特にエレクトロニック・ミュージックにおける2019年は、2010年代を総括するようなものや、その次を予感させるものが断片のまま散乱していた一年だったように思える。総括的な楽曲として聴いたのはミニマリズムの極北であるTNGHT“サーペント”とデジタルなコーラス・ミュージックであるホーリー・ハーダン“フロンティア”。このディケイドにおいてポップ・ミュージックの快楽を支えていたのはミニマリズムとデジタルに変性させたヴォーカルだからだ。そのほかの楽曲には次の可能性の萌芽を感じた。特にジャンクなサウンドを過激にドライヴさせ、瑞々しい輝きを放つ100ゲックス“マネー・マシーン”には驚かされ、チャーミングな音色でポップスとしての体裁を保ちつつチャレンジングな構成で楽曲を組み立てて見せたカシミア・キャット“バック・フォー・ユー”、緩やかなアンビエントと絨毯爆撃のようなノイズ、ドラマティックなシンセやギターが混然一体となった、ポスト・ヴェイパーウェイヴの俊英が放つファイア・トゥールズ“クリア・ライト”は見事。でも正直に言うなら、2019年に最も聴いていたソングはダントツでB’z“兵、走る”だし、カラオケでもダントツで一番歌った。もちろんラグビー・ワールド・カップのせいだ。
ベスト映画/ドラマ・シリーズは音楽/音響に焦点を当ててセレクト。劇伴の作曲が専業ではなかった音楽家たちが映画やドラマ、もしくはダンスにおける作曲活動を展開するという昨今の潮流から考えたときに、2019年に目立ったのは『ジョーカー』と『チェルノブイリ』の劇伴を担当したヒドゥル・グドナドッティルだろう。サウンドの類似性も含めて、彼女はヨハン・ヨハンソンの後継者としての地位を順調に築き上げてきている。『ダーク』シーズン2におけるベン・フロストは相変わらず充実していたし、『エイス・グレード』のアンナ・メレディスは極めてユニークなシンセ・サウンドで映画を彩っていた。『ROMA/ローマ』は音響があれば劇伴は不要と言いたくなるほど、映画における音への感覚がずば抜けて素晴らしかった。そんな傑作がNetflix配給であったことなどは注目すべき点だ。そしてぼくにとって、2019年は京都アニメーションの悲劇と不可分な年だ。『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 -永遠と自動手記人形-』で響き渡るタイプライターの音をぼくは忘れないだろう。
〈サインマグ〉のライター陣が選ぶ、
2018年のベスト・アルバム、ソング
&映画/ドラマ5選 by 辰巳JUNK
「〈サイン・マガジン〉のライター陣が選ぶ、
2019年の年間ベスト・アルバム、
ソング、ムーヴィ/TVシリーズ5選」
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「2019年 年間ベスト・アルバム 50」
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