>>>2016年のベスト・アルバム5枚
>>>2016年のベスト・ソング5曲
>>>7インチのトレイラー。40秒からが“まつりのあと”。
>>>ポルトガルのテレビ局制作のドキュメンタリー。この曲の演奏風景もあり。
デヴェンドラ・バンハートは昨秋秋の来日時に「アメリカ大統領選挙の結果には落胆させられたけど、逆に、新しい仕組みをイチから作りあげるチャンスが到来したとも言えるし、実際僕はそういう意識で曲を作っている」と話してくれた。確かに、民主主義が改めて問われている今のアメリカでは、差異、断絶をどのように解消していくのか? をテーマにしたような作品が増えている。
それは歌詞内容に限ったことではない。例えば、2016年、もっとも繰り返し聴いたLA在住のサム・ゲンデルによるソロ・プロジェクト=INGA。とりわけマッドヴィリアンのカヴァー“ストレンジ・ウェイズ”はヒップホップ、ジャズ、ソウル、フォークなどを解体、再定義させたような……と書いてしまうと凡庸に聞こえるかもしれないが、旧い枠組みをとっぱらい、相容れないはずの音と音も出合わせようとする音作りが痛快だった。
同じく、去年あたりから口コミで話題を集めるポルトガルのブルーノ・ペルナーダスも同じような姿勢でポップスの再構築に取り組む音楽家。EUの危機を迎えるヨーロッパの音楽シーンもまた、トランプが大統領になって分断が進むことが懸念されるアメリカのそれ同様、音と音の歩み寄りを必要としているようだ。去年秋に届けられたダーティ・プロジェクターズの新曲にもその働きかけを感じて胸が熱くなったし、一聴すると地味とされるような米国の男性シンガー・ソングライター勢のリリックからも独立した個人がどのように自身と向き合い、他者とつながっていくのかを考えさせられた。
国内の動きでもっともワクワクさせられるのは、東京インディ界隈以降の土壌から出て来た、カントリーをモダンでポップに咀嚼しようとする若手たち。けれど、こちらも姿勢はほぼ同じだ。シャムキャッツのメンバーとは旧知の関係の前田卓朗によるポニーのヒサミツ、ポニー……ではバンジョーを担当するサボテン楽団(という名の個人)、ex森は生きているの谷口雄も所属する1983といった連中は、歴史あるルーツ音楽をリフレッシュさせ、若い世代、フィールドの違うリスナーにも届けようとする。また、方法論は異なるものの、凝り固まったリスナーやジャンルの分断を、あえてロックンロールという大きなスコップ一つで撹拌させる京都の3ピース・バンド、台風クラブの器の大きさが際立っていたことも特筆しておきたい。
キーワードは多様性とデモクラシー再生。それは2017年も……いや、当分は継続されていくに違いない。
〈サインマグ〉のライター陣が選ぶ、
2016年の私的ベスト・アルバム5枚
&ベスト・ソング5曲 by 磯部涼
2016年
年間ベスト・アルバム 75