SIGN OF THE DAY

鼎談:仲真史×照沼健太×田中宗一郎
20年続くブリットポップの後遺症から
英国ロックは解放されるのか? 後編
by SOICHIRO TANAKA
MASASHI NAKA AND KENTA TERUNUMA
May 16, 2018
鼎談:仲真史×照沼健太×田中宗一郎<br />
20年続くブリットポップの後遺症から<br />
英国ロックは解放されるのか? 後編

鼎談:仲真史×照沼健太×田中宗一郎
20年続くブリットポップの後遺症から
英国ロックは解放されるのか?前編



>>>英国インディはブリットポップの「後遺症」と如何に向き合っているのか?

田中「ブリットポップの狂騒から数年が経ってからわかったのは、あれは本当に国策だったということです。ニュー・レイバーを標榜した労働党が政権を取って、その絡みで盛り上がったところがあった。アラン・マッギーとかノエル・ギャラガーがトニー・ブレア首相と握手している写真が〈NME〉の誌面を飾ったこともありましたよね」

照沼「クール・ブリタニアと呼ばれる動きですよね」

田中「そう。だからこそ、ストロークスやリバティーンズの時代になって、オアシスみたいにスタジアムじゃなくて街角のパブでライヴするっていう志向が強まったり、〈ラフ・トレード〉のジェフ・トラヴィスみたいな音楽的なセンスは最高だけど、基本的に商売の出来ない人が火をつける役割を担ったり。音楽的な部分以外にも、いろんな意味でブリットポップからの振り戻しがあったんじゃないかと思うんです。日本だと、すべてが一緒くたになっちゃってるんだけど」

照沼「ええ」

田中「ただ、ブリットポップという大きい事件があったせいで、リバティーンズ以降の動きは大きなシーンにまで繋がらなかったような気もします。実際、そういった意味でのブリットポップの後遺症というのはあったと思いますか?」

仲「リバティーンズとその流れを受け継いだバンドの多くは、ストリート感が強かったり、DIY志向の強いバンドでしたよね。それはブリットポップへのカウンターみたいな意識もあったんじゃないかと思います。ただ、業界的にはブリットポップ再び、という期待があったので、そういう売り出し方をされるバンドも多かったと思いますね」

田中「具体例を挙げてもらうことは出来ますか?」

仲「例えばラリキン・ラヴとか、その辺りのUKインディにはメジャーが参入していたので、まずインディとのスプリットで7インチを出させて……みたいな流れがたくさんあったと思うんですよ。彼らは好きでしたし、あれはあれで盛り上がったシーンだったとは思いますけど、当時のUKインディ・バンドが今は全然残っていないのは、その影響もあるんじゃないかと思います」

田中「あの頃のテムズ・ビート周りで今も健在のバンドは、ミステリー・ジェッツくらいですよね。彼らの2年前のアルバムはかなり好きだったんですけど」

仲「よかったですよね。でも、彼らみたいに一度売れたことがある一線級しか残っていない。あれくらいじゃないと生き残れない感じがします。あの後、アメリカのインディが盛り上がったから、それに完全に食われたのもありますよね」

田中「ですね。一気にUSインディのゼロ年代がやってきてしまって」

仲「イギリスのインディが盛り上がったのは、Myspaceとか、ああいうインターネットのコミュニティの影響が大きかったと思うんです。モーニング娘。やAKBじゃないですけど、バンドが自分にとって身近で応援したくなる存在になったという」

照沼「Myspaceは、『友達のバンド9組』みたいなのを表示させる機能があったじゃないですか。あそこで掘っていく楽しさもありましたよね。このバンドと仲いいんだ、っていうのがあそこで表現されていたので、そこから辿っていけた。その点に関しては、Spotifyとかよりもわかりやすかったと思います」

田中「あの機能は優れていましたよね」

照沼「リバティーンズの頃から、B級のバンドはめちゃくちゃ多かったじゃないですか。ジ・アザーズとか、パディントンズとか。でも、そういうバンドが来日するのを掘っていく楽しさもありましたよね。で、ニュー・レイヴまで来ると、『昨日結成したバンドなんじゃない?』みたいなのまで出てきて、それをみんなで聴く楽しさがあったと思います。でも、ブームが離散していって、結局、残ったのはホラーズ周辺でした。それが脈々と続いて、また繋がってきたのが最近なんじゃないかなと感じます」

仲「ホラーズ周りは1stアルバム『ストレンジ・ハウス』(2007年)を作ってる頃から、すでに自分たちでジンを作っていました。そういうのが2010年代のロンドンには戻ってきたんだなって感じますね」

照沼「そうですね」

仲「ホラーズが出てきた頃はクラクソンズとかもいましけど、向こうのクラブでシャーラタンズがかかると、みんな盛り上がっていたと言うんですよ。それは、シャーラタンズのティムがレーベルをずっとやっていて、シーンをサポートし続けていたからで。だから、『自分たちの兄貴の曲がかかった!』みたいな感じで盛り上がっていたのかなと。でも、そういうのってあるんだなと思いましたね。それがずっと続いてきたのが、今に繋がっているという」



>>>英国インディ復活の象徴=サウス・ロンドンは何が新しいのか?

仲「ずっと繋がっていたと言っても、もちろんイギリスのインディには厳しい時期もあったんです。2008年くらいからは、インディと言えばアメリカというのがずっと続いていて、イギリスのインディなんて何を出したって売れない。アメリカのバンドと同じようなものを出したって、『お前らはイギリス人なんだから偽物だ』って言われてしまうような時期が何年か続いていました。それでパブでやったりとか、広がりがないと言われても仕方ない状況があったんです」

田中「実際、ゼロ年代からここ最近までの英国インディは、本当に厳しい状況が続いていましたよね」

仲「2013年くらいにイギリスのマネジメント会社の子と話したんですけど、The xxとかディスクロージャーとか、ああいうエレクトロニックなものしか今は売れないんだ、インディもいるけど本当に小さくてお金にならない、と言っていましたね。ただ、イギリス人にはギター・バンドがどうしても必要だから、一年に一バンドは必ず売れるっていう話もしていて。だから、色々出てきてはいるんだけど、ちゃんと形になるには後5年はかかる、と言っていたんですけど、『本当に5年でピッタリきた!』と思って」

照沼「すごいですね」

仲「ゼロ年代末にメトロズが出てきて、そのメンバーの中からファット・ホワイト・ファミリーが生まれた。ファット・ホワイト・ファミリーは年齢が高いと思うんですけど、彼らもパブとかで徐々に支持を集めて今に至る、みたいな感じですよね。それはイギリスっぽいと思いますし、今っぽいと思います」

田中「仲さんが、ファット・ホワイト・ファミリーが何かしらの起点になるかも、と実感したのはいつ頃ですか? 僕の場合、ここ数年、USラップやR&Bばかり聴いていたところもあって、映画『T2:トレインスポッティング』(2017年)のエンディング・ロールに彼らの曲が使われている頃になって、ようやく気がつき始めた感じなんですけど」

仲「彼らが最初、〈ヘイト・ヘイト・ヘイト〉っていうレーベルからシングルを出した時に、レーベルの人が『すごいバンドを出せた、光栄だ』みたいなことを言っていたんですよ。正直、最初は『こんなの、マジで売れるの?』って思いました。1stアルバム『シャンペーン・ホロコースト』(2013年)が出た時も、無理やり好きになろうとしてたくらいのレベルで」

Fat White Family / Is It Raining In Your Mouth?


仲「だから結局、いつも名前を見てたから、っていう感じですね。例えばアリエル・ピンクなんかは、彼と友達なのがステータス、みたいな感じになっているじゃないですか。それと同じで、ファット・ホワイト・ファミリーと友達だとなんかカッコいいんだな、っていうのが見えてきた。じゃあ、俺もそれを言おうって(笑)」

田中「(笑)」

仲「でも、それで段々わかってきたんです。彼らがずっとやってきたんだ、っていうことが。シェイムも彼らに可愛がられていましたし」

照沼「そうですよね」

仲「あと、ロンドンに行ってわかったことなんですけど、パーマ・ヴァイオレッツっていたじゃないですか。あれがすごいキーだったみたいなんです」

田中「みたいですよね。あれはホント意外だった」

仲「もちろん、彼らはいいけど、リバティーンズもどきというか、この曲は絶対にリバティーンズ! みたいな感じだったじゃないですか。でも、ロンドン内ではあれが次のリバティーンズみたいな、本当のヒーローだったみたいで。USインディが来てた時だったから、日本には全然伝わらなかったですけど」

Palma Violets / Best of Friends


仲「ロンドンに行った時、HMLTDとかソーリーのマネジメントをやってる子とたまたまいて、パーマ・ヴァイオレッツでベースだったチリ・ジェッソンと会ったんです。彼はクルーエル・インテンションズっていう新しいバンドをやっていて、若者たちのカリスマになっているんですよ。打ち上げに行っても、彼が現れると周りの人が『おっ!』ってなる。僕は顔を見ても全然わからなかったんですけど(笑)」

田中「へー、そうなんだ。それは驚きですね」

仲「そうなんですよ。だから、『彼らは少し前のバンドだから、君たちのエネミーじゃないの?』って聞いたんですけど、『いや、彼らだけは違うんだ』って。クルーエル・インテンションズも、ちょっとニック・ケイヴっぽい音楽をやっているんですけど、すごい人気になっているみたいで」

Crewel Intentions / live 2018


照沼「パーマ・ヴァイオレッツは、売れる、売れるって言われて、結局売れなかったバンドっていうイメージが強かったですけど、ロンドンだとちゃんとポジションを築いていたんですね」

仲「ただ、そのマネジメントの子も『シーンはすごく小さい』って言っていたから、本当に小さい中での話だとは思います。HMLTDも5年前にやり始めた頃は、ライヴのお客さんが友達の8人だけしかいなくて、すごく大変だったって。最近はやっとギター・バンドが復活してきたから、人が入るようになって嬉しい、って言ってましたね」

照沼「そうなんですね」

仲「だから、パーマ・ヴァイオレッツを見て、『よし、僕らもやろう!』っていう感じたんだと思います。リバティーンズはリアルタイムじゃないけど、っていう世代の子たちが19歳くらいから始めて。HMLTDも今25歳なので、ちょうどそれくらいのタイミングですよね。彼らはコペンハーゲンもずっとチェックしていたみたいなので、そこで自分たちはカウンターとして何をするのか? っていうのも自分たちなりに考えてたんじゃないかな、と思います」

田中「なるほど、なるほど」

仲「ゼロ年代はMyspaceとかがベースになって、そこからスターは生まれたけど、ブリットポップを求める業界とは上手くいかなかった。でも今は、インターネットはあるけれど、インディペンデントな価値観も復活してきている。それがちゃんと成果に繋がるようになってきているのかなと思います」

田中「それ以外にも、ゼロ年代と今とでは、イギリスのインディ・シーンで何かしらの違いを感じることはありますか?」

仲「今はインスタもあるんで全然違いますよね。世界中のことがわかるじゃないですか。ロンドンに行っても、『お前のことはいつも見てるからわかってる』みたいな感じで挨拶してくれるんですよ(笑)。僕らもそうじゃないですか」

田中「そうですね(笑)」

仲「今のイギリスのインディ・シーンって、それぞれのバンドで音が全部違いますよね。でも、それぞれ音が違っていて、吸収してるものがバラバラだったとしても、互いにインスタとかでチェックし合って繋がっているんですよ。HMLTDはソーリーともシェイムともホテル・ラックスとも仲がいいですし、うちで出したLAのザ・ガーデンとも仲がいいんです。それって、SNSとかインスタで繋がっているんだなって。そういう風にバラバラのまま繋がっている感じが昔のシーンと違う気がしますね」

田中「なるほど」

仲「もちろん、だからこそ厳しい部分もあると思います。みんなめちゃくちゃ見てるから、ちょっとでもブレてると、『違う』って思われてしまう。実はドリーム・ワイフはちょっとそういうのがあって」

田中「え、どういうことですか?」

仲「ドリーム・ワイフのライヴで、ソーリーが前座だったんですけど、それをアナウンスしてなかったんですよ。マネージャーに『アナウンスされてないじゃん?』って訊いたら、『ちょっとあってね』っていう感じで。のちのち訊いてみたら、ドリーム・ワイフの前座をHMLTDがやった時に盛り上がり過ぎて、ドリーム・ワイフが拗ねて大変だったらしいんですよ。詳細は伏せますが(笑)。だから、ソーリーも嫌がっていたっていう(笑)」

田中「ハハハッ!」

仲「ソーリーが前座だったライヴは、〈BBC・レディオ・1〉のヒュー・ステファンも来てたんです。彼は僕のことを知ってくれていて、Big LoveのTシャツをせがまれました(笑)。で、『ソーリーのライヴは最高だった』って言っていたんですけど、『ラジオが今からあるから、ソーリーが終わったら帰る』みたいな(笑)」

照沼「(笑)」

仲「ドリーム・ワイフのライヴはめちゃ上手いんですよ。ただ、なんか僕的にはちょっと違うかなって思って。『外で飲んでるわ』ってマネージャーに連絡したら、ソーリーのみんなが来て、『やっぱり?』って言ってきて(笑)レコードで聴くといいのに、何かがちょっと違うって」

田中「なるほど(笑)」

仲「前だったらわからなかった部分まで、しっかり現場で見られているし、インスタでもそこ違うだろっていうのを見られているのはすごく感じますね。そういうところまでチェックされる時代になっているから、しっかりと同じ価値観が世界中で共有されるようになってきた。音楽性はバラバラだけど、そこは一貫してたりするんで、新しい時代になったのかなって思います」

田中「場所が限定されていた時代と、SNSで繋がる時代の違いということですよね。だから、今までとは形が違う。より現場が重要視されるようにもなってきているし、一方でお互いが情報を確認し合うのもより重要になってきている」

仲「クルーエル・インテンションズとかブラック・ミディとか、現場ではすごく支持されているのに、音源が全然出てないんすよ。どこにもないっていうのが、インターネットの使い方として逆にしっかりしているなって。現場でしかわからないですからね」

田中「はいはいはい」

仲「そういうのが、ロンドンがまた強くなってきた理由でもあるのかなと思います。ただ、そこがニューヨークとか、ブリットポップの時と比べた時に、サクセスでは弱い部分でもあるのかな、とも思いますけど」

田中「う~ん、確かにそうですね」

仲「今のシーンの流れでは、ナーヴァス・コンディションズっていうバンドが、ホテル・ラックスと並んでいくんじゃないかな、と思っていたんですよ。アンダーワールドの娘がいたバンドなんですけど。注目していたんですが、メイン・ヴォーカルにセクシャル・ハラスメントの問題が出てきて、解散してしまったんですね」

田中「あー、そうなんですね」

仲「たぶん、〈4AD〉かどこか、もう契約も決まっていたみたいなんですけど。順調に行きそうだったのが、そういう問題であっという間にいなくなってしまう。それも今の時代ですよね。今までとは全然違う」

田中「まさに2018年的ですね」

仲「ナーヴァス・コンディションズが上手くいけば、他のバンドも続いて出て来られるんじゃないか? というところで、問題を起こして消えてしまった。少し前だったら、ブラーみたいなバンドがポンっていなくなるみたいなものですから、大きいですよね。もうそのメイン・ヴォーカルは二度と出てこられないでしょう。もちろん彼がやったことは許されないことだと思います。ただ状況として、もうシド・ヴィシャスは永遠に生まれないんだなっていう」

Nervous Conditions / live at The Windmill 2017




>>>これからの英国インディに期待するものとは?

田中「これからロンドン界隈はどうなると思います? ブリットポップに対する反動としてアンダーグラウンドでのDIY的な動きが広がってきたけれど、今後それがどう発展していくのか、見えない部分もあるじゃないですか」

仲「そうですね」

田中「シェイムにしても、USのインディ・レーベル〈デッド・オーシャンズ〉と契約していますよね。前みたいに、メジャーがブリットポップの流れで売っていくのとは、また変わってくると思います。では、どうなっていくのか。あるいは、どうなってほしいか、という希望的な観測も含めて教えてください」

照沼「今、インディが盛り上がってきていますけど、UKラップが盛り上がってる流れもあるじゃないですか」

田中「J・ハスとか、ラムズみたいな、グライム第三世代のアーティストたちですよね。ロード・ラップやグライム時代とは、サウンド自体もバッシュメントやアフロ寄りになってて、もはやUKラップと呼ぶしかないような世代のラッパーたち」

照沼「そうです。そこがくっつけば面白いな、っていうのがあるんですよね。アークティックが2nd『フェイヴァリット・ワースト・ナイトメア』(2007年)からのリード・シングルのカップリングで、ディジー・ラスカルをフィーチャリングした曲がありましたよね。ああいうのがもっとあったらいいかなって僕は思います」

Arctic Monkeys / Temptation Greets You Like Your Naughty Friend



照沼「ニュー・レイヴの時も、クラクソンズが〈キツネ〉のコンピに入っていたりしてましたけど、結局クラブでかかるのってリミックスの方だったじゃないですか。オリジナルはかからないけど、ヴァン・シーがやっているリミックスはかかる。せっかくクロスオーヴァーだと言われているのに、結局、分断されてるじゃん、っていう気持ちがあって。それこそ2002年くらいにエロル・アルカンがやっていたみたいに、全部がごっちゃになって面白いものが生まれて欲しいな、っていうのはすごくありますね」

田中「ゼロ年代初頭の〈トラッシュ〉みたいな感じということですね」

照沼「今は予想していなかったところが色々とくっつく時代じゃないですか。フランク・オーシャンのアルバムにKOHHが何で参加してるんだ? とか。そういう訳わからないことがもっと起こればいいかなと。〈サイン・マガジン〉のシェイムのインタヴューでも、ギター・ロックが好きな連中が集まっている、みたいな話がありましたけど、僕はそこがもうちょっと変わると面白いんじゃないかと思います」


【短期集中連載①】英国インディ・ロックの
新たな震源地=サウス・ロンドンの実態を
その当事者に訊く:シェイム編


田中「ただ、そこに関しては、ちょっと難しいんじゃないかと思います。と言うのは、今僕らが日本で感じている以上に、イギリスではUKラップの盛り上がりがすごいことになってる。イギリスだと、今やUKラップは普通に誰もが聴いているものになっているんですよ。だから、サウス・ロンドンのシーンはそこに対するカウンターにもなっているんじゃないでしょうか?」

仲「そこは向こうに行った時も感じましたね。まだロンドンでもギター・バンドがそこまで大きくなっているわけじゃないんですよ。それを感じたのは、向こうの服関係の子と話していて、『HMLTDを観に行く』って言ったら、『知らない』って言われたので。まだそんなものなんだなっていう。ロンドンでのライヴ会場はエレクトリック・ボールルームだったので、キャパも1500人くらいですよね」

田中「方や、ケンドリック・ラマーやドレイクとの繋がりもあって、まだアルバムをリリースする前のジョルジャ・スミスがキャパ5000人以上のブリクストン・アカデミーを速完させているのに対し、シーンのトップ・クラスで、まだその規模ということですからね。日本だとサウス・ロンドンのインディ・ロック・シーンだけじゃなく、サウス・イースト・ロンドンのジャズ・シーンとかも注目されてはいるけど、ラップやR&Bに比べると、本国ではほとんど知られていないっていう」

仲「街を歩いていても、向こうにはギター・バンドのポスターが全然ないんですよ。だから、本当に今、始まったばかりなんだと思います。シェイムとか、他のギター・バンドの名前をインタヴューで積極的に挙げたりしていますけど、そういうのもカウンターとして意識しているのかなと思いますね」

田中「自分たちが先頭に立って、積極的にギター・バンドをプッシュアップしていこうと」

仲「実際はギター・バンドの中にも、テクノ聴いたり、ソウルとかヒップホップを聴いている子は多いんですよ。ロンドンはいろんな音楽がガンガン流れているので、ベースとしてそういうのがあるだと思います。ただ、今回僕はエレクトロニック系の子にも会いましたけど、逆にそっちはインディをまったく知らないんですよね。そこの棲み分けはしっかりしているんだなと思いました」

田中「なるほど」

仲「でも、ソフィーとホラーズのファリスの共同プロデュースでレッツ・イート・グランマが曲を出していたので、そこは混ざれるのかなって。ソフィーとファリスは同級生だった、みたいな話もありますけど」

Let's Eat Grandma / It’s Not Just Me


照沼「あれは、ファリスがクレジットされてない、っていう問題がありましたよね」

仲「めちゃくちゃ怒ってたよね(笑)。ファリスはHMLTDもプロデュースしたのに、『俺の名前が全然出てこない、何回もやられてる!』みたいな感じで。もしかしたら、今はホラーズだとステータスにならない、みたいなのがあるのかもしれないですね。だって、ファリスはそれをネットに書いちゃうんですから(笑)。『書かないよ、それは』っていう。ちょっと痛いというか、そういうキャラなのかもしれない」

田中「(笑)でも、レッツ・イート・グランマはすごくいいですよね。〈PCミュージック〉の流れもあって、ロンドンのアンダーグラウンドのクラブ・シーンとUSメインストリームを繋ぐような存在でありながら、まさにインディっていうサウンドで」

仲「そこからどう大きくなっていくか、っていうのはわからないですけど。シェイムだって、アメリカのレーベルとサインして、ずーっとライヴをやってきた。イギリス人が盛り上げたというよりは、アメリカ人が盛り上げたんですよ。で、イギリスに戻ってきたら、『なんか、すごいらしい』っていうことになって、いきなりワーってなりましたから」

田中「あー、なるほど。それも象徴的な話ですね」

仲「イギリスの中でギター・バンドを持ち上げていく力は、まだないなって思いますね」

照沼「そういう話を訊くと、日本で聴いている感じとは、またちょっと違いますよね。日本には根強いギター・バンド信仰みたいなのがありますから」

仲「もう今はないと思いますよ。他のレコード屋の子も、5年前くらいに『いち早くインディが売れなくなった』って言っていましたし。今はダンスも売れないって。じゃあ、何が売れるの? っていう(笑)。だから、ギター・バンド信仰の人はもうとっくにいないんじゃないですか」

田中「もしいるとしたら、30代~50代で、カサビアンもストロークスもシェイムもCDで買って聴いています、みたいな人たちですかね」

仲「そろそろ、そういう人たちもいなくなった感じがしますよ。例えばフランク・オーシャンはいいに決まっていますし、僕も大好きです。でも、フランク・オーシャンを聴きつつ、『フランク・オーシャンがいい』って言うんじゃなくて、『フランク・オーシャンがいい』って言っている大人を逆にギャフンと言わせるようなギター・バンドが出てきてくれたら、おお! ってなりますよね。イギリスには、ちょっとそういう機運が生まれ始めているのかなと思います。シェイムはそういうところがありますよね」

照沼「そういう意味では、〈サイン・マガジン〉のシェイムのインタヴューは面白かったです。ノエル・ギャラガーとかリアム・ギャラガーとか、みんな存在としては知ってるけど、オアシスは評価していない。でもマーク・E・スミスは好き、みたいな」

仲「それは僕もすごく思いました。コペンハーゲンの子たちは『オアシスは曲がいい』という評価をしていたけど、またその先なんじゃないかなって。今はエレクトロニックな音楽とかマス向けの音楽がロンドンの街中ではいっぱい流れていて、日本で言うところのアイドルみたいな感じなんだと思います。そこに対する対抗心もあるんじゃないかなって」

照沼「今は80年代みたいだ、ということもよく言われますよね。フランク・オーシャンとかケンドリック・ラマーとか、ヒップスターがクリエイティブな面でもすごい時代だから」

田中「80年代のマイケル・ジャクソン、プリンスみたいな感じですね」

照沼「そこに対するカウンターとしてギター・バンドが出てきているとしたら、のちにグランジみたいなものに繋がるかもしれない。でも、それも時代が違うからどうなのかな、とも思いますけど。スターが生まれるかはわからないですね」

田中「今のところ、シェイムが注目された流れっていうのが一番面白いと思います。イギリスの小さなシーンのバンドがアメリカでそれなりに形になって、それに呼応してロンドンでも同じように盛り上がり始めるっていう。サウス・ロンドン以外でもイギリス中に同じようなシーンが生まれ始めているとすれば、可能性はある気がしますね」

照沼「なるほど」

田中「今アメリカで売れているイギリスのバンドって、グラス・アニマルズとか、アルト・Jじゃないですか? 日本の感覚とも英国内の感覚ともまったく別のものが出来上がっているから、面白いと思います。僕はアルト・Jはそんなに好きじゃないし、グラス・アニマルズの方が遥かに好きなんですど、彼らがイギリス国内よりもアメリカで受けていて、〈コーチェラ〉や〈ロラパルーザ〉で何万人の前でやっていたりするのはよくわかるんです。でも、それだけじゃつまんないな、とも思う」

照沼「タナソウさんとしては、どういう形が理想なんですか?」

田中「やっぱり僕は90年代に〈K〉とか〈キル・ロック・スターズ〉のバンドがアメリカ各地のローカル・シーンにコネクションを持ちながら、アメリカ中をツアーしていた時代に対する愛着があるんですよ。シェイムの注目の浴び方は、それにも通じるところがあると感じていて。もちろん、今の時代と当時が違うのは、〈ライヴ・ネーション〉みたいな大企業がアメリカ中のヴェニューを買収してて、インディ・バンドがツアーすること時代が難しくなってはいるんだけど。ただ、もはやセレブの集まりである〈コーチェラ〉が代表する資本主体のカルチャーに対するカウンターにもなり得ると思うし。だから、もしそれが形になると痛快だと思いますね」

仲「シェイムはその可能性を示してくれたと思います。HMLTDみたいなバンドがアメリカでウケるか? って言われたら、イギリス的すぎてキツいんじゃないかなとも感じますし。彼らも『あれ? 俺ら、間違えたかな?』って思っているかも(笑)。『いつ化粧落とす?』みたいな。HMLTDはメジャーとサインしていると思いますけど、なかなかアルバムが出ないのはそういうところもあるのかなって」

田中「なるほど(笑)」

仲「あと、イギリスに行って思ったのは、思ったよりもカニエ(・ウェスト)文化が入ってきてないっていうことです。シュプリームとかはありますけど、着てる人がそんなにいないんですよ。イギリス人はいまだにスキニー穿いてますし。今は世界的にカニエ文化的なものが入ってきていますけど、イギリスにはあんまりなかった感じがしました。イギリスは独自にグライムとかがあったからなんですかね」

照沼「リバティーンズの歌詞で、『ベースボール・キャップを被ったアメリカかぶれのイギリス人ほど、悲惨な光景はないことを奴は知っている(“タイム・フォー・ヒーローズ”)』っていうのがありましたけど、アメリカの野球帽は被らない、みたいな意地もあるんですかね」

仲「それは思いました。キャップ被ってる人は本当にいなくて。そう言えば、こいつら野球知らないもんな、とか思って(笑)。でも、逆にその文化が入った時にどうなるかが興味深いとも思います」

田中「ですね。じゃあ、最後に、仲さんに一つだけ訊かせてください。今のイギリスで、年内一番楽しみにしてるリリースは何でしょうか?」

仲「ファット・ホワイト・ファミリーがアルバムを出すみたいなので、それは楽しみですね、ダンス系ですけど、ソフィーのアルバムも。ソーリーのアルバムも楽しみですし、クルーエル・インテンションズがどこまで行くのかも気になりますね。あとはブラック・ミディとか、ドラッグ・ストア・ロメオっていう十代くらいの女の子と男の子の3人組とか、、新人がシングルでもいいから出してくれたらな、と思います。僕らはレコード屋なんで、レコードを出してくれないと(笑)」

田中「そうですよね」

仲「70年代のパンクでもそうだったんですけど、7インチ一枚でも出してないとダメじゃないですか。今の人たちが全員レコードを出してくれたらな、って思います。あと、今日の話には出なかったんですけど、キング・クルール周りも面白いと思います」

田中「そうだ、そうだ。もちろん、そうですね」

仲「一緒にツアーを周っていたホーシーっていうバンドは7インチが一枚出たんですけど。そのヴォーカルはキング・クルールの幼馴染で、ジャークカーブっていう名義でソロでも出しているんですよ」

Horsey / Arms & Legs

Jerkcurb / Voodoo Saloon


仲「キング・クルールはあんなに評価が上がってるのに、そういうインディもちゃんと選んで持ち上げていて。彼を中心に回ってるところもありますよね」

田中「アメリカでも成功してるし、評価もされていますしね」

仲「キング・クルールはすごくイギリスぽいじゃないですか。あれがまさかアメリカで受けるとは思っていなかったんですけど、突然受けましたよね。彼の今の求心力の高さは、アメリカで売れた、っていう底上げも実はあるんじゃないかって思います。でも、『ロンドンはもう嫌だ』って言っていましたけど。もう出ていくって(笑)」

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