ホステス・クラブ・オールナイター影の主役
ポーティスヘッド/ビークの頭脳=ジェフ・
バーロウがポップ音楽の今を一刀両断!前編
●一方で、ビークと並行してクエーカーズというヒップホップ・プロジェクトにも携わっているジェフの音楽的なルーツには、ヒップホップの存在が大きなものとしてあるわけですよね。冒頭の〈グラストンベリー〉のツイートの話に関連して言えば、ラン・ザ・ジュエルズやストームジーに対しては好意的な感触を持っている様子が窺えましたが、あなたから見て最近のヒップホップやグライムの興味深い点はどういったところになるのでしょうか。
ジェフ「僕はグライムについて、まったくもって何も知らない。それについては、僕らの若手コレポン(ウィル)に訊いてほしいな。彼こそ、ビークにおけるストリートの若者なんだ。彼が出ていって、何か持ち帰ってくれるんだよ。僕は何も知らない。あと基本的に、クエーカーズはまったくそういうのとは比較できないんだ。フライング・ロータスなんかに比べると、いわばトラッドなジャズ・バンドみたいなもの。クエーカーズは基本的にバンジョーを演奏してるようなもので、トラディショナルな音楽をベースにしてる。40年遡るならまだしも、最近のとは比較できないんだよ」
●とはいえ、たとえばヴィンス・ステイプルズやスクールボーイQ、ウィークエンドといったアーティストが、あなたの作ったサウンドをサンプリングしていることはご存知のとおりかと思います。そういう反応があることに関してはどう感じていますか?
ジェフ「何も感じてない。唯一あるのは、ウィークエンドが僕らのビートをパクったから、それに対して支払わせた、ってこと。感じるのはそれくらいかな。ああいう企業的なクソに使われたのは最悪に忌まわしいことだと思う。実際、僕はそれに対して寛容に振る舞ったんだよ」
●じゃあ逆に、サンプリングを許可したヴィンス・ステイプルズやスクールボーイQについてはコネクションを感じる部分はある?
ジェフ「いや。例えばコカコーラがスポンサーになったマイケル・ジャクソンが僕らのビートを使いたいと言ってきたら、それにはノーと答える。でもそれが何かしら面白いストーリー、語るべきものを語ろうとしてる誰かなら、イエス。人として共感できるっていうか、女性を貶めず、『金のためならなんでもやる』みたいなものでなければ、大抵はそのままオッケーを出してるんだ。その差だね。その曲に何かしら倫理的なベースがあって、コカコーラのマイケル・ジャクソンのようなものでないならいいんだよ」
●つまり、音楽的な興味とかではない?
ジェフ「もちろんそれもあるけど、まずはちゃんとしてるかどうか調べるんだ。どこかの会社と仕事をするときだって、相手のことを調べるだろう? 誰であれ、自分がそのブランドの一部になるなら、それについて調べなきゃいけない。それにはサンプリングも含まれるんだ。だから、ドレイクが“ホットライン・ブリング”でサンプリングしたやつ……(ビリーに)ティミー・トーマスの曲だっけ?」
ビリー「ああ、うん」
ジェフ「ティミー・トーマスの“ホワイ・キャント・ウィ・リヴ・トゥゲザー”。あれはティミー・トーマスが平和について書いた曲だ。いまの世界の不公平について、女性と男性は力を合わせるべきだってことを彼は書いたんだよ。それがドレイクのブーティ・コールについての曲に使われた。セックスの誘いの電話がかかってくるのを気の毒な女の子が延々待ってるような曲にね。まあそれ自体はティミー・トーマスの自由だし、彼の著作権の管理者が決めればいいことだけど、やっぱり自分の作品を使おうとする相手の倫理的本質を見極めるべきじゃないかな」
●たとえば、現在はあなたの手を離れてポール・エプワースがプロデュースを手がけていますが、ホラーズの新曲“マシーン”は明らかにヴィンス・ステイプルズやダニー・ブラウンの近作と共振するようなサウンドになっています(※ジェフはホラーズの2ndアルバム『プライマリー・カラーズ』をプロデュース)。もしもかれらの新曲を聴いていれば、その辺りの英米の音楽的ネットワークの存在についても所感をお願いします。
ジェフ「まだちゃんと聴いてないんだ。ラジオで最初の1分くらい耳にしたと思うんだけど、まだ聴いてない。でもホラーズとは以前ライヴでも一緒だったし、彼らはいつもいいレコードを作ってるよね。だから楽しみにはしてる。今度〈ホステス・クラブ・オールナイター〉でまた一緒だよね? すごく久しぶりなんだ」
●ちなみに、英米のシーンのつながりはいまあると思いますか?
ジェフ「いや」
●(笑)。参考までに、何人かのイギリスの若手プロデューサーの名前を挙げるので、もしチェックしていたら寸評をお願いします。まずはグライム・ラッパー/シンガーのJ・ハスと彼のプロデューサーであるJae5。2人目はムラ・マサ。そしてジェイミーxx。
ジェフ「よく知らないな。そのうち知ってるのは一人だけで、ジェイミーxx。でも、何を言っていいかわからない。ナイスで才能のある若者だと思うよ。それくらいしか言えない」
●わかりました。では、ビークのこれからについて訊かせてください。2ndアルバム『Beak>>』(2012年)のリリースから5年近くが経ちましたが、ニュー・アルバムの制作については現在どういった状況なのでしょうか?
ビリー「いま作ってるところで、かなり自信を持って、現時点で半分くらいはできてると言える。だろ?」
ジェフ「うん」
●先日リリースされた新曲の“セックス・ミュージック”はファンクっぽいサウンドでしたが、現在制作中のニュー・アルバムにおける、バンド自身が想定している音楽的に到達すべきポイントは何でしょう?
ジェフ「それは言ったらサプライズにならない」
ビリー「いくつかの曲はライヴでやってるんだ。もう半年くらいずっとライヴのセットに入れてる曲もあって。そういうのが全部、次のレコードになる。コンセプトはないな。『考えすぎちゃダメだ』っていうだけ。空から何が降ってくるのか見てみよう、って感じだね。実際、コンセプトを持つほど僕らに才能があるとは思えないし」
●なるほど。ちなみに、その“セックス・ミュージック”のシングルには、アーケイド・ファイアのウィン・バトラーによるリミックスが収録されていましたよね。逆にジェフはアーケイド・ファイアのニュー・アルバムにもプロデューサーとして一曲参加しているわけですけど、彼らに対して信頼を置いているポイントとなると、それはどういったところになるのでしょうか?
ジェフ「まあ、変な話なんだけど……彼らがやってることを紙に書き出したら、僕らはきっと、『ふむ、これは自分たちがハマるような音楽じゃないな』ってなると思う。だってアーケイド・ファイアを説明するとすれば、アップリフティングで、エモーショナルで、ディスコっぽくもあって、楽しい音楽――って感じだろう? でも、実際は彼らがやってることがすごく好きなんだよ。僕はウィンが書く歌詞が好きだし、バンドとしてのあり方が好きだし」
ビリー「ソングライティングもすごくいい」
ジェフ「そう! ソングライティングが素晴らしい。そこがポイントだね。彼らは曲を書いてるんだ。本当に大勢のバンドが適当にやってるなかで……ずっとリフを鳴らして、その上で誰かがなんかモゴモゴ言ってるだけ、とか。あ、それって俺たちだな(笑)」
ビリー「あと、アーケイド・ファイアはコードの使い方とかも面白くてクールだしね。パッケージ全体がいいんだよ。だからこそ一時かっこいいだけじゃなくて、長い間やっていける脚力があると思う」
●アーケイド・ファイアはかなり特別な存在だと思うんですが、一方で今の音楽シーンを見渡してみると、いわゆるロック・バンドや「インディ・ロック」は居場所を失いつつある状況があるわけですよね。ジェフはこれまでにホラーズやコーラルといったロック・バンドのプロデュースもされていましたが、そうした現状についてはどう思われますか?
ジェフ「そう、昨日の夜もアーケイド・ファイアのライヴを観てて同じことを思ってたんだ。すごく変なのは……これから10年後に1万人、2万人、3万人規模のライヴをやれるようなバンドがあるだろうか、って。そんなバンドはもうなくなってると思う。特にギター・バンドは出てくるのが許されなくなってるからね。アーケイド・ファイアにはものすごく確固とした独自のアイデンティティがある。だからこそ、誰もアーケイド・ファイアにはちょっかいを出さない。『アーケイド・ファイアには手を出せないぞ』って。もちろん、普通は誰もエド・シーランにもちょっかい出さないだろうけどね」
●ええ。
ジェフ「そう、これだけたくさんフェスがあるのに、出てるバンドが古いバンドばっかりだってことを考えてたんだ。メタルはまたロックとは違うんだけど……ビッグなメタル・バンドっていうのはいつだっているから。ただそれさえ、いまじゃ完璧に潰されてる。で、残されたスポットに出られるバンドは一握りしかいないんだ。フェスのヘッドライナーを見ても超ポップな連中ばっかりで、そこに割り込めるバンドは、基本的に企業に支配されるのをよしとするようなバンドだけ。それでさえ、もうヘッドライナーのスロットには出演できない。しかも、ここ数年でなんとかヘッドライナーを割り当てられたバンドを見てても、そのセット自体をもたせられないんだよ。延々一枚のアルバムのマテリアルを演奏して、それから次に移って、って感じなんだけど、観客は3曲めくらいで退屈してる。だからもう、そういったコンセプト自体が死につつあるんだ」
●なるほど。
ジェフ「きっともうすぐ、フェスとかでも誰かがステージに出てきては5曲やって、また次――みたいになるんじゃないかな。ラジオのロードショー興行みたいに。だってもうみんな、一つのバンド、アーティストを30分以上見たがってないからね」
●インタヴューの冒頭で私は、今回のビークの来日が何かしらの現状打破のきっかけとなれば、と言いました。で、これまでの話を踏まえた上で、聞かせてください。現在制作中のビークのアルバムがリリースされて世に問われることで、波及的に達成されるべき音楽シーンの変化はどんなものなのか。そこにおいて目標設定みたいなものはありますか?
ジェフ「まずあるのは、今回は〈ホステス〉がすごくいいラインナップを組んでる。そこがまず、違いなんだ。以前〈オール・トゥモローズ・パーティーズ〉がやってたようなことだからね。でも彼らはもう世界でも、ビークをブッキングするようなリスクを背負う最後の人たちなんだよ」
ビリー「僕としては何かがドラスティックに変わるとは思えない。でも僕らを観る人、聴く人のなかで何かが変わるなら、それはポジティヴなことだからね。で、僕らがまた日本に呼んでもらえるならものすごく嬉しいし。僕としては、ただ自分たちがこの機会を台無しにしないのを望むだけだな」
●ちなみに、いまのブリストルのシーンってどんな感じなんですか? 日本にはあまり情報が伝わってこないのですが。
ジェフ「基本的には同じことが起きたんだよ。企業が音楽シーンを均質化してしまって、誰もがSpotifyのプレイリストに載りたがるまでになった。で、その結果誰もがSpotifyのプレイリストに載るような音楽を作るようになったんだ。以前は権威に対して本当にアンチなアーティストたちが作るアンダーグラウンドのシーンがあったんだけどね。でも、いまじゃ音楽ビジネスで生きていこうとしたら権威におもねらなきゃいけない。現状はそこ。とはいえ、いずれ誰かが出てきて、何かが起きるとは思う。僕らが好きなのは……(ビリーに)スペクトルズ(Spectres)はブリストル出身だよな?」
ビリー「うん」
ジェフ「あと、アイドルズ(Idles)だっけ?」
ウィル「そう」
ジェフ「アイドルズっていうバンドがいて、ポップないい曲を書いてる。あとカーン(Kahn)みたいな伝統的なダブやビートをやってる連中もいるし。ただ一般的には、みんなただハッピーなハウス・ミュージックで踊りたがってるだけ。もしくはジムや日焼けサロンに行って、不自然な色になってるくらい。いまブリストルで起きてるのはそんなとこだよ(笑)」
●そうした「誰もがSpotifyのプレイリストに載りたがる」、均質化した音楽シーンの象徴として、たとえばマックス・マーティンに代表される北欧プロデューサーたちのトラック&フック・メソッドやコ・ライティング・システム全盛の現状については、率直にどんな意見をお持ちですか?
ジェフ「ウィル、何かあるかい?」
ウィル「僕、全然そういうのに疎くて。ていうか、ちょっと落ち込むから離れてるんだよね」
ジェフ「うん、僕らの場合、そこが基本なんだ。つまり、友だち3人で、一つの部屋で音楽をプレイするのがビーク。そうすると14、15歳に戻ったような気になれるんだ。すごく楽しい。スポンサー企業を心配する必要もないし、もうそういうのを無視してるんだよね。通過してしまったというか。ただ、さっきの話だけど、ポップはこれまでもずっとそうだった。エルヴィスだってそうだったし」
●ええ。
ジェフ「とはいえ、いまじゃそれがあまりにも先鋭化されて、誰かが邪魔するような余地が1インチも残されていない。でも、最高のバンドっていうのはそういうシステムを邪魔し、混乱させてきたバンドなんだよ。彼らはどうにかしてドアを蹴破った。いまそんなことができる奴がいるのか、僕にはわからないけど、絶対ビジネスとは違うものなんだ。例えばいま、キャベッジみたいなバンドにできることがあるとしても、それはまた別物になってる。グランド・スラムってわけにはいかないからね。だって、みんなジム通いに忙しいから」
●そういった状況を変えたい、という意識を3人が共有していると考えていいんですよね?
ジェフ「いや。ファック・オフ、ってことさ」
●では、最後に一つだけ。例の〈グラストンベリー〉に関するジェフのツイートの中で、「音楽のデス・マッチ、ラウンド1。ミーゴスvs.ザ・メルヴィンズ」っていうのが興味深かったんですが。これはこの2組の間に何かしらの共通項、もしくは対立軸を見出したってことなんでしょうか。
ジェフ「どっちも見かけがかなりタフだと思ったんだよ。で、写真で見ると2組ともすごくいいテレビ・ゲームになる気がして。『ストリートファイター』みたいなね。片側にメルヴィンズがいて、反対側にミーゴスがいて、それぞれスペシャルな動きができる。いいテレビ・ゲームになると思ったんだ」
●ミーゴスは好きじゃないんですか?
ジェフ「よく知らないんだよ」
●いや、ミーゴスがニュー・アルバムに参加したケイティ・ペリーについても辛辣なツイートしてたから、何か思うところがあったのかな、と。
ジェフ「僕が彼らについて知ってるのは、プライヴェート・ジェットに乗るとき、携帯に二言、三言何か言えば、他の誰かがアルバムをまるまる全部作ってくれるような連中だってこと。だろ?」
通訳:萩原麻理