SIGN OF THE DAY

2019年 年間ベスト・アルバム
11位~20位
by all the staff and contributing writers January 02, 2020
2019年 年間ベスト・アルバム<br />
11位~20位

20. Lizzo / Cuz I Love You

2019年 年間ベスト・アルバム<br />
11位~20位

2019年を代表するポップ・アイコンは誰かと問われれば、真っ先に名前が挙がるのはビリー・アイリッシュだろう。だが、誰も予想し得なかった登場のインパクトという点では、このリゾに軍配が上がるはずだ。Netflix映画『サムワン・グレート-輝く人に-』の主題歌として取り上げられ、Tiktokでのミーム化をきっかけにヴァイラル・ヒットを記録したシングル“トゥルース・ハーツ”がリリースされたのは、実は2年も前のこと。2013年のデビューから6年近く鳴かず飛ばずで、一時は引退も考えていたという苦労人によるまさかの逆転劇に、今年、全米が夢中となった。そんな彼女の最大の魅力は、プラス・サイズの体を目いっぱいに使って表現されるダンスとソウルフルな歌声。アレサ・フランクリンからミッシー・エリオットまで、歴代「クイーン」から受け継いだパフォーマンスを、小細工なしの人間力の高さでパワフルに増幅させていく。ボディ・ポジティヴィティ・ムーヴメントの旗手としても扱われている彼女だが、ありのままの自分を肯定し祝福する生き方は、人種、性、世代、体形の別を超えて万人の心を打った。(青山晃大)

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19. Charli XCX / Charli

2019年 年間ベスト・アルバム<br />
11位~20位

2010年代はチャーリー・XCXのディケイドでもあった。英国レイヴ・カルチャーを出自に持ち、ポップに対する野心と実験的でエクストリームなサウンドへの偏愛を併せ持ち、スターゲイトと〈PCミュージック〉、ヒップホップとJ-POPとの間で引き裂かれたこのシンガー/ソングライター/プロデューサーは間違いなく「ジャンル・クロスオーヴァー」という2010年代的潮流の起点でもあったからだ。だが、すべてのジャンルの境界がすっかり溶け失せた2019年ポップ・シーンの大半は、それまでの彼女の挑戦と功績を拡大再生産した紛い物だらけになったという皮肉。だからこそ、このもっとも冒険的なセンスを持った万年No.3のポップ・アイコンは、「世界中の女性とクィアたちとのコラボレーション・アルバム」の向こう側に身を隠しながら、蜘蛛の糸へと群がる無数の凡庸な群れから適切な距離を取り、さらなる未来のポップを夢見る。だがおそらく彼女が夢見た、100ゲックスがプロデュースしたマライア・キャリーとアルカやOPNと共作したブルーノ・マーズがグラミーで競い合うような未来はもう来ない。2010年代という夢が潰えた年の、まばゆい夢の残骸を掻き集めた、もっとも賞賛されるべき偉大な失敗作。(田中宗一郎)

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18. Ari Lennox / Shea Butter Baby

2019年 年間ベスト・アルバム<br />
11位~20位

2019年はJ・コールと〈ドリームヴィル〉の年でもあった。EP『PHO』の鮮烈さから3年近く待たされた、この1stアルバムの完成度に触れるとそんな風に断言したくもなる。目の覚める革新があるわけではない。アンビエントR&Bとトラップの多様な解釈と浸透のディケイドでもあった2010年代の終わりに、リッチな低音の鳴りと空間を活かした生演奏というミニマリズムに彼女は着地する。ジャズからのさりげない反響、かつてならそれなりに取り沙汰されたかもしれない女性の側からの性衝動や欲望について歌ったリリックーーこのディケイドの進化を一通り取り込んだ上で、エリカ・バドゥ全盛期へと回帰したかのような新世代ネオ・ソウル。完璧なアートワークが醸し出す世紀の名盤感。2010年代半ばのウォーク・カルチャーの隆盛を経たコンシャス回帰の年とも言える2019年は、オーセンティック回帰の年でもあった。螺旋状に進む時代が動乱と革新のディケイドの終わりにしかるべき場所へと再び収束していくことの安心と寂しさ。こんなにも理想的なレコードなのに余計な言葉が口をつくのは、波乱と興奮に満ちたこの10年間の後遺症なのかもしれない。次はアンバー・マークのアルバムが聴きたい。来年こそ。(田中宗一郎)

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17. Rex Orange County / Pony

2019年 年間ベスト・アルバム<br />
11位~20位

まさかレックス・オレンジ・カウンティことアレックス・オコナーのことを、いまだに一介のインディ・シンガーソングライターだと思い込んでいる人はいないだろう。グローバルなポップ産業で存在感を失いかけているイギリスの若手にもかかわらず、この『ポニー』は全米初登場3位、全英初登場5位。2019年11月には、ロンドンで5000人規模の会場であるブリクストン・アカデミー3デイズ公演をソールドアウトしている。もはや彼は「次世代のスター候補」ではない。すでに2019年後半のポップ・シーンにおけるトップランナーの一人なのだ。だが、それも不思議ではあるまい。ポール・マッカートニーやエルトン・ジョンも舌を巻くだろう絶品のソングライティングは、本作でさらなる磨きがかかっている。人懐っこい歌声も相変わらず心地よい。そして、一気に洗練されたプロダクションは、彼の音楽性にソウル、ポップ、ラップ、ジャズ、ロックなどが溶け込んでいることを一層明確に浮かび上がらせた。現在アレックスは21歳。「ジャンル・ブレンディングであることが当たり前」であるビリー・アイリッシュやリル・ナズ・Xとの同世代性が、本作ではっきりと感じられるようになったと言うべきか。やはりタイラー・ザ・クリエイターの慧眼に狂いはなかった。ジェネレーションZのイギリス代表による成功物語は、まだ始まったばかりだ。(小林祥晴)

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16. Rapsody / Eve

2019年 年間ベスト・アルバム<br />
11位~20位

子供の頃に知った硬派な女性ラッパーの先駆的存在、MCライトに影響を受けたというラプソディは、2000年代後半から活動を始めている。2019年にリリースされたヒップホップ・アルバムの中でも重要な、ミックステープを含むと彼女の10作目『イヴ』では、アフロ・アメリカンの歴史に重要だと思われる女性の政治家からTVパーソナリティ、音楽家から古代エジプトの女性ファラオ、ハトシェプストまでに因んだ曲名が付けられている。以前にもリリックで同様の主題に触れ、2016年の『クラウン』に“ティナ・ターナー”という同趣向の曲があることを考えても、古代エジプトまで扱うのは、アーティストとして男性中心の世界観を組み換えようとしている黒人/女性によるヒップホップのフェミニズムの試みといっていい。例えば、TVパーソナリティから実業家として大成功したオプラ・ウィンリーの名前が冠された“オプラ”では、レケイリー47がフィーチャーされ、金銭についてダイレクトかつ攻撃的なリリックが披露される。つまり、説教臭い意味で「偉大な黒人女性たち」のレガシーについて、ラプソディの定評ある押韻、隠喩、言葉遊びが駆使されるのではない。もっと遊び心に溢れ、本作は直接的にストリートと繋がっている。PJ・モートン、J・コール、GZA、ディアンジェロまでの男性ゲスト陣も、黒人女性を主題にしたアルバムでは、これだけの男性を呼ばなくては釣り合わないとでも言いたげではないか。(荏開津広)

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15. DaBaby / Kirk

2019年 年間ベスト・アルバム<br />
11位~20位

「オレはシュグ・ナイトのようなヤングCEO」(“シュグ”)という、いろいろと時代が一回りしたことを痛感せずにはいられないパンチラインであっという間にスターダムを駆け上がったダベイビー。若手ラッパー(といっても実はもう28歳だが)のセルフボーストは、とにかくできるだけ大きくぶち上げて、現実は後から勝手についてくるものというのがお約束だが、もう一つの特大ヒット、リル・テッカ“ランソム”と合わせて、2019年はそんな古き良き(?)ラップ・メソッドが再びシーンの中心を占拠した年となった。それにしても、〈ドリームヴィル〉や〈クオリティ・コントロール〉やグッチ・メインやチャンス・ザ・ラッパーといった仲間内はともかく、リゾ、リル・ナズ・X、ポスト・マローン、カミラ・カベロ、ミーガン・ザ・スタリオン、トリッピー・レッドと金の匂いがするところどこにでも顔を出すそのヴァイタリティと、毎回そこでちゃんと爪痕を残していく仕事人ぶりは見上げたもの。そんな最中の9月終わりにリリースされた本作『カーク』。現実が、たった数ヶ月前にぶちあげたセルフボーストさえ完全に置き去りにして加速していることを冷静に噛み締めてみせる1曲目“イントロ”を最初に聴いた時の全身に鳥肌が立つようなカタルシスには、ラップ・ミュージックを聴く理由のすべてが詰まっていた。(宇野維正)

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14. Slowthai / Nothing Great About Britain

2019年 年間ベスト・アルバム<br />
11位~20位

要は、俺は笑いものなんだ。皆が指差して笑うような、ジョーカーの役を誰かがやらなきゃならない。でも、最後に権力者を支配するのは、道化だ」。どの写真を見ても、スロウタイはいたずら心と悪意と敵意に満ちた顔で、歯を見せてにやついている。スロウタイの底意地の悪そうな笑みは、Instagram向きというよりも、まるで漫画や風刺画のようだ。そしてその表情は、彼のねばっこい声とフロウとリリックと相似形を描く。マーキュリー・プライズの授賞式でスロウタイはボリス・ジョンソンの「生首」を持ってステージに現れ、「ファック・ボリス!」と簡潔な侮蔑の言葉を叫んでから“ドアマン”を歌いはじめた。「上流階級、かわいい猫ちゃん/アレルギーだ、おまえらのことは好きじゃない/インスタのサブアカでおれをブロってくれよ」「ニコチンってやめられないよね」「ドアマン、おれを入れてくれないか」「天使はクラブから追い出された/なぜならヘンリー王子をひっぱたいた(ヘロインを打った)から/ヘンリーってほんっとに馬鹿だよな」。ノーザンプトン生まれのこの薄気味悪い男は、グライム調のつんのめったビートをのりこなしながら、うらみと呪いと怒りと皮肉をいっしょくたにした言葉を吐くのが得意だ。彼は生まれ育った公営アパートの目の前ですすんで素っ裸になって十字のギロチン台にもかけられてみせるし、近所の住民たちから眉をひそめられながらもそれを写真に収め、みずからのデビュー・アルバムのカヴァー・アートにもしてしまう。そう、「ブレグジットの無法者(Brexit Bandit)」を名乗るスロウタイは、テリーザ・メイに唾を吐きかけてきた「不名誉なくそ野郎」であり、愉快で不愉快な最後のジョーカーである。わたしたちの美しくて汚くてみにくい国にも、地べたから天に向けて唾を吐く、薄笑いを浮かべたジョーカーが必要だ。(天野龍太郎)

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13. Bon Iver / i,i

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11位~20位

あの冬を思い出してみよう。ボン・イヴェール(「良き冬」)が発見されたのは、ある無名の青年が自分の弱さと傷をさらけ出した瞬間だった。彼の透徹したフォークを決定づけたファルセット・ヴォイスはフィメール・ゴスペル・シンガーから多大な影響を受けており、それは、マスキュリンなアメリカの男が男性性を一度手放すということだった。それから10年が経ち、彼はいま、女性やマイノリティの声を加えてポリフォニックなアンサンブルの指揮を執っている。そして、今度は彼自身の、裸の声で歌う――「聞こえる、泣いている声が聞こえる」。この世界には、いまも泣き続けている「人びと」が大勢いるのだと。『i, i』はある意味でジャスティン・ヴァーノンという男がマジョリティの白人ヘテロ男性というアイデンティティに向き合った作品で、彼はその誠実さゆえにそこから逃れることはなかった。本作における多ジャンルの折衷は、これまでのボン・イヴェールのコンセプトと同様アイデンティティの多様性を示しているが、それは前作『22、ア・ミリオン』のように苛烈なノイズを立てていない。より音響的な効果を高め、柔和なコミュニティのあり方を模索するかのようなアンサンブルが目指されている。本作でもっともストレートでタフなロック・ナンバー“Naeem”はそのままボン・イヴェール史上もっともパワフルな一曲であり、そこでヴァーノンは、「誰かが泣いている」からこそ自分たちは強くなれるんだと宣言する。これはわたしたち一人ひとりがタフになり、誰かの弱さを掬い取るための、来たるべき2020年代の幕開けの音である。(木津毅)

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12. Burna Boy / African Giant

2019年 年間ベスト・アルバム<br />
11位~20位

バーナ・ボーイは、本国ナイジェリアではすでにビッグネームだ。数年前からナイジェリアのアーティストは、英米のラッパーにフックアップされ、客演を通じ知名度を高める(契約した者も)段階まではクリアしていた。ただし、自分自身がナイジェリアで演っている音楽にまで、多くのリスナーを引き込むことはできなかった。例えば、ウィズキッドの国際デビュー作は、自分が、アフリカの、ナイジェリアのアーティストであることをアピールするよりも、西インド諸島風のヴァイブでお茶を濁していたような内容だった。それに対して、このバーナは、表題も『アフリカン・ジャイアント』なら、演っている音楽もあくまでも根幹にあるのはアフロビーツで、ナイジェリア史を直接的に取り上げた“アナザー・ストーリー”を過ぎてから、ようやくダンスホールやヒップホップにアプローチし、ラッパーに至っては、収録全19曲で17曲目になってようやくフューチャーが出てくるといった具合だ。バーナがうまいのは、フューチャー登場の直前の曲で彼の歌い回しをさりげなくとり込んでいたり(影響されている?)、YG客演曲でもアフロビーツが主体となっていること。バーナは、本作のリリースに際し、自分の音楽を「アフロ・フュージョン」と表現しているが、ここでは内実が気持ちよく伴っている。(小林雅明)

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11. Jamila Woods / LEGACY! LEGACY!

2019年 年間ベスト・アルバム<br />
11位~20位

無限に増え続ける真新しいコンテンツを脇に置いて、過去の遺産に触れることに意味はあるのか? あるとするならば、我々はそこから何を学び、何を受け継いでいくべきなのか? インターネット上に溢れかえる情報に翻弄されてばかりの我々に、ジャミーラ・ウッズは答えの一例を示してくれた。「レガシー=遺産」という言葉を高らかに掲げた本作に収められた13曲のタイトルには、全て非ホワイトのシンガー、ミュージシャン、詩人、作家の名前が付けられている。彼女が偉人たちから受けた影響が本作のインスピレーションの源となっているものの、そこから湧き出たアイデアは単なるオマージュに収まることなく、必ず彼女自身の今を巡る思索へと帰結していく。コズミック・ソウル、ブルーズ、シカゴ・ハウスと、様々に散りばめられた音楽的な意匠が狭義のR&Bに留まらない拡がりを見せるのと同様に、彼女の言葉も一個人のパーソナルな心象を超えた精神性へと繋がっていく。過去から学び取り、今を考え抜いて、未来へと受け継いでいくこと。そんな尊い行為を一つの作品へと昇華してみせたジャミーラ・ウッズは、教育者の鑑であり、現代アメリカが誇る偉大なアーティストの一人となった。(青山晃大)

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21位~30位


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