。

なので、本稿ではマイケル・ケインとの対話の力を借りて、そのふたつを明らかにしていきたいと思います。のんびり行きましょう。

まずこうした文脈を理解してもらうための前提はふたつ。①2010年代になってからの英国はもはや完全にポップ音楽の表舞台から降りた。ポップ、ダンス・ミュージック、インディ、ヒップホップ、ロック――大方のジャンルにおいて完全にすべての中心がアメリカに移行した。②現在のポップ音楽シーンの世界では、それを生み出す主体の大半は、分業制に移行した。ヒップホップ/R&Bは言うに及ばず、ポップ・シンガーの世界は完全にそう。それに準じて、マルーン5以降のロック・バンドもまた完全に分業制に移行しています。コールドプレイの近作2枚もそうした傾向の典型例のひとつに数えられるはずです。

上記の②についてはこちらの記事を参考にして下さい。ポップ音楽業界の構造変化の一端が垣間見られると思います。

何故、ソロのソングライターはもはやヒットを飛ばすことが出来なくなってしまったのか?

勿論、英国アンダーグラウンドではグライムのシーンは相変わらず元気だし、インディの世界でもサヴェージズのようなバンドは気を吐いている。ディスクロージャーの健闘がなかなかEDMを凌駕出来ないのは理解出来るにしろ、何よりアークティック・モンキーズはアメリカでも成功しているじゃないか? という異論もあるかもしれない。ただ、もはやリリースから3年半が経過した『AM』を思い出して下さい。

Arctic Monkeys『AM』合評

『AM』という作品はN.W.A.~ソロ最初期のドクター・ドレによるGファンクと、70年代ブラック・サバス的な重低音リフを組み合わせるという、かなりアクロバティックな作品でした。もはや2013年の時点で、何かしらヒップホップからの刺激なしではロックとしての進化は果たせなかったレコード。そう言ってもいいかもしれません。

では、所謂ロックについてももう少し見ておきましょう。これまでも〈サインマグ〉では以下の2つの記事のように「2010年代のヘヴィネス=ロック」を再定義する記事を作ってきました。

やっぱりガツーンと来るロックが聴きたい!
そんな気分にぴったりな7組をご紹介。
今、時代はラウド&エクスペリメンタル!


イギー・ポップを再生、アークティックを
世界に押し出した21世紀ロックの立役者
ジョシュ・ホーミの全貌を知る8枚 前編


ただ、ここで取り上げたアクトたちは欧米でもなかなかキャズムを越えません。勿論のこと、ここ日本ではなかなかに浸透しない。そこは90年代と代わり映えしない夏フェスのラインナップからも一目瞭然ですよね。要するに、メインストリームにおいては「これじゃない」というわけです。

特に日本ほど「ロック」が奇々怪々な形で延命している国はありませんから。それに、フックのある強い「刺激」は必ずポピュリズムに回収されていくものです。現在の世界情勢を見れば、これも一目瞭然。この島国におけるロック的感性のサンプルをひとつ挙げてみましょう。レナード・ニモイ演じるミスター・スポックの決まり言葉を引用するなら、非常にファッシネイティング。とても興味深い。

BLUE ENCOUNT / だいじょうぶ(2016)

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しかし、すごいな、bpm210。普通にこの曲自体のソングライティングに従うなら、bpm100以下のバラッドが適切なはず。トラップ以降、bpmは60まで落ちてきているという欧米やアジア全般のトレンドと見事に逆行しているのがとても興味深い。

Rae Sremmurd / No Flex Zone(2014)

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bpmを落とせば落とすほど、言葉を細かく刻むことが出来て、日本語の響きを活かすことが出来るはず。KOHHみたく。そういうクリエイティヴな側面には興味がないのかな。でも、オリジナルなことはいいことかもしれませんね♡。ビバ・ロック・イン・ジャパン! ビバ・ロック暗黒大陸ニッポン!

では、今、欧米の「メインストリームのロック」はどんなトレンドかと言えば、こんな感じです。

Skillet / Feel Invincible(2016)

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少しばかり盛っちゃいました。というのも、彼ら、クリスチャン・バンドらしいですから。ただ、ロックという音楽が形式的に持っているヘヴィネスやラウドネスは、一定のコミュニティに奉仕することが半ば目的化したポピュリズム音楽=ポルノ音楽を作るにはとても便利。という現実があります。彼らやJ-ROCKの大半を見る限りにおいては。

というわけで、至極乱暴に言えば、コミュニティとトライブを横断し、そこに対話と思考と行動の掛け橋を架けようとするアートとしてのロックはもう存在しないんですよ。ほぼ全滅。実際、ロックの世界にはビヨンセもリアーナもいなければ、ケンドリック・ラマーのような存在は現れてきていません(もっともレディオヘッドという例外中の例外と、これまた今、とても独自なポジションにいる再結成後のストーン・ローゼスという厄介な存在もいるにはいるんですが)。

ただ、そうしたシニカルな認識があるからこそ、その反動としての新たな動きも出てくる。そこも非常に興味深いわけです。

21世紀の「ロック音楽」の今――
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新時代のロックを体現するバンド6選


「EDMとラップの時代」にロック新世紀は
来るのか? 大文字のロックとインディの
橋渡し、バンド・オブ・ホーセズ新作を肴に


しかし、我ながら〈サインマグ〉、本当に必死ですね。いまだギャラガー兄弟の確執に一喜一憂したり、ストーン・ローゼス新作が当分出ないことにめげたりしている皆さん、いや、それじゃあ、「美しい国ニッポン」みたいなファンタジーを追いかけているのと大して変わりません。言っときますけど、今、「ロックの味方」は〈サインマグ〉だけですから。

いずれにしろ、現在、ロックにしろ、インディにしろ、「バンド」は非常に苦しい立場に置かれています。もしくは、既存のロック・コミュニティ、インディ・コミュニティにのみ向けた作品を作る/活動するという傾向が強まりつつあります。で、そうした現象が加速すると、どれだけ優れた作品だとしても、音楽的にも文化的にもハイコンテクスト化に拍車がかかり、ポピュラリティを得ることが難しくなってしまう。世界的にBABYMETALが発見される以前、メタルの世界が陥っていた現象を想像してもらってもいいかもしれません。

そうなると、ジャンルとしてのアクチュアリティを失ってしまい、ごく一般には単なる「音楽的傾向のひとつ」へと貶められて、こんな風に「イメージとしてのロック」に回収されることが増えていくわけです。

5 Seconds of Summer / Hey Everybody!(2015)

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所謂「ロックを演奏するボーイ・バンド」という今の流行りです。ま、商品としては優れている。でもね、これじゃない。でしょ? デュラン・デュランの引用とか、面白いと言えば、面白いんですけど。

つまり、結論を急ぐと、この2016年にラスト・シャドウ・パペッツが8年振りにリリースした2ndアルバムというのは、そうした諸々すべての状況に対して、一石を投じようとした作品だということ。

再び料理屋さんに例えてみましょう。方や、専門料理店は限られた舌の肥えたお得意さん優先で、一見さんお断り状態。方や、チェーン店は組織力を総動員して、とても良質ではあるものの、非常によく似た料理ばかりを出すお店を出店しまくった。そうなると、数としてはチェーン店のひとり勝ち。次第にそれに慣れた利用者の舌が馬鹿になってきて、気がつけば、それがすっかり当たり前になってきたのが、2016年です。

そこで、「いや、さすがにそればっかじゃマズいでしょ」と言って、伝統的なレシピを引っ張り出して、それをモダンに仕上げた独自な料理を並べたDIYのお店をダウンタウンの一等地に出店した――それが『エヴリシング・ユーヴ・カム・トゥ・エクスペクト』という作品です。

つまり、DIYによるポップへの挑戦ですね。で、なるほど、確かにこれは美味い、食ったことはなかったけど、なかなかイケるね、という反応が起こったのが、欧米での話。というわけです。

では、彼らラスト・シャドウ・パペッツは、どんなレシピで、どんな料理を作ったのか?

それは、非米国的なポップ音楽の伝統を昇華した「欧州独自の2010年代のポップ」を作ろう。ということです。

それが証拠に、まずは2008年の彼らの1stアルバムのタイトル・トラックを聴いて下さい。聴いて欲しいのは、ソングライティングではなく、プロダクションです。特に太鼓とベース・ライン、そして、ストリングスのアレンジを記憶しておいてもらえると助かります。

The Last Shadow Puppets / The Age Of The Understatement(2008)

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では次に、2008年の時点で、彼らラスト・シャドウ・パペッツにとって最大の音楽的ミューズだったスコット・ウォーカーの67年作品、『スコット2』の冒頭を飾るこの曲を聴いて下さい。先ほどのパペッツ曲が太鼓のパターンとストリングス・アレンジメントに関しては、明らかにこの曲に多くを依っているのがわかります。

Scott Walker / Jackie(1965)

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しかし、ベース・ラインはまったく違っている。それによってパペッツ曲はスパニッシュ的なリズムをかなり強調した仕上がりになっています。至極乱暴に言えば、パペッツの二人(あるいは、三人)が二枚のアルバムでやったのは、こういうことです。レシピ的には。

参考までにもう一曲聴いて下さい。先ほど聴いてもらったスコット・ウォーカーの“ジャッキー”は実はカヴァー曲。こちらが原曲です。ここから40数年、どんな風にパペッツ曲まで発展していったかを実際の耳で確認してもらうのは、それなりに有意義な体験だと思います。

Jacques Brel / La Chanson de Jacky(1965)

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至極乱暴に説明すると、ジャック・ブレルはシャンソン歌手。主な活動時期は50年代半ばから60年代半ば。デヴィッド・ボウイ、レナード・コーエン、ニーナ・シモン辺りも何かしら彼の影響下にあります。こちらはジギー時代のボウイによるジャック・ブレルのカヴァーです。

特にスコット・ウォーカーの場合、60年代半ば、本国アメリカでのポップ・アイドルとしての地位をすべて捨てて、ジャック・ブレルからの影響を具現化するために欧州に移住してきたようなところがある。筆者は以前、ロックに一番最初に実存主義を持ち込んだのはスコット・ウォーカーだ、と乱暴なことを書いたことがありますが、そういう文脈からすれば、ジャック・ブレルはロック音楽の始祖のひとつでもあるわけです。

つまり、1stアルバムの時点で、ラスト・シャドウ・パペッツがやったことというのは、単にスコット・ウォーカーの音楽性を引用しただけではなく、そうした伝統そのものに繋がろうとしたということ。でもあります。

そして、詳しくはこの後のマイルズ・ケインの言葉に譲りますが、彼らはスコット・ウォーカー以外にもいくつもの過去の音楽的参照点をモダナイズするという手法を積極的に用いました。

でも、これって当たり前の話ですよね。特にヒップホップを筆頭にブラック・ミュージックの世界では。ただ、パペッツの二枚のアルバムが独自なのは、その音楽的リファレンスがゲンズブールだったり、スコット・ウォーカーだったり、デヴィッド・アクセルロッドだったりと、その大半がロック以外の音楽にあったということです。

でも、実はこれもヒップホップを筆頭にブラック・ミュージックの世界では当たり前の話。やはりパペッツの音楽的ミューズのひとり、ソウルやジャズ、ロックを横断するプロデューサー、デヴィッド・アクセルロッドの再評価は、90年代半ば以降、デ・ラ・ソウル、DJプレミア、マッドリブを筆頭に彼の作品がいくつものトラックのサンプル・ソースになったことにあります。

Lou Rawls / You've Made Me So Very Happy(Produced by David Axelrod)[1970]

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De La Soul / I Am I Be(1993)


つまり、パペッツの作品というのは――特にアークティック・モンキーズという「英国ロック最後の砦」のひとつである「バンド」という二重の足かせを持っているアレックス・ターナーに関しては――良くも悪くもビートルズが定義してしまった「ロック=自作自演=バンド」という考え方からも解き放たれ、現行の分業制が進むヒッツヴィルとは違うやり方で、ポップ音楽の伝統に繋がろうとした。という解釈も可能です。

ただ、彼らのこうした音楽性もまたここ日本ではハイコンテクストすぎるのかもしれない。この文化的に完全にガラパゴス化した国では。だからこそ、余計なお世話は重々承知だが、この記事を作っているわけです。

でも、スコット・ウォーカーと言えば――特に彼が在籍していたウォーカー・ブラザースと言えば、60年代半ばの日本ではビートルズよりも人気のあったグループ。たかが50年前の話じゃねーか。ヒロシマ/ナガサキよりも最近の話。忘れちゃいけないし、知らなきゃいけない。なんて、俺は言ったりしませんけどね。ご自由に!

あらゆる文化が分断され、細分化され、各々のジャンルにおけるピュアリストどころか、特定の作家にのみ執着するリスナーばかりが増えていく今の時代にあっては、時代を超え、ジャンルを超え、クロスオーヴァーしていくことはあまり分があることではないようです。

しかし、今から20年近く前、ディアンジェロが「俺はずっと、それぞれ分離しているブラック・ミュージックのジャンルをすべて一緒にまとめようとしてきたんだ」と語ったように、ポップ音楽はいくつもの分断された異なる房をひとつに繋ごうとする夢の掛け橋です。ポップ音楽とは、音楽が鳴っている瞬間に他者の喜びと悲しみを生きることであり、重層的に重ねられたさまざまな記憶と歴史に出会うこと。そして、対話と理解と調和を促すもの。ここ20年、ずっと同じことしか書いてない気もしますが、これだけはやめるつもりはありません。特に今のような時代なら、なおさら。

良かったら、改めてラスト・シャドウ・パペッツの二枚のアルバムを聴いてみて下さい。彼らは本当に彼らしかやっていないやり方で、さまざまな場所にブリッジを架けようとしています。

それにしても、マイルズじゃなくて、アレックスに話を訊きたかったな! という部分もなくはないですが、いろんなことが明らかになったインタヴューじゃないでしょうか。特に完全に時間をオーヴァーしたところで、マイルズ・ケインの口からエイドリアン・ヤングの名前が出たのは最大の収穫でした。自己採点62点。では、お読み下さい。



欧州独自の2010年代ポップを目指して。
エレガントに、デカダンに、ユーモラスに
ザ・ラスト・シャドウ・パペッツかく語りぬ





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