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LOST IN THE DREAM The War On Drugs (Hostess) by AKIHIRO AOYAMA
YUYA SHIMIZU
April 25, 2014
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LOST IN THE DREAM

カート・ヴァイルの盟友が才気の全てを注ぎ込み
孤独と失意で眠れない夜に描いた自分自身の物語

ウォー・オン・ドラッグスが紹介される際、これまで真っ先について回っていた枕詞は「カート・ヴァイルが以前に在籍していたバンド」というものだっただろう。確かに、2011年の『スモーク・リング・フォー・マイ・ヘイロー』と昨年リリースされた『ウェイキン・オン・ア・プリティ・デイズ』の2作でUSインディ・シーンを担うシンガーソングライターとしての評価を確立した感のあるカート・ヴァイルは、アダム・グランデュシェルと共にウォー・オン・ドラッグスを結成した最初のメンバーの一人であり、これまでは彼の名声の方が先行していたことは否めない。しかし、インディ・サークル内で高い評価を得た『スレイヴ・アンビエント』に続くこの3作目によって、「カート・ヴァイル云々」の説明も不要となるに違いない。『ロスト・イン・ザ・ドリーム』は、ウォー・オン・ドラッグスを司るアダム・グランデュシェルが自らの才気を全て注ぎ込み、ソングライターとしての才能を全面的に開花させた、この上ないほどの傑作だ。

本作はウォー・オン・ドラッグスにとって、カート・ヴァイルの手を借りずに制作された初めてのアルバム(前作の時点で彼はバンドを離れていたが、2曲でギタリストとして参加している)。ルーツ・ミュージックに根差したソングライティングにサイケデリックな音響処理を纏わせた音楽性の面で、これまでの作品には確かにカート・ヴァイルの諸作との血縁関係が感じられたが、本作ではアダム・グランデュシェルの個性がより鮮明に浮き彫りとなっている。サウンド面で顕著なのは、音響的なプロダクションがいくらか鳴りを潜め、歌に寄り添うようなシンプルな演奏がより前面に出ていること。ここでの絶対的な主役はアダム・グランデュシェルのソングライティングであり、以前よりもソング・オリエンティッドな様相が強まったレコードと言えるだろう。

2012年の秋、アダム・グランデュシェルは長年付き合ってきたガールフレンドとの別れを経験したのだという。家に1人取り残され、不眠症やパニック発作に陥るほどに落ち込んだ彼に残されたのは、音楽だけだった。数えきれないほどの眠れない夜をレコーディングに捧げたこのアルバムで彼が歌うのは、生きる意味さえ見失ってしまった男の痛みや孤独、実存の不確かさから来る迷いや嘆きである。彼が影響を公言するボブ・ディランやブルース・スプリングスティーン、あるいは盟友のカート・ヴァイルといったソングライターが時に3人称や人名を使って物語を綴るのに対し、本作におけるアダム・グランデュシェルのリリックにはほぼ1人称と2人称しか登場しない。つまり、ここで歌われる言葉の全てはアダム自身が体験した痛みであり、彼の荒涼とした心象風景そのものの反映と言っていい。

ただ、本作は決して気が滅入るように沈鬱なレコードではない。本作の曲順は、朴訥としたアメリカーナ調のミドル・バラードと、ホーンやシンセの鳴りが印象的な80年代アメリカン・ロック調のアップリフティングな楽曲がほぼ交互に並べられている。失意と生への渇望を行き来するかのようなその構成は、最後にE・ストリート・バンドを従えてボブ・ディランが歌っているかのような曲調の“イン・リヴァース”で仄かな救済の感覚を匂わせながらエンディングを迎える。「明けない夜はない」なんて使い古された言葉を使うのも気恥ずかしいが、ここにあるのは、孤独のどん底に堕ちて眠れない夜を過ごしてきた1人の男が、自分に唯一残された音楽を通して夜明けへと辿り着く、とても普遍的で感動的な物語なのだ。

文:青山晃大

スーサイドの見た夢の中で
迷子になったスプリングスティーン

フィラデルフィアの青年、アダム・グランデュシェル率いるウォー・オン・ドラッグスを紹介する時、必ず枕詞になるのが「カート・ヴァイルのいたバンド」というフレーズだ。2005年に2人でバンドを結成して以来、カートがソロ活動を始めるようになっても、常にお互いの作品に参加し続けてきた彼らは親友であり、永遠のライバルだった。そんなカート・ヴァイルが昨年リリースしたアルバム『ウェイキン・オン・ア・プリティ・デイズ』は、はじめてアダムが全く参加していないアルバムだったが、これがビルボード初登場47位という過去最高のヒットを記録したのを知って、アダムは一体何を思ったのだろうか。

話は変わって、ここ数年ロック・リスナーからスポットを浴びている曲がある。それは70年代ニューヨークのシンセ・パンク・デュオ、スーサイドが1stアルバムと2ndアルバムの間にリリースしたシングル“ドリーム・ベイビー・ドリーム”だ。日本でも石野卓球がカヴァーするなどファンの間では以前から人気の高い曲だが、2010年には伝説のインディ・ポップ・バンド、ブラック・タンバリンによるカヴァー・バージョンが発表され、2012年にはネナ・チェリーがノルウェーのジャズ・トリオ、シングとのコラボレート・アルバムで取り上げるなど、秘かなブームとなっていた。決定打となったのは、今年になってリリースされたブルース・スプリングスティーンの新作『ハイ・ホープス』に、この曲のカヴァーが収録されていたことだ。

アメリカン・ロックの王道を行くブルース・スプリングスティーンと、ニューヨークのアンダーグラウンドを代表するカルト・ヒーローだったスーサイド。意外な組み合わせにも思えるが、ブルース自身はスーサイドがCBGBで演奏していた70年代当時からのファンであり、その証拠に彼が82年にリリースしたアルバム『ネブラスカ』には、ゆらゆら帝国もカヴァーしたスーサイドの代表曲“フランキー・ティアドロップ”からの影響を感じさせる“ステート・トルーパー”なる曲が収録されていたし、2005年にリリースされた『デヴィルズ&ダスト』のツアーでも、決まってラストに“ドリーム・ベイビー・ドリーム”を演奏していたほどだ。

だからこそ、ドローン/アンビエント・サウンドを通してスプリングスティーンやトム・ペティといったハートランド・ロッカーたちに通じる歌を聴かせるウォー・オン・ドラッグスのようなバンドが出てきたのも、必然と言えば必然だったのかもしれない。本作の先行シングルであり、前作に収録されていた“ベイビー・ミサイルズ”の発展形とも言える“レッド・アイズ”は、スプリングスティーンの“アイム・オン・ファイア”が、スーサイドの見た夢の中で迷子になってしまったかのようだ。

アダムにとっても、このアルバムに賭けるものは大きかったのだろう。はじめてカート・ヴァイル抜きでレコーディングされた本作は、カートの新作を上回るビルボード初登場26位を記録。永遠のライバルとのマッチレースで、また一歩リードすることになったのだ。

文:清水祐也

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