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後編:ロスへ、そして新たなるディケイドへ
by JUNNOSUKE AMAI December 08, 2014
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後編:ロスへ、そして新たなるディケイドへ

2008年の3rdアルバム『ディア・サイエンス』は、彼らにとってふたつの意味で節目の作品だった。ひとつは、2000年代の幕開けと共にスタートさせたキャリアの、最初の10年を締めくくる節目。もうひとつは、直後のデイヴ・シーテックのロサンゼルス移住に伴い、ニューヨークを活動拠点にした最後のアルバムであるという節目。たとえば〈アンカット〉は、翌年リリースされたアニマル・コレクティヴ『メリウェザー・ポスト・パヴィリオン』やグリズリー・ベア『ヴェッカーティメスト』、ダーティ・プロジェクターズ『ビッテ・オルカ』を挙げて「アメリカのラディカルなアンダーグラウンドのインディ・ロックがメインストリームを侵略した年」と2000年代最後の号で総括したが、『ディア・サイエンス』もまた同様に、2000年代のニューヨークを出自とした音楽潮流の達成を示す作品であることに異論はないだろう。そして、『ディア・サイエンス』のツアーを終えた2009年の夏、彼らはしばしの活動休止期間に入ることが、もうひとりのバンド創設メンバーであるトゥンデ・アデビンペから発表された。

結果、TVOTRとしては2011年の4作目『ナイン・タイプス・オブ・ライト』のリリースまでの約1年半、ディケイドの節目を跨いで公の舞台から姿を消すことに。しかし、その間も各メンバーは個人単位で音楽活動を精力的に続けた。引き続きシーテックのプロデュース業(※ホリー・ミランダ、ココロジー、ジェーンズ・アディクションetc)に加えて、手練のマルチ・プレイヤー揃いである彼らには客演(※マッシヴ・アタック、ライアーズetc)の機会も度々訪れたが、ここでは、共にデビュー・アルバムをリリースしたふたつのソロ・プロジェクトについて特筆したい。

ひとつは、キップ・マローンによるレイン・マシーン。TVOTRへの加入前にはイランというインディ・ギター・ロック・バンドで活動し、加入後もたとえば地元のシンガー・ソングライターのマイルス・ベンジャミン・アントニー・ロビンソンの作品にグリズリー・ベアの面々と参加するなどしていたマローンだったが、レイン・マシーンはそもそも、ブラック・ライツ名義で2000年頃からひとりで書き溜めていた曲が元になっているそう。

Rain Machine / Desperate Bitch


弾き語りを軸としながらも、ブルースやファンク、ゴスペルの要素を取り入れ多重録音されたスタイルはTVOTRと地続きと言えるが、ハイブリッドな感覚は薄く、よりルーティでアメリカーナ的嗜好にも近い作風が特徴。アルバム『レイン・マシーン』(2009年)のプロデューサーにルシンダ・ウィリアムス等を手がけたイアン・ブレナンが迎えられていることにもそれは象徴的だが、とりわけ長尺のナンバーで聴かせる幽玄なギター・ソロなどはTVOTRが作品を重ねるごとに削ぎ落としていった部分でもあり、そこにはマローンがソロでこそやりたかった音楽的追求が窺えて興味深い。リリースは〈アンタイ〉からというのも納得。

そしてもうひとつが、シーテックのマキシマム・バルーン。もっとも、所謂ソロ・プロジェクトとは趣が異なり、楽曲ごとに様々なゲスト・ヴォーカリストが迎えられた体裁は、形を変えたプロデュース・ワークの一環という見方もできるかもしれない。アルバム『マキシマム・バルーン』(2010年)に歌声を提供したのは、TVOTRからアデビンペとマローン、ヤー・ヤー・ヤーズのカレン・Oやセレブレーションのカトリーナ・フォードといったお馴染みどころに加えて、リトル・ドラゴンのユキミ・ナガノ、さらにデヴィッド・バーンといった顔ぶれ。

Maximum Balloon / Apartment Wrestling (ft. David Byrne)

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Maximum Balloon / Groove Me(ft. Theophilus London)

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なんでも、新居地のカリフォルニアでドライヴ用に制作したミックステープがインスピレーションになっているようで、なるほど、そこに収録されたプリンスやシック、シンディ・ローパー、あるいはナイル・ロジャースのプロダクションといった70/80年代のポピュラーなダンス・ミュージックの影響を窺わせる内容に。実際、あの時代のディスコやソウル、AOR、それこそジェームス・ブラウンやミーターズあたりのサウンドというのはシーテックのルーツでもあるらしく、いわく「そういう昔のスタイルのダンス・ミュージックを最新鋭の機材を使って再現してみようとした」のだとか。ある種、ダフト・パンクの『ランダム・アクセス・メモリーズ』を先取りしたアイデアとも言えそうだが、かたやマローンのレイン・マシーンと異なり、TVOTRの『ディア・サイエンス』と連続性を意識させる音の趣向性は、あの前面に打ち出されていたダンス・フィールがシーテックによって先導されたものだった可能性を再確認させる。

ちなみに。そのマキシマム・バルーンの活動に先駆けて、ザ・ナショナルのアーロン&ブライス・デスナー兄弟が監修を務め、アーケイド・ファイアやダーティ・プロジェクターズ、スフィアン・スティーヴンス、ボン・イヴェールらが参加し話題を呼んだコンピレーション・アルバム『ダーク・ワズ・ザ・ナイト』(2009年)にシーテックが本人名義で参加していたことも、同時代のインディ・ミュージック・シーンにおいてTVOTRが置かれていた地位を物語るエピソードだと思われるので、追記しておく。

David Sitek / With A Girl Like You


というわけで、アルバムのリリースとしては2年半ぶりとなった4作目『ナイン・タイプス・オブ・ライト』は、まず、TVOTRにとって初めてニューヨークの外=ロサンゼルスに構えたシーテックのスタジオでレコーディングされた作品であるということ。そうした環境の変化が実際の音作りにどう作用したかは定かではないが、アルバムの冒頭から耳を引くのは、前作『ディア・サイエンス』のエクレクティックなダンス・フィールとは異なり、メロウで、どこかレイドバックしたヴァイヴだろう。それまで通りTVOTRの多彩な音のパレットを使いながら、アンサンブルやレイヤーは整理された印象で、リズムもルーズ。〈ブルー・ノート〉からリリースする女性シンガーのプリシラ・アーンをバッキング・ヴォーカルに迎えた“ウィル・ドゥー”、さらにバンジョーやメトロトンも配した6分強のジェントリーなサイケ・ソウル“キラー・クレーン”は、そのハイライトにちがいない。

TV on the Radio / Will Do

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TV on the Radio / Killer Crane

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面白いのは、同じくロサンゼルスで制作されたシーテックのマキシマム・バルーンではなく、むしろマローンのレイン・マシーンに作風が近い、と言えるところ。ファンクやヒップホップのビートも随所に健在だが、スロウダウンしたジャム・サウンドとヴォーカル・ハーモニーの按配は、たとえばフリート・フォクシーズやヴォルケーノ・クワイアーへの応答のように聴こえる瞬間もある。変化なのか、それとも深化と言うべきか。いずれにせよ、『ナイン・タイプス~』は2000年代を通じたニューヨーク時代からの転換を印象づける作品だろう。

そして。その『ナイン・タイプス~』のリリースとほぼ同時に伝えられた、メンバーのジェラルド・スミスの訃報。スミスが医師から肺がんの診断を受けたのはアルバム制作後のことで、そういう意味では、作品自体への直接的な影響というのはなかったのかもしれない。しかし、闘病生活に入ることをバンドのオフィシャル・サイトで発表した、そのわずか一か月後に訪れたスミスの死は、新たなスタートを告げるはずだったアルバムのイメージに暗い影を落とすこととなった。

今回の5作目となるニュー・アルバム『シーズ』のリリースに至るまで、前作『ナイン・タイプス~』から3年半以上のインターバルを要する結果となった背景には、この、スミスの死が少なからぬ影響を与えていたことは想像に難くない。勿論、この間も彼らはツアーをこなし、個々に課外活動(※ジャリール・バンドンはボビー・ウーマックとデーモン・アルバーンのツアーに帯同)を勤しんでいたわけだが、一時は解散の危機もあったと伝え聞く話からは、相応に困難な状況に立たされていたことが理解できる。加えて、ロサンゼルスが拠点のシーテックとアデビンペと、現在もニューヨークに留まるマローンとバンドンとの、物理的な距離の隔たり。そうした中、昨年リリースされたシングル『マーシー/ミリオン・マイルズ』の制作で久々に顔を合わせたことで事態が動き、流れでアルバムのレコーディングを迎える運びに。その際、彼らの念頭にあったイメージとは、アデビンペいわく「16歳の頃の自分たちが聴きたくなる」ような、そして「願わくば、60歳になっても自分たちが聴きたくなる」ようなレコード、だったという。

ともあれ、リード・トラックの“ハッピー・イディオット”。1stアルバム『デスパレイト・ユース~』や2ndアルバム『リターン・トゥ~』の頃を彷彿させるソウルフルでパンキッシュなTVOTRの十八番がリプレゼントされていることが、やはりインパクト大。

TV on the Radio / Happy Idiot

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アルバムには未収録だが、前年のシングル曲“マーシー”がリマインドさせたタイトなロック・ビートとギター・サウンドが格好の呼び水になった形と言え、それは“レーザーレイ”のポップ・パンクや、“ウィンター”のノイジーなデザート・ロックについても然り。仮に、前作『ナイン・タイプス~』の滋味溢れたテイストにウェストコースト・ロックの伝統との繋がりを見るとするなら、『シーズ』はその裏側、つまり西海岸のアンダーグラウンドに脈々と流れるガレージ・ロックやハードコア・パンクの猥雑としたエネルギーを感じさせるところが、どこか2000年代初頭のニューヨークの熱気ともダブって魅力的と言えるかもしれない。

TV on the Radio / Lazerray

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かたや、ブライアン・イーノとハルモニアの1976年作『トラックス&トレイシズ』にインスピレーションを得たという“クオーツ”の呪術的なトライバル。さらに、“ケアフル・ユー”や“ライド”のコスミッシェなアンビエンス~クラウト・ロックの反復。そうした、TVOTRらしいエクレクティックなスタイルと多彩な音楽的語彙を聴くことができる点も、なるほど――「16歳から60歳まで」ではないが、『シーズ』が誇る奥行きの深さや振り幅の大きさの所以だろう。“ライト・ナウ”のアンセミックなメロディとヴォーカルも素晴らしい。

TV on the Radio / Careful You

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TV on the Radio / Right Now

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3rdアルバムの『ディア・サイエンス』で達成した最初のピークを、さらに成熟させ、洗練さえさせたようなずっしりとした手応え。それでいて、どこか原点回帰も思わせる軽やかさを漂わせたところに『シーズ』の醍醐味はある。「TVOTRとは、2000年代のニューヨーク・シーンを具現化した音楽そのもの」。前編の記事でそう書いたが、とするなら『シーズ』は、現時点で彼らのキャリアを縮図化した音楽そのもの。そして、『シーズ』こそ、前作『ナイン・タイプス~』に落とされた影を振り払い、彼らにとって新たな10年、つまり2010年代の始まりを飾るにふさわしい作品だと断言していいだろう。




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前編:「00年代NYの音」を定義したバンド



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