SIGN OF THE DAY

誰も見向きもしない軒下の粗大ゴミを黄金に
変えるポップ錬金術師=J・カサブランカス。
『ティラニー』で結実した彼独自の方程式を
ストロークスの歴史と共に検証します。前編
by YOSHIHARU KOBAYASHI October 15, 2014
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誰も見向きもしない軒下の粗大ゴミを黄金に<br />
変えるポップ錬金術師=J・カサブランカス。<br />
『ティラニー』で結実した彼独自の方程式を<br />
ストロークスの歴史と共に検証します。前編

ストロークスというバンドは初期二作ではロックンロールの黄金律を奏でていたが、3rd『ファースト・インプレッション・オブ・アース』以降は迷走が続いている。1stを様式美として繰り返すまいと頑固になるあまり、混乱を極めたまとまりのない音楽性になってしまった。あるいは、3rdからジュリアン・カサブランカスだけではなくメンバー全員が曲作りに参加することになったため、5人のアイデアを奇妙にツギハギしたようなサウンドに陥っている、等々。とにかく3rdでの「転向」が響き、それからは何をやっているのかよくわからない――もしかしたらあなたは、ストロークスに対してそのような印象を抱いていないだろうか?

だが、ここで一本の補助線を引いてみよう。

ストロークスとはデビュー当初から一貫して、悪趣味スレスレのところを突いてくるジュリアンの摩訶不思議な音楽的テイストを具現化してきたバンドである。言い換えれば、実は最初からストロークスとは、世間からは「時代にそぐわず、趣味が悪い」と見向きもされなくなった音楽を掘り起し、一般的にはあり得ないとされる組み合わせで提示することによって、ポップ・ミュージック/ロックンロールを再定義しようとしてきたバンドなのではないか? ということだ。

こうした角度からストロークスとジュリアンの歴史を改めて振り返ってみると、「転向」したどころか、しっかりと一本の筋が通っていることがわかる。そして、今のところ「やり過ぎ」だの「迷走気味」だのといった評価の目立つジュリアン・カサブランカス+ザ・ヴォイズの『ティラニー』も、実はそんなジュリアンらしさがかつてないほど遠慮なく発揮された作品であることが理解出来るはずだ。

まずはストロークスの1st『イズ・ディス・イット』から振り返ってみよう。今や小憎らしいほどクールでスタイリッシュというイメージがついてしまったため、これが奇抜で悪趣味なのか? と首をかしげる人も多いかもしれない。確かに今の耳で聴けば、あのアルバムは00年代インディのサウンドを決定付けた紛れもないスタンダードだ。

The Strokes / The Modern Age (2001)

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だが、思い出してほしい。2001年当時はニルヴァーナのスタジアム・ロック的な展開と言えるラップ・メタルやお子様向けのポップ・パンク、あるいは初期レディオヘッドの劣化コピーである情緒的なバラッド・バンドの全盛期。勿論、エレクトロニカ/IDMを飲み込んだ『キッドA』の余波もまだ大きかった。つまり、後にラモーンズやモダン・ラヴァーズやジョニー・サンダースをクールなものとして復興させるストロークスの原点回帰的なロックンロールは、ある意味では全く時代の空気を読んでおらず、思いきり明後日の方向を向いていたのである(その前年にトム・ヨークが「ロックなんてゴミじゃないか」発言をしていたのも象徴的だ)。

「奇抜」だったのは、その音楽性だけではない。レザー・ジャケット、くるぶしまで丈を詰めたスキニー・ジーンズ、そしてコンバースのオールスター・ハイカットというファッション・センスも、当時は完全にありえないものだった(“ラスト・ナイト”のMVでニック・ヴァレンシがしている格好が好例)。特に日本ではその「時代錯誤的」なヴィジュアルも影響して、音楽メディアでは「ただの懐古主義者かもしれないから様子見」といった反応が多かったのは笑い草だ。

The Strokes / Last Nite (2001)

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結果的に、00年代半ばまでフォロワーのバンドが溢れ返り、「ロック・ファッション」も世間で完全に定着したことで忘れ去られがちだが、『イズ・ディス・イット』は最初からスタンダードでエヴァーグリーンだったわけではない。むしろ、初めはどう反応していいか困るほど珍妙でエクストリームな作品だったのである。

そう言えば、彼らが敬愛するガイデッド・バイ・ヴォイシズと「クイズ100人に聞きました」の元ネタ番組「Family Feud」で対決するという“サムデイ”のMVも、世界一クールなバンドがやることなのか?! と戸惑った人も多いはず。本当に彼らは、昔から変で摩訶不思議だったのだ。

The Strokes / Someday (2001)

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2nd『ルーム・オン・ファイア』は、基本的には1stの延長線上にある、手堅くも愛すべきグッド・ソング集。という一般的な評価に異論を挟む余地はない。が、ここにも彼らの――というよりもジュリアンの独創的なセンスは垣間見られる。最もわかりやすいのは、同作のリード・シングルでもあった“12:51”。

The Strokes / 12:51 (2003)

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ソングライティング自体はストロークスの王道だが、サスティーンを効かせまくってシンセサイザーみたいな音を出しているニックのリード・ギターが、とにかく変。普通にムーグでも使えばいいのに、無理やりギターに置き換えることで妙な据わりの悪さを生み出している。しかも、そのフレーズがなぜかヴォーカルとユニゾンしているから尚更だ。

粗野でパンキッシュなロックンロールを復活させたばかりだというのに、80年代風のレトロ・フューチャーなエレクトロ・ポップ路線を早くも垣間見せていたのは、今思えばかなり大胆。80年代のSF映画『トロン』をイメージしたMVも、「かっこいいけど、なぜ今更『トロン』?」という感じだった。ダフト・パンクがサントラを手掛けた『トロン』のリメイク版が公開されるのが2010年の話なので、ある意味、ストロークスのセンスはかなり先を行っていた、と言っていいかもしれない。

Daft Punk / Derezzed (2010)

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初期からボブ・マーリーへの愛情を公言していただけあって、2ndではレゲエの影響を打ち出し始めたのも特徴のひとつ。これも当時のインディ・バンドでは異例のことだった。下のライヴ映像でプレイしている“ビットウィーン・ラヴ・アンド・ヘイト”は、敢えてドープな感触を排したストロークス流のレゲエ解釈が面白い一曲。なぜジュリアンは袖をカットオフしたゴースト・バスターズのTシャツを着ているのか(当時よく着ていた)、なぜ日本語で“マイ・ウェイ”の触りだけ歌っているのか。突っ込みどころはたくさんある映像だが、「ギリギリでアウトっぽいけど、もしかしたらありなのかもしれない」ということをやるのが、ストロークス/ジュリアンの真骨頂だというのは、これまでも繰り返してきた通りだ。

The Strokes / Between Love and Hate (2003)

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今では00年代のスタンダードという評価が定着しているストロークスの初期二作だが、こうして振り返ってみると、実はかなり奇妙なことをやっていたのがわかるだろう。結果、それがスタンダードになったというだけで、「時代にそぐわず、趣味が悪い」とされているものを掘り返して時代に問う、という姿勢は、昔から驚くほど一貫している。

さて、まだ3年分しか振り返っていないが(!)、前半はここまで。後半では、3rdからジュリアンの最新作『ティラニー』までを一気に総括してみよう。




「誰も見向きもしない軒下の粗大ゴミを黄金に
変えるポップ錬金術師=J・カサブランカス。
『ティラニー』で結実した彼独自の方程式を
ストロークスの歴史と共に検証します。後編」
はこちら。



「総力特集:
ゼロ年代を変えたストロークス、
その頭脳、ジュリアンの頭の中」
はこちら

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