>>>2015年のベスト・アルバム5枚
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*“風の吹く丘”が収録されているアルバム『tingatinga song』のダイジェスト音源
バンド音楽は冬の時代とも言われていますが、むしろ2015年はバンド録音の作品ばかり聴いてた気がします。とはいえ、それはロック・バンドの類ではなく、ヒップホップやR&Bが大半なんだけど、いずれにしても、この一年で生演奏の可能性は十分に再確認できた。なかでも象徴的な存在としてここに挙げたいのが、ジ・インターネット。もともと二人組のユニット編成でスタートした彼らは、活動をつづけていくなかで次第にメンバーが増員。ベーシストのパトリック・ペイジ2世がソーシャル・エクスペリメントにも参加していたり、最新作『エゴ・デス』から加入したスティーブン・ブルーナーが、サンダーキャットの弟だったりと、シーンとの接点が垣間見れるメンバー構成もおもしろいし、そのキャリアを通じて「エレクトロニクスで培ったソングライティングのナマ化」を体現しているバンドとしても、絶対に見逃されてはならない存在でしょう。
いわゆるバンドとは違うけど、ドニー・トランペット&ザ・ソーシャル・エクスペリメントの『サーフ』も、生演奏と和声の魅力にあふれる作品だった。あるいは、打ち込みのビート・プロダクションを人力に変換していく、ジャズ周辺のアプローチなんかを見ていると、今はテクノロジーが生んだサウンドを血肉化する時期なんだろうな、とも思ったり。別の言い方をすると、インターネットや制作ソフトの発達によって、生まれては瞬時に使い捨てられた「新しいビート」の残骸がいくつも転がっている今こそ、ポップスはもういちど過去を見つめ直して、バンド・サウンドを更新していくべきなんだろうなーと。ceroやテーム・インパラ、アラバマ・シェイクスなどの作品は、そうした現状へのリアクションでもあったように感じています。
いま思うと一年間の気分を決定付ける一枚だったのが、スリーター・キニーの復活作。あの一際ラウドなロックンロールに触発されたのもあって、2015年はのっけからアタックのつよい音を求めるようになり、逆に前年まではよく聴いていたはずのアンビエントなインディ・ポップとかには、あまり手が伸びなくなった。もっと言うと、去年はゆるい音楽をあまり聴く気になれなかったし、この気分の変化には、緊迫していた社会情勢の影響も確実にあったと思う。で、2016年。さっそく年明けから気の滅入るような出来事がつづく半面、どうやら序盤からすごい新作のリリースが続きそうなので、めげずに元気いっぱいやっていこうと思います。今年もガツンとくるやつがたくさん聴きたいです。
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